2009年07月21日

toujyouka016.jpg 男女脳の違い?(2)

きのうご紹介した、「脳梁の形状に男女差がある」という説は、
『サイエンス』に載った、1982年の論文がはじまりのようです。
「脳の解剖学的な男女差」
http://brainscience.blog92.fc2.com/blog-entry-70.html
「未熟な繁茂から選択による成熟」
http://blog.livedoor.jp/brain_network/archives/50785626.html

ところがはじめの研究は、異なる計りかたをしたデータを
寄せ集めたものであり、年齢による脳梁の形状の変化が無視され、
サンプル数が少なく、個人差が大きく入り込んでいるなど、
追試ができなくて、信用できないことが指摘されています。
脳梁の形状に性差があるかどうかは、なんとも言えないので、
「わからない」というのが、いまのところの無難な見解のようです。

 
1982年の研究は、センセーションがあったのでしょう。
この結果が一般に広まって、「脳梁の形状が男女の能力差のもとである」
という俗説を作りだしたものと思われます。
ウェブで検索をすると、ほとんどみんな信じている人ばかりですよ。
反論しているサイトは、「ところどころ」程度にも見当たらないです。

しかも、「脳梁性差説」を信じているサイトの中には、
医学博士の肩書きがあるかたの記事があったり
大学の講議用とおぼしき立派なPDFがあったりで、
かなり信頼できるとされているメディアが、書いていたりもします。
ふつうにウェブで検索したかたが信用しても、無理もないことだと思います。

『バックラッシュ!』の326ページに引用されている文献は、
英語の原著論文ばっかりで、一般むきではないです。
一般むきに解説されたサイトはないかと探したのですが、
残念ながら、わたしには見つからなかったです。
(もし、手ごろなものがあったら、教えていただけたらと思います。)


ところで、『バックラッシュ!』の325ページによると、
脳梁の計測は、病院でおなじみの、CTスキャンや、MRIを使うのですが、
2次元の断面画像から、3次元のかたちを識別するので、
統計的処理を使ってもかなりむずかしいとあります。
よって、脳梁が大きいとか小さいとか、データをしめされても、
かならずしも信頼できないこともありそうです。

しかも、脳梁の大きさの定義が、はっきりしていなくて、
研究ごとにまちまちで、いくつもの研究結果を
おたがいに比較することもできないそうです。
定義についてコンセンサスを取らずに、研究が進んでいくところに、
なんとかして、男女で脳梁に違いがあると思いたいという、
願望が入っているのではないかと、わたしは感じてしまいます。


また、脳梁が太いほうが、左右の両半球の連絡が早いのなら、
女性の能力は肯定的に、男性の能力は否定的になりそうなものです。
ところが、そうでもなく、男性は空間認知能力にすぐれるとか、
論理的思考が得意とか、肯定的なこともたくさんあります。
脳梁が細いとなんでそうなのかは、わからないのですが、
このあたりに、男性のご都合主義を、わたしは感じてしまいます。

(もし、女性のほうが脳梁が細いとしたら、
「だから女性はこの能力が劣っている、女性のみなさんにとっては、
ご不満かもしれないけれど、生物学的なんだから受け入れるよりない」
なんて悦に入るのでは?と、わたしは「邪推」してしまうのだが。)

posted by たんぽぽ at 23:07 | Comment(2) | TrackBack(1) | 疑似科学(にせ科学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
確かにご都合主義ですね笑。
左脳が論理的能力を、右脳が感情を扱うとの説が有力だったころは、女性は右脳型、男性は左脳型と声高に言っていたはず。
それが右脳と左脳の扱う能力が逆であるとの説が有力になったとたんに、学術的な根拠を求めたとは思えない程の短期間で男女の脳型は本当は逆なんだ!と言われても。
男女のそれぞれ得意な能力はこれに違いないんだという前提から出発しているただのご都合主義だと思います。
Posted by ハニーくま at 2009年08月23日 20:15
ハニーくまさま、いらっしゃいませ。
コメント、どうもありがとうございます。
わたしのレスが遅くなりまして、もうしわけないです。

>確かにご都合主義ですね笑

でしょ?(苦笑)

ほかに、進化生物学や、ホルモンが出てくることがあるけれど、
いずれも「はじめに結論ありき」の議論なんだと思います。

(第二次世界大戦後のアメリカ合衆国で、「進化生物学」が使われたのは、
戦争中に労働力不足で女性も働いていたけれど、
戦後男たちが戻ってきて、職が足りなくなったので、
女たちをもう一度家庭に入れる必要があったからだそうです。
もろに「はじめに結論ありき」ですね。)


>左脳が論理的能力を、右脳が感情を扱うとの説が有力だったころは、
>女性は右脳型、男性は左脳型と声高に言っていたはず。

あらあら、そうだったんだ。(笑)
そういえば、逆になっているサイトも、あったように思いました。
混乱しているのかと思ったけれど、
むかしの説をそのまま採っていたのかもしれないです。
Posted by たんぽぽ at 2009年08月25日 23:46
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Excerpt:  6月26日に「市場への投網」を書いた。 都会育ちで、消費財としての魚しか知らない私にとって、海の資源をどう見るのかはとても興味がある。  普段から食べ物でないモノを商売にし、同時に研究しているのだが..
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