2012年06月23日

toujyouka016.jpg 性犯罪の範囲の広さ

スウェーデンでは性犯罪の発生率が高い、というのを
聞いたことがあるかたは、いらっしゃると思います。
これはまちがいではなく、統計でもしめされることです。

ところが、この事実を指して、「男女平等が進むと
性犯罪が増えるので、男女平等は女性にとって害悪だ」のような
おかしな主旨の主張をする人たちがときどき見られます。

 
https://twitter.com/tsao2/status/211312898805473281
あるサイトで「男女平等が進んでいるとされる
スウェーデンでは性犯罪発生率が高い。
男女平等や女性の社会進出が進むと性犯罪が増える。
だから、フェミニズムは男にも女にも敵だ!!」という
言葉を読んだ時はバカすぎて笑った。
それ、増えたんじゃない。
二次被害を恐れず告発できるようになったのよ。

スウェーデンで性犯罪の発生率が高いのは、
性犯罪として認められる事例の範疇が広いからです。
たとえば、日本では犯罪とみなされない夫婦間のレイプも
スウェーデンでは犯罪として規定されています。

つまり男女平等が進んでいるがゆえに、
性犯罪として規定されている事例が幅広く、
その結果、性犯罪率が高くなって現れる、ということです。
性犯罪の件数自体が多いということではないのでした。


日本は性犯罪として認められる範囲が狭いので、
それが性犯罪の発生率を低くすることになります。
それは、それだけ女性の権利が認められていないことの
現れということになります。

日本の性犯罪の規定の範囲の狭さについては、
2009年の女子差別撤廃委員(CEDAW)からも、
つぎのように範囲を広げるよう、勧告を受けています。
(日本語はわたしのつたない訳)

http://www2.ohchr.org/english/bodies/cedaw/docs/co/CEDAW.C.JPN.CO.6.pdf
33. The Committee is concerned that, under the Penal Code,
the crime of sexual violence is prosecuted only upon complaint
by the victim and is still considered to be a crime against morality.
The Committee further remains concerned that the penalty
for rape remains low and that incest
and marital rape are not defined explicitly as crimes under the Penal Code.

34. The Committee urges the State party to eliminate in its Penal Code
the requirement of the victim’s complaint in order to prosecute crimes
of sexual violence and to define sexual crimes as crimes involving
violations of women’s rights to bodily security and integrity,
to increase the penalty for rape and to include incest as a specific crime.

33. 女子差別撤廃委員会は、現在の刑法の規定では
被害者からの訴えがないと性暴力が告訴できないこと、
ならびに性暴力が道義的な犯罪とされていることを懸念する。
さらに女性差別撤廃委員会は、レイプに対する刑罰が軽いこと、
また、親族間や夫婦間のレイプが刑法において
依然として犯罪と明記されていないことを懸念する。

34. 女子差別撤廃委員会は、貴締結国に対して、
性犯罪の起訴の際、被害者の訴えをかならずしも
必要としないよう刑法を改めることを求める。
さらに性犯罪を、肉体的および精神的な、
女性の権利に対する侵害であると刑法で規定し、
またレイプの刑罰を重くすること、親族間のレイプをはっきりと
犯罪として刑法で規定することを求める。


今年のはじめですが、アメリカ合衆国のFBIで
「レイプ」の定義が拡大されることになったのでした。
いくつかの州では、すでに拡大された定義が
使われていたのですが、連邦レベルでも
定義が拡大されることになったということです。

「アメリカ:FBI「レイプ」定義を拡大」

性犯罪とみなされる範囲が広くなるのは
もちろん結構なことですが、アメリカの連邦レベルが
今年になってというのは、いささか意外ではあります。
(もっと前から、広い定義だったのかと思った。)


この記事を見ると、合衆国の法務省官僚が
「この変更により、性暴力の実態がより正確に把握され、
被害者にもたらす影響がよりよく理解されることになるだろう」
とお話したことが書かれています。

性犯罪の範囲が狭いと、性暴力と認知されない
事例が多くなり、それだけ多くの性暴力が把握されずに
取りこぼされることになります。
したがって、性犯罪の範囲をじゅうぶん広く定めることは、
性暴力の実態を把握するためにも大事になります。

