原子力発電のコストについて、検証しているエントリです。
原発は本当に低コストなのか?じつは高くつくのではないか?
といったことを調べています。
「「日本の電気料金は高い」を検証する」
わたしも、そこで引用されている資料を、探して読んだので、
自分の見解を述べてみることにします。
「電気料金の国際比較」
「強弁と楽観で作り上げた『原発安価神話』のウソ」
>電気料金の国際比較
ひとつ目は、電気料金の国際比較です。
目につくのは、21世紀に入ってからの、
イギリス、ドイツ、イタリアの電気料金の急騰ぶりです。
とくにイタリアは、産業用の電気料金を容赦なく値上げしています。
1990年代には、諸外国とくらべて高いと言われた、
日本の電気料金を、2000年代のあいだに追い越しています。
これは2000年以来、石油の価格が高くなり続けていることの
あおりを受けたとされています。

イタリアは1987年から、原子力発電をすべて停止しています。
そのせいか、イタリア人の節電意識は、
すさまじいことが図録では紹介されています。
こないだの国民投票でも、95%程度が原発再開に反対でしたが、
原子力発電と無縁いるためには、これくらい当然、
ということなのかもしれないです。
ドイツの電気料金が高いのは、風力などのクリーンエネルギーの
買い取り制度の影響もあるとされています。
フランスは、原子力大国ですが、そのせいで
電気料金は比較的安くなっています。
いずれにしても、「料金」というのは、
かかっているコストを、かなり正直に反映すると思います。
したがって「原子力発電は大量の電力を安定に
わりあい低価格で提供できる」というのは、
本当だと考えてよいだろうと思います。
このように言うと、アメリカや韓国は、フランスより
原発依存度が低いのに、電気料金や安いではないかと、
おっしゃるかたもいるかもしれないです。
ところが、電気料金は公共性が高いので、
たとえば税金で補助するなどして、意図的に価格を抑えるといった
政策を取ることもありえます。
したがって、国どうしの比較をするときは、注意が必要だと思います。
おなじ国の中で、エネルギー政策の変化にともなう
電気料金の変化を見るのが、無難な考察のしかたでしょう。
>『原発安価神話』のウソ
もうひとつの記事、発電コストに注目しています。
国の試算によると、1キロワットの電力を作るのに、
水力12円、石油11円、原子力5円と言われています。
この計算は、かなりごまかしている、というものです。
いちばんのトリックは揚水発電のコストを
原子力ではなく、水力に入れていることだとしています。
ご存知のように、原子力発電は需要の多い昼間に出力を合わせ、
出力調節はしないですから、夜は電力があまります。
このあまった電気を使って、水力発電所の水を、
もう一度くみ上げるのが「揚水発電」です。
この揚水のためのコストを、どこまで水力に入れるかは、
計算する人の考えが、かなり入ってくるように思います。
電力会社が自分で作った電気を使っているのですからね。
記事では、水力から揚水をごっそり除いて、
1キロワット当たり4円、という数字を紹介しています。

このほか、国の試算には、核廃棄物処理のコスト
(バックエンド)が中途半端とか、建設の費用や
補助金、交付金が含まれないと言った指摘があります。
いろいろなものを入れて行けば、「原子力発電は高くつく」と
結論できるのだろうとは思いますが、
そう結論したいために、計算方法を工夫している、
という印象を、わたしはかえって持ってしまいました。
この考えを押し進めていくと、たとえば、火力発電なら、
炭酸ガスの排出にともなう環境対策まで、
コストに入れる必要があると、主張することもできるでしょう。
石油は11円どころか、相当に高くなりそうに思います。
>「総コスト」以外のコスト
ここで問題にすることなのは、発電コストよりも、
「本来の「総コスト」」からはずれている部分、
すなわち、エントリでも「最も印象に残る」と書いている
つぎの一文ではないかと思います。
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東京電力は、1970年度からの37年間で得た
原子力事業からの利益約4兆円を一瞬にして無くした。
東電にとって原発はまったく割に合わない電源だった。
