ことしノーベル化学賞を受賞した、鈴木章氏に関して、
こんな記事があるのでご紹介したいと思います。
「「2位じゃだめか、は愚問」ノーベル賞・鈴木さん、蓮舫氏発言をバッサリ」
(はてなブックマーク)
わたしが、なにを問題にしたいのかは、つぎのように、
鈴木章氏が事業仕分け(蓮舫発言)を批判したことです。
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昨年の事業仕分けで理化学研究所の
次世代スーパーコンピューターの予算が
削られたことについては「科学や技術の研究はお金がかかる。
研究者自身の努力や知識も大切だが、
必要なお金は政府がアレンジしなければならない。
(スーパー)コンピューターなどの分野では絶対に必要だ」と
政府の積極的な投資に対する理解を求めた。
特に、蓮舫発言については「研究は1番でないといけない。
“2位ではどうか”などというのは愚問。
このようなことを言う人は科学や技術を
全く知らない人だ」と厳しく批判。
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事業仕分け、とくに理研のスーパーコンピュータの
プロジェクトに関しては、前にすこし紹介しましたが、
こちらをご覧になるといいでしょう。
「事業仕分けのメモ」
「スパコンで"世界一"になるとはどういうことか?」
事業仕分けの対象になった、理研のスーパーコンピュータは、
計算機の「戦艦大和」のようなものです。
つまり世界が顧みなくなった、時代遅れの科学技術で、
突出した世界一をめざすという性質のものです。
より具体的には、つぎに引用したようなことです。
かかる戦略の混迷は、おそらく産官学複合体の癒着のためで、
おかげで、日本の計算機技術は後退を続けていて、
かえって科学技術の発展の妨げになっているくらいです。
http://opinion.infoseek.co.jp/article/662
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もはやスカラー型が普遍化している世界で
いつまでもベクトル型にこだわって、それを使って何を
--どういう科学技術における世界最先端の成果を--
成し遂げようとするのかのソフト戦略も定かでないままに、
たった1台だけ突出的に世界最高速のマシンを作ろうというのが、
ハード優先のハコモノ行政でないとすれば何なのか、
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蓮舫氏の「2位じゃだめか」発言は、
「戦艦大和的1位」に対する批判で、いわば象徴的なものです。
「科学技術は2位(セカンドクラス)をめざせばよい」
という字義どおりでないことはわかるでしょう。
鈴木章氏こそ、理研のスパコンプロジェクトが、
どのようなものなのか、おそらくご存知なくて
(産経新聞が誘導したのもあるかもしれないですが)、
見当違いの批判をしているのだと思います。
もっとも、はてなブックマークを見ても、
理研のスパコンプロジェクトの中身を、
おそらくご存知ないとおぼしきかたが結構いるようです。
蓮舫氏に対して批判的なコメントも多く、
全体としては賛否両論になっています。
蓮舫氏は「科学や技術を全く知らない」のかというと、
そんなことはなく、このコメントを見るかぎり、
蓮舫氏はよく勉強をしていて、かなりわかっている感じですよ。
それから産経新聞が鈴木章氏に、事業仕分けのことを
インタビューをした意図は、想像にがたくないでしょう。
理研の野依良治理事長が、すでにやっていることですね。
(産経とちがって、野依自身もノーベル賞受賞者ですが。)
2010年10月17日
この記事へのトラックバック
今取り組むべきは、雇用問題と税制改革だ。
Excerpt: さて、今日は時事の事件に関するエントリーでは無く、私個人の、今、喫緊の課題として取り組むべき政策について、簡単に述べてみたい。 現在の政治上の「喫緊の課題」と言うと、「景気対策」と考える方も多い..
Weblog: ジャッカルの目
Tracked: 2010-10-20 05:15
http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20101015k0000m070095000c.html
↑
毎日新聞のこのコラムでも、ノーベル賞も応用分野の受賞が多くなっているが、それにとらわれた成果主義重視の科学政策よりも、基礎分野の充実を、と主張しています。
その趣旨はもっともではありますが、100年以上前の、手作りに毛の生えたような実験装置と、紙と鉛筆で先端的な研究ができた牧歌的時代はともかく、素粒子や宇宙科学の基礎研究にさえ数千億〜数兆の費用がかかる国家的プロジェクトになる時代なので、学者が好奇心と興味に任せて自由に研究してたらたまたま成果が生まれるのが本当だ、と暢気なことばかりは言っていられませんね。理想はそうだとしても。それ程お金が注ぎ込まれるなら、やはり何か役に立つことをしてもらわねば困ります。
そして、基礎研究分野でも、むしろ競争は激烈ですね。好きに何でもできるわけでもないでしょう。
ならば、どんな分野においても、一番乗りや賞を目指すための競争主義そのものからの決別がそろそろ必要かなと私は思ったりします。
巨額の費用をかけた研究が,何の成果も挙げることができなければ責任者は責任を取って引退すべきだと思います。
予算を取るだけ取っておいて,適当な報告でお茶を濁している巨大プロジェクトが多くありそうです。例を一つだけ出させていただきますと,地震予知連を挙げておきましょうかね(異論がどこからか出るかもしれませんが)。巨額の費用を懸けたからにはきっちりと成果を出してもらいたい。
しかし,その反面,「手作りに毛の生えたような実験装置と、紙と鉛筆で」次の世代の重要な原理の芽を探すことは必要ですし,その余地はまだまだ多くあると思います。
そういう方面へも研究者を擁する余裕というか裾野がないと将来は暗いです。
日本は富士通の「Venus」
http://gigazine.net/index.php?/news/comments/20090513_fujitsu_venus/
を使って世界一を狙うらしいんだけど、一方では「メニーコアをはじめとした超並列計算環境に必要となるシステム制御等のための基盤的ソフトウェア技術の創出」(平成22年度設定)