これは性犯罪の範囲が狭い日本は、性暴力の実態が
じゅうぶんに把握できていない、ということでもあるでしょう。


付記:
「アジア女性センター」の記事の最後のほうにある、
「同様に狭い「強かん」定義の拡大を国連から
勧告されている日本でも」というのは、
このエントリのまんなかで紹介した、CEDAWの勧告と思います。

posted by たんぽぽ at 16:53 | Comment(8) | TrackBack(0) | 家族・ジェンダー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

はてなブックマーク - 性犯罪の範囲の広さ web拍手
この記事へのコメント
このテーマを読んで、ウィキペディアでうろうろしてみました。

基礎知識が全くないため、
CEDAW勧告で含まれていて、「(準)強かん罪」や「(準)強制わいせつ罪」などから漏れてしまう性犯罪・性暴力の範囲が判りませんでした。
(男性に対する性暴力は、強かん罪の定義から暴行罪になる様です。)

「国際的な流れ」を受け入れるとすると、
従来の刑法の規定を見直して、
「性犯罪」「性暴力」等の概念で作り直した方が判りやすいのかもしれません。

当然、同性間の性犯罪も含める必要があるのでしょう。


もしかして、たんぽぽさまの中心点は
・強かん罪での親告規定の削除
・(元)配偶者、他の親族からの性暴力の明文化
・強かん罪の刑罰の厳格化
あたりにありましたか?





Posted by ごりら at 2012年06月23日 21:03
性犯罪の範囲が増加している以上に、女性が告発する事を躊躇しなくなった事が、性犯罪の発生率が高くなっている事の要因ではないですか?
Posted by D at 2012年06月23日 22:48
ごりらさま、
このエントリにコメント、ありがとうございます。

コメントを拝読したのですが、
ごりらさまの疑問の主旨がよくわからなかったです。


>もしかして、たんぽぽさまの中心点は

日本の性犯罪の発生率が低いのは、性犯罪の定義が狭いからで、
定義が狭いことはCEDAWからも勧告されている、というお話です。

CEDAWの勧告の内容は、

1. 性暴力の起訴には、被害者の訴えを
かならずしも必要としないようにすること
2. 性暴力を道義的な犯罪とせず、
女性の権利の侵害であると、刑法で規定すること
3. 性犯罪の刑罰を重くすること
4. 親族間、夫婦間の性暴力を犯罪として規定すること

の4つになると思います。

日本の法律はこの4つがふじゅうぶんなので、
本来性犯罪とされるべきものが、性犯罪とならず、
発生率が低くなっている、ということになるでしょう。
Posted by たんぽぽ at 2012年06月25日 22:16
Dさま、このエントリにコメントありがとうございます。

スウェーデンなどで性犯罪の発生率が高いのは、
「被害者が声をあげやすい」ということも、むろんあるでしょうね。
わたしがリンクしたツイートで、触れていますね。
https://twitter.com/tsao2/status/211312898805473281

日本は性犯罪の被害にあっても、泣き寝入りする人が多いので、
これが発生率を低くしているのはあると思います。

「性犯罪被害、7割相談せず=「恥ずかしい」「思い出したくない」ー白書」
http://jp.wsj.com/Japan/node_458988


このエントリでは、性犯罪の定義の広さを話題にしたので、
「被害者が声をあげやすい」ということは、
あえて触れなかったのでした。
Posted by たんぽぽ at 2012年06月25日 22:19
たんぽぽさま

判りづらい表現をして申しわけありません。


現行刑法に対して、「性犯罪=(準)強かん罪」と考えると、性犯罪の範囲は狭いです。

これに対して、
「性犯罪=(準)強かん罪+(準)強制わいせつ罪+わいせつ目的略奪誘拐罪など」と考えると、
性犯罪の範囲はとても広いです。

たんぽぽさまが引用された
アジア女性資料センターの記事で書かれていたアメリカの4つの拡大例示
http://ajwrc.org/jp/modules/bulletin/index.php?page=article&storyid=693
は、
現行刑法でも、(準)強かん罪か(準)強制わいせつ罪のいずれかに含まれるでしょう。
(親告規定の問題はあります)
(4つの事例は投稿禁止用語があるみたいです。書くとエラーが出ました)


