9月4日に婚外子の相続差別に違憲判決が出たことで、
婚外子に関するほかの差別も廃止しようという動きが出ています。
相続格差は婚外子差別の象徴とも言えるわけで、実際相続格差の存在が、
婚外子に対するさまざまな差別を正当化してきた面もあると思います。
廃止しようとする動きのある婚外子差別は
1. 出生届けのチェック欄
2. 寡婦控除
のふたつがおもなものとなっています。
「婚外子:戸籍法改正も検討 現状は記載義務付け」
「残る「差別」 出生届けにチェック欄 寡婦控除は適用除外」(1/2)
「残る「差別」 出生届けにチェック欄 寡婦控除は適用除外」(2/2)
「婚外子家庭への独自制度陳情」
>出生届けの嫡出・非嫡出のチェック欄
出生届けには現行の戸籍法にもとづいて、産まれた子どもが
「嫡出子」か「嫡出でない子」かを選んでチェックする欄があります。
これもかねてから婚外子差別を助長するとして、
チェック欄をなくすことを市民団体などから要求されてきたのでした。
法務省は民法改正と合わせて、婚外子かどうかの記載を
出生届けに義務づける戸籍法も、改正する方向で検討を始めています。
嫡出・非嫡出のチェック欄の廃止は実現する可能性があると思います。
じつは出生届けの嫡出・非嫡出のチェック欄があるのは、
憲法の「法のもとの平等」に反するとして、
国家賠償訴訟を起こした事実婚のご夫婦がいらっしゃったのでした。
残念ながら、1審、2審ともに原告の敗訴となっています。
チェック欄があることで、このご夫婦はお子さんの出生届けを
出していなくて、子どもには戸籍も住民票もない状態が続いていました。
今年の1月に自治体の世田谷区が「児童の将来に配慮する」
「子供の人権に配慮」として職権で住民票を作ることになりました。
「出生届のない子に住民票」
>寡婦控除
「寡婦控除」は母子家庭に対して、所得税や地方税が所得から控除される制度です。
寡婦控除があると保育料や市営住宅の家賃も減免されることになります。
これは夫が死亡したり、離婚した場合が本来の対象になっていて、
非婚の母(シングルマザー)には通常適用されなくなっています。
婚外子の母親も未婚ですから寡婦控除が適用されないことになります。
2011年度の全国母子世帯等調査結果報告によると、平均年間就労収入は、
非婚世帯160万円、死別世帯256万円、離婚世帯176万円です。
未婚世帯がもっとも経済的に苦しく、現在の寡婦控除は、
未婚のひとり親にこそいちばん必要ということになります。
「ひとり親世帯の平成22年の年間収入」
そこで日本弁護士連合会が今年の1月に、非婚の母に対しても
寡婦控除を「みなし適用」するべきだ、という要望書を出しています。
これを受けて、八王子や千葉などいくつかの自治体で、
非婚の母にも「みなし適用」するところが出て来ています。
「日弁連 非婚の母に寡婦控除適用を」
今回の婚外子の相続差別の違憲判決を受けて、未婚母の世帯にも
寡婦控除を「みなし適用」する自治体が増えることが考えられます。
寡婦控除はもともと戦争未亡人を救済するために作られた制度で、
時代を感じるのですが(「寡婦」とは「やもめ」ですからね)、
税法上の「寡婦」は法律婚をしたことのあるものとされています。
そのため非婚のシングルマザーには適用されなかったのでした。
制度が導入されたころは、夫を兵隊に取られて戦死して、
未亡人になった女性が多かったので、こちらは救済の必要があったし、
非婚の母は珍しかったので、こちらは対処を考えなかったのでしょう。
当時としては時代の事情に合っていたのだと思います。
時代が変化して戦争未亡人がいなくなり、非婚の母が増えて来て、
制度の矛盾が眼につくようになったと言えます。
「寡婦控除」には、「女と子どもは男に属してなければならない」という
発想が背景にあると考えることもできると思います。
離婚や死別はかつて男に属していたことがあるから大目に見るけれど、
非婚は男に属したことがないから認めない、ということです。