2013年05月14日

toujyouka016.jpg 浮世離れの少子化対策

船曳建夫氏という東京大学の名誉教授だというかたが、
おそらくご自分が考えたであろう少子化対策をツイートしているのですよ。
ところがその内容が、あまりにエキセントリックで非現実的なので、
ことばが出なくなってしまうしろものだったりします。

「船曳東大名誉教授による『少子化に抗する最強の方策』と憤る皆様」

 
その「少子化対策」とやらは、こんな内容だったりします。
簡単に言えば、女が(若い)男を養えというものです。
https://twitter.com/funabikitakeo/status/328743661372325888
========
一番手っ取り早いのは、若年女子が、若年が終わりかけるまで
自分の好きなことをして、いまだに生物学的な魅力が文化的な努力によって、
高値(高嶺の花、という)を保っているときに、
より若年の男子をパートナーとし、経済的にも支えながら、
彼を育てていくことに喜びを見いだすことである。(続く)
========

前に何度かお話しているように、日本の女性の平均賃金は
男性の7割程度で、男性より女性のほうがずっと賃金がすくないです。
とくに、年齢別のサラリーマンの平均年収を見ると、
「若年が終わりかける」30代に入ってから、
女性は年収の上昇が頭打ちになり、男性と差が開いていきます。

「年齢別 サラリーマンの平均年収」

このような男女の賃金格差は、女性は妊娠・出産してから、
もとの職場や職種に復帰することがむずかしく、
パートなどの非正規労働にしか就けなくなることが
大きな原因となっていることも、言うまでもないでしょう。
女性のほうが賃金がすくなく、雇用も不安定というのが現実なのに、
どうやって夫を経済的に支えるのかと思います。


「彼を育てていく」というのも、なんで女性が夫に対して
そんなことをしなければならないのかと思います。
マザコンじゃあるまいし、妻は母親の代わりではないですよ。
あるいは、夫が稼げるようになるまで妻が養え、ということでしょうか?
女性は子どもと夫を養うことになるわけで、経済的負担が膨大ですね。

それからなんで、「喜びを見いだすことである」なんて、
カチカンの持ちかたを指図されなければならないのかとも思います。
どんな結婚をしようが、どんな生きかたに喜びを見い出そうが、
女性にもその自由はあるはずです。
少子化対策のために、拘束されるいわれはないことです。

そもそもこれでどうして「少子化対策」になるのかもわからないです。
前述のように、子どもを育てて、夫も育てなければならず、
女性にばかり負担が大きいものとなります。
仕事と家庭を分担する、ワークライフバランスの考えと反しますし、
子どもを産み育てやすい状況とは、とても思えないです。


さらにびっくりするのがつぎのツイートですよ。
どう見ても無茶としか思えないのに、「実践的にそれが起きている」とか
「これが最近増えている、よくある話」とか、言っているのです。
いったいどこにそんなお話があるのかと思います。
どこにあるのかわからない「机上の空論」としか思えないですよ。

https://twitter.com/funabikitakeo/status/328743692489867264
========
これは、決して、演繹的な机上の空論ではなく、
実践的にそれが起きている現場からの、帰納的な結論である。
言い換えれば、これが最近増えている、よくある話なのである。
これは、女子も男子も、学びながら、よりよき人間となりつつ結婚生活を送る、
楽しくもためになる実践である。(終わり)
========

ツイートに「ポスドク男子を食べさせるために貢ぐ」とか、
「昔の、大学生、大学院生の夫を養っていた妻となんら変わらん」
言っているかたがいるのですが、本当にひとむかし前にあった、
男性の院生やポスドクを養う妻を意識しているのかもしれないです。

東大のおエラい先生でしたら、自分の観測範囲には、
妻に養われる男性の院生やポスドクが、実際に多いのかもしれないですね。
(だとしたら、相当にローカルなお話だと思います。)
もっとも最近は、こういうのは見かけなくなったと思うのですが、
いるところにはまだまだいるのでしょうか?


