「相対主義」で日本の従軍慰安婦制度を相殺はできない、
というお話をしたのでした。
このあたりについて、もうすこしくわしく見ていくことにします。
つぎのエントリでは、人権侵害や差別といった、
社会構造的な不正義がなされている場合、国家や市民の責任について、
その対応にしかたによって、深刻さの程度を段階にわけています。
「簡単なこと」
(1)不正義を解消すべく、適切な手だてを講じる努力を続けているのだが、
解決には至っていない場合。
(2)無関心ゆえに、放置している場合。
(3)やる気はあるが誤った方策をとり、解決し損なったり事態を悪化させる場合。
(4)その不正義を消極的に容認している場合。
(5)その不正義を積極的に欲し、非公式に利用する場合。
(6)その不正義を積極的かつ公式に利用し、公的制度の中に組み込んだ。
RAAについての連合国軍の態度は、(2)であると言えるでしょう。
ただ、連合国側から女性を要求した例もあったので、
重く見ると(4)になるかもしれないです。
のちに連合国側はRAAを問題視するようになり、閉鎖を要求することになります。
RAAについての日本側の態度は、(5)になるでしょう。
4月23日エントリでお話をしたように、日本政府がみずから設置を指示し、
皇居前広場で設立宣言式を行ない、新聞に「従業員」の募集広告を出し、
警察が「運営は円滑」と報告書に書くのですから、
「積極的に欲した」と言えると思います。
こうして見ると、RAAは日本側のほうが、連合国軍よりも
深刻な態度を取っていたと言えるのであり、連合国軍よりも
日本側の問題であることが、あらためて確認できると思います。
そして日本の従軍慰安婦における、日本の責任は問題なく(6)です。
RAAに対する連合国軍の責任は(2)ですから、程度がまったく違っていて、
連合国軍がRAAを利用したことを持ち出しても、
日本の従軍慰安婦を「相対主義」で相殺することは、
とてもできないことが、はっきりわかると思います。
構造的な不正義にも深刻さに程度がありますから、
「オールオアナッシング」のような単純な二値思考では割り切れず、
形式的に相殺できないことが多いのは当たり前で、
わざわざ言うまでもないことだと思います。
それでも、上記の(1)から(6)のように段階にわけてしめすと、
深刻さの程度がはっきりするので、「相対主義」による相殺ができない場合、
それがわかりやすくなると思います。
(深刻さが同程度だった場合、「相対主義」で相殺してよいのかというと、
そういうわけではないですが。)
謝辞:
3月17日エントリのコメント欄で、このエントリを紹介してくださった
七重さま、ありがとうございます。
いつもいろいろと紹介してくださり恐縮です。
(こちらでも時間が大分経っちゃってますが…)
この記事で取り上げられているエントリーは、RAAというよりは、そもそも
「従軍慰安婦はそんなに酷いことじゃない」
と、軽く見せようとするタイプの人を意識して書かれたものですね。
(まあ、女性の人権侵害を軽視するが故に元々「大したことがない」と思っている人が多いのですが)
軽く見せることが出来れば、相対化するのにちょうど良さそう「に見える」事例が増えますから。
ちなみに、古参の慰安婦問題否認派には、RAAを持ち出しちゃう人はあんまり多くないです。
歴史修正主義者は嫌韓・嫌中がモチベーションになってることが多いのでアメリカを敵に回す意図はない(何せ外交における日本の最大の後ろ盾ですからね)のと、何より「THE FACTS」でうっかり
「連合国軍の要求で設置した」
と間違ったことを書いて自爆した件があるので。
>何かもう間が空いちゃって再参戦するのも面倒なので
ああ、いえいえ。ぜんぜんかまわないですよ。
いい加減くたびれてきますしね。
なんかまた再開しているんだけど、やはり橋下の「慰安婦必要」発言に
触発されたのかと思います。
このコメント欄は空き家なので、遠慮なくどうぞです。
>「従軍慰安婦はそんなに酷いことじゃない」
>と、軽く見せようとするタイプの人を意識して
一般的な書きかたをしてあるので、ほかにもいろいろなところで使えそうですね。