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エントリでは、さらにつぎのだめ押しをしています。
http://tamagodon.livedoor.biz/archives/51680537.html
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本当は、賠償金で10兆円の赤字事業と査定した方が
いいんじゃないですかね、大島先生
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原子力発電は、安定に稼働しているかぎり、
わりあい低価格で電力を供給するが、ひとたび大事故が起きると、
大損害を受けることになる、という、
「マーチンゲール」みたいなものではないかと、わたしは思います。
たまごどんは複数の電力会社による価格競争が必要じゃないかなと思うんだけど。そのために送電と発電の分社化が必要だってことなら、そうして欲しいピョンな。とにかく、今の総括原価方式による電気料金には、たまごどんは賛成できないピョンよ。
そもそも、いまだに最終処分法も決まっていないわけだし。コスト計算をするデータが出そろっていないとも言えるかな。
ああ、いえいえ。
とても興味深いエントリだったと思います。
>「原発による電気は安い」と「原発による電気は高くつく」
どこまでを発電コストに入れるのかとか、
発電方法に固有の事情もありますし、
このあたりに任意性が入り込むように思ったんです。
(わたしは、脱原発派にキビシイ判定をしちゃったけど、
もし不愉快に感じたら、ごめんなさいね。)
>複数の電力会社による価格競争が必要じゃないかなと思うんだけど。
>そのために送電と発電の分社化が必要だってことなら
これは若干規制緩和されていて、電力会社以外で、
発電して電力を売る事業者がすこしあるみたいです。
東京電力から他のところに契約先を変えたら、
3割ほど電気料金が安くなったところもあったりします。
http://mytown.asahi.com/areanews/tokyo/TKY201106030551.html
記事を見ると、企業やお役所向けみたいなんだけど、
もっと規制緩和して、一般家庭が加入しやすいように
してもよいだろうと、わたしも思います。
送電と発電を分離すると、こうした自由化が
やりやすくなるというのは、わたしも聞いています。
それで、東京電力に発電送電の分社化の案が
出ているのもあるのでしょう。
>数万年とかのタイムスケールには、感覚がついてゆきません。
スウェーデンやフィンランドで作ってる、
「10万年後の安全」と言われている、地下の核廃棄物保存場なんて、
コストはどのように算出しているのかなと思います。
(施設の建設費や、「初期」の維持管理費なんてのは、
簡単に計算できるでしょうけど。)
http://www.uplink.co.jp/100000/
コストに換算できないとか、コストを計算するデータが
ふじゅうぶんな要素も、任意性が入って来そうなところですね。
揚水発電のコストがどのように計算されるのか知りませんが,製造コストは原発に入れて勘定するのが合理的だと思います。原発がなければ揚水発電所を作らなかったはずだからです。
でも,原発全停止でピーク電力供給能力が心配なら,その前日の夜間,火力で揚水しておくことは可能です。一種の想定外利用ですが,年間数日で良いのでしょ?
この場合はコストを水力に含めていいでしょう。
それから,大々的な原発安全キャンペーンと原発交付金。本来の技術的な原発コストには入らないのですが,すでにお金を掛けてしまっていて,それに上乗せして電気料金を決めているわけですから,原発コストに算入すべきと思いますね。(上のコスト計算に既に入っているかどうか知らないです。すみません)
供給能力に関してですが,東電が供給能力を発表するときには現Jパワー,旧電源開発の発電供給力を算入しないのですよね。その分結構大きな余力があるわけです。
理想的な電力システムができたがコストがかかる地方への供給は打ち切ることで成り立つ、で、電気のこない村や町がシャッター街のように全国にひろまった、では悲惨です。
耐用年数を越えた原子炉の廃炉費用についても、同様に計上されてないでしょうね。フランスがサルコジ大統領と共に営業に来るくらいのビッグビジネスだとは容易に想像されますが。
