「アルバイシンの丘」さまのところのコメント欄で、
「永井のダイヤグラム」のお話が出て来ました。
こちらでも、これについてお話したいと思います。
このダイヤグラムは、永井陽之助という国際政治学者が考えた、
日本の対外政策に関する争点をしめしています。
日本には、「外交」と「軍事」でふたつの座標軸があるとして、
上のようなダイヤグラムを作ったのでした。
(わたしは、ダイヤグラムの出て来る、永井氏の原著
『現代と戦略』を探して、当該箇所をコピーしたのですが、
いま見つからなくなっています。
なので、『小泉政権』の172ページの図を孫引き。)
これは、1980年代に考えられたもので、おもにアメリカで、
研究者などに説明するのに使ってました。
冷戦崩壊後の現代でも、適用できるものとなっています。
座標軸がふたつというのは、スタンスが4つできるわけで、
日本の外交政策の争点は結構複雑だ、ということになります。
縦軸は外交姿勢ですが、具体的にはアメリカとの協調度です。
上側がアメリカに協調的、下側がアメリカから
距離を置く(自主外交をめざす)というものです。
横軸は軍事予算で、右側が軍事予算を多く取り、
左側が軍事予算を減らして、内政(経済や福祉など)に
力を入れよう、というスタンスを表わしています。
「1. 軍事的リアリズム」は、アメリカの軍事戦略にも
どしどし協力するスタンスで、小泉元首相らに代表されるものです。
「2. 政治的リアリズム」は、安全保障はアメリカにまかせて、
日本政府は内政(経済など)に力を入れようというものです。
これは戦後の日本の「保守本流」が取ってきました。
「3. 非武装中立」は、自前の軍備も持たず、
どこの国とも同盟しない、というスタンスです。
「4. 日本型ドゴール主義」は、外交も自主的なものをめざし、
安全保障も自前の軍隊で維持するというスタンスです。
日本では主流になったことが、あまりないので、
イメージしにくいかもしれないです。
縦軸または横軸をはさんで隣り合っているスタンス同士は、
状況いかんによって、おたがいに共闘ができます。
ななめ向かいにあるスタンス同士は、どうやっても相容れないです。
「9条を守れ」という人たちが、アメリカに積極的に協力する
コイズミ首相と相性が悪いのも、むべなるかなですね。
近年では、日本型ドゴール主義は、国連中心主義と結びつくようです。
より具体的には、自衛隊を国連軍に参加させて、
国連の指揮下に置く、というものです。
これは、主権を国連に移管すると、考えることもあります。
現在、武力行使が必要なのは、いわゆる「ならず者国家」が
紛争を起こしたとき、その対処として国連の決議のもと、
各国が協議して軍隊を差し出す場合でしょう。
こうした国際貢献を意識しているものと思います。
あるいは、アメリカと距離を置きたいが、
日本単独で軍隊を持って安全保証を行なうのは、
軍事戦略的にも国内外の世論的にも困難と
考えたのかもしれないです。
(付記:このパラグラグを加筆修正)
小沢一郎は隠れドゴール主義者だ、と言われることがあるようです。
「隠れ」というのは、「1. 軍事的リアリズム」に見せかけて
じつは「4. 日本型ドゴール主義」というタイプです。
アメリカにとって都合がいいのは、
「1. 軍事的リアリズム」「2. 政治的リアリズム」
「3. 非武装中立」「4. 日本型ドゴール主義」の順です。
それゆえ、「隠れドゴール主義」は、アメリカから見ると、
自分たちにもっとも都合がいいように見えて、
じつはいちばん都合が悪いことになるので、
かなり警戒されることになります。
兵役のある周囲の国々出身の友人たちによると「最近兵役も色々条件をつけて訓練につく男子を減らしている」し、短期化するところが多数なようなので、数で手向かわれるとたぶん日本は戦えないなぁとか。
タイで選挙が終わりましたねー。来年1月に台湾で大統領選挙があるので、対中政策が気になるところです。フネが行ったり来たりしているので、対米政策より危機的な感じが。このダイアグラムの上向き矢印の「相手」を取り換えて考えたりなんかすると、もうちょっと立体的で現実的なダイアグラムになると思います。
「付記」にあるけど、エントリをすこし書き直して
しまったけど(コメントをいただいて30分後くらい)、
ごめんなさいね。
>へえ、こんなダイアグラムがあるんだ
結構権威あるダイヤグラムみたいです。
ご覧になると「わかりやすい」とおっしゃるかたも、
いっぱいいらっしゃりますしね。
>来年1月に台湾で大統領選挙があるので、対中政策が気になるところです
うーむ、そうですね...
>上向き矢印の「相手」を取り換えて考えたりなんかすると
それはそれで、べつのダイヤグラムが作れそうですね。
さらに座標を増やして、3次元や4次元にするのは、
多くの人が考えるところです。
まあ、「相手」を変えるというのは、
いまの対米スタンスを表わす縦軸のどこかに
位置づけようと思えば、位置づけられるかもしれないです。
たとえば、親米の人は、嫌中国の人が多いですからね。