>女性の人権侵害を軽視するが故に元々「大したことがない」と
>思っている人が多いのですが)
女性への人権侵害もご多分にもれず、軽視されやすいですね。
差別する人ほど、差別は「たいしたことがない」と言いたがりますね。
(もともと人は「自分はそんなに悪いことをしたわけじゃない」と
思いたがるものだけど。)
>古参の慰安婦問題否認派には、RAAを持ち出しちゃう人はあんまり多くないです
あらあら、そうなのね。わりと多いのかと思ってました。
わたしのブログで延々と議論しているかたは、どちらかというと特例なのね。
>歴史修正主義者は嫌韓・嫌中がモチベーションになってることが多いので
>アメリカを敵に回す意図はない
彼ららしいですね。
きょうびのように、アメリカが慰安婦問題の追求にきびしくなっていると、
彼らとしてはやりにくいのでしょうね。
>何より「THE FACTS」でうっかり
>「連合国軍の要求で設置した」と間違ったことを書いて自爆した
これも彼ららしいですね。
「The Facts」って新聞広告だから、それなりに内容を
精査しているのかと思っていたけれど、思ったよりひどそうですね。
「慰安婦必要」発言のエントリーも盛り上がってますね。
橋下徹の論調がもろに相対主義なので、このエントリーとも趣旨が被るかな?
まああたしは、そちらはしばらく静観の方向でいこうかと。
>他の人権侵害の事例
あのエントリーの基準を元にして深刻さの程度を現したエントリーに、こんなものがあります。
http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20130114/1358150083
で、これ、慰安婦問題相当かそれに準ずるものとみなせるけど、謝罪済みなんですよね。
国家の責任が慰安婦問題相当で、存命の被害者がいて、且つ謝罪されてないものって、「欧米先進国」にはもうほとんどないんじゃないかなぁ。
>女性の人権侵害
慰安婦問題否認論者によくある
「慰安婦と性奴隷は違う」
発言に顕著ですね。これも分かりやすい論考があります。
http://d.hatena.ne.jp/what_a_dude/20130521/p1
「「性行為に関して自由と自律をもたない人」を「性奴隷」と表現して何かおかしいか?」
とあたしも思うのですけどね。まあ、日本では「性」において『放埒』と『自由・自律』が混同されやすいので仕方ないのですが。
『放埒』にしても、発揮するのはもっぱら男性ですしね。
>RAA
昨今の橋下徹のドタバタを見てる感じどうも慰安婦問題についてはあんまり古参っぽくないので、その支持者たる彼もそうなんだと思います。
嫌韓・嫌中に偏ったタイプの慰安婦問題否認派は、真っ先に
『韓国従軍慰安婦』
とか
『ベトナム戦争の際に韓国軍兵士と現地女性の間に生まれた混血児(通称「ライタイハン(ライダイハン)」)』
なんかを挙げますね。
あと、アメリカで出される各種決議は「韓国系(中国系)ロビーの策謀」ってことになっていたりします(笑)
>「THE FACTS」
「THE FACTS」がどれだけいい加減に書かれているかは吉見氏が『日本軍「慰安婦」制度とは何か』で効率よくまとめられてますね。
…前に、別のエントリーのコメント欄でも書いた気がしますが(笑)
ただ、事実に基づき
「日本政府が設立したRAAを使ったアメリカも日本と同程度に悪い!」
と言ったところで
「お前従軍慰安婦制度の何が問題だったと思われてるか分かってないだろ?」
で斬り捨てられて終わりそうですけどね。
>「慰安婦必要」発言のエントリーも盛り上がってますね
そうなのよー。
予想はしていたけれど、こんなにご盛況になるとは思わなかったわ。
ふたつ目のエントリは、わたしが最初にコメントをする前に
20以上もコメントが付いていました。
こんなにたくさんコメントが付いたのははじめてですよ。
なんというか、否定派のかたに発言場所を作るために、
エントリを立てているような気がしないでもないです。
>橋下徹の論調がもろに相対主義なので、このエントリーとも趣旨が被るかな?
