もうずいぶん前ですが、日本時間で1月21日(現地時間で20日)、
アメリカ合衆国大統領、バラク・オバマ氏の就任演説がありました。
毎日新聞が、演説を日本語に訳したものを、載せています。
「(1)恐れでなく希望を選んだ」
「(2)立ち上がり、再建しよう」
「(3)イラク撤退、温暖化防ぐ」
「(4止)新時代への責任を」
オバマ大統領は、ご存知のように「チェンジ」を標榜しています。
この演説に出てくる、具体的な個別の政策を見ても、
ブッシュ政権時代との違いを、はっきりしめそうとしています。
それだけでなく、自分がやろうとする改革は、
生活ががらりと変わるに匹敵する大変革になると、示唆しています。
たとえば、就任演説の2節目は、つぎのようになっています。
|我々のために、彼らは、ないに等しい荷物をまとめ、
|海を渡って新しい生活を探した人々だ。
|我々のために、彼らは額に汗して働き、西部に住み着き、
|鞭(むち)打ちに耐え、硬い土地を耕してきた人々だ。
このあとはずっと、政治改革のことが続きますから、
先人たちは、大胆で抜本的な変革でも、いとわずに果敢に挑戦して、
未来を切り開いたことを、言っているのでしょう。
1節目の最後の「不朽の精神」は、このことなのでしょう。
「Think positive(前向きに考えろ)」です。
改革に対して、既得権にしがみつく勢力があるのは、
無理もないとしても、怖れをなす国民も少なからずいるのでしょう。
それで、先人たちは、「恐れでなく希望」を持って、
改革にいどんだことをしめして、国民を励まそうというのだと思います。
ところが、世の中には、変わった人がいるものです。
『オバマ大統領の演説に失望した』と言うかたもいるのです。
上述のように、西部開拓のお話が、出て来たからなのか、
ネイティブ・アメリカンへの配慮がないと不満げです。
どうも、先住民族の生活を蹂躙し、彼らの生活様式を破壊したことを、
肯定せんとしていると、演説を「解釈」しているみたいです。
このエントリが引用している、トクヴィルの最後にも、
黒人が奴隷となって、アイデンティティを失なったことが出てきます。
オバマ大統領の言わんとする、「不朽の精神」とか、「建国の精神」とは、
自分たちのカチカンを、異文化におしつけることだなどと、
「演説に失望した」かたは、思っているみたいです。
このかたには、「アメリカ合衆国とは、グローバル化と称して、
自分たちの考えやカチカンを、外国人や他文化におしつける連中」という、
一面的なイメージばかり見えているのかもしれないです。
そういう側面もたしかにありますが、むろんそれだけではないでしょう。
たとえば、アメリカ合衆国は、建国以来、たくさんの移民を
受け入れていますし、領土内で産まれるだけで、
親の国籍に無関係に、国籍が取れる国でもあります。
アメリカというのは、さまざまな人たちに対して開かれた、
共存の社会という側面もあるわけです。
「演説に失望」のかたは、ほかの側面がぜんぜん見えなくて、
自分が見えているイメージで、「腑に落ちた」ところだけ、
読んでいるのかもしれないです。
それで、主旨を理解するのが、どこもむずかしくない大統領演説を、
変なふうに曲解した読みかたまでするのでしょう。
ご本人は、「知的フレームを壊せ!」などとも言って、
型にはまった見かたしかしない、識者たちと違って、
自分は「あるがまま」を見ているつもりだそうです。
実際にはアメリカに対して、「あるがまま」を見ていないどころか、
「ゆがんで小さいフレーム」で見ているのだと、わたしは思います。
この「演説に失望」したというかたは、愚樵氏です。
以前、こちらやこちらで、ご紹介したかたですよ。
参考資料: 「「ゆがんだフレーム」を壊せ!」
謝辞: 「演説に失望」の記事を、ご紹介してくださり、
わたしの考察に、お付き合いしてくださったかた、ありがとうございます。
「あちら側」の人たちのアメリカ観が、すこしわかったように思います。
2009年02月04日
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Excerpt: あるがまま。“あるがまま”を観ること。 私は『知的フレームを壊せ!』のエントリーで、「知的フレーム」を壊せば”あるがまま”が見えて...
