前のエントリのつづき、「ヤマト」のお話。
「文部科学省×Space Battleship ヤマト」
「今頃『ヤマト』」
「『宇宙戦艦ヤマト』の方が問題だと思った」
「ヤマト」を使う上で問題ありではないかと、
わたしが感じるのは、やはりジェンダーに関する部分です。
http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100718/1279470669
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ジェンダー間のパリティにおいても問題があると言える。
森雪のキャラクター設定は男女雇用均等法以前だし*3。
そこら辺のところは、新しい実写版とやらでは
どうなっているのだろうか。
〈ジェンダー論〉から見た『ヤマト』ということでは、
やはり斎藤美奈子『紅一点論』をマークしておくべきだろう。
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『紅一点論』は、じつはわたしも読んだことあります。
157-162ページに、「ヤマト」のことが出ています。
ただひとりの女性クルーである森雪は、
まさに「パートタイマー兼職場の花」なのですよ。
通信の業務でも、メインは男性クルーの仕事で、
彼女の役目は、見たり聞いたりしたことを
復唱するだけという、補佐的なことです。
看護士の業務でも、包帯を捲いたり、
心配そうに患者さんに手を当てたりするだけで、
やはり男性医師の補助的なことです。
ところが彼女は、恋愛のことになると、
みょうに知恵が働き、積極的になるのです。
古代進とツーショット写真を取ったとき、
それとなく口説いたりして、やたら機転がききます。
自分だけでなく、他人の恋愛についてもしかりです。
スターシャ女王におせっかいなアドバイスをしたり、
ここぞとばかりに主体性を発揮します。
ようするに、彼女には、補助的なお仕事が
与えられているだけで、本来期待されているのは、
「男性社員のお嫁さん候補」なのでしょう。
とても西暦2199年とは思えない(笑)、
女性の社会進出の立ち後れぶりですね。
「男女雇用均等法以前」の「働く女性」が
どんな様子だったか(「女性」とはどんなものと
思われていたか)を、うかがい知ることができそうですね。
ついでに、森雪の肩書きは「生活班長」。
当時の男性たちが、「生活」に対して持っていた
イメージも想像がつきそうです。
(「国民の生活が第一」ということばから、
彼らはなにを連想するのだろうか?)
これをご覧のあなたは、森雪の役目を見て、
「時代がかっている」と感じるでしょうか、
それともリアリティを感じるでしょうか?
あるいは、森雪のような女性にあこがれる、
という男性のかたも、いるのでしょうか?
ところで、「ヤマト」は「日本が勝つように
書き直された第二次世界大戦の物語」と
いったことも、『紅一点論』に書かれていました。
わたしも読んでいたはずなのですが、
すっかり忘れていました。(苦笑)
また、今のアニメではむしろ女の子たちが武器兵器を持って
戦う話が結構主流だったりするみたいなので、これはこれでどうなのかなと?
その際には人類存続のために、多数の女性と少数の男性を乗せる計画だったのです。
そんな目的が国民に知られたら、暴動は必至です。ヤマト建造は極秘とされていました。
しかし放射能除去装置を持ち帰るという目的が出来たため、その存在を公表しました。その際、国民の疑念を逸らすために、女性は1名限定としたのです。
唯一の女性は厳選されました。
生活班班長として、多数の部下を従えるリーダシップを持ち
優秀なレーダ手であり
医療従事の経験を持ち
女性が自分一人の状況でも、男どもをうまくあしらえる機転を持ち
人類存続のための卵子提供者になりえる
森雪はそのような女性なのです。
…という設定はありません。
ジェンダーについては、たんぽぽさんが書かれた通りでしょう。
あの当時は、それが普通だったのです。
>今度実写でリメイクされる「ヤマト」では、
>さすがに女性キャラが大幅に増え、
>戦闘員として活躍する女性も出るそうです
ああ、やはりそうなんだ。
つぎのコメント欄で、「上記のご提案は
何も盛られていない様子でしたよ」なんてあるんで、
「女性キャラの描きかた、そのままなの?
それくらい描き直せよ」って思ってたところだった。
http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20100718/1279470669#c
>今のアニメではむしろ女の子たちが武器兵器を持って
「女も男なみに」というひとむかし前の
ウーマンリブの時代に追い付いたかな、という感じですね。
「武器兵器を持って」は、なぜにそういう
きな臭い方向に行くのかという、べつの疑問もありますが。
ついでながら、美少女戦士ものは(変身して強くなるので)、
もともとの女性は無力だということを、
再認識させられてせつない、という意見もあるみたいです。
>元々ヤマトは地球脱出船として建造されていました
そうか、そうだったのか。(笑)
でも、乗せるのは、男女ほぼ同数がよかったですね。
性比がアンバランスでも、数世代ののちには
ほぼ1:1になりますし、無意味な措置かもしれないです。
>女性が自分一人の状況でも、男どもをうまくあしらえる機転を持ち
この能力を見きわめるにあたって、
どういう選考をしたのか、興味しんしんです。(笑)
>人類存続のための卵子提供者になりえる
まあ、ひとりでなんて、大変だわ。
妊娠経験のない男性が決めたって感じね。
>という設定はありません
なーんだ。(笑)
それはともかく、SFでジェンダーに関することは、
結構描きにくいのかもしれないです。
ジェンダー論にくわしいかたなんて、スタッフにいなさそうですし。
未来の女性がどうなっているかなんて、見当つかないでしょうし。
作者があたりまえと思って、疑問を持たずにいることが、
そのまま出て来ちゃう感じですね。
その意味では、あとから見返すと、当時の女性観がまるわかりで、
意地悪い見かたが、いっぱいできるところかもしれないです。
あと、せっかく「ヤマト」で感動して
コメントをくださったのに、批判的な記事でごめんなさいね。
このエントリと前のエントリと、同じ日に続けて
アップロードすればよかったんでしょうけど、
時間の都合で、一度に1エントリしかかけなったのだ。
そこにジェンダー的な意味付けはあまりないような?
