「脳梁の形状に男女差がある」という学説が、
さらに否定的になった、という研究結果を紹介している
エントリを見つけましたよ。
ぜひともここでもご紹介したいと思います。
「「似非脳科学」が娯楽に留まらず、政策決定にまで波及したらどうなるのか?」
「脳梁」というのは、右脳と左脳をつなぐ部位ですが、
「形状に男女差がある」と言われることがあります。
これをもとにして、「男女脳の違いがあって、
男女の脳力差のもとになっている」などという
とんでも説を主張するかたがいらっしゃるのでした。
前にわたしが、このお話をご紹介したときは、
脳梁の男女差があるかどうかは、根拠がうすく、
「わからない」とするのが無難だ、という結論でした。
こんど紹介するエントリを見ると、その性差の存在が、
さらに否定的になったことがわかったとあります。
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直近の研究(Leonard et al., Cereb Cortex, 2008)でも
「脳梁の太さはむしろ脳全体の大きさに相関が強く、
男女差よりは個人差の方が大きい」と結論付けられており、
方法論が進歩した現在においても
なお否定的な意見が根強いことが窺えます。
現在では少なくとも「脳梁の太さに男女差がある」という
学説そのものが神経科学研究においては
未確定もしくはどちらかというと否定的に見られており、
これを根拠とした「脳機能に男女差がある」という
主張についても結論は出せないものと考えて良さそうです。
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脳梁の大きさの定義がはっきりせず、
文献によってまちまち、というご批判があるので、
いくつか判定方法を変えて調べているのですが、
いずれの方法でも、男女差は否定的だそうです。
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この論文では49件の研究(サンプルサイズは
概算ですが1000名近くに上るはずです)に対する
メタアナリシスを行っていて、研究が蓄積すればするほど
脳梁の太さの男女差が弱くなっていき、
最終的には「男女差なし」という結果になる
ということを突き止めています。
また、脳梁の太さの判定基準を変えてもその否定的な結果が
変わらないということも明らかにしています。
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ここまで来たら、一般のレベルでは、
脳梁の男女差は存在しない、という理解でよいだろうと思います。
したがって、脳梁の性差にもとづいた、
男女の能力の違いなんてのも、根拠がないことになります。
ところで、エントリのはじめのほうで言われている、
「知る人ぞ知る曰く付きの人物」は、黒川伊保子氏ですね。
それから「政権交代前の現与党を相手に怪しげな勉強会」
というのは、民主党の男女共同参画推進本部が開いた
コミュニケーションの勉強会のことですよ。
この勉強会を主催したときの、共同参画推進本部の事務局長は、
小沢氏の「とりまき」のひとりらしく、
それで「こんなもの」なのだそうです(と、わたしは聞いた)。
「小沢のとりまき」というと、いろいろ言われますが、
それを推し量る上で、この「男女脳の勉強会」は、
わかりやすいのではないかと思います。
参考資料:
「ミスリードされる「脳から見た男女差」」
「神経神話に乗せられる政治は、さしずめ「神経政治」といったところか?」
関連エントリ:
「男女脳の違い?」
「男女脳の違い?(2)」
「黒川伊保子」
「民主党共同参画の現状」
脳の違いがどうこうあるや無しや、という話題になると過敏に何か落ち着かないものを感じてしまう傾向もあるのではないでしょうか。
脳の生得的な構造の差異に違いないと考えるのは、
「わかりやすい」ので、その手の俗説が横行するのは、
ある程度は無理もないのかもしれないです。
もうひとつ言えば、(脳にかぎったことではないけど)、
センセーショナルな研究結果は、
わりとすぐに、一般のあいだでも紹介されるのに、
「じつはまちがいでした」という研究は、
一般受けが悪いのか、あまり紹介されない、
というのもあると思います。
こんなのも、まちがった俗説の蔓延に、
歯止めがきかない原因のひとつになっていると思います。
(否定する論文はいっぱい書かれるので、
専門家のあいだでは興味を惹くんでしょうけれど。)