東京都知事の猪瀬直樹氏が、オリンピック招致のライバル都市である
イスタンブールとトルコを中傷する発言をしたので、話題になっています。
はじめに報じたのはニューヨークタイムズで、
そのあと日本のメディアでも取り上げられるようになりました。
「猪瀬東京都知事の過激なイスタンブール攻撃に「オリンピック招致規則違反」の懸念」
「猪瀬がトルコとイスタンブールを侮辱、IOCルール違反
「長生きしたかったら日本を真似ろ。イスラムはクソ」 レイシストンキン終了」
「〔報道検証〕五輪誘致:NYタイムズ紙が報じた猪瀬都知事の
イスラム誹謗発言は@事実なのかA公式な発言なのか」
「猪瀬知事「イスラム諸国はけんかばかり」」
「猪瀬都知事、他候補を批判=20年五輪招致への影響もー米紙」
「猪瀬直樹都知事のインタビュー記事に批判が集まる」
問題のトルコを中傷したという猪瀬発言は、つぎのような内容です。
(この記事の孫引きで、ニューヨークタイムズの英文を再度日本語に
訳したものであり、正確な発言とは若干異なる可能性があります。)
立候補している都市がライバル都市を中傷してはならないという、
IOC憲章の14条に違反する可能性もあることになります。
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アスリートにとって最善のオリンピック開催地は
社会インフラが整備され、近代的な施設がある国とそうでない国、
この2つの国を比べてみた際に、時には(リオデジャネイロで
2016年に開催される予定の)ブラジルのように
初めての国が選ばれるのは意義があることだと私も思う。
しかし、(トルコを含む)イスラム教国は唯一、
アッラーの教義のみを共有する階級社会で、内戦に明け暮れている。
そのような国は開催国にふさわしくない。
トルコは日本よりも平均年齢がはるかに若く、
貧しいので子供がたくさん生まれる。日本は人口増加も止まり、
高齢化が進んでいるが健康的で落ち着いた生活を送っている。
トルコの国民も長生きしたいと思っているのは同じだろう。
彼らは早死にしたくないのならば、日本と同様の文化を創造すべきである。
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IOCは結局、東京の処分をしないことにしましたが、
それでも東京の印象はだいぶ悪くなったのではないか思います。
ついこないだも、女子柔道の暴力で騒ぎになったばかりです。
これでいよいよ東京が選ばれる可能性はなくなったかもしれないです。
わたし自身は、東京でオリンピックを開いてほしいとは、
すこしも思っていなくて、イスタンブールでオリンピックを
開いたほうが、望ましいと思っています。
それでもオリンピックの招致に立候補すれば、グローバルスタンダードと
向き合う必要があるので、「世界の非常識」と言われる
「日本の常識」の是正に、いくらかでも役立つのではないかとも思います。
>猪瀬発言の問題
猪瀬発言の問題は、トルコを「イスラム」でくくっているところです。
トルコは1922年のケマル・アタチュルクの革命によって
共和制になってから、政教分離の「世俗主義」を取っています。
「イスラム」でイメージされる「かぶりもの」をする女性はいない、
というか、法律で禁じられているくらいです。
トルコはNATOやOECDにも加盟しているし、EUへの加盟も申請しています。
政治的・文化圏的にはヨーロッパ世界に入ろうとしていて、
アラブ・イスラム世界とは、むしろ「線引き」をしたがっています。
トルコをほかのイスラム諸国と同列で考えるのが、そもそも無理なことです。
「階級社会」というのは、なんのことかわからないです。
トルコはもちろん、イスラムにも制度としての「階級」はないと思います。
ジニ係数や所得格差でしたら、残念ながらトルコは、
OECD加盟国の中では大きいほうになりますが、
それでも開発途上国よりは、小さいのではないかと思います。
トルコが「内戦に明け暮れている」という事実もないですね。
ケマル・アタチュルクの革命以来、トルコは西アジア世界で
いちばん安定した国になった、というのはよく言われることです。
トルコの人たちが早死にしているというのも根拠がないです。
現在のトルコの平均寿命は75歳に近く、近年に急速に伸びています。
日本のように少子化が進んでいないから、若い人たちの人口も多く、
国民の平均年齢が低めになっているのでしょう。
だいたい、日本は少子化が進んで福祉や年金が破綻するとか、
労働力が不足するとか、さんざん言われています。
「健康的で落ち着いた生活を送っている」なんてのんきに言って、
猪瀬は自分の国の問題も見えないのかと思います。
日本は2050年に少子高齢化で世界一悲惨な国になるという
予測までありますし、シンガポールのように日本を反面教師にして
移民の受け入れに力を入れている国もあるくらいです。
これに関しては「日本と同様の文化」など、創造しないほうがよいでしょう。
猪瀬発言の問題点を指摘するのは、それほどむずかしくないのですが、
平均的な日本人のトルコやイスラムに関する理解は、
じつは猪瀬とおなじ程度なのではないか、という気がしないでもないです。
猪瀬は単に「正直に言った」というだけなのかもしれないです。
猪瀬発言には「日本はトルコよりずっと進んだ国だ」という
おごった意識を、わたしは感じています。
トルコで女性参政権が認められたのは1934年で、日本より早いです。
また、EU加盟を目指しているからですが、死刑も廃止しています。
トルコのほうが日本より進んでいることもあるのですよね。
『遠くて近い国トルコ』という本に、欧米人に対しては
みょうにこびるのに、トルコ人をはじめアジア人に対しては
高飛車で非礼になる日本人のことが出て来ます。
1968年の本なのですが、猪瀬の意識はこのころの日本人と、
あまり違わないのではないか、という気もしています。
付記:
この記事からの孫引きですが、猪瀬直樹氏は自分の本の中で、
こんなことを書いているのですね。
それで上述のようなトルコやイスラムに対する認識というのは恐れ入ります。
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相容れない考えを持つ相手であっても、正確に理解し、
きちんと言葉で自分の考えを伝えることが大切です。
世界で通用する共通のルールを知らなければ、対話は成り立ちません。
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大量の票をいれてしまった都民もアホすぎです
>東京都民としてあまりに恥ずかしい首長ですね。唖然、というしかないです
東京都民のかたは、本当にお気の毒と思います。
IOCが処分しないと決めてから、猪瀬は開き直ったようになって、
自分の発言のどこに問題があるのか、わかってない感じなのですよね。
>大量の票をいれてしまった都民もアホすぎです
なんでこんなのにあんなに大量の票が入ったのかと思うけれど、
日本ではそんなにめずらしくない現象だから、嫌になってしまいます。