>どういう選考をしたのか、興味しんしんです。(笑)
高級なクラブで選考したのではないかと。
ああっ、temaの森雪像が…
>批判的な記事でごめんなさいね。
いえ、それでこそたんぽぽさんです。
お気になさらず。
「SFでジェンダーに関することは、結構描きにくいのかもしれないです」という発言に関しては、批判させていただきます。
「TVアニメーションの「宇宙戦艦ヤマト」ではジェンダー的観点からは問題がある」とおっしゃられるのならば同意いたしますが、その批判対象をSF全体にまで不用心無遠慮に広げた表現は失礼なコメントに思われます。
SFというジャンルとして活動においては、かえって女性作家やジェンダー論の活躍する場として数十年以上の実績があり、例えば日本であればジェンダー観点をテーマにした「センス・オブ・ジェンダー賞」というものがあり、アニメ/小説/マンガを問わず、性差や性別役割というテーマを探求する作品に贈られる文学賞が存在、そのような作品を積極的に評価しています。またアメリカでは日本よりずっと早くから「ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞」という文学賞が存在し、ジェンダーへの理解に貢献したSF・ファンタジー作品を評価しています。
「宇宙戦艦ヤマト」という個別作品への問題指摘を、SFというジャンル全体やTVアニメーションシリーズ全体への批判(「ジェンダー論にくわしいかたなんて、スタッフにいなさそうですし」という発言から)に広げるのは、いかがなものでしょうか?
それこそ、「女性だから〜は」という批判と同じような構図ではありませんでしょうか?
自分はSF好きの一人ではありますが、blog主様と同じく「宇宙戦艦ヤマト」に対してはジェンダー的観点からの問題指摘はありうると思います。
しかし一方で、SFというジャンル全体としては前述のようなジェンダー的な活動があり、また、多数の優れた女性作家やジェンダー論を正面からとらえた作品もあります。
それらを十把一絡げに「SFは〜」とポイ捨てされる事に、異議をコメントさせていただきます。
以上、何卒よろしくお願いいたします。
temaもS.F.好きであり、かの記述については反論すべきでした。
現状とは違う社会を描くことが、S.F.の魅力の一つです。「違う」の中には当然ジェンダーも含まれます。例えばジェンダーが逆転した世界を描いたS.F.もあります。
社会を自由に設定できるS.F.は、むしろジェンダーを描きやすいジャンルと考えます。
一方、「ジェンダー論にくわしいかたなんて、スタッフにいなさそうですし」 の部分については、反論が難しいです。
ヤマトは1974年放映です。「ジェンダー」という言葉自体が定着していない時代であり、当時の日本では「ジェンダー論に詳しい人」など、ほとんど居なかったのではないか、と思います。
ヤマトのスタッフでS.F.畑の人と言えば、豊田有恒、石津嵐、高千穂遙あたりですが、この中だと、高千穂遙が「ダーティ・ペア」を書く際、調べたかもしれないですね。
>変身ヒーローものは男キャラも変身して強くなるわけで
いい質問です。
男性も変身することは、どう思っているのかは、
わたしは、わからないです。
>それでこそたんぽぽさんです
あらあら、わたしは、そう思われているのね。(苦笑)
ぜんぜんかまわないですけれど、ね。
(わたしのこと、「ときどきガラが悪くなる」
なんて言うかたもいらっしゃったし、ね。(笑))
あと、もうひとつのコメントも、ありがとうございます。
>かの記述については反論すべきでした
言わなきゃだめですよ〜。
こういうときこそ、わたしをやっつけなきゃ。(笑)
コメントありがとうございます。
わたしが、念頭に置いていたのは、
ひとむかし前の日本製アニメのことです。
「彼らがSFを描くと...」というお話であって、
SF全般のお話ではなかったのでした。
コメントでご指摘された、文学賞を取るようなかたがたは、
職業作家かそれに近い力量を持ったかたでしょうから、
さまざまな女性像や女性観を、
自在に描くことができるのだろうと思います。
しかし、それだけの知識を持った人が、
当時の日本のアニメのスタッフにいたのかどうかは、
疑問符がつくのではないかと思います。
(仮にいたとして、そんな作品を作っても、
売れるかどうか、という問題もあると思います。)
それで、その手のアニメ作品では、女性像が
紋切り型になってしまい、とくに未来のことを描くと、
リアリティのない違和感の多いものと
なるのでは?と思ったしだいです。
とはいえ、わたしのコメントが、SF全般に対して
言及していると受け取れるのは、たしかだと思います。
問題のかなりある発言だったことを、
おわびもうしあげたいと思います。
主人公古代進の恋人森雪の任務は戦闘機のパイロットのようですね・・・
女性に、古典的な女の役割も男と画角に戦うことも両方求められる
現代社会の投影でしょうか
>主人公古代進の恋人森雪の任務は
森雪のキャラクタ、書き換えられたみたいですね。
戦闘員らしいというのは、わたしもちょっと聞きました。
さすがに、もとのままでは不自然だと、思ったのでしょうか?
あるいは、斉藤美奈子の『紅一点論』が、影響したのでしょうか?
なんにしても、ジェンダー的に、問題のすくないかたちに
なったのは、よいことだと思います。