民主党はじつは、原子力発電を積極的に推進しているとか、
マニフェストを見ると原発推進派だとか、
言われるのを、このところ聞きます。
(そして、原発推進に政策を転換した立て役者が
小沢一郎氏ということになっている。)
実際はどうなのかと思ったので、2009年の政権公約の
エネルギー政策のところを見てみることにしました。
「エネルギー」
「エネルギー安定供給体制の確立」
「経済と環境との両立を図るエネルギー政策の確立」
「原子力政策に対する基本方針」
「安全を最優先した原子力行政」
上記4項目のうち、3番目と4番目が原子力発電に関する内容です。
これらを見るかぎり、原発推進派と見なすのはとても微妙で、
いささか無理があるかもしれないです。
原発を推進するとは、はっきり書いていないからです。
原発の安全対策を強化するとは書いてあります。
「原子力政策に対する基本方針」の項目には、
「原子力利用については、安全を第一としつつ、
エネルギーの安定供給の観点もふまえ、国民の理解と信頼を
得ながら着実に取り組みます」とあります。
ここで、「着実に取り組」むのは、原子力の推進ではなく、
安全対策のことだとも読み取れるでしょう。
エネルギー自給率を高めることと、
炭酸ガス排出を抑制するなどの環境への配慮から、
風力、太陽光、バイオマスといった、
「再生可能エネルギー」を推進していることは、
はっきり書いてあり、これは数値目標までしめされています。
日本のエネルギー自給率は、OECDの2010年版のデータ
(たぶん数値は2008年のもの)を見ると18%で、
このうち原子力が14%、それ以外が4%です。
(原子力は、燃料のウランを一度輸入すると、
数年間使えることから、自給エネルギーとして扱うことがある。)
「日本のエネルギー自給率はわずか4%」
これは、つぎのデータ(2007年)を見てもわかるように、
諸外国とくらべて低い水準となっています。
日本は石油や石炭などの資源がとぼしいですから、
むべなるかな、というところでしょう。
「日本のエネルギー自給率はわずか4%」
「経済と環境との両立を図るエネルギー政策の確立」では、
再生可能エネルギーによるエネルギー供給量の占める割合を、
2020年までに、10%程度にするとしています。
2008年現在で4%ですから、6ポイント上げることになります。
そして、「エネルギー安定供給体制の確立」を見ると、
2030年のエネルギー自給率の目標値は30%です。
原子力の供給量の割合が増えないとすると
(原発の新設がなければ、相対的に減ることになるが)、
再生可能エネルギーだけで、16%を供給することになります。
2020年からの10年間で6ポイント上昇ですから、
実現可能なわりあい現実的な数字ではないかと思いますよ。
(この数値目標に無理があれば、たりない供給量を
原発の新設で埋めるつもりだと、勘ぐることもできるのですが、
その可能性はごく小さいと見てよさそうです。)
民主党の政策INDEXのスタンスは、エネルギー自給率の向上は、
原則として再生可能エネルギーで行ない、
原子力発電については、きゅうになくせないという
現状を見据えて、現在稼働中のものは、
安全対策を強化する、というものだろうと思います。
積極的な原発推進でも、急進的な反原発でもない、
わりあい中庸な立場ではないかと、わたしは思いますよ。
付記:
「安全を最優先した原子力行政」の項目は、
産官の癒着の解消や、諸外国並みに独立性の高い
外部監督機関の設置などです。
4月3日エントリでお話したことに関係するものです。
2011年05月10日
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浜岡原発停止、さてその次は?
Excerpt: 菅総理が浜岡原発の停止を指示し、中部電力も受諾した。 多少唐突な感は僕もしなくもないが、浜岡原発を止めると決断したのはよいことだと思う。 浜岡も海沿いで、地盤もちょっと心許ないし。 一つ念を..