付記1:
トゥゲッターには、船曳建夫氏の少子化対策を批判する
ツイートもまとめてあるので、ご覧になるといいでしょう。
みなさん女性と思いますが、批判ばっかりなのも無理もないことです。
少子化対策として非現実的な上、女性にばかり過剰に負担を
押し付けるものだからです。

付記2:
船曳建夫氏の少子化対策にかぎらない一般的なことですが、
こういう「役に立たない少子化対策」というのは、
たいてい女にだけ「変われ」と要求したり、女にだけ無茶な負担を
かぶせようとしたりするものとなっています。
少子化を「女性だけの問題」と思っている証拠でしょう。

付記3:
すでに出ているけれど、船曳建夫氏は東大の名誉教授なのですよね。
大学の先生といえども、自分の専門を離れたら
一般の人と変わらないと言ってしまえば、それまでなのですが、
ここまで浮世離れした少子化対策を提唱されると、
肩書きとのギャップがどうしてもきわだってきます。

posted by たんぽぽ at 22:59 | Comment(11) | TrackBack(0) | 家族・ジェンダー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
内田樹さん(神戸女学院大学名誉教授)の「少子化対策」も負けず劣らずぶっ飛んでましたね。
http://blog.tatsuru.com/2007/02/01_1103.php

船曳さんと内田さんはほぼ同世代の元教授なんですが、お二人とも専門はあまりお客がいない分野(文化人類学、フランス現代思想)だから、専門分野で本を書いたり講演したりしても金にならないんでしょう。
それで少子化対策といった世間の耳目を集める所でテキトーなことを言って営業をしているんじゃないかなあ。
…と私は思っております。
Posted by kiriko at 2013年05月14日 23:29
内田樹氏の提案は、結論的には「国公立学校を大学まで無償化せよ」ですから、本人が言われるほどには劇的な効果は無いかもしれないけれど、少しはプラスになるんじゃないかと思います。それに、「現政権(政権交代前の自民党)が取り得る方法としてはこれしかない。」と言う位置付けですから。
一方の船曳建夫氏の案は、結局、女に何とかしろと言っているだけのことです。少子化の解決を女性にだけ委ねる、と言うか押し付けるだけのもので、女性手帳とやらと根本の発想は同じでしょう。
両者は同列ではないんじゃないかな?と、思います。

>大学の先生といえども、自分の専門を離れたら、一般の人と変わらないと言ってしまえば、それまでなのですが、

いえいえ、甘いですよ。大学教授の中には、自身の専門分野の研究以外一切何もしない、なんてのもざらに居ますからね。一般人には想像も付かないような世間知らずが居ても、何ら不思議は無いと思います。
Posted by ニャオ樹・ワタナベ at 2013年05月15日 12:48
内田さんの考えが「なんじゃそりゃ」なのは、次のくだりです。

>「子供を産んだ女性だけを優遇する」という措置にはたぶんフェミニストが「女性を産む機械とみなす女性蔑視だ」というロジックで反対しているからである。<

フランスの政策を「子どもを産んだ女性"だけ"を優遇」と歪曲していること。
出産・子育て優遇(支援)に反対するのは女だ、と、女VS女の構図を作っていることです。
(手当や保育園整備には、独身女性、子のいない女性、不妊女性、フェミニストが反対・反発する…と見ているわけですね)
手当の充実や保育園整備に冷たかったのは自民党政権ですよ。

確かに船曳さんほど「浮世離れ」ではありませんが、中味は相当エエ加減で、「少子化対策が進まないのは女同士がいがみあってるからだよW」と冷やかしている態度が見えます。
Posted by kiriko at 2013年05月16日 01:44
どうなんでしょね。

女性全員が男性の7割の給料で生活してるわけではないし。
中には金持ちの女性もいるわけだから、そういう人が貧乏な男性を養うのはありなんじゃないかと思います。

問題はそうした男性に対する社会の蔑視ですね。
普通に家事やって嫁を支えてるのにヒモだのニートだの言われる。
そうした差別構造を変えていくべきだと思います。
Posted by 渚 at 2013年05月16日 10:33
kirikoさま、このエントリにコメントありがとうございます。

>内田樹さん(神戸女学院大学名誉教授)の「少子化対策」も
>負けず劣らずぶっ飛んでましたね。
>http://blog.tatsuru.com/2007/02/01_1103.php

ご紹介ありがとうございます。
なるほどねえ...

>船曳さんと内田さんはほぼ同世代の元教授なんですが、

おふたりのこと、くわしそうですね。

>それで少子化対策といった世間の耳目を集める所でテキトーなことを言って
>営業をしているんじゃないかなあ。

そうだとしたら、それは感心できないですね、
「注目されるために、わざと奇抜なことを言う」なんて。
わたしは、そういう反知性的なことをする感覚が、理解できないです。
しかも少子化対策は、生活がかかっている人がいるのだし。


>フランスの政策を「子どもを産んだ女性"だけ"を優遇」と歪曲していること。
>出産・子育て優遇(支援)に反対するのは女だ、と、女VS女の構図を作っていることです

内田樹氏はフェミニズムに関しては、いつも変な認識を示しますね。
自分のフェミニズム観が、いつも批判されることくらい
わかっているでしょうし、なにも言わなければいいのにと思うのですが。
(それともフェミニズムに対して、なにか恨みや不満があるのでしょうか?)

>「少子化対策が進まないのは女同士がいがみあってるからだよW」と
>冷やかしている態度が見えます

「女どうしを対立させて、それを高みの見物している男」って嫌ですね。
結局内田氏も、少子化を「女だけの問題」と思っているのでしょう。
Posted by たんぽぽ at 2013年05月16日 23:24
ニャオ樹・ワタナベさま、
このエントリにコメントありがとうございます。

>内田樹氏の提案は、

大学の授業料を無料にしろというのは、まともな主張ですね。

内田樹氏の「少子化対策」で奇妙なところは、
kirikoさまがご指摘のように、真ん中あたりにある、
「子供を産んだ女性をものすごく優遇すること」や、
「フェミニストが「女性を産む機械とみなす女性蔑視だ」という
ロジックで反対している」のくだりですね。

これらを見ていると、内田氏も少子化を「女性だけの問題」と
考えているのではないか、ということが伺えます。
この点に関しては、船曳建夫氏や「女性手帳」の発想と
同様ということだと思います。


フェミニズムが少子化対策に反対した、というお話はないと思います。
日本でも民主党の子ども手当てはだいぶ叩かれたけれど、
フェミニズムからの反対はなかったですしね。

むしろフェミニズムは、出生率を回復させたければ
女性を差別するなと、主張しているでしょう。
また内田氏のように、少子化を「女性だけの問題」と見なしていたら、
フェミニズムはそれに異を唱えると思います。


>いえいえ、甘いですよ。大学教授の中には、
>自身の専門分野の研究以外一切何もしない、なんてのもざらに居ますからね。
>一般人には想像も付かないような世間知らずが居ても、何ら不思議は無いと思います。

あらあら。
船曳建夫氏みたいなのはまだまだ序の口というか、
じつはめずらしくなかったのね。
Posted by たんぽぽ at 2013年05月16日 23:27
たんぽぽ様、kiriko様

確かに内田氏のこの「フェミニスト云々」発言は、非常に引っかかりますね。
私、個人的には内田樹氏の考えにはしっくり来ることが多いのですが、内田氏が何故か事あるごとに「フェミニスト」に対して噛み付くのは何ででしょう?って、彼のそう言う文言に出くわすたびに(本当に毎回必ずってくらい出てきます)常々そう思っております。
過去に何かあったんでしょうかね?彼が離婚したことと何か関係があるのかもね。
…と、話題がずれましたが。
Posted by ニャオ樹・ワタナベ@モバイル at 2013年05月17日 08:56
渚さま、コメントありがとうございます。

