またまた夫婦別姓のエントリ。
今回は、反対派の荒唐無稽な思い込みではなく、
身のまわりにありそうな、現実性のあることです。
「選択的でも夫婦別姓が好かれないわけ」
「選択的夫婦別姓問題は奥が深い」
とくにひとつ目のエントリで、選択別姓が導入されると、
実際に起きると思われる「混乱」を、
いくつか具体例を挙げてしめしています。
(1)「今結婚を控えてるカップルがいたとします」
とくに男性にとって、結婚相手の女性が、
自分の苗字を名乗って当然と、思っていることは多いでしょう。
そうしたかたは、女性が改姓しないと、自分が愛されて
いないような気持ちになることも、あるだろうと思います。
(2)「すでに同姓婚をしている女性がいます」
やむをえず、夫の姓に改姓したけれど、
心のどこかで不満がくすぶっていた、というかたも、
すくなからずいるのではないかと思います。
そんなとき、これから結婚するかたが、
苗字を変えないというと、自分は損をした
気持ちになることもあるでしょう。
(3)「結婚20年になるご夫婦がいます」
「自分の苗字を名乗るのを当然」という男性と、
「心のどこかで不満がくすぶっていた」女性との
組み合わせになるでしょう。
これらのケースは、かなりリアリティを感じられるでしょう。
実際いまでも、どこかで起きていると思いますし、
「わたしは聞いたことがある」というかたも、
本当にいらっしゃりそうに思います。
(1)と(3)のような男性は、実際に多いというのは、
感覚的にわかるのではないかと思います。
相手の女性に、自分の苗字を名乗らせるというのは、
同姓強制下における、男性の既得権なんだと思います。
また、(2)と(3)のように、改姓したことに対して、
「心のどこかで不満がくすぶっていた」女性、
すなわち「見えない犠牲」も、思い当たるかたもいるでしょう。
じつはそれなりにいらっしゃることを、
世論調査で裏付けることができます。
(ちなみに、(2)と(3)のケースのように、
民法改正前に、結婚して夫婦同姓になっているときは、
夫婦別姓に振り替えることはできますが。)
改姓してしまい損をした気分になるとか、
妻の改姓が不本意と知ってショックを受けるというのは、
いわば制度の犠牲であり、長いあいだ夫婦同姓が
強制されてきた傷跡と言えるかもしれないです。
とはいっても、これで家族の解体につながる、
というほどのものでもなく、ほどなくして
収拾がつく程度の「混乱」だろうとも思います。
2010年07月31日
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[調べもの]夫婦別姓問題、離婚問題など
Excerpt: 先日の記事:2010-07-24 - おこじょの日記に関連して、新たに知ったことがいろいろと出てきたので、ちょっと整理。 トラバいただいたたんぽぽさんの記事:たんぽぽのなみだ〜運営日誌: 同姓強制の..
Weblog: おこじょの日記
Tracked: 2010-08-04 15:31
でも、ローマの平和みたいな誰かの犠牲を前提にした幸福、と云うのはやはり良くないと思うわけで、いつかは別姓制度に移行するべきでしょう。
わーい、どうもコメントありがとうです。
>これらが原因で結婚が破談になったり、離婚に至るケースも出るでしょうね
ああ、そうか、結婚が破談になったり、
離婚にいたったら、「家族の解体」と言えますね。
(「家族の解体につながる、というほどのものでもなく」なんて、
エントリに書いていたけれど、やっと意味がわかった。)
>ローマの平和みたいな誰かの犠牲を前提にした幸福
じつは、苗字のことが原因で、夫婦仲が悪くなり、
結局離婚したというのは、いまでも起きてるんですよね。
(苗字が原因でトラブルを起こすなら、それ以外でも、
すでに折り合いが悪いことが多いんだけど。)
「ローマの平和」というか、「平和に見えているだけ」
という状況なんだろうと思います。
>気持ちになることも、あるだろうと思います。
というより、「捨てられる可能性が高くなる」と思う男が多いのではないか、と思います。
>民法改正前に、結婚して夫婦同姓になっているときは、
>夫婦別姓に振り替えることはできますが。
これも、一旦離婚→別姓で再婚、になると思うので、「再婚してくれるだろうか?」と不安になる男が多いのではないでしょうか?
かく言うtemaも、もう一度籍を入れて貰える自信がナイ…
コメントどうもありがとうございます。
>「捨てられる可能性が高くなる」と思う男が多いのではないか、
えーっ、そこまで思っちゃうのー!?
(わ、わたしには、ぜんぜんわからない...)
