2010年08月11日

toujyouka016.jpg 婚氏続称の経緯

離婚の際、結婚改姓していた側は、
かならずしも婚前の苗字にもどさなくてもよく、
離婚後も婚姻時の苗字を名乗り続けることができます。
これを「婚氏続称」と言います。

この「婚氏続称」は、1976年に法律が改正されて
導入されたものですが、その経緯について
簡単に書かれた資料をご紹介したいと思います。

「戦後後半期の離婚紛争の増加と社会情勢(1)」

 
離婚して苗字が変わると、プライバシーが暴露されたり、
職業上や社会生活上の不利益を被ることがあります。
また、子どもがいる場合、多くは母親の戸籍に入れるので、
子どももいっしょに改姓することになります。
そこで、離婚したあとも、改姓しないですむよう、
婚姻中の苗字を、続けて名乗れるにする要望が高まってきました。

「1976(昭和51)年戸籍法改正で、離婚後も結婚時の
名字が使える「婚氏続称」が可能に」



ことのはじめは1948年、国会議員から起こりました。
はじめのころの裁判所は、「離婚改姓しても
職業上のキャリアに影響はなく、日常的には婚姻中の苗字を
通称使用できるから問題ない」という、消極的な態度でした。

それでも、1960年ごろになると、
「苗字のために人間が難渋することがあってはならない」と、
裁判所は、しだいに積極的になっていきました。
離婚改姓は本人に不利益をもたらす、という主旨の、
1964年の広島高裁判決は、通説的となりました。

その後、裁判所の手続きを経て、「婚氏続称」が
できるようになったのち、1976年の法律改正で、
お役所の書類だけで、手続きが取れるようになったのでした。


ようするに「婚氏続称」、いまの選択的夫婦別姓と、
導入のモチベーションも経緯も、そっくりということです。
それならば、離婚時の改姓と同様、結婚したときの改姓は
その当時は問題にならなかったのか、という疑問が出て来ます。

1970年代はウーマン・リブの時代でしたが、
急進的な考えかたの人が多く、結婚制度自体に否定的で、
結婚する人は事実婚を選んでいました。
つまり、制度の変革よりも、制度の否定に向かってしまい、
選択別姓を求める動きにはならなかったのでしょう。

また、一般の人たちは、いまより結婚が早く、
結婚前のキャリアがすくないので、結婚改姓が深刻でなかったり、
結婚したあとも働き続ける環境にとぼしく、
お仕事を続けられなかったので、職業上の不利益が
あまり問題にならなかったのでした。

1970年代は、思想面でも、実用面でも、選択別姓の必要性が
あまり取りざたされず、それゆえ積極的に導入を
求める動きがなかったものと思われます。


謝辞1:
エントリの最後の部分は、(2010年08月06日 01:12)の
kirikoさまのコメントを参考にしました。
まことにありがとうございました。

謝辞2:
コメント欄で、「広島法学」の資料を紹介してくださった
kirikoさま、まことにありがとうございます。

謝辞3:
この問題に関心を持ってくださり、TBを送ってくださった、
おこじょさま、ありがとうございます。

posted by たんぽぽ at 23:12 | Comment(4) | TrackBack(0) | 民法改正一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
そうか、昔は離婚後は自動的に旧姓に戻っていたんですね。今から考えると余計なお世話だけど、

名字が個人のものではなく、家に属するものの認識票とか名刺といった位置づけなんでしょうね。そんなものを、構成員でもない人間に持ち歩かれたらたまらんわ。

結局、名字を考えると家に行きつきますね、いつも。
Posted by キンシャチ at 2010年08月12日 08:26
制度としての夫婦別姓が認められるべきことはもちろんですが、
それとは別に、「社会的通称」を使用することも認めてもらいたいと自分は思ってます。
政治家は、別に「戸籍名としての本名」でなくとも政治活動を認められています。
一般レベルにまでそれを認めると、事務が多少煩雑になるとか、
決りとして「本名」を使うことになっているから、
とかくらいしか、いけないとする理由は見当たらないような気がします。
Posted by pulin at 2010年08月12日 09:17
キンチャチさま、コメントありがとうです。

>名字が個人のものではなく、家に属するものの認識票とか名刺といった

そういうことだと、わたしも思います。

現在の選択別姓の反対派の中にも、「苗字は個人ではなく
家族のものだから、氏名権なんか認められない、
よって夫婦別姓反対」なんて言う人もいますしね。

いくら戦後「イエ制度」はなくなったと言っても、
おなじ戸籍の中は、みんなおなじ苗字という仕組みですし、
「苗字とは家族を表わす」という観念は残ると思います。

いまでも、婚氏続称をしていると、
「離婚したのに、いつまでもぼくの苗字を名乗っている」
なんて不満を言う男性も、ときどきいるみたいです。
Posted by たんぽぽ at 2010年08月12日 23:39
pulinさま、コメントありがとうです。

日常生活とか社会生活で、その名前を使っていることが
証明できる必要があると思います。

芸能人の芸名とか、作家のペンネームは
たぶんだいじょうぶだと思います。
(名前らしくないペンネームでも、受け付けるか、
という問題が出て来るのかな?)

>決りとして「本名」を使うことになっているから

日本は「戸籍の名前=正しい名前」という
観念が強すぎて、「本名」以外の名前が
使いにくくなっているんだと思います。
Posted by たんぽぽ at 2010年08月12日 23:41
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