2012年07月04日

toujyouka016.jpg 55年体制時代の福祉

6月20日の朝日新聞に、東大名誉教授の坂野潤治氏への
インタビュー記事があります。
内容はおもに日本における二大政党制についてのことです。

「二大政党制は幻か」

このインタビュー記事の前半に1955年体制時代の
福祉政策についてのコメントが出ています。
これがわたしの興味をすこし惹いたので、お話したいと思います。

 
自民党については、坂野氏はこう述べています。
========
「保守の自民党が社会政策をやったという決まり文句は、大間違いです。
成長によるパイが大きい時代に、余った部分をばらまいただけです。
どういう社会を目ざし、誰を救うかがまずあって、
そのためにお金を配分するのが本来の社会福祉ですが、
自民党にそんなビジョンはありませんでした」
========

55年体制時代の自民党は、大企業の利益と結びついて、
経済成長によってパイを作り出すことが、その関心ごとでした。
社会党、共産党などの野党の要求にしたがって、
作ったパイの一部を分け与えたので、
福祉政策が行なわれることになったのでした。

なので、55年体制時代の自民党には、
福祉を充実させるビジョンは、たしかになかったわけです。


野党・左派勢力については、坂野氏はこう述べています。
========
「日本の政治が悪かったのは、1890年に衆議院ができて以来、
左派の勢力が増税反対でチープガバメント(安上がりの政府)を
志向し続けたことです。
土井たか子さんも消費税は『ダメなものはダメ』だった。
税金を上げてもいいから困っている人たちを救う。
そんな福祉国家の発想を持つ政党がなかった」
========

そういえば、北欧などの福祉国家を見ても、
税金が高いのが相場となっています。
実際、じゅうぶんな税収があるから、
さまざまな福祉サービスが実現できるわけです。
国民は、自分の生活のために税金が取り戻せるから、
彼らは高い税金に不満がすくないのでしょう。

日本の左派政党はというと、福祉の充実を唱えながら、
減税を主張してきたので、矛盾ではないかと
考えるかたもいるかもしれないです。
実際、「減税は庶民の利益」というイメージは
いまでもなんとなくあると思います。

たぶん55年体制時代は、経済成長を続けていたので、
左派政党としては、自民党の作ったパイから、
分け前を取ってくれば、税収が増えなくても
福祉予算がある程度確保できたのでしょう。
それで、減税と福祉とが、抵触しなかったのではないかと思います。


経済成長が望めなくなって、パイから分け前を
取って来ることが、できなくなった現代においても、
左派勢力の人たちで、減税を主張する人は
すくなからずいるようです。

現代では、それでは福祉の充実は困難なわけで、
こういう人たちは、いまだに55年体制のころの発想から、
抜け出せていないと言えるでしょう。
あるいは、政権与党になって、予算を組んで、
どの福祉にいくらお金を配分するかを決めるという感覚に
とぼしいのもあるのかもしれないです。

それから、減税というと「小さな政府主義」と
考えるかたもいらっしゃると思います。
左派勢力の減税は、「小さな政府主義」という観点とは、
いちおう別個に考えられたものと思われます。


付記:

ちなみにこのインタビュー記事は、日本に二大政党制を
根付かせることに懐疑的で、むしろ55年体制時代のような
1.5大政党のほうがよかった、と述べていて、
わたしはちょっと異議があったりします。

それから、いまの日本に必要なのはエリートの養成だと
しているのですが、どんな人たちに、どんなことを
学ばせるのかが、インタビュー記事を読んだだけでは
よくわからなかったりします。

わたしとしては、いくつか「??」なところもある
インタビュー記事なのですが、55年体制時代の
福祉政策については、なかなか興味深い考察
(とくに左派政党について)と、思ったしだいです。

posted by たんぽぽ at 22:39 | Comment(4) | TrackBack(1) | 政治・社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
僕も読みましたけど、なかなかいい考察でしたね。

中選挙区の多党制がいいのか、小選挙区で二大政党制を続けるかは人それぞれ意見がわかれそうですけど。
Posted by SPIRIT(スピリット) at 2012年07月05日 11:03
このエントリにコメント、ありがとうございます。

わたしも、わりあいいい考察だと思いました。
「わりあい」というのは、わたしには同意しかねるところや、
よくわからないところもあったからなんだけど。
55年体制時代の福祉については、よい指摘だと思います。


中選挙区は、55年体制時代の派閥政治の
温床になったので、廃止されたのですよね。
中選挙区を復活させても、派閥が乱立することになって、
多党制にはならないのではないかと思います。
http://lacrima09.blog.shinobi.jp/Entry/236/

もっとも、20年経ったので時代が変わった、
というかたもいることはいるんだけど、中選挙区は注意深く
遠ざけたほうがいいと、わたしは思います。
Posted by たんぽぽ at 2012年07月05日 19:31
エリート…エリートねえ…まず、エリートの人々の扱い方を他国に学んだ方がいい気がしますよ。

日本は大学院卒の人を上手に使いこなせず、高学歴しかし「頭でっかちだけでない」人々を窓際に追いやってる気がします。実際、就職率も低いですね。

福祉は宗教問題が絡んできますよ。教育や福祉のモチベーションは、それ以外にほとんどメリットが見つからないからです。お金持ちに分類されるタイプの政治家子女が通っているのは公立学校ではありませんしね。
Posted by mmm at 2012年07月05日 20:58
このエントリにコメント、ありがとうございます。

>エリート…エリートねえ…

インタビュー記事で述べている「エリートの育成」って、
どんな人たちにどんなことを学ばせるのかが、
わからないのですよね。
たぶん坂野氏には、考えはあるんだと思いますが、
インタビュー記事にはそこまで出ていないのですね。

>日本は大学院卒の人を上手に使いこなせず、

そうそう。
日本の企業は、博士号取得者をみょうに避けますよね。
そのくせ、国際競争力を確保するために、
外国から人材を、なんて言ったりする。
外国から連れて来る前に、国内の人材を使えと言いたいです。

>福祉は宗教問題が絡んできますよ

うーむ、日本で福祉がなかなか根付かないのは、
日本人は宗教を避けがちなのと、関係があるのかな?
Posted by たんぽぽ at 2012年07月06日 19:37
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