http://senryaku.jst.go.jp/teian/koubo/03_h2202.html
てなことをやっている。
ハードは何とか用意したが、使い方がイマイチらしい。どう見ても、世界一狙うには使えもしないお粗末な台所事情といえるのではないだろうか。
そんな裏事情を踏まえると、「鈴木章氏が事業仕分け(蓮舫発言)を批判」は、的はずれも良いとこですよね。
ちなみに、今日10月18日は、特許制定125周年になるとのことで、125周年を記念する式典が、天皇皇后両陛下も出席されて都内で行われましたという。
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天皇、皇后両陛下は18日午前、東京都千代田区の帝国ホテルを訪れ、特許権や商標権などの産業財産権制度が創設されて125周年の記念式典に出席された。
天皇陛下はあいさつで「この制度は、わが国の近代工業化と、その後の飛躍的な発展に大きく貢献してきました」とした上で「産業財産権制度が有効に活用され、人類の幸せに資する成果が生み出されていくことを期待します」と述べた。
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http://yamagata-np.jp/news_core/index_pr.php?kate=National&no=2010101801000211
・・・で、私事で大変申し訳ないのですが、スカラー型プログラミングに関する日米ソフトウェア特許を持っています(UNIX scalar programming 参照のこと)。
http://www.google.co.jp/search?hl=ja&source=hp&biw=740&bih=473&q=scalar+programming&btnG=Google+%E6%A4%9C%E7%B4%A2&aq=f&aqi=&aql=&oq=&gs_rfai=
けれども、天皇陛下の「産業財産権制度が有効に活用され、人類の幸せに資する成果が生み出されていくことを期待します」の言葉もむなしく、蚊帳の外なんですヨ。
理由は、たんぽぽさんが指摘のとおり、一般庶民の私は「産官学複合体の癒着」の枠外だからです。やってられません(息)。
そんな現実も実際にあることを少しでも多くの人に知っていただくために投稿させていただきました。
>http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20101015k0000m070095000c.html
pulinさまのご紹介の記事、拝見しました。
これはおおむねごもっともだと思いますよ。
論点はふたつあって、「応用研究重視」と
「成果主義」の批判ですね。
最初の現象発見や理論構築よりも、
技術として成熟させた人が賞を取る、
というのは、ひとつの偏向だと思います。
ノーベル賞も案外不公平なところがある、
という、ひとつの例でもあるでしょう。
それと、ノーベル賞を取ることを国家目標にする、
というのは、感心できないですね。
賞を取るというのは、いわば結果的なもので、
目的にしたら、たいていはろくなことがないからだけど。
理研のスパコンは、「好奇心と興味に任せた
自由な研究」ですらないと、わたしは思います。
高野孟氏が指摘するように、産官学の癒着の産物で、
既得権は維持しながら、意地だけは張ろう、
というものだと思います。
毎日の記事は、事業仕分けを「「役に立つ技術」を
より高く評価する成果主義」と書いていますね。
理研のスパコンが仕分けにあったのは、
「成果につながらない基礎研究だから」ではないのでして
記事の批判は当たらないと思います。
むしろ、スパコンにこだわった人たちこそ、
「世界一」という「成果主義」に走ったと
言えるんじゃないかな?
事業仕分けは、「応用研究重視」「成果主義」という
文脈に入れることではないように思います。
>巨額の費用をかけた研究が,何の成果も挙げることができなければ
基礎研究といっても、莫大な予算のかかるものも
たしかにいっぱいありますからね。
なにがどこまでわかって、どのようにおもしろいのか、
それをはっきりさせる必要があるし、
しかるべき成果は出すのが本来だと思います。
もちろん基礎研究ですから、世の中のこういうことに
直接役立つ、ということではなくていいんだけど。
また、当初の予想と違って、こんな方向に研究が発展して
おもしろいことになった、ということも、
あってもかまわないんだけど。
>例を一つだけ出させていただきますと
地震予知は、いっぱい予算がつきそうですね。
>そういう方面へも研究者を擁する余裕というか裾野がないと
本当に基礎研究が大事と考えているなら、
一般受け(お役人受け?)しない、地味なところにも
配慮が行くはずなんだけどね。
ようこそお越し下さりました。
わたしのお返事が遅れましてもうしわけないです。
ご紹介のリンク、拝見いたしました。
(なかなか盛りだくさんで、ちょっと骨が折れました。)
早い計算機を作ったので、それを使って研究する
グループを集めたい、というのが、
科学技術振興機構の考えのようですね。
こういうのは、大学や研究機関で、
計算機を使った研究をしているところ
(物理や化学の理論系とか)を、募るんでしょうけれど、
かならずしもハードの性能が必要とされるとは
言えないものもすくなからずありますね。
計算機のプロジェクトは、研究機関にかぎらず、
もっと幅広く門戸を解放しても、よさそうですね。
グリッド・コンピューティングなんてのも
研究されていましたし、計算機なんて、
空いているのをヒッチハイクしてなんぼ、
みたいなところもありますからね。
>そんな現実も実際にあることを少しでも多くの人に
>知っていただくために投稿させていただきました。
おっしゃりたいことは、なんとなくわかりましたよ。
(リンクしてくださったサイトは、
あなたのハンドルのところのも拝見したんだけど、
すくなくとも、わたしは受け止めたと思います。)
わたしのウェブログは、読者もたいしていないし、
受け止めてくださるかたもすくないので、
あまり効果は発揮できなくて恐縮なんだけどね。
わたしのブログにコメントしたことが、
すこしでもお役に立てばさいわいです。