一般に女性よりも男性のほうが育児休暇を取る人はすくないし、
また取りにくい状況にあることは、よくご存知のことと思います。
最近になって、男性が育児休暇を取りにくくなる圧力をかけることが、
「ハラスメント」として注目されはじめているので、ご紹介します。
「男性の育休取得が激減…背景に「パタハラ」」(1/4)
「男性の育休取得が激減…背景に「パタハラ」」(2/4)
「男性の育休取得が激減…背景に「パタハラ」」(3/4)
「男性の育休取得が激減…背景に「パタハラ」」(4/4)
記事の3ページ目にその具体例が出ているので引用します。
育児休暇を取りたいと言った男性社員に対して、
その上司が「男が育児休暇を取るなどケシカラン」と圧力をかけるのですよ。
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上司: 「なんで、男のおまえが育休なんて取るんだ。キャリアに傷がつくぞ」
Aさん: 「たかだか4カ月のブランクでキャリアに傷がつくとしたら、
僕がそれまでの人間だったということです」
上司: 「子どもの教育費は何千万円もかかるんだぞ。いっぱい残業して金を稼ぐ。
これが家長としてのあるべき姿だ!」
Aさん: 「うちの場合、妻の方が給料も高いので妻を世帯主にしているんです。
僕は家長ではありません…」
上司: 「そういう問題じゃない!バカモノ」
Aさん: 「子どもが熱を出したという連絡を保育園から受けたので、
すみませんが早退します」
上司: 「バカモノ、そんなのは女房の役割だろ!」
Aさん: 「うちの妻は出張中なので無理です。
私は今日やるべき仕事はもう終えていますから」
上司: 「そういうマイホームパパって奴(やつ)は、会社には不要なんだ。
そんなことをしていると、評価を最低に落とすぞ」
Aさん: 「私は仕事をきちんとやっています。
それに、家族の看護で休暇を取得できると就業規則にも書かれていますが」
上司: 「家庭の事情で会社に迷惑をかけるのだから、評価が下がるのは当然だろう。
そもそも、子どもが小さいのに、ほいほいと出張するような
無責任な女と結婚したおまえの配偶者選択が間違っている!会社に迷惑をかけるな」
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この上司は「育児は仕事の邪魔」「育児は女の仕事」
「男の仕事は働いてお金を稼ぐこと」「育児をしない女はケシカラン」と言った、
前時代的なジェンダーの固定観念で硬直していることがわかりますね。
「家長」というのはなんだ、そんなの現行民法に存在しないよとか、
「配偶者選択が間違っている」なんて、他人のプライベートな選択に
くちばしをはさむなど大きなお世話だとか、
いろいろと突っ込みたくなるところがありますね。
「いっぱい残業して金を稼ぐ」というのは、「男が稼ぐべし」という
カチカンのほか、男性が会社にいる時間が長くなることで、
家事育児をする時間が短くなる原因にもなっている
という点でも、問題視することだと思います。
記事には「最終的には人事部門が間に入り、「育休を取得させないと、
会社が労基署から摘発されかねない」」とあります。
法律違反の可能性を言われて、ようやくくだんの上司は折れるわけで、
相当に悶着がひどかったのだろうと想像されます。
この上司はかなり典型的で、絵に描いたようなタイプだと思います。
ところがこうした考えに取り憑かれている人たちは、
現地の女性社員に訴えられたアメリカにある日本企業や、
安藤美姫バッシングを見てもわかるように、依然として日本社会に
蔓延しているのであり、こういう上司をリアリティのある存在として
イメージするのは、たいしてむずかしくないことだと思います。
男性が育児休暇を取ることに対しては、年齢層が高くなるほど
理解する人がすくなくなることが予想されます。
記事の3ページでは、トヨタラクティスの「イマドキ家族調査」にある、
「子どもの誕生日に有給とっちゃう。これってアリ?」という調査を引用しています。
「子どもの誕生日なのでお休みいただきますっ!」
これを見ると、やはり年齢層が高いほど反対する人が多い
という傾向が出ていることがわかります。
したがって男性の育児休暇に対しても、年齢層が高いほど
理解が薄くなることも予想されると言えるでしょう。
「子どもの誕生日に有給とっちゃう。これってアリ?」(年齢別)
よって子育て世代の男性社員が育児休暇を希望しても、
上司が理解をしめさないことは、すくなからずあると考えられるわけです。
その意味でも、上に引用した育児休暇を取りたい男性社員と
それに無理解な上司とのやりとりは、どこでもありえる
リアリティのあることと考えられるでしょう。
人はだれもみな家庭があっての仕事だと思いますし、
男性も家庭生活を重視する権利はとうぜんあります。
社会が特定個人のライフスタイルのありかたに干渉することが
好ましくないのは言うまでもないでしょう。
したがって、男性が育児休暇を取りにくくする圧力は、
「ハラスメント」として認識されることだと、わたしは思います。
「パタニティ・ハラスメント(パタハラ)」と呼ぶそうですが、
また新しいことばが出て来た、という感じですね。
それでも「セクハラ」と呼ぶとイメージしにくいですし、
男性が受けるジェンダー的抑圧は女性のそれとくらべて
かえって目立たないことも多々あります。
それゆえ新しいことばを作って喚起するのは、意味があるのでしょう。