私は
「現行刑法において性犯罪の範囲は広い」と考えます。


>2. 性暴力を道義的な犯罪とせず、
>女性の権利の侵害であると、刑法で規定すること
というCEDAW勧告は、
「性犯罪=(準)強かん罪+(準)強制わいせつ罪+わいせつ目的略奪誘拐罪など」という前提で、
「性暴行罪」などの、相手の性的自由を侵害することが明確な統一的概念で定義し直せということですか。

より直接的には、
(準)強制わいせつ罪の「わいせつ」と言う表現は
「道義的な犯罪」という認識に基づいた表現であり、
「他人の性的自由を侵害する犯罪」という認識に基づく表現にせよ
ということですか。

そうだとすれば、その方がスッキリするでしょう。


CEDAW勧告のうち
1.親告規定の廃止
3.罰則強化
4.加害者に配偶者・親族を含むことの明記
に対しては
たんぽぽさまと理解のズレがないと思われます。


このコメントを書くにあたって、以下のサイトを参考にしました。
http://www.geocities.jp/masakari5910/seihanzai.html
法律家の方ではないようですが、自己責任で参考にしました。

よろしくお願いします。
Posted by ごりら at 2012年06月26日 19:37
ごりらさま、コメントありがとうございます

CEDAWの勧告は、「犯罪のタイプがどうなっているか」、
つまり「道義的なもの」ではなく、「女性の権利の侵害」と
位置づけよ、という意味だと思います。
(「犯罪とされるか」どうか、ではないと思います。
日本でも犯罪とされることは、了解ずみだと思います。)

ご紹介のリンク記事を見たけれど、
http://www.geocities.jp/masakari5910/seihanzai.html
これは「これらの行為が性犯罪とされる」というだけであって、
性犯罪の位置づけが「女性の権利の侵害」と
されているかどうかまでは、わからないと思います。
たぶん、CEDAWの勧告通り、これらの性犯罪は
「道義的なもの」とされているのだと思います。
Posted by たんぽぽ at 2012年06月28日 22:52
たんぽぽさま

ありがとうございます。


だとすると、当初の以下の記述は
わかりづらくありませんか。

>日本は性犯罪として認められる範囲が狭いので、
>それが性犯罪の発生率を低くすることになります。

>日本の性犯罪の規定の範囲の狭さについては、
>2009年の女子差別撤廃委員(CEDAW)からも、
>つぎのように範囲を広げるよう、勧告を受けています。


道義的であれ、女性の権利侵害であれ、「刑法犯(性犯罪)」であることは事実とすれば、
「性犯罪の範囲が狭い」と言うのは、少なくとも私には判りづらいです。


性犯罪が道義的犯罪として捉えられてきた歴史があるため、
性犯罪は「微罪」と捉えられる傾向が残っている。
また、集団強かん罪以外は親告罪であるため、
二次被害が出る危険性が高い。
これらを理由として、
現行刑法では性犯罪の範囲が広いにも関わらず、犯罪件数は少なく、
「泣き寝入り」が非常に多くなっていると考えられる。
したがって、CEDAWの勧告にもあるとおり、
現行刑法の性犯罪に対する考え方を、
「性的自由に対する重大な権利侵害である」と明確化した上で、
親告規定の廃止と罰則の強化をする必要がある。

そうしなければ、「泣き寝入り」も「二次被害」もいつまでも改善されない。

ということならば判ります。

私の「頭が固い」ために、理解する力に問題があったのでしょう。


私が性犯罪に関するサイトをリンクさせて頂いたのは、
「刑法上の性犯罪」の「範囲の広さ」を示すためだけです。

>日本は性犯罪として認められる範囲が狭いので、

というたんぽぽさまのお言葉を理解するための資料として使っただけです。
(各罪の構成要件や性犯罪の分類など、予備知識がなかった私は助かりました)

最後に書いたので、誤解を導いたのだと思います。


たんぽぽさまの結論には同意なのですが、
予備知識に乏しい私は、
現状認識と論理展開に頭が付いていけませんでした。

お手間をおかけしました。


Posted by ごりら at 2012年06月29日 00:54
コメントありがとうございます。

「道義的なもの」ではなく「権利の侵害」とする、
というのは、たしかに「意味付けを重くする」であって、
「範囲を広げる」のではないですけれどね。

CEDAWで勧告されている、法的不備のひとつであることには
かわりがないので、いっしょに扱ったしだいです。
Posted by たんぽぽ at 2012年06月29日 22:39
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス: [必須入力]

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック