安倍晋三首相はニューヨークへ外遊しているのですが、
9月25日にニューヨークの証券取引所で、スピーチを行なったのでした。
その全文が動画とともに以下に載せられています。
「ニューヨーク証券取引所 安倍内閣総理大臣スピーチ」
この中で安倍首相はこんなことを言ったのですよ。
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ゴードン・ゲッコー風に申し上げれば、世界経済回復のためには、3語で十分です。
「Buy my Abenomics」
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世界経済の回復のためには「アベノミクスを買いなさい」ですよ。
日本経済を中心に世界が回っているのではあるまいし、
ずいぶんと大きく出たというか、自意識過剰なものを感じます。
アベノミクスが好調なので、得意になっているのかもしれないです。
ここでわたしが問題にしたいのは、安倍首相の「Buy my Abenomics」の
もとになったセリフを吐いたゴードン・ゲッコーですよ。
このゴードン・ゲッコーという人物は、オリバー・ストーン監督の映画
『ウォール街』に出てくるアンチヒーロー(悪役)なのです。
わたしははじめて知ったのですが、『ウォール街』という映画は、
アメリカではかなり話題になった作品で、よく知られているもののようです。
経済や金融の記事で引き合いに出されることもよくあります。
主人公のゴードン・ゲッコーは投資家ですが、倫理観の欠如した人間で、
最後はインサイダー取引をしたことで逮捕されることになります。
作品中のゲッコーのセリフ、「Greed is good.(貪欲は善だ)」
「Money never sleeps.(金は眠らないぞ)」や、安倍首相がもとにした
「Buy my book.(俺の本を買え)」は、名セリフとしてはやったりもしました。
またゲッコーに憧れて金融界に入ったり、ゲッコーのファッションを
真似する人も出て来たりして、ゲッコーを批判的に描いた
ストーン監督としては、はなはだ不本意なことにもなったのでした。
かくして安倍首相は、架空の人物とはいえ犯罪者にならって、
ニューヨークの投資家を相手にアベノミクスを売り込んだことになります。
これはいわば麻生氏の「ナチスに学べ」発言とおなじように、
本来反面教師とすることを肯定したと思われかねないわけです。
翌日9月26日の記者会見では、映画の登場人物とはいえ経済犯が
首相の演説の題材として適切だったのかと、質問されることになりました。
菅官房長官は一生懸命釈明することになったのですが、
首相が軽卒な発言をすると、まわりがフォローするのが大変ですね。
「「Buy my Abenomics!」は犯罪者のせりふから?官房長官が擁護」
「金融犯罪者のセリフを得意気に振り回す安倍晋三の日本国は犯罪国になりそうです」
安倍氏の「ゲッコー発言」は英語圏ではちょっと問題になったようで、
「テレグラフ」紙や「クーリアメール」紙が批判的に取り上げています。
政権が安倍になってから、いままでにいろいろな人たちが
失言をやらかして国際的に批判されましたが、
ついに安倍首相がみずから失言したことになりそうです。
「Japan has made 'Gordon Gekko comeback', says PM」
「Japan defends 'Gordon Gekko' line by prime minister Shinzo Abe」
日本のメディアはといえば、「ゲッコー発言」をぜんぜん批判的に
取り上げないどころが、「気の効いた演説だった」とばかりに
持ち上げさえするのですが、これはいつものことと言えるでしょう。
もっともツイッターなどネットでも、それほど批判は高まっていないようです。
経済犯と言っても架空の人物なのでインパクトが弱いのか、
それとも映画『ウォール街』が、日本ではあまり馴染みがないからかもしれないです。
つぎの記事を見ると、安倍首相がニューヨークの証券取引所で
行なった演説は、スピーチライターが原稿を書いたとあります。
内閣審議官の谷口智彦氏で、もとは「日経ビジネス」の記者であり、
安倍首相がこの谷口氏をスピーチライターに指名しています。
したがって「ゲッコー発言」は、このスピーチライターに
思慮が足りなかった、ということになるでしょう。
「安倍首相の「名言」生み出すスピーチライター 元「日経ビジネス」記者が大活躍している」