2013年07月17日

toujyouka016.jpg 鈴木寛とSPEEDIのデマ

7月21日の参院選で東京選挙区から出馬している民主党の鈴木寛氏は、
3.11大震災が起きたとき、文部科学副大臣だったのでした。
そのとき鈴木寛氏は、SPEEDIによる放射性物質の拡散予測データの
一般への公表を控えていたのですが、それをなにか重大な情報を国民に
隠していたかのように糾弾する人たちがいるのですよ。

「参院選東京都選挙区候補者の鈴木寛は、政権入りしていた2011年、
SPEEDIのデータを公表させずに首都圏の住民を被ばくさせた人物」

「東京選挙区、鈴木寛候補についての判断材料 (2013年参院選)」
「鈴木寛スキャンダル参議院選挙2013東京選挙区」
「鈴木寛 原発事故SPEEDI隠蔽の理由」

 
もとの記事は、2012年3月3日の産経新聞のつぎの記事なのですが、
これを読んでも、鈴木寛氏の判断のなにが問題なのかわからないのですよね。
「最悪の事態」「全量放出との前提」なんて実際に起きることはない
極端なデータですから、一般に公表する必要などないからです。

「SPEEDI最悪予測 文科相ら「公表できぬ」 内部文書」

こうしたデータは、原子力発電所の事故処理に当たる人たちが
必要なのであり、彼らだけで把握していればよいものです。
そして極端なデータゆえに数値がものすごいですから、
一般に公表したら数値が独り歩きしてパニックになることが予想されます。
それを警戒して公表を控えたのも当然のことです。

また、鈴木寛氏がデータを公表しなかったことで、
「首都圏の住民を被ばくさせた」などと言う人もいるのですが、
いつ首都圏の住民が被曝したというのでしょうか?
福島の原発事故以降、放射線量は測定されていましたが、
避難が必要なほど線量が高くなったことはあったでしょうか?
松戸や柏でホットスポットが話題になったことがありましたが、
せいぜいそれくらいだったと思います。

そもそも、このSPEEDIのデータのことがそんなに重大なら、
もっと日本中で大騒ぎになっていたはずです。
記事は昨年の3月ですが、ほとんど話題にならずに過ぎ去っています。
(ご存知なかったかたも、多いのではないかと思います。)
鈴木寛氏はごく当たり前のことをしただけなので、
さほどのニュースバリューのない話題だということでしょう。


すこし前の7月14日に、鈴木寛氏が街頭演説の最中に殴られるという
非常にのっぴきならない事件があったのでした。
この事件を受けて鈴木寛氏はフェイスブックで
「表現の自由、そして民主主義を守るために」という記事を書いています。

「表現の自由、そして民主主義を守るために」
(はてなブックマーク)

この中で「ネット上では、私が文部科学副大臣を務めていた際の、
放射能汚染に対する対応について、まったく事実無根の
書き込みが多数に見られます」という文章があります。
これはSPEEDIのことで、鈴木寛氏に対して見当違いの糾弾を
している人たちのことだろうと思います。


>最悪シナリオ

このSPEEDIのお話を聞いてわたしが思い浮かべたのは、
福島第一原発の事故のすぐあとの2011年3月25日に、
内閣府原子力委員長が作った「最悪シナリオ」のことですよ。
これは最悪の場合、福島第一原発から170~250キロの範囲が
避難が必要なくらい放射性物質で汚染されるという推定です。
最悪シナリオを作ったことが、新聞記事で報じられたのは2011年12月24日です。

「最悪事態を想定したことで、冷却機能の多重化などの対策につながった」
と言われていて、最悪シナリオは原発事故の対処に役立ったのでした。
そしてこれは事故の対処に当たる人たちだけで把握すれば
よい情報ですから、一般には公開されなかったのでした。
ところがなにを思ったか、約1ヶ月後の2012年1月21日に、
あたかも菅政権が重大な情報を隠したと言いたげな記事が書かれたのでした。


付記1:
このエントリから貼られているツイートの多くが、
山本太郎氏の支持者というのが、ひとつの傾向を物語っていますね。
彼らはこういう情報に飛びつきやすいということです。
山本太郎氏も7月21日の参院選で、東京選挙区から出馬していて、
脱原発を売りにしています。
鈴木寛氏とは対立候補ということです。

付記2:
鈴木寛氏が福島の復興のために、誠実に働いてくれたことや、
そうした鈴木寛氏を山本太郎氏が攻撃していることで、
福島の人たちが眉をひそめていることが、つぎの記事に書いてあります。