>女性全員が男性の7割の給料で生活してるわけではないし

本当に高給取りの女性がいて、経済的に負担にならないなら、
女性が夫を養うのが悪いとは思わないですよ。

船曳建夫氏が問題なのは「これが最近増えている、よくある話」
などと書いていて、どこにでもあってだれにでもできることで
あるかのように言っていることです。

>問題はそうした男性に対する社会の蔑視ですね

男性もお怒りになっていいと思いますよ。
はじめのまとめにもこう書いてありますし。
http://togetter.com/li/495262
========
多分、『皆様のツイート』に掲載した方々のほとんどは女だと思うんだけど、
これ男も憤っていいと思うんだ。
========
Posted by たんぽぽ at 2013年05月18日 23:15
ニャオ樹・ワタナベさま、
またまたコメントありがとうございます。

内田樹氏は、いい文章を書いていると、わたしも思うんだけどね。
たとえば、「シオン賢者の議定書」という、
ユダヤ陰謀論者がよく持ち出す文書が、にせ文書であることを
しめしている、こんな本を訳してもいるし。
http://honto.jp/netstore/pd-book_02770606.html

>内田氏が何故か事あるごとに「フェミニスト」に対して噛み付くのは何ででしょう?って、

フェミニズムをdisりたくて文章を書いているのか?
という気さえしてきますよね。
過去になにかあったことは考えられることですね。
具体的になにがあったのかは、知るよしもないけれど。
Posted by たんぽぽ at 2013年05月18日 23:18
 一応、この先生を弁護して言えば、「東大出の女性」なら男性を養える位の経済力がある女性は結構居るのかも知れないですね。エリートでしょうから並の男性より高所得の女性は多いと思うので。

>ポスドク男子を食べさせる

 これは30年以上昔の思い出話なんですが、高校の先生(女性)でお子さんも二人くらい居たのですが、ご主人の話が授業中の雑談で出たことがあって、
「学者のような学生のような」
と言っていたのを思い出しました。
 その時は、ふ〜ん程度に聞き流していたんですが、もしかしたらあの先生のご主人はポスドク(というのも、実はどういうものなのか良く解らないのですが。助手とも違うのかな?)だったのかしら?と思いました。
 教師っていうのも男女差別がない職業ですからね、ただ、うちの学校、公立より給料随分安かったらしいけど(だから女の先生が多かったのかな?)
Posted by イカフライ at 2013年05月18日 23:57
イカフライさま、このエントリにコメントありがとうございます。

>「東大出の女性」なら男性を養える位の経済力がある
>女性は結構居るのかも知れないですね。
>エリートでしょうから並の男性より高所得の女性は多いと思うので。

なるほど。
でもそのくらいの女性だと結婚する男性が、あまりいないような気もしますね。
実際、そういう女性がいて結婚しているのだとしても、
サンプルが偏っていることくらいは、くだんの先生には気がついてほしいと思います。


>もしかしたらあの先生のご主人はポスドク
>(というのも、実はどういうものなのか良く解らないのですが。

ポスドクは「博士研究員」というものですね。
博士号を取ったけれど、正規のポジョションについていないかたです。
非正規雇用の研究者で、任期が3年とか5年とか限られています。
雇用が不安定で、いまの研究者問題の中核をなしている存在と言えます。

「学者のような学生のような」というのは、ポスドク(博士研究員)ではなく、
無給のオーバードクター(ぶっちゃけ博士号は取ったけれど、
まともな就職先がなかったというかた)かもしれないです。
30年前はいまよりポスドクのポジションがすくなかったので、
そういう可能性もあります。


>教師っていうのも男女差別がない職業ですからね、

雇用均等法以前から、男女で差別のなかった希有な職業ですね。
なので、「女性の自立」に熱心な親だと、娘に教員免許を取らせよう
することもありますね。
Posted by たんぽぽ at 2013年05月20日 07:54
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