先月のことなので恐縮ですが、「日本では女性の賃金は
男性の7割に満たない」という事実が記事になっています。
この問題にくわしいかたには、よくご存知の数字でしょう。
そうではなく、具体的な数字は聞いたことがなかった、
というかたにとっては、女のほうがすくない給料で
働かされているのだろうとは直感していても、
衝撃は大きいのではないかと思います。
(ブックマークを入れたら、リツイートをたくさんいただきました。)
「<はたらく>男女同待遇へ法の充実を ILO、日本に勧告」
「どうして? “女性の年収、男性の7割以下”」
「男女間賃金格差問題の基本のき」
「賃金格差問題エントリへの補遺」
「日本における「同一価値労働同一賃金」問題」
東京新聞には、1986年の男女雇用均等法前夜からの
男女の賃金格差の推移をしめしたグラフが載せられています。
これを見ると、均等法の施行以来すこしずつ改善は
なされていますが、2010年になっても69.3%と、
いまだ7割に達していないことがわかります。
(2005年の急激な落ち込みはなんなのでしょう?)
欧米の国ぐにでも、男女の賃金格差はあるのですが、
女性は男性の8割前後となっています。
したがって日本の「7割以下」というのは、
格差がとくに大きいほう、ということになります。
男性のほうが女性よりお仕事ができるという、
はっきりした根拠はどこにもないです。
(余談だけど、入社試験の成績は女子のほうがよいそうだ。)
したがってここには、「女だから」という理由で、
不当に低賃金で働かされている事実があるわけです。
>女性管理職がすくない
日本の男女の賃金格差のいちばんの原因は、
女性管理職がすくないことと考えられています。
もちろん、職階が高いほうが給料は高いですから、
低い職階にとどまっている女性が多いことは、
それだけ賃金がすくないことになります。
たとえば、厚生労働省が配布しているパンフレット
「男女間の賃金格差解消のためのガイドライン」の
5ページ図3に、女性管理職の割合の国際比較があります。
欧米の民主主義国は3-4割程度ですが、
日本は10.2%であり、格段にすくないことがわかります。
2011年の「男女平等指数」を見ても、
「Legislators, senior officials, and managers
(意志決定、管理職、経営)」の日本のスコアは0.10です。
順位は112位ですから、やはり世界的に見ても
日本は女性管理職のすくない国であることになります。
>勤続年数が短い
ついで勤続年数が短いことが原因とされています。
これは、女性はまだまだ結婚や出産を機に
お仕事をやめることを余儀なくされることが多い、
ということをしめしているでしょう。
ひどくなると「育休切り」なんてこともありますし、
これは実感のあるかたも、多いだろうと思います。
このあたりの事情をよく表わしているのが、
女性の年齢別の労働力率をグラフにしたときに
結婚・出産適齢期のところで現れる「くぼみ」です。
「M字カーブ」と呼ばれているもので、
結婚や出産とともに退職する女性が多いと、
このようなくぼみが生じることになります。
2000年なので、すこし古いデータですが、
「社会実情データ図録」に、女性の年齢別労働力率を
世界各国で比べたグラフがあります。
欧米の民主主義国ではM字カーブを描くことがなく、
M字カーブは日本と韓国に特有であることがわかります。
>「同一価値労働同一賃金」が守られない
ほかに「総合職、一般職」というコース別人事や、
「正規、非正規」の区別といった、雇用管理区分があり、
このためおなじ内容のお仕事をしているにもかかわらず
賃金を変えられるという問題があります。
「同一価値労働同一賃金」の原則が守られていないわけです。
これは訴訟にもなっていて、東京新聞の記事や、
こちらの記事にいくつか事例が紹介されています。
数値をあげたデータもしめされていて、
これを見るとあきらかに同一労働にもかかわらず、
女性のほうが低賃金であることが、わかると思います。
「同一価値労働同一賃金」の原則は、国際労働機関(ILO)の
「100号条約」で規定されています。
この条約は1967年に日本も批准しています。
ILOは2011年11月に、日本政府に対し法律の規定が
ふじゅうぶんだという勧告を出しています。
(日本には「同一価値労働同一賃金」を
はっきり定めた法律がそもそもない。)
男女の賃金格差はジェンダー問題でもありますから、
女子差別撤廃委員(CEDAW)からの勧告もあります。
雇用管理区分があることが、女性差別の抜け穴に
なっていることが、2009年の総括所見でも指摘されています。
(抜け穴にするための雇用管理区分だったのですが。)
>高度経済成長期の産物
日本の男女の賃金格差などの雇用体系は、
男性が定年まで「終身雇用」で勤めるという、
高度経済成長期の生活スタイルを前提として、
作られたものだったのでした。
そのころの女性は、結婚したら退職して専業主婦になるのが
とうぜんでしたから、自分の給料より
結婚後の夫の給料が高くてもかえって得でした。
それで男女の賃金格差に抗議する声もなかったのでしょう。
現在では「男が外で働いて、女は家庭に入って、
子どもを産み育てる」という生活スタイルの維持が
むずかしいものとなっています。
つまり男女の賃金格差の「前提」が崩れているわけです。
日本の男女間の賃金格差は、すでに時代に
合わなくなっているにもかかわらず、前時代の産物を、
いまだにひきずっているものだと言えるでしょう。
関連資料:
「男女間の賃金格差解消のためのガイドライン(2010年8月)」
「「平成16年版 働く女性の実情」のあらまし」
そして、同時に再就職を邪魔しているのは待機児童問題です。奥さんが職場を追われて、仕事のない状態では保育園に入れるのは実質不可能です。だから再就職が6・7年後になって「アルバイト・パート」カテゴリにしかないわけです。
最近ではこういう状況がはっきりと目に見えてきて、鬱を発症するお母さんが多いらしいです。言われてみれば、近所の駅前タイプの精神科クリニックにも、心なしか子連れが増えたように思います。実際役所の職員からもそのように聞いています…他のお母さんからの「子どもを産むんじゃなかった」という言葉を聞く度に辛いです。
>同時に再就職を邪魔しているのは待機児童問題です
保育所がじゅうぶん整備されていないことが、
女性が子どもを育てながらお仕事を続けることを
むずかしくしている、という現状ですね。
かくしてM字カーブのくぼみという、日本と韓国に特有の
現象が生じることになるわけだけど。
>「子どもを産むんじゃなかった」という言葉を
日本社会は子どもを産み育てにくい状況である、
ということを、あらためて実感させられますね。
少子化が進むのも、無理もないことだと思います。
わたしのお返事が遅くなってもうしわけないです。
>日本の母親たちは世の中からあまりにも遠くに追い出されているように
いろんな意味で隔離されていると言えそうですね。
母親と子どもとのふたりっきりの子育てという、
物理的な隔離とか、子育てのためにいったん離職すると、
もう一度職に就くことがむずかしくなる、
という社会的な隔離とか...