すこし前からずっと物議をかもしているのですが、
河村たかし名古屋市長が「南京事件(大虐殺)はなかった」と
発言したことが、問題になっています。
「河村・名古屋市長:「南京事件というのはなかった」と発言」
「河村名古屋市長:「社会的使命」…南京事件否定発言で説明」
「「南京事件も虐殺もなかった」 河村名古屋市長「現地で討論会」に意欲」
もちろん南京事件(南京大虐殺)はまぎれもない史実です。
「大虐殺なかった」なんて、大それたねつ造を、
まじめに信じている人が、「ふつうの政治家」として
やっていけるところに、日本のリテラシーの弱さがあると思います。
かかるねつ造された歴史を信じている人は
はなはだ残念ながら日本には多いです。
なので、ふだんのそうした考えを表明したというだけでしたら、
まことに遺憾ですが、珍しくないと言えます。
じつは、河村氏は、南京から来たお客さんたちの前で
面と向かって「なかった」と言ってしまったのであり、
それが今回の発言の特筆するところだと思います。
南京市と名古屋市は姉妹都市で、その表敬訪問だったので、
河村氏は、友好親善の機会を思いっきり
踏みにじっているとしか言いようがないです。
河村氏はご多分にもれず、自分の認識を確信していて、
「みんなはまちがって理解しているけど、
自分は本当のことを知っているんだ」と考えているようです。
南京から来たかたたちの眼の前で「なかった」と言ったのも
「姉妹都市だから『真実』を言わなくてはいけない」と、
強い「使命感」にもとづいていたりします。
河村氏が「南京事件なかった」と確信する根拠のひとつに
「目撃者がいないのが決定的だ」ということがあります。
実際にはそんなことはなく、目撃者はたくさんいます。
つぎのように目撃者によって本も書かれていて、
日本語にも訳されて、ふつうに手に入るものです。
「資料 ドイツ外交官の見た南京事件」
河村氏は「いっぺん討論会を開きたい」と言っていて、
議論ならいくらでも応じる、という姿勢です。
ところが、中国・南京側が、ぜんぜん議論に応じないので、
「議論さえダメというのはおかしい」と、
関係者も理不尽に思っているようです。
中国・南京側が議論さえもしたがらないのは、
「南京事件なかった」などというのがまちがいなのは、
いまさら議論するまでもなく、わかりきったことだからなのは、
言うまでもないでしょう。
選択別姓の反対派と議論するのとおなじようなものです。
過去にやりつくされた議論の蒸し返しで
生産性がないばかりか、議論の展開によっては、
無駄に傷つけられるリスクがある、ということでしょう。
そういうしだいなので、南京市は、名古屋市との交流を
一時停止すると言ってきました。
歴史のねつ造なんて、ヨーロッパでは犯罪と
されるところもあります。
政治家が歴史のねつ造を表明すれば、
それこそ政治生命にかかわる大変なことになります。
南京市がこうした措置に出るのは、無理もないことだと思います。
「南京事件否定発言 中国・南京、名古屋と交流停止 「市民感情傷つけた」」
「南京事件発言 「交流中止残念」と市議ら」
南京の一般市民のかたたちは、深い失望感に包まれています。
さぞかし怒り心頭で非難囂々になっているかと
思ったのですが、どうやら怒りも通り越して
深く傷つけられたようです。(心中お察し申し上げます。)
「河村市長:南京事件発言 現地市民は深い失望感」
かかる河村氏の「南京事件なかった」発言によって、
数々の交流イベントが影響を受けています。
柔道交流や書道のイベントが中止になったほか、
SKE48が参加する予定になっていた「日本週間」も
延期になったのでした。
「南京での柔道交流中止に 河村市長の虐殺否定発言が影響」
「南京の書道家イベント中止 名古屋、河村市長発言受け」
「交流イベント「日本週間」延期=名古屋市長発言への批判受けー中国・南京」
河村氏は自分の考えにゆるぎない自信があるようで、
中国・南京側のこうした動きを見ても、
「なかった」発言を撤回するつもりはないと、表明しました。
これは中国政府も悪質と見たようで、中国外務省は、
日本政府に「抗議の意を伝え」てもいます。
かくして自治体レベルの問題が、政府間レベルの
外交問題に発展してきたことになります。
日本政府はどうしているのかというと、
野田首相も、玄葉外相も、この一件は南京市と名古屋市とのあいだで
解決されることとして、国は関与しないことを表明しています。
すでに政府間の外交問題になっていると思いますし、
本来なら、日本政府は率先して河村氏を批判して、
事態の収拾をはかっていいくらいです。
「中国の抗日記念館に抗議せず 首相、名古屋市長の南京事件発言を静観」
「南京問題、自治体間に解決委ねる 玄葉外相」
野田首相は、以前、ソウルの慰安婦平和の碑を
撤去させようとしたことから考えて、歴史修正主義者寄りの
スタンスなのかもしれないです。
今度のことも、内心では河村氏に味方していることが考えられます。
それを表明すると、中国側から猛抗議を受けて、
ますますこじれるから、そうならないようだまっている、
ということなのかもしれないです。
中国の国際先駆導報という新聞が、河村たかし氏の
「南京事件なかった」発言を取り上げたそうなのですが、
「日本には同様の歴史観を持っている人が
普遍的に存在する」と書いていたりします。
河村個人のみならず、とうとう日本社会全体にまで
批判が及ぶようになってしまいました。
「「日本で普遍的な史観」 中国紙、虐殺否定発言で」
無理もないことだと思います。
「南京事件なかった」発言がこれだけ問題になっているのに、
名古屋市内でも日本国内でも、河村たかし氏を批判する論調が
ぜんぜん上がってこないのですから。
(日本のマスコミも事実関係を書くだけで、
河村氏を批判する記事は書いていないようです。)
多くの名古屋市民、ないし日本人にとっては、
関心がうすいだけなのかもしれないです。
とはいえ、かかる無関心は、歴史のねつ造を
それだけ軽視しているとも言えるでしょう。
「河村発言の土壌がある」と言われても、
文句が言えないと、わたしは思います。
付記:
南京事件(南京大虐殺)のあらましは、
『南京事件』(岩波新書、笠原十九司著)などに書かれています。
2012年03月07日
この記事へのトラックバック
【政治】 「南京事件」自由な議論を 討論会で河村名古屋市長
Excerpt: 1 :九段の社で待っててねφ ★:2012/05/19(土) 19:35:13.06 ID:???0名古屋市の河村たかし市長は19日、市内で開かれた「自由な議論で『南京』の真実を究明しよう」と題した公..
