2012年04月08日

toujyouka016.jpg 湾岸戦争のトラウマ

9.11同時テロ後の対アフガニスタン攻撃や、
2003年のイラク戦争の際、日本の自衛隊を現地に派遣して、
「国際貢献」をすることに、やたらこだわった人たちがいたのは、
わざわざ言うまでもないだろうと思います。

こうした人たちの中に、「湾岸戦争のことを忘れるな」という
主旨のことを理由にする人たちがいたのも、
覚えていらっしゃるかたがいるかもしれないです。

 
湾岸戦争(1991年)では、日本は自衛隊の派遣は行なわず、
(停戦後に掃海艇の派遣は行なった。)
約130億ドルの資金援助を行なうにとどめたのでした。
それゆえ「カネは出したけど人は出さない」と、
国際社会から辛い評価を受けることになったのでした。

ある種の人たちは、湾岸戦争の際に受けた
この辛い評価が「トラウマ」になってしまったのでした。
「湾岸戦争のことを忘れるな」というのは、
このトラウマになった体験を忘れるな、ということなわけです。

(国際社会がどのように酷評しようと、いかなる理由でも
軍隊を外国に派遣しないと決めているのでそれは守る、
という堅い意思は、持ち合わせていなかったようです。)


お話がさらにもどるのですが、55年体制下の日本は、
国内の経済発展と、利益の配分に関心を集中させていました。
そのため、外交や安全保障については、
アメリカ合衆国に任せきりになりがちでした。
当時の為政者たちは、外交というとアメリカ中心に考え、
アメリカの要求に受け身に反応するという
思考・行動パターンが定着していました。

アフガニスタンやイラクへの自衛隊派遣に、
やたらこだわった人たちのメンタリティというのは、
この「湾岸戦争のトラウマ」からくる
「人的貢献をしなければ」という強迫観念と、
55年体制以来の、外交・安全保障に関してアメリカに対する
受動的な対応との組み合わせだったのでした。

彼らの「国際貢献」に対する脅迫観念は、
アーミテージ国務副長官の"show the flag"発言を、
「現地で日の丸の旗を立てろ(=自衛隊を派遣しろ)」と
解釈したことに、よく現れていると思います。
("show tha flag"は「旗幟を鮮明にしろ」、
すなわち「態度をはっきりさせろ」という意味ですね。)

(このあたりは、『小泉政権』という本の、
116-118ページと131-134ページにくわしい。)


>橋下徹氏の「湾岸戦争のトラウマ」

ところで、橋下徹大阪市長も、かかる「湾岸戦争のトラウマ」を
かかえていらっしゃるのでした。
「湾岸戦争のときに金だけ出して世界から
ばかにされたときの屈辱を思い出す。
こんな情けない日本は子孫に残したくない」
などと言っていたりします。

「がれき慎重派に「情けない」 屈辱の日本に失望感」

橋下氏は、自衛隊の派遣は、嫌なことや危険なことでも
他人を助けることだと考えているのでしょう。
この「国際貢献」の足かせとなるからだというので、
憲法9条は「他人を助ける際に嫌なこと、危険なことは
やらないという価値観」とまで言っていたりします。

「橋下市長:改憲で国民投票 維新の会公約に」

橋下氏は「国民が(今の)9条を選ぶなら
僕は別のところに住もうと思う」とも言っています。
「湾岸戦争のトラウマ」がよほど強いのでしょうが、
この憲法9条の解釈は、かなりうがっていると言えます。


橋下氏は、このようなうがった憲法9条の解釈をもとに、
「震災がれきを受け入れないのは憲法9条が原因」
とも言っているから、おどろきです。

https://twitter.com/t_ishin/status/172897650386010112
========
世界では自らの命を落としてでも
難題に立ち向かわなければならない事態が多数ある。
しかし、日本では、震災直後にあれだけ「頑張ろう日本」
「頑張ろう東北」「絆」と叫ばれていたのに、
がれき処理になったら一斉に拒絶。
全ては憲法9条が原因だと思っています。
========