それ以前に、「電源三法のような国からの資金投入分が含まれて居ない」のだとしたら、もはやこのコスト計算はインチキでしかありません。実際には電源三法交付金についても、巡り巡って電気料金に上乗せされているはずですから。
勿論、福島の事故対応費も含まれるべきでしょう。
今後何年も続くであろう事故処理費、強制避難させられた人々への補償なんかは、東電が払うにせよ、国が払うにせよ、結果的には国民にツケが回されます。
また、風評被害に苦しむ近隣自治体や、海外観光客も顧客とする日本全国の観光産業、輸出産業なんかは、既に膨大な損失を被っており、その補償のアテすらありません。
これぜ〜んぶ、本当は原発のコストだと思いますよ。
>たとえば、火力発電なら、炭酸ガスの排出にともなう環境対策まで、コストに入れる必要があると、主張することもできるでしょう。
「人為的な二酸化炭素排出量の増加が地球温暖化を促進し、地球環境を悪化させる。」なんて、実は学術的な根拠が乏しい、欧米発の国際競争上の駆け引きのアイテムに過ぎない学説だと思いますよ。事実、アメリカや中国は、「それには乗らないよ。」と言っている訳で、その事に対して国際的に非難されてはいないでしょう。
そんなもののために「炭酸ガスの排出に伴う環境対策費」を、日本政府が他国に支払うハメになったとしたら、それは必要以上に、そして自分達の国際競争上の駆け引きの能力以上に、そんな怪しげなアイテムに乗りすぎた、日本政府の失政に他ならないと思います。
結局、原発を運用する以上は廃棄物管理に関する費用、リスク、年月からは逃げられないわけです。数十年の発電に対して、数万年の管理、ってのは、どう見ても割にあわないように感じる。
お返事が遅くなって、ごめんなさいです。
>製造コストは原発に入れて勘定するのが合理的だと思います。
>原発がなければ揚水発電所を作らなかったはずだからです
原子力発電の余った電力を、揚水に使うことを
最初から前提として、発電所を建設することもあるみたいですね。
そういう目的で造られた揚水発電は、原子力のコストに入れたほうが
いいかもしれないですね。
(わたしも、揚水のことはあまり知らなくて、
水力自身であまった電力を使っているのかと、
(原発の電力をまわすのは、あとから出て来た発想で)、
なんとなく思っていたんだけど。)
>大々的な原発安全キャンペーンと原発交付金。
>本来の技術的な原発コストには入らないのですが,すでにお金を掛けてしまっていて
わたしがリンクした立命館の先生の記事は、
原発交付金も原発のコストに入れるべきだとしていますね。
(実際、入れて計算しているみたいです。)
技術的でない部分を、価格や料金に影響していたとしても、
どこまで「コスト」と見なしていいかどうか、
という問題はやはりあるんだろうと思います。
(たばこは税金がかかっているせいで高いけれど、
この税金を「たばこのコスト」とは考えないでしょうし。)
>東電が供給能力を発表するときには現Jパワー,
>旧電源開発の発電供給力を算入しないのですよね。
なんか、そうらしいですね。
だから夏場でも停電なんてないだろうと予測する人もいるけど。
(こういう電力の存在をかくして、いたずらに電力不足の
不安をあおるのは、あまり感心しない。)
>生活基本インフラはコスト論や市場原理に乗せてはいけない部分がありますね
そうなのですよね。
住民がいわゆる社会的弱者であっても、
かならず供給される必要があるものですし。
日本の電力会社が、エリアごとにほぼ独占しているのも、
生活基本インフラなので、市場原理に乗せない、
というのもあるのかもしれないです。
(日本の電力会社は、電力を安定供給することが、
法律で義務づけられている。)
この前はお見苦しいコメを羅列して申し訳ありませんでした。
改めて,火力発電の排出CO2による温暖化効果に関して,熱効率の違いを取り入れて考察しました。その結果を記事にしたのでTBさせていただきました。
原発の熱効率は低いので,同じ発電量では火力より余分の排熱量が出ます。従って既存の原発を火力で置き換えた場合,その余分の排熱量による温暖化効果と新たな排出CO2による温暖化効果との比較の問題となります。
詳細はTB記事をご覧ください。
だけど,何か大きな間違いをしでかしているかもしれませんので,その時は嗤って許して下さいませ。