なんで、男の人は、結婚相手の女の人に
改姓をさせたがるのかを、あれやこれやと
考えたことがあったんだけど、
結局よくわからなかったのですよ。
http://taraxacum.hp.infoseek.co.jp/teardrops/against/boys.html
この心理は、たぶん、わたしには、
絶対に理解できないのではないか
(あたまでわかるのもかなり無理)と思ってます。
>一旦離婚→別姓で再婚、になると思うので、
すでに結婚しているご夫婦でしたら、
民法改正直後は、同姓から別姓への振り替えは、
離婚しなくてもできるので、だいじょうぶです。
>「再婚してくれるだろうか?」と不安になる男が多いのではないでしょうか?
ペーパー離婚などをやろうとすると、
一般に男性のほうが、離婚届けを出すことに
抵抗があることが多いんだけど、
その気持ち、ちょっとわかったような気がします。
(気がするだけかもしれないけど。)
>かく言うtemaも、
どうしたんですか?
だいじょうぶだと思いますよ。
(と、無責任にはげましておきます。)
うえのコメントでtemaさんが「捨てられる可能性が高くなると考える男性が増える」と指摘されていましたが、確かにそうかなと思いました。
結婚後の夫の姓で長年暮らしてきた女性が、離婚によって旧姓にもどると離婚が周囲にバレバレです。でも結婚しても姓が変わらないなら、離婚してもなにも変わりないので、離婚のハードルが低くなりそうです。
制度の力でなく、愛の力?で夫婦のきずなを強くする自信のない人が多いんでしょうか?
>結婚後の夫の姓で長年暮らしてきた女性が、離婚によって旧姓にもどると離婚が周囲にバレバレです。でも結婚しても姓が変わらないなら、離婚してもなにも変わりないので、離婚のハードルが低くなりそうです。<
「離婚後の姓」は既に選択可能になっています。1976年の法改正で、「旧姓に戻る」「結婚中の姓を続ける(婚氏続称)」どちらもできるようになりました。
離婚を知られたくないなら婚氏続称すればよいわけで(手続きは簡単)、「離婚のハードル」に関しては既に低くなっているのではないでしょうか。
もっとも、離婚したら強制的に旧姓に戻るのだと思っている方が案外多いみたいなので、思い込みによるハードルは高いのかもしれませんが。
法令は上記のようになっている、ということをお知らせいたします。
ようこそ、お越しくださりました。
>「捨てられる可能性が高くなると考える男性が増える」
>と指摘されていましたが、確かにそうかなと思いました。
わたしには、よくわからないんだけど、
自分の苗字を名乗らせることで、
妻をつなぎとめておける気がするという男性は、
それなりにいらっしゃるようですね。
kirikoさまが、すでにおっしゃっているように、
離婚しても、苗字を旧姓に戻さない、
「婚氏続称」の制度があります。
したがって、苗字のことにかぎっては、
離婚のハードルは必ずしも高くないと思います。
もちろん、婚氏続称のことがあまり知られてなくて、
離婚したらかならず旧姓にもどると
思われていることは、ありそうですが。
ところで、「捨てられる可能性が高くなる」
という意見、実際に苗字が変わる女性よりも、
離婚しても苗字が変わらない男性に多いように思います。
苗字が変わって離婚がばれるのを避けたい、
というよりは、夫婦別苗字が離婚を連想させるという、
イメージ的なものなのかもしれないです。
「婚氏続称」についてのコメント、ありがとうございます。
「婚氏続称」が導入されたのは、ご指摘のように、
苗字が変わることで、離婚がわからないようにするためですね。
でもこれは、離婚した女性本人のためというより、
子どもの苗字を変えたくない、という配慮が多いようです。
母親が子どもを引き取ることが多く、
たいていは、母親の戸籍に入籍させるので、
子どもも母親の苗字を名乗るから、だけど。
3月は離婚件数がちょっと増えるのですが、
これも、4月に子どもの生活が新しくなるので、
苗字を変えるならそのときに、という、
子どもの都合を考えるかたがいるからだそうです。
http://taraxacum.hp.infoseek.co.jp/teardrops/related/printemps.html
離婚する本人は、自分の意志によるから、
それによって苗字が変わっても「自己責任」だからよい、
問題は、自分の意志に反して改姓する子どもだ、
ということかもしれないです。
民法改正されそうだったのでそれを待って法律婚しようと思っていましたが、やはり事実婚を継続しようかと最近決意した者です。
この問題に関心を持ちながらも、政治のことは少し苦手で、勉強中です。いつも勉強させていただいています。
ネットで散見される意見として、「例外的夫婦別姓なら容認する」という意見がありますね。この意見を持つ方の主張を読めば読むほど、今回のたんぽぽさんの記事のような本音が見え隠れするように感じています。「これまで苦労なく自分の姓を保てていた男性が既得権を手放したくない」「すでに自分の姓を手放してしまった女性が、『改姓は仕方なかったことだ』と思いたい」という主張のように感じます。自分たちが苦労なく多数派でなくなるのを恐れているのでは?と思います。
でも知らないという人も多そうです。この制度ができた時、どんな議論がなされたのかちょっと興味がわいてきました。
コメントありがとうございます。
>民法改正されそうだったので
今通常国会こそは、というムードだったんだけどね...
