2013年03月16日

toujyouka016.jpg 失われた20年と民主党

なかなか興味深いシンポジウムがあったのでご紹介します。
行なわれたのは12月18日ですが、記事になったのは2月18日です。

「政治と経済の失われた20年 -- データから語る日本の未来」
(はてなブックマーク)

 
政治と経済の失われた20年というタイトルで、政治はおもに選挙制度、
経済は「失われた20年」のことについて語る対談です。
「失われた20年」とはバブルがはじけた1990年以降、
名目GDPの成長がほとんどなくなった約20年間を指します。

片岡剛士、菅原琢、荻上チキ、飯田泰之の4人の対談となっています。
あとのふたり、荻上チキ、飯田泰之は3月3日エントリで紹介した
民主党崩壊の原因分析の対談に登場するかたたちです。
選挙制度や自民党のところは、記事をご覧いただくとして、
ここでは民主党の経済政策に関することを、見て行くことにします。


>経済政策の面から見た、民主党の大敗の原因

記事でコメントしている片岡氏の分析によると、
経済面から見た民主党の大敗の原因は、つぎのようだとしています。
デフレの問題が解消されず、経済が成長しなかった、
それゆえ子ども手当てや高校無償化などの社会保障政策が
行なえなくなった、ということです。

民主党の政策集では、最初に社会保障、つまり再分配政策を
どのようなかたちで行うかが書かれています。
野田さんは、消費税を増税し、広く薄く分配すると言っていました。
しかし日本は、民主党政権になった後もデフレの問題は
依然として解消されず、経済は成長していません。
実績がともなわず、再分配も行えなかったことが
経済的な側面からみた民主党の大敗原因だと思います

そして小泉政権の対抗馬として、成長一辺倒ではなく、再分配を主軸に
弱者に温かい目を向けるリベラルな人たち、民主党が現れました。
しかしあまりに成長を意識しなかったがゆえに、
本来やりたかった再分配が実行できず、
結局は政権を再び自民党に譲ることになったのだと思います。

民主党はデフレ対策に無関心ではなく、140人の国会議員が加わる
「デフレ脱却議連」なるものを作り、かなり力を入れてはいたのでした。
デフレ脱却にはいたらなかったですが、脱却の道筋は付けたと言われています。

また、子ども手当てや高校無償化などの社会保障も、
それ自体がデフレ対策になるとも言えます。
消費者にお金を直接還元させることで、消費額を伸ばし、
それによって生産量が増えて、所得を伸ばすことになるからです。

それでも、名目GDPの推移のグラフを挙げられていますし、
民主党政権になっても、これが横ばいのままで増加しなかったので、
デフレ対策は失敗だったと、ここでは理解しておくことにします。


>民主党が採るべき戦略

片岡氏は、安倍政権が進める金融政策は、デフレ脱却し
経済を成長させる施策として優れていると評価しています。
(自民党が金融政策に力を入れるようになったのも、
政権交代の成果だとする指摘があります。)

金融政策が問題なく優れているとすると、野党民主党としては、
この方面から攻めることがむずかしくなります。
それでどこから攻めるかですが、自民党が切り捨てる社会保障を
論点にすることを、ひとつの戦略としてあげています。

たとえば、自民党の掲げる自助を中心とした社会保障、
これは最低でも現状維持、将来的には社会保障支出を削減していくのは
明白ですよね。そこを論点にして戦うことはできると思います。

わたしが思うに、社会保障を論点にすることで、
どこまで国民の支持を得られるのかという疑問はあるのですよね。
日本は「生活に困った人を国が助ける必要はない」と
考えている人が、他国とくらべて突出して多い国です。
子ども手当てや生活保護の叩かれかたを見ても、
日本人は社会保障に対して冷淡だと言えるでしょう。

政権批判対策として、社会保障を争点にすることには
じゅうぶん効果があるとは、わたしにはあまり思えないのでした。
それでも社会保障支出を減らせば、生活が困窮する人は
かならず出てきますから、だれかが批判する必要はあることです。


ほかに、2014年4月、2015年8月に消費税が増税されますが、
このとき景気が回復していなければ、「消費税増税を
やめるべきだ」と民主党が言える可能性があるとしています。

消費税の増税は、もともと民主党が進めてきたことなので、
増税中止を民主党が言うことで、国民の理解が得られるのか、
という心配があるのではないかとも、わたしは思います。
この場合、消費税増税の前提である、景気の回復がないという理由はあるし、
景気が回復しないのは、自民党の責任ということではありますが。


片岡氏は財政政策として公共事業を行なうのは批判的です。
公共事業は必要に応じて行なうべきで、デフレ脱却のために
公共事業を行なうのは、うまくいかないと見ています。
それでも安倍政権が公共事業をかかげたのは、
いまだに公共事業のばらまきで経済成長と考えている人が
自民党には多いので、それに引きずられたのだと考えています。