やっぱりいらっしゃりましたね。
そして、コメントは予想通りです。
>高レベル放射性廃棄物の最終処分方法については
国の計算では廃棄物処分のコストは、さすがに入っていますね。
ただし、リンクした立命館の先生の記事では、
安く見積もりすぎて不備があるとしています。
(立命館の大島堅一氏の計算では、政府提案の3.5倍になる。)
http://lacrima09.web.fc2.com/figs/genpatsu-cost.html
>耐用年数を越えた原子炉の廃炉費用についても、同様に計上されてないでしょうね
これは、わたしも気づかなかったです。
廃炉の管理も、コストはかかりそうですね。
>実際には電源三法交付金についても
交付金、補助金のように、技術以外のコストを
含めるかどうかは、いろいろな意見があるかもしれないです。
大島堅一氏は、交付金もコストに入れています。
あと、事故から復旧させるためにかかる費用は、
さすがの立命館の大島先生も、「原発のコスト」には入れてないですね。
(そういうところにもコストはかかるとは言っているけど。)
>廃炉費用もか。気づきませんでした
廃炉の管理費用は、わたしも気がつかなかったです。
ある程度放射線レベルが低くなったら、
ふつうの廃墟とおなじように、放置すると思うので、
数万年というけたで管理する必要はないんでしょうけど。
なんと無責任な、と思われるかもしれませんが、そんな利益の先食いで築いてきたのが人類文明だし、むしろ持続可能な発展とか言うのの方が嘘臭いです。
このままのペースで日本の小子高齢化・人口減少が続けば3000年ごろ日本の人口が0になるそうなので、そこまで行かなくても大幅減少で持ちこたえられないでしょう。
>廃炉の管理費用は、わたしも気がつかなかったです。ある程度放射線レベルが低くなったら、ふつうの廃墟とおなじように、放置すると思うので、数万年というけたで管理する必要はないんでしょうけど。
「廃炉の管理費用」ではなくて「廃炉費用」ですよ。
原発建設以前の元の植生を復元せよ、とまでは言わなくても、プラントを全て解体・撤去して、汚染されていない更地に戻す。それが当たり前じゃないですか?
解体・撤去した、高濃度に汚染された鋼材や水、コンクリートガラ、場合によっては土壌等の最終処分費を含めて、その工事費全部を「廃炉費用」と言うんだと思います。
解体作業中の作業員の被爆、汚染物質の場外への拡散については、完璧に防がねばなりません。マンションや火力発電所の解体とは比べ物にならない、高度で特殊な技術が必要でしょう。そんな特殊技術を持った企業、世界中探しても数社あると言った程度ではないでしょうか?
今、福島に技術提供している、米国キュリオン社と仏アレバ社は、その数少ない企業の中の2つと言うことです。
彼らが慈善事業だけで技術提供していると思いますか?
50基以上の原子炉を有する日本で、きちんと汚染水処理の実績を作れば、向こう百年、我が社は日本の発注だけで食って行ける、と考えての行動に違いないと思いますよ。
>この前はお見苦しいコメを
ああ、いえいえ。
どうかお気になさらずに。
これからも、どんどんわたしのブログに
コメントをいただけたらと思います。
>詳細はTB記事をご覧ください
あらためて、ご意見をエントリにしてくださり、
ありがとうございます。
炭酸ガスのような温室効果ガスを排出するのと、直接熱を放出するのと、
どちらが地球温暖化に貢献するか、という問題ですね。
これは、わたしもよくわからないです。
もっぱら温室効果ガスが問題になるあたり、
直接の熱放出は、わずかと考えられているのかもしれないです。
政治が対象にできる「未来」は、ごく限られているようですね。
しょせん政治は「現在」のものであって、
過去のためでも未来のためでもない、ということなのでしょう。
>このままのペースで日本の小子高齢化・人口減少が続けば
>3000年ごろ日本の人口が0になるそうなので、
まあ、さすがに、そのくらい先の未来になる前に、
転機がいくつも訪れていると思うけど、ね。(苦笑)
コメントありがとうございます
>彼らが慈善事業だけで技術提供していると思いますか?
思ってませんよ。
むこう100年とか、日本だけで食って行ける
とまでは言わなくても、いまは日本に需要があると
思っているからに、ほかならないでしょう。