2009年07月20日

mar0006.gif男女脳の違い?

5月19日なので、だいぶ前ですが、なにを思ったか、
民主党の男女共同参画推進本部が、得体の知れない勉強会をしていましたよ。
講師は感性リサーチ代表取締役の黒川伊保子氏とあります。
「男女脳の違いによる感性コミュニケーションに関する勉強会を開催」
http://www.dpj.or.jp/danjo/report/090519.html

黒川氏によると、右脳と左脳をつなぐ「脳梁」が、女性は太いので、
左右両脳の連絡が早く、感じたことをすぐ言葉で表現できるそうです。
男性は「脳梁」が細いので、感情が現われにくいのだそうです。
男女の能力差は、「脳梁の大きさ」という生物学的ものになるそうです。

ほかにも、女性はおしゃべりだから共感が必要とか、
男性は空間認識力と客観性が高いとか、言ってもいます。
なんだか、どこかで聞いたようなお話ですね。
(わたしなんて、「またか...」と思ってしまいます。)
こんなのは、生後どう育てられるかで作られる、ジェンダーでしょう。

 
「脳梁」については、女性では大きくふくらんでいて、
男性は管状に細くなっているという、形状の違いが根拠になっています。
女性のほうが大きいらしいことは、たしかに言われるのですが、
これは全体の脳が女性のほうが小さいため、相対的に大きくなるだけで、
絶対的な大きさは、男女ともにほぼ同じと考えられています。

また、血圧や身長とおなじく、脳梁のかたちや大きさも、
いくつかの遺伝子で決まるでしょうから、分布を持つはずです。
統計を取れば、男女間で分布が重なるところも出てきます。
特定の個人を見れば、女性よりもふくらんだ脳梁の男性もいるでしょう。
統計的な性差よりも、個人差が大きいと考えられます。

脳梁が細長いか丸いかを調べても、「表現型の違い」というだけで、
人間の能力について、なにかがわかるのではなさそうです。
男女の能力差と関係あるとは、判断できないだろうと思います。


脳の性差論は、「右脳と左脳とで能力に差がある」という説が、もとにあります。
「右脳は直感力にすぐれ、女性に右脳型人間が多い」とか、
「右脳を訓練して、創造力を高めよう」といったたぐいのものですよ。
これに、「脳梁」が大きいほうが、両方の能力を結び付けやすいだろう、
という考えが組み合わさったのでしょう。

ところがこの「右脳左脳相違説」も、「とんでも」であり、
左右の両方の脳の能力差は、きわめて小さいことがわかっています。
たとえば、右脳がつかさどるとされている「芸術的才能」も、
左右のどちらの脳に、(脳腫瘍や脳卒中などで)損傷が起きても、
悪影響が出ることから、左右の脳で能力差がないとわかっています。


「男女脳の違い」なんて、「骨相学」の焼き直しだと思います。
空間認知能力や、言語は左右のどちらの脳を使っているかにも、
男女差がなかったという研究も、たくさんあったりします。
『バックラッシュ!』の326ページの文献参照。)

空間認識力や言語能力を測定したところ、男女で有為な差が出たので、
脳の構造に生物学的な差があると言う人も、すくなからずいるみたいです。
しかし、これらは、生後の環境によって、どう脳が発達したか
(獲得形質)であり、やはりジェンダーの産物でしょう。

「男性は女性より脳が10%大きいから、男のほうがカシコイのだ」
なんて言われても、さすがに見え透いているので、
みんな信じないでしょうけれど(え?信じている人がいるって?)、
「女性の脳梁は大きいから感情がすぐことばになる」と言われると、
もっともらしく聞こえる、ということだと思います。


この手の議論で巧妙なのは、「多様性の尊重」を装った主張をすることです。
黒川伊保子氏も、「片方の脳が優れているとか
劣っているとかではなく」「違いを認め合うことによって、
最強の組み合わせになる」などと、民主党の勉強会で語っています。

実際には、「女性は感情を表に出しやすい」とか、
「男性は空間認知力が高い」といったことは生物学的であると、
決めつけているのですから、ジェンダーの役割の固定化です。
これに沿わない個人への「押し付け」になりかねないことはもちろんです。

こうしたことは、男女共同参画の主旨や、多様性の尊重といった
民主党の基礎理念とも、反することにもなります。
こんな「とんでも」を信じて、本来の主旨から逆行されては
たいへんだと思ったかたは、民主党か、共同参画推進本部に、
ぜひ教えてあげるといいでしょう。

参考文献:
『バックラッシュ!』(310-339ページ)
「「科学的」保守派言説を斬る!」

『ハインズ博士 「超科学」をきる!』
(367-373ページ)
「現代疑似科学の傾向と対策」-「右脳・左脳相違説」

『生命の理解、そして「理解」の理解。』
「脳の解剖学的な男女差」(07年5月13日)

posted by たんぽぽ at 14:45 | Comment(2) | TrackBack(1) | 疑似科学(にせ科学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
こんにちわ。

こういう実験的に明らかになってない、なりえないことを前提にもっともらしく語るのはよく見られますね。

思いつき的日本人論、皮相的な世代論等みなその類でしょう。
Posted by pulin at 2009年07月20日 15:51
最初は実験で確かめられたと思って、論文になったことなので、
ある程度は無理もないことなんだけどね。

そのあと反証の研究がなされて、最初の論文がまちがいとわかるんだけど、
そこはあまり一般には、知られなかったりする...

(とくに、この件にかぎっては、脳科学を研究しているかたでも、
必要になって自分で論文を調べるまで、男女差の俗説を信じていた、
なんてかたもいるので、なおさら無理もないかもしれないです。)
Posted by たんぽぽ at 2009年07月22日 23:11
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