2010年12月13日

toujyouka016.jpg スウェーデンたたき

政調で選択別姓法案が承認されたニュースが流れてから、
ツイッターでは夫婦別姓の議論が続いています。
せっかくなので、その議論の一部をご紹介したいと思います。

やはり出てきたのが、「スウェーデンたたき」です。
「スウェーデンは選択別姓を導入したので、
離婚が多くなった」とか、「家庭が崩壊して
少年犯罪が増えた」といったたぐいの主張ですよ。

「『夫婦別姓で離婚が増える』というデマ」
「夫婦別姓論議・なぜ「スウェーデン」は語られないのか」

 
ふたつ目の資料は、ツイッターの議論でも紹介された
反対派の主張で、シンクタンクのサイトにあるものです。
立派そうに見えますが、内容はじつにおそまつで、
拙サイトの以下のページで、じゅうぶん反論できるものです。

「スウェーデン・バッシング」
「婚外子が少ないから健全?」

くわしくは上述のページを見ていただくことにして、
ここでは要点だけお話したいと思います。


>「多くの国が選択制」というトリック

最初のこのセクションでは、「家族のきずな」に
影響が出るとは思えないような、こまかい違いを探し出して、
「スウェーデンは唯一の選択別姓導入の国だ」
などと主張していたりします。

もともとは「夫婦別姓の家族への影響」を
調べていたはずなのに、「スウェーデンの制度には、
他国とわずかでも違いがあるか」に、
目的がすり替わっていると言えるでしょう。
スウェーデンを悪者にしようという、
よこしまな意図が透けて見えるようです。


>触れたくないスウェーデンの事情

むかしよく言われた「離婚率50%」です。
これは、結婚数と離婚数の比を取ったものですが、
定義に即した正しい計算ではありませんよ。
スウェーデンでは離婚が多いように
見せかけるための「こけおどし」だと思います。

スウェーデンの実際の離婚率はどのくらいかですが、
これは「主要国の離婚率推移」というページに
他の国のデータといっしょに乗せられています。

スウェーデンは、1970年代の後半から現在まで、
離婚率は2-2.5のあいだで、ほぼ一定と見てよいでしょう。
選択別姓が導入されたのは1983年だそうですが、
そのあと離婚は増えていないのはあきらかですね。

日本をふくめた他の国も、21世紀に入ってからは、
離婚率は2から3のあいだに集まっています。
したがって、多くの国で離婚率はおなじくらいで、
他国とくらべても、スウェーデンが
とくに多いのではないことがわかります。

主要国の離婚率推移(1947〜)


>本質は「家族」と「子ども」の問題

最後のセクションでは、事実婚の増加にともなって、
子どもが婚外子になることが問題だと言っています。
スウェーデンの婚外子の割合は、2003年の時点で
5割を超えていますが、英仏も4割程度なので、
スウェーデンが飛び抜けて多いのではありません。

ヨーロッパでは法的には嫡出概念がなく、
婚外子が制度の上で差別されなくなっています。
それゆえ婚外子がとくに不利にはならないので、
比率が高くなるのでしょう。

婚外子の割合がわずか2%という日本が、
きわだってすくないのはあきらかでしょう。
そしてこれは婚外子がそれだけ差別されていて、
法的にも社会通念上も不利だから、
避けられるにほかならないことです。

記事では、婚外子が多いからスウェーデンは
不健全だとでも思っているのでしょう。
そうではなく、婚外子が異常なまでにすくない
日本のほうが、じつは不健全だということです。

嫡出でない子の割合と合計特殊出生率 国際比較


また「最近のスウェーデンの青少年犯罪統計の
示すところからもわかるように非行青少年の発生源は
欠陥家庭にあると言われている」などとも書かれています。

これがまったくの言いがかりですよ。
少年犯罪が増えてはいないのは、つぎをご覧ください。
http://d.hatena.ne.jp/dokusha/20050510#p2
http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/20060601/p2

少年犯罪と夫婦別姓が関係ないのは、
拙サイトのつぎのページをご覧ください。
「少年犯罪は本当に増えたか?」

posted by たんぽぽ at 23:52 | Comment(8) | TrackBack(0) | 民法改正一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
へえ、そんなバッシングがあるんですね。

しかしイエ概念がないところだと「正妻」と「側室」、「嫡出子」と「非嫡出子」と「婚外子」という概念の差は発生しないんですよね。その子どもは「誰の子」じゃなくて「この社会の子」というのが根底にありますから。そこをはき違えて「イエ制度」を世界の常識であるかのように思い込んでいる人が(外国とのやり取りが「ふつうの人」の間でも増えた現在でさえ)意外に多いことはちょっと恥ずかしいかも…

でも、ここで出てきてる「日本ではこうなんだ!」っていう一部の主張の基本には子どもは人間ではなく親の所有物だという前時代的な感覚があるんでしょうか…。
Posted by mmm at 2010年12月15日 15:02
mmmさま、コメントありがとうです。

スウェーデンをたたくのって、選択別姓反対派をはじめ
バックラッシュと言われた人たちの定番ですね。

ようは「デマ」なんだけど、たとえば林道義という
心理学者とか、著作にまで書いていたりして、
一時期はかなり広まっていました。

「スウェーデンの離婚率は50%」なんて、
一般向けの結婚情報でさえ言われたりして、
スウェーデンは離婚の多い国だ、というのが
「常識」のようになっていたこともありましたし。