こないだの参院選で、ちょっと後退してしまいましたね。
>いつも勉強させていただいています。
わたしのつたないサイトが、お役に立っているようで光栄です。
>「例外的夫婦別姓なら容認する」という意見がありますね
家裁の認可がいる、というのですね。
ずいぶん前、自民党政権のころ、議論されていたものです。
http://taraxacum.hp.infoseek.co.jp/teardrops/movement/court1.html
>今回のたんぽぽさんの記事のような本音
>「これまで苦労なく自分の姓を保てていた男性が既得権を手放したくない」
ぶっちゃけ、結婚相手の女性に改姓させたい、
その理由をキープしておきたい、という、
男性の願望は、根底にあるのでしょうね。
「夫婦同姓がいい」という男性に、
「それなら自分が改姓して、妻の苗字になればいい」
と言うと、なぜか改姓を渋りますからね。
夫婦別姓が導入されると、相手の女性が
改姓したくないと言ったとき、
それに反対しにくくなるのが嫌なのはありそうですね。
婚氏続称が導入されたいきさつについては、
わたしも、興味がありますので、
機会を見つけて調べてみたいと思います。
婚氏続称制度導入(1976、戸籍法77条の2)のいきさつ、なかなかわからないのですが(30年以上前ですからね…)、こういうのがありました。
「戦後後半期の離婚紛争の増加と社会統制(1)」
http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/metadb/up/kiyo/AN0021395X/HLJ_33-2_316.pdf
女性が離婚により強制的に旧姓に戻るのは、職業や社会生活で不利益を被るものです。以前は姓変更の手続き(裁判所に申し立てるなど)の労苦をかけねばなりませんでした。
そうした女性たちの訴えもあり、婚氏続称が認められる法改正に至ったようです。
戦前から婦人運動を行っていた女性(戦後、代議士になった)の話などがありました。
「離婚により姓を変えねばならない不利益」は「結婚により姓を変えねばならない不利益」と共通するものです。
>http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/metadb/up/kiyo/AN0021395X/HLJ_33-2_316.pdf
おお、さっそく資料のご紹介、まことにありがとうございます。
離婚で旧姓にもどることで、職業上や社会生活上の
不利益をこうむる、という議論がなされていて、
現在の選択別姓導入の議論とそっくりですね。
1975年に婚氏続称が認められたとき、
離婚による改姓の不利益は認識されていたけれど、
結婚による改姓の不利益は問題にされず、
女性団体からの要求もほとんどなかったらしいです。
1970年代は、女性の結婚がいまより早く、
キャリアをほとんど積んでいないときだったので、
結婚改姓が問題にならなかったのでしょうか?
夫婦別姓は婚姻届を出すのが前提ですから「なんでそんなもん出す必要があるか」と考えられ、別姓を求める運動にはならなかったのだと思います。連れ合いのいる人は事実婚を選びました。
もちろんリブの人は極少数派です。多くの女性は、結婚が早いこともありますが、結婚後仕事を続けなかった(続ける環境が乏しかった)ですね。
別姓の運動が出てきたのは80年代に入ってからでしょうか。
教えてくださって、ありがとうございます。
>1970年代にはウーマン・リブ運動がありましたが
そういえば、おなじ時代ですよね。
影響を受けなかったのかな?とは思っていたのでした。
>結婚制度や戸籍制度に批判的でした
それで、制度の変革よりも、制度の否定に走ったのですね。
リブの影響は受けたけれど、急進的になってしまった、
それで、選択別姓を求める動きが、出なかったわけですか。
>結婚後仕事を続けなかった(続ける環境が乏しかった)ですね
実用面でも必要に迫られるかたは、すくなかったのですね。
>別姓の運動が出てきたのは80年代に入ってからでしょうか
女子差別撤廃条約に批准したとき、
夫婦別姓がちょっと話題になったそうです。
これは、条約で話題性が出たのもあるでしょうけれど、
80年代には、実用面から求める声も、
高まり出していたのもあるのでしょうね。
ありがとうございます。
>うちは夫の改正が不本意っていうのを妻が知ってるん
それは結構なことだと思います。
現実を認識して、眼をそらさないからです。
選択的夫婦別姓が導入されても、
夫婦別姓へ円滑に移行するのでは
ないかと思います。
すくなくない妻に改姓させた男性は、
妻が改姓を不本意に思っていることを
気づかなかったり、察していても
否認しようとしたりします。
いまは考えが変わっているところもありそうです。
この問題に関する、わたしの知識や情報が
増えたことが、大きいですが。