すでに話題になっているニュースです。
9月4日、婚外子の相続差別に対して、ついに最高裁が違憲判決を下しました。
日本の民法改正史上の大ニュースですよ。
「「婚外子」相続差別 最高裁が違憲判断」
「民法の相続規定、婚外子差別は違憲・無効 最高裁大法廷」
「家族観の変化重視、「個人の尊厳」優先 婚外子差別は違憲」
「婚外子相続差別は「違憲」 最高裁決定、民法改正へ」
「婚外子の相続差別規定は「違憲」…最高裁決定」
「婚外子相続格差は違憲=「家族形態は多様化」ー民法規定めぐり初判断・最高裁大法廷」
最高裁決定の公式文書はこちらです。
「平成25年9月4日 大法廷決定 平成24年(ク)第984号,第985号 【公式・pdf】」
この違憲判決を受けての弁護士のツイートを紹介した記事があります。
「「ついに出ました」 弁護士も続々ツイートした「婚外子訴訟」違憲決定」
そのほか今回の婚外子差別の違憲判決に関する記事は、つぎにまとめてあります。
「非嫡出子 (婚外子) 相続 格差 最高裁 違憲判決 のまとめ 内縁の子」
それにしても、ようやく違憲判決が出るところまで来たかと思います。
遅すぎたの感もあります。
それでも審理に加わった裁判官14人全員一致の結論です。
家族法に関するひさしぶりの明るい話題です。
婚外子の法定相続額は婚内子の半分とするという民法900条の規定は、
今年の2月と6月に、最高裁大法廷に回付されたのでした。
大法廷回付となったので違憲判決が出る可能性は高かったのですが、
予想通りの結論が出たことになります。
「婚外子差別を大法廷回付」
「婚外子差別を大法廷回付」
「婚外子差別・最高裁弁論」
婚外子の相続差別規定は、いまから115年前、
1898年に定められた旧民法からはじまっています。
このときは、婚外子にも一定の権利を認めてあげる、という立場だったのでした。
まだ男性が正妻のほかにめかけを作るのがめずらしくなく、
嫡出子と庶子、私生児と妻やめかけとが複雑に利害対立していた時代です。
なんと19世紀に定められた法律を、きょうまで引きずってきたのですね。
敗戦後の1947年に民法改正がなされ家制度が廃止されるとき、
婚外子の相続差別をどうするかについても取りざたされたのでした。
ところが、旧民法時代の妻の立場があまりに弱かったため、
その立場を守りたいという意見が、女性議員からもあったのでした。
それで正当な婚姻を推奨していることをしめすため、
婚外子の相続差別は残されることになったのでした。
ベアテ・ゴードンがはじめに日本国憲法の草案を書いたときは、
婚外子差別を明確に禁止する条文を書いていたのでした。
ところが、民政局の男性スタッフに理解されず、削除されたのでした。
婚外子差別禁止の条文が憲法で採用されていれば、
婚外子の相続差別はこの時点でなくなっていただろうと思います。
婚外子の相続差別に対して違憲性を争う裁判は、
これまでにもいくつも行なわれて来ました。
いまから20年前の1993年6月23日に、はじめて婚外子の相続差別が
違憲であるという判決が、東京高等裁判所から出ています。
それ以降今日にいたるまで、婚外子の相続差別を
違憲とする判決はいくつも出ています。
最高裁の最初の判断はいまから18年前、1995年の大法廷決定です。
このときは「法律婚の尊重と、婚外子の保護の目的があり、
著しく不合理とは言えない」として、婚外子の相続差別を合憲とした、
ということは、よく話題になることだと思います。
その後最高裁の小法廷で、婚外子の相続差別について、
違憲性が争われることが何度もありました。
小法廷は裁判官が5人ですが、いつも合憲が3人、違憲がふたりで
合憲としたひとりが「違憲の疑いもある」「すみやかに法改正を期待する」
といった補足意見を付けるという、きわどい状態が続いていました。
いまから3年前、2010年にも婚外子の相続差別が、
大法廷回付されたことがあったのを、覚えているかたもいるかと思います。
このときは、原告とのあいだで和解が成立したので、
憲法判断にいたらないまま、終わってしまったのでした。
今回2013年にあらためて、大法廷回付されたことになります。
今回の違憲判決に対するマスコミの取り上げかたはとても大きいです。
朝日新聞はこのニュースのために号外を発行しています。
家族法なんてたいして話題にならないのが相場なので、ちょっとびっくりです。
19世紀以来維持され続けた法律に違憲判決が下ったのですから、
歴史的なニュースではあるのでしょう。
新聞記事は、婚外子差別の歴史や、日本が批准している国連人権B規約や
子どもの権利条約に反し、国連委員会からくりかえし勧告を受けていること、
欧米の民主主義国をはじめ、中国や韓国でも婚外子差別が
なくなっていることなど、いろいろなことに触れています。
また5日には各新聞社とも、違憲判決にしたがって早急に民法改正するべし、
という主旨の社説も書いています。(まとめ参照)
婚外子の相続差別に違憲判決が出た以上、民法改正するのが当然の流れです。
問題は安倍政権がどのくらい積極的に行なうかだと思います。
婚外子差別の廃止は、彼らが信奉する「家族のカチ」に真っ向から抵触します。
「婚外子と嫡出子の相続を平等にすれば、現在の結婚制度そのものが崩れかねない」
という「お約束」の懸念もすでに出ているようです。
婚外子の相続差別撤廃なんて、もっともやりたくないことのひとつでしょう。
そう考えると、「家族のカチ」への信仰の強い安倍政権のときに、
婚外子の相続差別に違憲判決が出たのは、皮肉と言えるかもしれないです。
「菅官房長官、民法改正検討の意向 婚外子差別違憲判断」
「過去の相続には影響せず 最高裁、「法的安定性」に配慮」
「立法的手当て当然…相続巡る違憲判断で官房長官」
法務省は秋の臨時国会で改正案を提出したいとしています。
ご存知のように、1996年に法制審議会が答申を出しているので、
今回は法制審議会に諮問せずに作業を進めるもののようです。
安倍政権の要人たちも、前向きなことを言ってはいます。
菅義偉官房長官は「判断内容を十分精査したうえで、
立法的な手当てというのは当然だろう」「できる限り早く対応するべきだ」
と述べていますし、あの高市早苗政調会長でさえも、
「政府と緊密に連携し、真摯に対応したい」とコメントしています。
谷垣法務大臣も「違憲立法審査権を有する最高裁判所が、
憲法違反の判断をしたことは厳粛に受け止める必要がある」と述べています。
さすがに違憲判決が出た以上、それを無視することは言えないのでしょうね。
最高裁判所判例には法的拘束力があるので、現時点で未決着のものや
これから発生するものに対しては、民法改正を待つことなく
今回の違憲判決が適用され、婚外子と婚内子の相続格差はなくなります。
なので民法改正を先送りにしても、意味がないどころか
かえって混乱を招くことになるとは言えるでしょう。
付記:
国籍法改正のときは、違憲判決のあとすぐに法律改正がなされました。
法案提出の直前に「国士さま」たちが気がついて、
大変な吹き上がりようになったのではありますが。