>意外に多いことはちょっと恥ずかしいかも

日本の家族制度や家族意識は、欧米の民主主義国と
くらべると「非常識」の部類に入るんですよね。
でも残念ながら、気がついてないかたが多いみたいですね。
(同棲はよしたほうがいい「科学的」理由がある、
なんて言う御用学者が、結構受け入れられたりしますし...)
Posted by たんぽぽ at 2010年12月15日 23:47
別姓が導入されているから離婚率が高い・・。

いまいち僕も想像がつかないです。f^_^;
Posted by SPIRIT(スピリット) at 2010年12月16日 14:33
mmmさま(もうひとつ)

前のコメントでわたしが言った、「同棲はよせ」と
言っている御用学者は、こちらです。
(前にご覧になったかもしれないけれど。)
http://news.ameba.jp/baila/2010/10/85178.html



SPIRIT(スピリット)さま、おひさしぶりです。
コメントありがとうです。

>いまいち僕も想像がつかないです

それが正常な感覚というものです。

反対派の主張を見て、「わけのわからない
おかしなことを言っている」と、わかってくださるかたが
たくさんいらっしゃるといいんだけれどね。
Posted by たんぽぽ at 2010年12月16日 22:48
>日本の家族制度や家族意識は、
>欧米の民主主義国とくらべると
>「非常識」の部類に入るんですよね。
韓国人女性・中国人女性、あちらのブローカーによる結婚詐欺の件を見たことはありますでしょうか?互いの国のブローカーを通し「お見合い」をして、男性側が気に入ったら結婚するといったものです。残念ながらある程度の年齢の方が「カモ」にされています。

「お見合いしただけ」で相手を知ったつもりになり、「婚姻届を出しただけ」で結婚できるのが今の日本の常識だと日本人男性本人も考えている上、それをブローカーもよく知っているからです。相手の顔を見ただけで、その親にも会わずに結婚するのはどんなに個人主義であっても充分非常識だと私は思いますけどね…

結婚をする前に互いの生活をすり合わせる努力を「同棲」と呼んで見下す人々の存在はかなり残念だと思います。他者が結婚するのが許せない嫉妬のようなものを感じます。特に、遠くに住む同士が結婚するのに同棲をせずにすべてを準備するのは、ホテル住まいができる少数の富裕層以外現実的に難しいでしょうし、仕事を持つ者同士であることが多いので、生活時間帯がわからないまま結婚して突然同居するというのはむしろ後々の問題を増やすだけなのでお勧めしたくないなぁ、とか。

あの学者さんは現実を見ず夢か何かを見ているのだと思いますよ。
Posted by mmm at 2010年12月17日 17:57
韓国や中国のブローカのことは、知らなかったです。
寡聞にしてはじめて聞きました。

詐欺とか、人をだます人というのは、
社会(相手)の固定観念を利用しますからね。
詐欺の手口を見ると、その人たちの偏見が見えてくると
言えるかもしれないです。


>「お見合いしただけ」で相手を知ったつもりになり、
>「婚姻届を出しただけ」で結婚できるのが

日本のとくに男性にとっての、結婚に対する
習慣とか意識が、現れている感じですね。

多分に男性中心的で、男の人は結婚の前も後も
ほとんど変わらず、自分のやりたいことができるけれど、
女性は夫に自分を合わせなければならない、
という状況を、再確認したようです。

結婚前にたがいの生活をすりあわせる必要を感じないのも、
女性が自動的に自分に合わせてくれると
思っている男性が多かったことの
名残りかもしれないですね。
Posted by たんぽぽ at 2010年12月18日 12:03
選択肢をもうけていないのは日本だけなのに、
「スウェーデンは!」にまず失笑ですし、
グラフにはありませんが、同じ選択制を取り入れながらも圧倒的に夫の姓に変える人が多いニュージーランドも同じ比率の離婚率に触れないのはなぜなんでしょうね?
それにスウェーデンと日本では社会的保証が違いすぎます。
女性賃金が低すぎ、特に幼い子供を抱えて離婚した場合は生活保護を受けざるを得ない人も珍しくない日本で三人に一人が離婚。
この離婚率は世界的に見て突出していますよね。
Posted by 乾紀子 at 2016年06月30日 03:14
乾紀子さま、
むかしのエントリにコメント、ありがとうございます。

>選択肢をもうけていないのは日本だけなのに、
>「スウェーデンは!」にまず失笑

「反フェミ」はスウェーデンを叩く、のひとつですね。
スウェーデンを目のカタキにして、とにかくスウェーデンを叩けば
反論できるかのように思っているのでしょう。


>同じ選択制を取り入れながらも圧倒的に夫の姓に変える人が多いニュージーランドも

選択的夫婦別姓が認められている国でも、
夫婦同姓を選択する人が多いのですよね。
なので選択的夫婦別姓のせいで離婚率が変化するとしても、
そんなに大きく変化するはずないことになります。

反対派(非共存派)は、
「選択制が認められている=多くの人が夫婦別姓を選択する」
と、思い込んでいるのかもしれないです。

>この離婚率は世界的に見て突出していますよね

経済的には日本は欧米の民主主義国と比べて、ずっと「離婚が難しい」ですね。
それにも関わらず、欧米の民主主義国と比べて遜色のない
離婚率というのは、日本の離婚率はそれだけ高いことになりそうです。


とてもよい指摘だと思います。
あらためてありがとうございます。
Posted by たんぽぽ at 2016年06月30日 21:25
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