Weblog: 愚樵空論
Tracked: 2009-02-09 07:26
実は、もう愚樵さんの記事には反応すまいと思っていたのですが、こちら→http://gushou.blog51.fc2.com/blog-entry-209.htmlをうっかり読んで激怒しちゃいまして、もう一本書こうと思っています(笑)
ブクマコメ
↓
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://gushou.blog51.fc2.com/blog-entry-209.html
ある種の職業に従事する人たちを見下して、クラシック音楽というジャンルを特別視して、それを嗜む自分に酔い、「低レベルの音楽」については「大衆のモノとして」、「評価してあげる」って話です。
「水伝」の超低脳価値判断(クラシックだと美しい結晶、パンクロックだと醜い結晶)そっくりです。
いえいえ。
こちらこそ、貴ブログでご評価いただき、うれしく思っています。
>http://gushou.blog51.fc2.com/blog-entry-209.html
ロックが大勢の人に受け入れられる原因を分析するのが、
なんでイカンのかが、わからないですよ。
心で理解できなければ、あたまで理解するよりないでしょうし、
あたまで理解しないよりは、理解したほうが、
ずっと円滑にロック好きのかたと、おつき合いできるでしょうし。
その前に、ロックが好きな人は、「自分とちがうからいいんだ」と、
割り切るというオプションはないのかな...?
>うっかり読んで激怒しちゃいまして、
見てはいけないもの(笑)を、見てしまいましたね。
>もう一本書こうと思っています(笑)
がんばるのよ。(笑)
今朝、アクセス解析を見ましたら、http://taraxacum.seesaa.net からのアクセスがたくさんありましてギョッとしたんですが(笑)、何にせよエントリーを見ていただけるのは良いことだと思いまして、挨拶にまかりこした次第です。
ちょちょんまげさんに続きましてたんぽぽさんも私の記事に関心を持っていただいたようなので、それではということで、今年になってからアップしたエントリーを3つばかりTBさせていただきました。どうかご覧になっていただいて、たんぽぽさんの鋭い切り口での批評を賜りたいものです。あ、もちろん、TBしたエントリー以外のものでも結構ですよ。公開してある以上、どれをどのように読もうと、それは読む者の自由です。
これを機に、どうぞお引き立ての程を(爆)
おひさしぶりです。
>アクセスがたくさんありましてギョッとしたんですが(笑)
おやおや、そんなにいっぱいアクセスがありましたか。
このエントリは、ほかのエントリよりは、読まれているけれどね。
>たんぽぽさんの鋭い切り口での批評を賜りたいものです。
ありがとうございます。
でもべつに、鋭くはないと思いますよ。
大統領演説を、「あるがまま」に見ただけだと思います。
それから、トラックバックもどうもです。
気が向いたら、なにか言うことにしたいと思います。
(その前に、愚樵さまが、このエントリの批評に対して、
なにかコメントをするのが、さきのような気もするけれどね...)
(あの群衆をみて本当にアメリカなのか?と思いましたよ)、
無い頭を使いまして inauguration Speech を読んでみましたよ。
でも言い回しとかちょっと難しいですね。
西部開拓の部分はおいといても、
内容的には不満足な部分もいくつかありますね。
アメリカの状況は厳しいですから、国民は藁にもすがる思いなのでしょうけど、
現実はどうなるのか、非常に興味深い思いと冷めた目(笑)と、でウォッチしていきたいですね。
>inauguration Speech を読んでみましたよ。
ああ、英語で原文を読んだのですね。
(すごい、すごい。)
>内容的には不満足な部分もいくつかありますね。
短い演説で、たくさんのことを盛り込まければならないのと、
外国人ゆえに違和感を覚えるのも、あるのかもしれないです。
(宗教が列挙されているとことで、仏教がなかったですね。)
無神論者を強調しているのは、いいことだけど。)
全体的に、脱ブッシュ色を打ち出しているのは、
とてもはっきりしていると思います。
>現実はどうなるのか、非常に興味深い思いと冷めた目(笑)と、
ははは...