Weblog: 【豆β】ニュース速報+
Tracked: 2012-05-20 00:05
その上「中京都構想」などと、「大阪都構想」が流行りだした後から言ってみたら、案の定、橋下に「良く分からない。」などと、二匹目のどじょう扱いされてしまった。
焦りまくった河村氏が、「ネトウヨさん!僕の方も見て!!」とばかりに、一発逆転を狙っての「南京無かった。」発言だったものと推定しております。
それにしても言うことがマズ過ぎるでしょう、これは。
さすがにテレビ芸人橋下は、その辺りの見極めが出来ている。「歴史認識に主観のみで言及すべきではない。」みたいな冷静コメントを出して、余裕しゃくしゃくと言った感じですな。
河村さん、どう考えても全面撤回&謝罪するしか無いでしょう。先方は絶対に怒りを納めないよ。国民が納得せず、ヘタすりゃ暴動になるからね。
野田首相も、玄葉外相も「早く謝っちまえよ。」って思っているんじゃないでしょうか。既に水面下では、そんな意向を伝えているかもしれません。
田母神発言は,「あれは侵略戦争ではなかった」というものですが,考えようによっては今回の河村発言の方が具体的事実の否定であって,よりひどいかもしれない。
当時私は記事を書いたのですが,それは保守政権といえども『軍人』の独走を畏怖するという一種の健全性を見て歓迎したものです。
しかし,今回のこの政権は,何ともはや,言うべき言葉が見つかりませんね。更迭はできないけど批判ぐらいせろよってこと。
このエントリにコメント、ありがとうございます。
>案の定、橋下に「良く分からない。」などと、
橋下は河村を遠ざけている感じですね。
どのあたりが気に入らないのかは、わからないのだけれど。
>冷静コメントを出して、余裕しゃくしゃくと言った感じ
橋下は歴史認識の話題は、わりあいまともな対応をしますね。
内心ではどう思っているのかわからないですが、
「不用意に口に出したら大変なことになる」
ということは、すくなくとも理解しているのでしょう。
>どう考えても全面撤回&謝罪するしか
わたしも、それが唯一の選択肢だと思います。
でも河村氏は、自分の認識こそ真実と確信していて、
それを南京の人たちに伝えることが、
自分の「使命」だと思っていますからね。
「唯一の選択肢」を取ろうとしないのではないかと思います。
>野田首相も、玄葉外相も「早く謝っちまえよ。」って
もっと国のほうに火の粉が飛んで来たら、
そのように考えるかもしれないです。
いまのところは、シカトしていればなんとかなりそうなので、
「知らぬ存ぜぬ、国は関係ない」でしょう。
このエントリにコメント、ありがとうございます。
>それは保守政権といえども『軍人』の独走を畏怖するという一種の健全性を
なるほど。
麻生政権としては、田母神を更迭したのは、面倒なことに
なってほしくないという、保身だったのかもしれないけれど、
それでも、問題のある思想を持つ「軍人」を
更迭したことに違いはなく、健全性が働いたとは言えますね。
当時の多くの人たちは、田母神叩きに興じていたと思うけど、
そんな中にあって、そうしたことを考えるというのは、
よい意味で着眼点の違いを感じて、感心します。
(それとこのエントリで、田母神更迭のお話を引き合いに出すのも、
よい意味での着眼点の違いを感じます。)
>今回のこの政権は,何ともはや,言うべき言葉が見つかりませんね
国に火の粉が飛んでこないからだと思うけれど、
「知らぬ存ぜぬ、国は関係ない」を決め込んでいますね。
野田も内心では歴史修正主義寄りだから、
表立っての批判をしたくないんじゃないかと、想像します。
このエントリにコメント、ありがとうございます。
>これは以前からの河村氏の持論
今度のことは、いつかは起こりえたことなのでしょうね。
(いままで起きてなかったのが、むしろ不思議だったのかも。)
>言えば必ず物議を醸すと分っている席でわざわざ発言するあたりのセンス
河村本人は、自分の認識こそ「真実」だと確信していて、
それを南京の人たちに伝えることに「使命」を感じている、
ということだと思いますよ。
だからこそ、面と向かって言ったのでしょう。
(まっとうな歴史を知っている人たちにとっては、
理解しがたいことではあるでしょうけれど。)