この公共事業のばらまきを批判することは、
民主党の戦略としてうまくいかないのかとも思います。
公共事業のばらまきの批判は、民主党には議論の蓄積が
あると思うので、やりやすいのではないかとも思います。


>景気と人の心の寛容さ

この対談のあとのほうで飯田泰之氏が登場します。
ここでは、景気がよくなると寛容な政策が進められやすくなり、
景気が悪くなると不寛容な政策が進められやすくなる、
ということについて、飯田氏はお話をしています。

人が他者に対して寛容になれるのは、心に余裕があるときで、
景気が悪くなるなどして心に余裕がなくなると、
他人に対してなかなか寛容になれなくなる、ということです。
「衣食足りて礼節を知る」ということばは、当たっているわけです。

やっぱりお腹がいっぱいになれば、そんなにぎすぎすしなくてすむ。
それでも誰かをいじめていたいって人は滅多にいないでしょう(笑)。
満ち足りているときは優しい気持ちになれるものです。

これは日本にかぎったことではないです。
洋の東西を問わず、世界中どこでも見られることです。
たとえば、ドイツでは1990年代の半ばに、統一の負担で
不況に見舞われたのですが、それにともないネオナチが台頭して、
市民の不安を高めたことがありました。
一般にヨーロッパでは景気が悪くなると、排外主義が強まってきます。

いまの日本でなされている生活保護叩きは、常軌を逸していると
思いますが(「やっぱり生活保護に対する意見はショックでしたね」
という飯田氏のコメントが、記事中にあります)、
これは景気が悪くなって人が不寛容になっているため、
という一面もあるということになります。

posted by たんぽぽ at 09:52 | Comment(4) | TrackBack(0) | 政治・社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
日本人が社会保障に冷淡というのも何処まで本心かというのもありますね。
そういったアンケート調査のような回答にでさえ、そのような「新自由主義的」な答え方をして「意識が高い」ように見せたいという暗黙の強制力が働いているのかも知れませんしね。
そういったチキンゲーム的な規範が蔓延していることこそが問題なのでしょうね。
Posted by 御光堂 at 2013年03月16日 12:21
上に書いたことも一種の「合成の誤謬」で説明できそうな気がしました。
誰でも困っている時は助けが欲しいものですが、助けが得られるかどうか分らない時、最後まで助けてくれ(助けが必要)と言わなかった者こそが助けてもらえるという観測を持ったとします。
この戦略だと、自分以外に助けを求める者が多ければ成功が期待できるのかもしれませんが、みんなが我慢して助けは不要と言うようになったら、みんなが要らないというなら「助け」自体なくてもいいね、という結果が導かれてしまうことにもなります。こういうプロセスが進行しているのが現状なのかも知れません。
Posted by 御光堂 at 2013年03月20日 08:26
御光堂さま、こちらにもコメントありがとうございます。

>日本人が社会保障に冷淡というのも何処まで本心かというのもありますね

結構本心ではないかと、わたしは見ていますよ。
子ども手当てや生活保護の叩きかたは猛烈だけど、
バッシングする人が新自由主義を意識したとは、
かならずしも思えないのですよね。

子ども手当ての前身の児童手当ての導入は、
1960年代から議論があったけれど、
このときもなかなか理解が進まなかったようですしね。
http://ryuseisya.cocolog-nifty.com/hakata/2010/12/1960-8c48.html

中には2000年代の影響で、新自由主義的考えに取り憑かれて、
社会福祉に反対するようになった人もいるかもしれないですが。
それから、新自由主義の考えに取り憑かれた人が、
「自分は意識が高い」と悦に入ることはたしかにありますね。


>上に書いたことも一種の「合成の誤謬」で説明できそうな気がしました。

こちらも、「だまっていたほうが助けてもらえる」と
考えている人が、実際にどれだけいるかによると思いますよ。
Posted by たんぽぽ at 2013年03月20日 11:28
付記:
民主党は最低賃金や生活保護水準の引き上げを要求しろ、
という意見がここにもある。

http://matsuo-tadasu.ptu.jp/essay__130126.html
========
3.最低賃金や生活保護基準の引き上げの主張
 12月22日のエッセーにも書きました通り、2%のインフレ目標と言うならば、
最低賃金も生活保護水準も2%で上げないとつじつまが合わないし、
インフレ目標の本気度が疑われることになります。
ましてや、安倍政権は今、生活保護水準を引き下げようと
言っているわけですから、これはもう「デフレ推進するつもりか」と
突っ込んでやらないといけません。
========

生活保護はほぼ全額が消費にまわるから、デフレ脱却のために
むしろ生活保護水準は引き上げるべきなのだよね。
生活保護バッシングは、経済合理性をまったく無視したものだ。
Posted by たんぽぽ at 2013年03月20日 11:29
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