さしあたって、わたしが注目しているのは、中絶の解禁です。
具体的には、NGOへの資金援助再開だけど。
(でも、脱ブッシュ政策の中では、いちばん評判悪いみたい...)
http://mainichi.jp/select/world/news/20090124dde007030002000c.html
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20090204-OYT1T00449.htm
私の場合、脱ブッシュ政策の流れで注目しているのは、国際刑事裁判所との付き合い方をどうしていくか、ですね。ブッシュ政権がちゃぶ台ひっくり返したものを、アフガン・イラク戦争の後で仕切り直ししようとするのか、できるのか。安保理常任理事国のアメリカ政府の意向はガザの件にも絡んでくるので、条約批准へ向けて動いてほしいんですが、何せ自国政府のことではありませんので、生暖かく見守るばかり……というか、海のこっち側のことだけで、いろいろ手一杯な今日この頃です(悲)。
ああ、わたしが言ったのは、
「ネイティブ・アメリカンに触れなくてよい」ではなく、
「上述の引用箇所を、ネイティブ・アメリカン迫害の
肯定ないし黙認と受け取る、愚樵さんは誤読している」ですよ。
人種や民族のことは、もともと個別には言及されていないですから、
ネイティブが出て来なくても、べつだん不公平でないとも言えますが。
(あえて入れるとしたら、3節目の「内戦(南北戦争)や
人種差別という苦い経験もしたが」のくだりかな...?)
>国際刑事裁判所
前向きではありますね。
http://mainichi.jp/select/world/news/20090127k0000m030088000c.html
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601103&sid=aYK_ULgi3Ix0&refer=us
こちらは、わたしは知識がないので、コメントはできないけれど...
>肯定ないし黙認と受け取る、愚樵さんは誤読している」ですよ。
ああ、たしかに。誤読の誤読をしてしまったようです(汗)。
メガネのフレームが、上に物を置いた拍子に歪んでしまってたのかも(苦笑)。
>(あえて入れるとしたら、3節目の「内戦(南北戦争)や
>人種差別という苦い経験もしたが」のくだりかな...?)
そのあたりでしょうね。
>>国際刑事裁判所
>
>前向きではありますね。
クリントン政権では前向きだったので、批准へ向けて動きだす可能性はあるのですが、アフガン戦争以降は同裁判所の管轄に入っちゃってますので、国際刑事裁判所規程という条約を批准しちゃうとブッシュ前大統領らの責任を追及せねばならなくなるおそれがあるので、そのあたりをどうするか。批准しなくても、安保理がガザの件を国際刑事裁判所に付託する際に……とマニアックな話になっていきますので、ここらでやめておきます(笑)。
なんでだろ???
しかも、牛丼のなか卯みたいに(笑)。
卯はうさちゃん騎士団の卯、
なんてことを意識したわけではありませんので、
念のため(爆)。
>メガネのフレームが、上に物を置いた拍子に歪んでしまってたのかも(苦笑)。
ゆがんだ眼鏡のフレーム...(あらあら...(笑))
>マニアックな話になっていきますので、
はーい、たんぽぽは、もうついていけないです。(苦笑)
(ごめんなさいね...)
>↑署名が中途半端になってしまいました。
>なんでだろ???
「おや?」って思いましたよ。
(これも、眼鏡のフレームのせいでしょうか?(笑))
こちらでなおしてあげようかと思ったけど、
せっかくですので(?)、このままにしておきますね。