2010年08月14日

toujyouka016.jpg 不明高齢者と家族の絆

すこし前から話題になっていることですが、
東京都で最高齢の111歳と思われていた男性が、
じつは30年以上前になくなっていた、という事件がありました

「東京では爺」
「開かずの間」

これはかなりセンセーショナルだったようで、
すでに亡くなっている行方不明の高齢者は
ほかにもいるのではないかと、100歳以上を対象に
調査したところ、まだまだいることがわかってきました

 
これを受けて「行方不明の高齢者が出てくるのは、
家族が面倒を見ないからであり、これは家族の絆が
弱まったためだ」という主張が出て来ているようです。
さらに便乗して、「家族の絆が弱まるから別姓反対」
という主張も、ちらほら見られるようです。

家族に関係したことで、なにか問題が起きると、
「正しい家族」でないからだ、ということにして、
選択別姓反対の理由にするという、毎度おなじみのパターンです。
「少年犯罪が増える」のとおなじですね。


こういういい加減へきえきする、おさだまりの
「家族の絆」論に、苦言を述べている記事があります。
ご紹介したいと思います。

「高齢者の行方不明と家族の絆」

簡単に言うと、行方不明の高齢者が出たりするのは、
「家族の絆」が弱まったのではなく、
絆などもともとなかった、ということです。

それでも、ひとむかしの地方などでは、
周囲の社会的圧力で、つなぎとめられていたので、
あまり表面化しなかったのですが、
都市化が進むにつれ、そうした圧力が働かなくなり、
露呈するようになった、ということです。

圧力で表面的に押さえ付けられているだけなら、
そんな「絆」は、かえって不健全でしょう。
むしろ眼に見えるかたちで発覚したほうが、
問題も探りやすくなるし、ずっとよいと思います。


さらに言えば、行方不明の高齢者が、
たくさん出て来たのは、本当に「家族の絆」が
弱まったからなのか?という疑問もあるでしょう。

つぎのエントリは、このあたりについて、
独特の考察をしているので、ぜひご紹介したいと思います。
最初の東京都足立区のケースは、家族という「秘密結社」であり、
「111歳」の爺さんがいることで、家族の絆が
保たれていたのではないか、というものです。

これを見ると、「家族の絆とはなんだろう?」と
あらためて、いろいろと考えてしまうところです。

「東京では爺」
========
この爺さんは1978年に死んだということだが、
それ以来30年以上に亙って〈不在の中心〉として
この家族を支配してきたということになる。
この家族は、決して−口に出しては−ならない−名前としての
この爺さんの名前を共有することによって家族として
存立してきたといっていい。秘密結社としての家族。

家族の中で諍いが起こったときも、その名前が
喚起されることによって、家族の離散が食い止められた筈。
今回発覚したということは、家族の誰か若しくは全員が
〈秘密結社〉をやりつづけることに疲れたか
飽きたかということだろうか。
========

posted by たんぽぽ at 23:30 | Comment(9) | TrackBack(1) | 家族・ジェンダー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
 そもそも不明高齢者が不明になったのは実は2−40年も前のことで、別に昨今の家族の絆云々と結びつけること自体、おかしいです。つうか、時間軸がめちゃくちゃじゃないかと。
 あえて強引に結び付けてみると、かつては家族の絆があったから、家の恥を隠して外にさらさない、家族のやっかいもののボケたジジババが都合よく行方不明になってくれたので、これ幸いとだんまりを決め込んで外には「おばあちゃんの面倒を見ている孝行な家族」と思わせて世間体を取り繕っていたが、昨今、「家族の絆の喪失」によって問題が表面化した、という言い方出来ますね。

 上で紹介されているエントリー「秘密結社」という表現が的を得ていて秀逸だと思いました。
Posted by イカフライ at 2010年08月15日 09:09
 こんにちは。この論調、私も不愉快でした。
この事件において、家族の絆が崩れてきているという主張を百歩譲って受け入れるとしても(到底受け入れられませんが)、それが別姓反対の理由にはなりません。別姓だと家族の結びつきが弱まるというのなら、結婚改姓した娘と実の親との結びつきは弱まり、親が100歳以上で亡くなっても届け出しないかもしれませんよね。
Posted by さわ at 2010年08月15日 10:01
「超高齢者を抱える家族」という存在自体が、
国家の基本構成単位として健全な家族が何よりも重要、という考えの人達にとっても
もはや異端的存在だと思いますよ。。。。
ネットでも、高齢者は監視対象にしろとかの、高齢者異分子扱いの意見が散見されました。
Posted by pulin at 2010年08月15日 11:16
イカフライさま、おひさしぶりです。
コメント、どうもありがとうです。

>不明高齢者が不明になったのは実は2−40年も前のことで

まったくですよね。

不明になったのは、ずっとむかしのことなのに、
取りざたされたのがいまだからというだけで、
あたかも現在になって起きたことのように議論する、
というのは、おかしなことだと思います。

>あえて強引に結び付けてみると

ばれなければ「絆がある」ことになって、
ばれると「絆が壊れた」ということになりそうだけれど、
考えようによっては、こういうのはかえって「家族の絆」に
こだわる人たちらしいかもしれないです。


>「秘密結社」という表現が的を得ていて

わたしも、「秘密結社」という表現や発想は、
なるほど!と感心しましたよ。
そう言われてみれば、そういう雰囲気がある、というか...