わたしはいちばん最初に、この震災がれきについての
ツイートを見たので、憲法9条とどう関係があるのか
まったくわからず、とても悩みましたよ。
産経新聞の記事を見て、「湾岸戦争のトラウマ」が
橋下氏にあることがわかり、ようやく思考過程の
全貌が見えてきたと思いました。

言うまでもないですが、震災がれきを拒否する、
というのは、科学リテラシーの欠如からくる、
放射性物質に対する過剰反応ですね。
自衛隊の派遣も憲法9条も、この際関係ないことです。

posted by たんぽぽ at 22:46 | Comment(2) | TrackBack(0) | 政治・社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
たんぽぽ様

>言うまでもないですが、震災がれきを拒否するというのは、科学リテラシーの欠如からくる、
>放射性物質に対する過剰反応ですね。自衛隊の派遣も憲法9条も、この際関係ないことです。

ほんと、まさに「言うまでもないこと」でしょう。
にもかかわらず橋下は、何の関係も無い自衛隊派遣や憲法9条に言及し、「国民が(今の)9条を選ぶなら僕は別のところに住もうと思う」とまで言ってのける。何故でしょう?

「自分は、いざとなると個人の主張しかしないわがままな国民に、きちんと言うべきことを言える強いリーダーである。」と言うイメージと、「私は日本を、自前の憲法と自前の軍隊を持った、自立した国家として建て直したいと考えている。」と言うイメージを併せて配信することで、世間一般に比べ右寄りなネット市民達の支持を取り付けたい、と思っての発言である。
そう考えることでしか、このトンチンカン発言の意図することは理解できないと思います。
発言内容に勢いがあり、初見でイメージだけは強く伝わるが、良く見れば見るほど中身が分からない辺りが、いかにも「日々、膨大な情報の瞬間的な処理に追われているネット市民向けのイメージ戦略。」って感じがします。

その時々の流行りネタに乗っかって自身のイメージアップが出来れば、ネタの具体的な内容や、それに対する自身の発言内容の根拠など、彼にとってはどうでも良いことなのでしょう。
「貴方が、全国自治体ががれき処理を一斉に拒絶する全ての原因が憲法9条にあると考えるその理由を、詳しく説明して下さい。」と、今、改めて橋下に聞いてみたいです。まともに回答出来るはずが無い、と断言しても良いですよ。
このエントリのように、過去の自分の発言内容を後から逐一確認されるような行為が、たぶん橋下は一番嫌いなんじゃないかな(笑)?

ちなみに私は、この橋下発言を知る以前に、誰だったかが同じような発言をしたと言う情報を目にしていたように思います。石原だったかなぁ。
「自身のイメージアップ戦略に使う発言すら、他者のを無断借用かよ」と、あきれ返った記憶があります。
勘違いかもしれないけどね。
Posted by ニャオ樹・ワタナベ at 2012年04月09日 12:44
ニャオ樹・ワタナベさま、
このエントリにコメントありがとうございます。

>何故でしょう?

湾岸戦争のトラウマがそれだけ強い、ということだと思いますよ。

自衛隊を派遣して、「国際貢献」をしたい。
嫌なこと危険なことでも、人助けをするのが大事だ。

憲法9条が、自衛隊の派遣に対して、足かせになっている。

憲法9条は、嫌なこと危険なことでも人助けをするのにじゃまである。

ということは、憲法9条は、人助けであっても、
嫌なこと危険なことはやらない、というカチカンに相違ない

震災がれきの処理も、「嫌なこと危険なこと」だから
拒否する人たちがいるのは憲法9条のせい

ということじゃないかな。
(最後のやじるしなんて、すごい飛躍だと思うけど。)

「湾岸戦争のトラウマ」を抱えた人はそれなりにいるようだけど、
橋下くらい憲法9条を目のカタキにしている人は、
さすがにめずらしいのではないかと思います。


>過去の自分の発言内容を後から逐一確認されるような行為が、
>たぶん橋下は一番嫌いなんじゃないかな(笑)?

場当たり的な発言とか、その場しのぎの発言とか
結構ありそうですからね。
蒸し返されて嫌なこともいっぱいあるかもしれないですね。
Posted by たんぽぽ at 2012年04月11日 23:25
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