「相馬市長の訴え 「根拠のない、過激な発言が、
福島の人々をどれほど深く傷つけているか知ってほしい」」

(はてなブックマーク)


追記:
付記2の文章をすこし書き直した。
福島の女子生徒・学生が「自分はこどもが産めないのではないか」と
不安になるような言説を、山本太郎氏がしているとは
上氏の記事では書いていないようです。

posted by たんぽぽ at 23:24 | Comment(11) | TrackBack(0) | 疑似科学(にせ科学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
「SPEEDI 公表出来ぬ」って当たり前じゃないですか、そんなの。
仮に福島第一の事故の際、周辺自治体や、広く首都圏にまで、SPEEDIの値を公表したとしますわな。はたしてその値を見て、自分達の自治体はどう言う状況なのかを正確に判断し、何をどうやって住民に告知するかを決定し、住民の安全を最大限に確保することが出来る行政責任者が一人でも居ましたか?と言えば答えは勿論ノーですよ。何をしたら良いか全くわからぬまま、ただただ「汚染される!」とだけ告げられるのですから、パニック続発で全く収拾がつかなくなり、無法地帯と化すのは確実です。
何故なら、どこの行政もそんな訓練をしたこともなければ、SPEEDIについての知識すら、持ち合わせてはいないのですから。そうした類のものは「原発安全神話」に背くものとして、口にすることさえ許され無かったのでね。

責められるべきは、SPEEDIの公表云々ではない。そう言うものを全て覆い隠してきた、原発安全神話ですよ。

未だに、規制委員会がどうの、何たらフィルターがどうの、防波堤がどうだの言っていますが、どこかの自治体で、寝たきり老人から乳飲み子まで全員強制参加の、原発事故避難訓練を実施したところはありますか?無いでしょう。

即ち、原発安全神話は未だにしぶとく生き残っており、それが生き残っている間は、原発再稼働など、馬鹿もたいがいにせい、と言うことですよ。
Posted by ニャオ樹・ワタナベ@モバイル at 2013年07月19日 00:47
ちなみに、たんぽぽさんがお書きになられた、相馬市長のメールについての記事をかかれた上先生も、震災時の現地の医療を大きく支えた立役者でいらっしゃいます。
Posted by 魚 at 2013年07月19日 11:45
ニャオ樹・ワタナベさま、
このエントリにコメントありがとうございます。

いただいたコメントを拝読したのですが、主旨がよくわからなかったです。

SPEEDIのデータの公表を控えたのが問題ないというのは、
実際に事故の処理に当たる人たちだけが把握していればよいもので、
一般の人に対しては非現実的で情報価値がないから、ということです。
「全量放出」の事態は実際には起きていないですから、
このデータをもとにして住民が避難する必要ももちろんないことですよ。


避難に関しては、どこの地域はどれだけ汚染されたという
具体的なシミュレートをするので、その情報を公開すると
住民が反発するので公開できず、必要な避難訓練ができなくなる、
というお話を聞いたことがあります。
Posted by たんぽぽ at 2013年07月19日 20:25
魚さま、このエントリにコメントありがとうございます。

>相馬市長のメールについての記事をかかれた上先生も、
>震災時の現地の医療を大きく支えた立役者でいらっしゃいます

おお、そうなのですね。
記事を読んで、現地のことをよくご存知のかただろうとは思ったです。
Posted by たんぽぽ at 2013年07月19日 20:26
たとえその時のSPEEDIの結果が、極めて現実的な予想値だったとしても公表出来る訳が無い、と言っているのですよ。

公表された側、例えば周辺自治体の行政や警察、消防などは、誰もその値の判断方法を知りません。それがどんな条件で算出された値なのかも知りません。適切な対処方法も知りません。分かるのはただ「放射性物質が飛んで来るかもしれない。」ってことだけ。しかも飛んで来たって見えもしない。
となると、どうなるか。パニック。おしまい。

万が一の事故の時の対応方法が、電力会社から周辺自治体から国に至るまで徹底的に決められていないのであれば、たとえ正確に影響予想なんぞしても、何の役にも立たないのですよ。

そんな何の役にも立たないものを公表しなかったから悪だとか、的外れもいいところです。
問題なのは、そうしたシュミレーターがありながら、全くそれを使う意味が無い状態な、日本の原発のあり方だと言うことです。