だからというわけはないのでしょうけれど、
くだんの家族、「祖父にはパワーがあったのドアが開いた」とか、
オカルトチックなところがありますね。
Posted by たんぽぽ at 2010年08月15日 16:37
さわさま、こんにちは。
コメントをくださって、ありがとうです。

>この論調、私も不愉快でした

ちょっと考えればおかしいことがわかるのに、
反対論者たちは、「正しい家族」幻想にとらわれて、
思考停止しているのかもしれないですね。
それとも、言いがかりをつける口実があれば、
なんでもいいのかもしれないです。

>結婚改姓した娘と実の親との結びつきは弱まり、

そうですよね。

むしろ夫婦別姓だと、結婚しても娘と実の親とで、
苗字がおなじままだから、結びつきが保たれて、
娘の親が行方不明高齢者にならない、ということになりますよね。
(そういう反論をしているかた、わたしも見かけましたよ。)
Posted by たんぽぽ at 2010年08月15日 16:38
pulinさま、
いつもコメント、ありがとうです。

>国家の基本構成単位として健全な家族が何よりも重要、
>という考えの人達にとっても

こういう人たちは、国家のために個人がいる、
という考えかたなんでしょうね。
(個人のために国家がある、という考えではなくて。)


>ネットでも、高齢者は監視対象にしろとかの、

不明高齢者の年金のために、自分の税金を使われたくない、
という気持ちが、透けて見えるようです。

いまでも、敬老の日などに、自治体の職員が直接会って
確認していたりして、「監視」はしているんですよね。

それでも、家族に「本人が会いたくないと言っている」
と言われると、プライバシーに関わることなので、
それ以上は踏み込まないんだけど。
Posted by たんぽぽ at 2010年08月15日 16:40
お久しぶりですー。
…「イルカと託児所」に先駆けて、これに反応するのもどうかという話なのですが(^^;

不明高齢者の件で家族の絆がどうこうとか、はては別姓反対に結びつける論者の存在は恥ずかしながら知りませんでした。
事例の中には死亡届はとっくに出ていたのに処理がされていなかっただけ、という事例だっていくつかありましたのにね。

超高齢者って「古き良き」時代にはほとんどいなかったわけで、それを「普通の」家族「だけ」で囲い込むのはそもそも無理があるのだ…という感性くらいは社会にないと、最悪介護疲れで家族共倒れ…ということもあると思うのです。というか実際にそうなった事例って山ほどありますよね、超高齢者じゃなくても。
最後まで殺す・殺されることなく力尽きることが出来れば「家族の絆」カルト(暴言)的には美談かもしれませんけれど、当事者にはたまったものじゃないと思いますし。

報道を聞きかじった範囲では、調べてみると国民健康保険の使用履歴が存在しなかったとかもあるみたいなので、そっちの方からも監視というか、モニターしてみるという視点があるといいと思うのです。
Posted by 七重 at 2010年08月16日 00:29
七重さま、おひさしぶりです♪
コメントをたくさんくださって、まことにありがとうございます!

でも、きょうはコンピュータの調子が悪くて、
お返事ができそうにないです。
せっかく書いてくださったのに、ごめんなさいね。

のちほどレスしたいと思います。
Posted by たんぽぽ at 2010年08月16日 23:42
あらためてコメントありがとうです。
(やっとコンピュータが直った。)
お返事が遅くなりまして、ごめんなさいね。

>不明高齢者の件で

ああ、いえいえ、わたしも、ツイッターで、
読みかじった程度なので、そんなにくわしくはないですよ。


>死亡届はとっくに出ていたのに処理がされていなかっただけ

家族はちゃんと届けは出していて、
「行方不明」になっているのは、お役所の手違い、
というだけだったケースも、いくつかありましたね。
たしか、住民票は処理されたけれど、
戸籍が連動していなかったんだと思ったけど。

はじめの東京都足立区の例も、
家族はみんな居場所を知っているのですから、
「行方不明」とされている高齢者が、
かならずしも「行方不明」ではないのですよね。

行方不明というのは、第三者的な視点なんだろうと思います。


>超高齢者って「古き良き」時代にはほとんどいなかった

そういえば、そうですね。
(従来とは異なる、新しい対応のしかたが
考えられてしかるべきはずだったのでした。)

>「家族の絆」カルト(暴言)的

彼らは教条思考的で、本当にそんな感じですよね。(苦笑)
(ご指摘の「介護疲れ」にも、理解はぜんぜんないですし。)
Posted by たんぽぽ at 2010年08月17日 17:10
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