Weblog: 早乙女乱子とSPIRITのありふれた日常
Tracked: 2011-05-12 21:47
多分『鳩山イニシアチブ』というのも、原子力の割合を増やすことでCO2を削減しようとしたものかと。
CO2削減は重要ですから、原子力以外のものに頼ったほうがいいかもしれません。
既に御存知でしたらなんですが・・・
こういう話は私見を交えて書くと、色々と問題がありそうですので、事実のみを書きます(事実のみでも、話題の抽出の仕方自体が問題かもしれんけど・・・)。
===
前首相の鳩山由紀夫氏の選挙区は、室蘭市を含む北海道第9区です。
その室蘭にある日本製鋼所室蘭製作所は、2009年時点で、原子力発電用部材(原子炉圧力容器等)の製造で世界シェアの80%を占めるトップ企業でした。
http://news.goo.ne.jp/article/gooeditor/life/gooeditor-20090316-02.html
鳩山由紀夫氏は2009年9月22日の国連気候変動首脳会合において、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス削減の中期目標について、「1990年比で2020年までに25%削減を目指す」と表明しました。
===
まぁでも、2009年当時と現在とでは、状況は大きく様変わりしています。
福島の事故は、日本のみならず世界中に衝撃を与えています。
またこの事故を機に、原発や日本のエネルギー政策に関する様々な問題も改めてクローズアップされています。
CO2地球温暖化説についても、日本では報道の少なさからあまり知られてはいないようですが、2009年11月にクライメートゲート事件が発覚し、欧米では世論レベルで、その信憑性に疑問符が付いているようです。
これらを踏まえて、今一度、日本のエネルギー政策をゼロベースで考え直すことが求められていると思います。
>何か特別な利権構造によって歪んだ形になっているから
こういう人は、原子力発電が全部なくなっても、
電力供給はぜんぜん不足しないと信じているのかもしれないです。
ドイツでは、原子力発電所を7基止めたら、
電力の輸出国から輸入国になったというお話です。
http://mainichi.jp/select/world/news/20110509k0000m030065000c.html
太陽光は、日本に造られている大規模なものでも、
一般家庭数1000件程度の発電量なんですよね。
現実には、原子力をいっぺんになくせない
「壁」はある、ということなんだけど。
>『鳩山イニシアチブ』
鳩山由紀夫前首相による環境政策の方針は、
2009年9月22日の、国連気候変動首脳会合で行なった
スピーチの内容に凝縮されていると思います。
事実上の日本の国際公約とも言われているようです。
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/exdpm/20090922.S1J.html
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/unsokai/64_kiko_gh.html
この内容が、「鳩山イニシアチブ」と言うものですが、
挙げられているのは、炭酸ガスの排出規制や、
再生可能エネルギーの開発、環境税の導入などです。
このほか、開発途上国の支援や、
中国、アメリカなど、他国の協力の要請があります。
原子力のことはひとことも出て来ていないですよ。
鳩山イニシアチブは、国際的な取り組みに関することが
加わったほかは、政策INDEXの内容に沿ったもので、
ここからの逸脱は、とくにないと言えるでしょう。
>http://news.goo.ne.jp/article/gooeditor/life/gooeditor-20090316-02.html
室蘭は原子力発電の部品を造っている、というのが、
「鳩山由紀夫が原子力発電の推進派だ」という、根拠のようですね。
(なんて言うと、「そんなことは言っていない、
事実を並べただけだ」とおっしゃるのかな?)
たぶん、鳩山由紀夫が原発推進派だという
根拠にしている人もいると思うので、
そういう人のことを意識してお話すると、
日本製鉄の室蘭製作所が、鳩山前首相の環境政策に影響を及ぼした、
という直接的な証拠は、見つからなかったです。
日本製鉄を関連づけて、鳩山が原発の推進派だとする説は
憶測の域を出ないと思います。
・鳩山イニシアチブで宣言した温室効果ガス削減中期目標は、日本の電力供給の原発依存率を大幅に上げる事無しには成し得ない。
・2010年の経済産業省の「エネルギー基本計画案」では、2030年までに原発を14基(現状50数基に対し)新増設することになっており、民主党政府はこれに何ら異を唱えていない。
・2010年10月末に、日本からベトナムへの原発の輸出が決まった。
http://webronza.asahi.com/business/2010111500002.html
のですから、民主党政権が原発を推進していたことは、憶測でも何でもない、事実です。
鳩山氏と日本製鋼所室蘭製作所とを巡る状況については、それが民主党の原発推進政策に影響したか否かが、ゴシップ紙レベルで気になります、と言う事であって、これは確かに憶測の域を出るものではないですが。