否定派のかたの、わたしのブログへの最初のコメントが、
「アメリカだってRAAを〜」で「相対主義」だったのよね。
あの支持者にしてあの市長なのかもしれないです。
>http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20130114/1358150083
>慰安婦問題相当かそれに準ずるものとみなせるけど、謝罪済みなんですよね
ご紹介ありがとうございます。
例のスケールを使っていますね。
欧米の民主主義国でも紆余屈折はあるけれど、
なんだかんだで公式な謝罪をしているようですね。
「お前らの国も過去と向き合え」なんて、日本に言われたくないですね。
どう考えても日本は「言われる」立場です。
>慰安婦問題否認論者によくある
>「慰安婦と性奴隷は違う」発言に顕著ですね。
>http://d.hatena.ne.jp/what_a_dude/20130521/p1
こちらもご紹介ありがとうございます。
「性奴隷」と表現したほうが実態をよく表わすと、わたしも思いますよ。
ことばを変えることですこしでも加害意識を薄めようという
「否定派」の固執ぶりが伝わってきますね。
そういえば、橋下の「慰安婦必要」発言に関して、
維新の同士が「橋下サポート隊」なるものを作るんですよ。
http://www.asahi.com/politics/update/0524/TKY201305230462.html
ここでも「慰安婦をsex slaveと英訳されると国益を害する」
などと言って、英訳を変えることを考えていたりします。
かかる「サポート隊」の程度が、どのくらいなのかが伺えますね。
>昨今の橋下徹のドタバタを見てる感じどうも慰安婦問題については
>あんまり古参っぽくないので
わたしもそんな感じがしました。
『WiLL』を読んで啓蒙された気になったのも、最近でしょうしね。
「アメリカの怒りには触れないようにしておく」という
日本の「保守系政治家」の伝統の中にもいないと思います。
それで、在日米軍相手に「風俗の活用を」なんて
遠慮なく言えてしまうのだろうと思います。
橋下は、自民党や安倍政権の閣僚が、「慰安婦必要」発言に関して、
だまってなにも言わないのが不満なのですよね。
http://www.47news.jp/CN/201305/CN2013052101001461.html
「アメリカに逆らってはいけない」という
「保守系政治家」の伝統が、橋下には理解できないのでしょう。
わたしのブログにコメントしている否定派のかたも
日本の「保守派」にありがちな「従米感情」は持ち合わせてないようですね。
(わたしはそういう印象を持っています。)
それでRAAのことをはばかりなく持ち出せるのでしょう。
>『ベトナム戦争の際に韓国軍兵士と現地女性の間に生まれた混血児
>(通称「ライタイハン(ライダイハン)」)』
「否定派」は「ライタイハン」は、韓国人兵士の
性暴力によるものと信じているようですね。
実態は、後方の軍人や軍属と現地妻との混血児ですね。
http://d.hatena.ne.jp/D_Amon/20100202/p1
>アメリカで出される各種決議は「韓国系(中国系)ロビーの策謀」ってことに
>なっていたりします(笑)
これは失笑ものですね。
アメリカで出される各種決議は、日本のロビー活動によって、
非難が強まってくるとしか、言いようがないですからね。
>吉見氏が『日本軍「慰安婦」制度とは何か』で効率よくまとめられてますね。
>…前に、別のエントリーのコメント欄でも書いた気がしますが(笑)
前にも書いていただきました。(笑)
その本、まだ探していないのですよね。
正確には、一度探しに行ったけれど、行った本屋になかったのでした。
べつの本屋を当たる必要がありますね。
>「日本政府が設立したRAAを使ったアメリカも日本と同程度に悪い!」
>と言ったところで
橋下はアメリカに議論をしに行くつもりだけれど、
RAAを持ち出すなどすれば、論争に勝てると思っている感じですね。
アメリカ側は、だれも会ってくれなさそうなんだけど、
橋下は議論してもらって、徹底的に叩かれて帰ってくるのも
一興ではないかと、わたしは思っています。