そしてそんな状態は、未だに何ら改善されていないのではないですか?安全にします、安全にしますばっかりで、事故対応の話は一切無し。なのに再稼働とか、頭おかしいんじゃね?って、言わずにはおれんね私は、と言うことです。
Posted by ニャオ樹・ワタナベ@モバイル at 2013年07月20日 00:05
文科省も「当初から公表が必要だった」と問題を認めてます
同心円で避難させた結果、避難した住民が避難先で被曝したケースをご存知ですよね?
また、同心円の20km内でもほとんど放射線物質が検知されない部分が多くあったのにもかかわらず、間違って避難させたのは明らか
SPEEDIを用いたまだら型の避難を行っていれば、故郷を離れる住民の方も少なくて済んだはず
結局は自らの保身のために、情報を隠す人でなし
Posted by 山中 at 2013年07月21日 06:15
山中様

>SPEEDIを用いたまだら型の避難を行っていれば、故郷を離れる住民の方も少なくて済んだはず

だから現状では「SPEEDIを用いたまだら型の避難」など、させたくともさせられないのですよ。
SPEEDIの予測値がいくつ以上の範囲の住民をどの程度の時間内に避難させる必要があるのか、避難出来ない住民にどんな悪影響があるのか、あなた正確に知ってますか?
それも、ただ正確に知っているだけでは全然足りません。自宅を離れたがらない住民に、何故避難が必要なのかを説明し、全員に納得ずくで避難してもらう必要があるのですよ。それもタイムリミットまでに。

残念ながら今の日本では、誰一人そんなことは出来ないのですよ。それをやるためには、事前に同一の原発事故対応方法が、住民全員に徹底的に共有されている必要がある。「玄関脇のこのブザーが赤点滅したら、一時間以内に指示がある場所に向けて避難しなければならない。」とかね。

そうした体制を一向に作ろうとしないまま原発を再稼働させる日本政府は無責任の極みですが、そうした体制が無ければ何の役にも立たないSPEEDIのデータを公表しなかったことを、浅はかな見当違いで犯罪者呼ばわりすることも、また無責任の極みと言えるでしょう。
Posted by ニャオ樹・ワタナベ@モバイル at 2013年07月21日 17:35
ニャオ樹・ワタナベさま

実際に放出された量にもとづくSPEEDIの予測値に対しては、
どうしたのかは、わたしにはわからないです。
なのでこのお話に深入りするのは、わたしには遠慮させてくださいね。

わたしがわかる、というか、このエントリでお話しているのは、
算出したデータは「全量放出」という極端なケースなので、
一般に公表する性質のものではないということです。
Posted by たんぽぽ at 2013年07月21日 20:47
山中さま、いらっしゃいませ。
コメントありがとうございます。

同心円で避難させたので失敗したというお話は、わたしも聞いたことがあります。
でもあまりくわしくないので、わたしは深入りしないでおきますね。
Posted by たんぽぽ at 2013年07月21日 20:48
鈴木寛氏がどうしてこんなにSPEEDIの件で言われているのか真相が知りたかったのですが、ようやくここを見つけました。批判するブログはあっても肯定するところがほとんどなく、真意がつかめませんでした。
SPEEDIの情報の性質に問題があることとその情報をもとにどう対応すべきだったのかが、過去にまったくとられていなかったということですか。
私は鈴木氏をほとんど知りませんが貧困問題に取り組んでいる湯浅誠さんがなぜ、彼を応援しているのかの理由が知りたかった。要はマスコミに踊らされて批判に乗っかってしまったということですね。
参考になりました。
Posted by tetsu at 2013年07月23日 20:52
tetsuさま、いらっしゃいませ。
コメントありがとうございます。
わたしのお返事が遅くなって、もうしわけないです。

わたしのつたないブログがお役に立って、こちらこそうれしく思います。
ささやかながらエントリを書いた甲斐があったと思います。

>批判するブログはあっても肯定するところがほとんどなく、真意がつかめませんでした。

ブログを書くかたの多くは、科学リテラシーが弱かったり、
政治的に左寄りだったりして、いろいろと問題があるのですよね。
ちゃんとしたことを書く人ももっと多ければいいんだけど、
書き手の立ち位置は偏ってしまうようですね。

>私は鈴木氏をほとんど知りませんが貧困問題に取り組んでいる湯浅誠さんがなぜ、
>彼を応援しているのかの理由が知りたかった

すくなくない著名人が鈴木寛氏を応援するのは、相応の理由があるのですよね。
直接会ったかたは、たいてい鈴木寛氏を評価するようです。
よろしければこちらのエントリも、ご覧いただけたらと思います。
http://taraxacum.seesaa.net/article/369640738.html
http://taraxacum.seesaa.net/article/369806729.html
Posted by たんぽぽ at 2013年07月27日 10:28
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