それよりも今問題とすべきは、その「中期目標」と言う国際公約の達成が、ほぼ絶望的になったと言うことでしょう。
そこでこれ↓。
http://mainichi.jp/select/opinion/iitai/news/20110512ddm004070004000c.html
今後の展開に要注目だと思います。
それともう一つ。
「地球温暖化」に対する我々のあるべき姿勢について書かれた、大変良いコラムがあります。前段でクライメートゲート事件の経緯についても書かれており、必読だと思いますので、御紹介させて下さい。
http://premium.nikkeibp.co.jp/em/column/itou/69/index.shtml
「原発14基」の基本計画案は、わたしも記事を探していました。
http://www.asahi.com/eco/TKY201006180152.html
原案は2010年3月からですが、閣議決定したのは
2010年6月ですから、菅政権になってからですね。
民主党の明確な原発推進への転換は、ここからだと思います。
これは政権INDEXにはない内容で、
マニフェストからの逸脱ということになるでしょう。
例によって、官僚から叩かれて萎縮して、
(「炭酸ガス排出25%削減は、原発をこのくらい
増やさないと無理ですよ」とでも言われたんでしょ。)
官僚の案をそのまま飲んだんだろうと思いますよ。
http://twitter.com/pissenlit_10/status/25923896993652738
政権INDEXから逸脱して、原発14基増設の官僚案を飲んだ
菅直人が原発推進派だというのなら、わたしも理解できますよ。
3.11大震災以降、福島原発の対処に、菅政権がまがりなりにも、
イニシアチブを発揮したので、「原発14基」案のことも、
菅がひよったことも、うやむやになっちゃったけど。
(もっと菅の責任を、追求したほうがいいように思いますが。)
>原案は2010年3月からですが、閣議決定したのは
2010年6月ですから、菅政権になってからですね。
民主党の明確な原発推進への転換は、ここからだと思います。
「鳩山イニシアチブ(2)」にもコメントしましたが、それだとベトナムへの原発輸出も含め、急過ぎるようにも思います。
何より読売新聞が正しければ、鳩山氏本人が「25%削減は原子力政策を前提としていた」と、言ってるそうですし。
http://www.yomiuri.co.jp/eco/news/20110503-OYT1T00453.htm
>もっと菅の責任を、追求したほうがいいように思いますが。
それを言うなら、浜岡止めただけで満足してちゃイカンぞ、と、管の尻を叩くべきだと思います。
こちらにもっとはっきり書いてありますね。
http://www.hatoyamayukio.info/speech/20110504.html
========
一昨年の九月に私が国連で、日本は2020年までに
地球温暖化ガスの排出を1990年比で25%削減すると演説したとき、
原子力政策の推進を前提としていたことは事実であります。
========
これは、本人の公式サイトに載っている
全文からのものですから、まちがいはないと思います。
「後出しじゃんけん」のように、こんなことを言う感覚が
わたしには、よくわからないです。
http://blog.goo.ne.jp/humon007/e/f4c53a48d086ce4fff3787b9296e196b
鳩山氏に対しては、「アイツが就任早々、国連で大見得を切ったばっかりに、こちらは大迷惑だ。」
と言う声が大きいんでしょうね。
http://mainichi.jp/select/opinion/iitai/news/20110512ddm004070004000c.html
鳩山氏としては、「いや、原発推進は決して私の本意ではなかった。いまこそ初心に戻って・・・」と、言い張ることも出来るのでしょうが、今となっては白々しさばかりが目立ち、余計に怒りを買う事にもなりかねない。
あっさりと「原発推進を考えていた。」と認めてしまった方が楽だ、と言う判断があったのかもしれません。
これはご紹介ありがとうございます。
一覧になっていてわかりやすいですね。
そのエントリに出てくる、2010年3月12日に閣議決定した、
「地球温暖化対策基本法」は、こちらですね。
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=12257
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g16902025.htm
これは「鳩山イニシアチブ」と、2009年の政策INDEXを、
法案のかたちにして、実行に移すためのものと思います。
ここで、はじめて「原子力発電」のことが、
文書の中で現れるもののようです。
それでも、原子力発電の推進が本格化したのは、
やはり菅政権になってからのようですね。
ご紹介のエントリの一覧でも、
「菅直人が首相に就任すると、「原発推進が加速した」」、
「以後、菅政権の原子力推進行政はタガがはずれた」と
書かれています。