2013年10月12日

toujyouka016.jpg 河野洋平の提訴を検討

このところ従軍慰安婦否定派の動きが活発でゆゆしいかぎりですが、
そのひとつに今年7月に加瀬英明氏という人物が作った、
「「慰安婦の真実」国民運動」という市民団体があります。

この否定派の団体が、日本政府の慰安婦問題に対する基本姿勢である
「河野談話」を、撤回させようと躍起になっているのですよ。
先月の記事ですが、ご紹介したいと思います。

「河野洋平氏を提訴へ 「国民運動」談話撤回求める署名も3万超」

 
この団体は「河野談話」の撤廃を求める署名を30867人集め、
さらには河野洋平氏個人を提訴する(!)ことも検討しているのです。
それで産経新聞が上記リンクのような、慰安婦否定派の思い込みを
たくさん並べた、やたらはりきった記事を書いたのでしょう。
否定派が訴えられることもあるので、やり返せると思ったのかもしれないです。

慰安婦の否定派たちは、「河野談話」は根拠のない文書であり、
国際社会が慰安婦問題について「誤解」する元凶だと信じています。
それゆえ「河野談話」の撤回に必死になるのですね。
河野洋平氏を提訴するのは、エキセントリックなことだと思います。
河野談話は政府の見解であって、河野洋平氏個人が発表したものではないからです。
個人を目のカタキにするところに、否定派の認識が現れていると思います。

「「慰安婦の真実」国民運動」の代表、加瀬英明氏というのは、
わたしは初耳だったのですが、かなりいわくつきの人物のようです。
「日本教育再生機構」の委員をやって、「体罰の会」の会長をやって、
自由社という「つくる会」系の教科書会社の社長をやって、
年表を盗用して騒ぎになったりと、かなり物議をかもした人です。


河野談話が出される発端は、日本軍が慰安所の設置を指示した文書を、
あの吉見義明氏が防衛庁防衛研究所図書館で発見したことです。
この6点の史料について、1992年1月11日に朝日新聞で報道されると、
大反響を呼び、1月12日に加藤紘一官房長官(当時)が日本軍関与を認め、
1月17日に宮沢喜一首相(当時)が日韓首脳会談で公式に謝罪するのでした。

それからほかにも史料はないかと、多くの人が調査をはじめ、
1993年には60点以上の史料が見つかり公開されることになります。
こうした調査結果を受けて、日本政府もある程度の資料調査と
韓国人もと慰安婦のヒアリングを行ない、その結果をもとに
1993年8月に「河野談話」を発表することになります。
ここに日本政府は、慰安所設置における軍や官憲の関与を公式に認めたわけです。

慰安婦問題への関心にともなって、たくさんの史料が発掘されたので、
日本政府は慰安所設置に関する軍や官憲の関与を認めざるをえなくなり、
史料にもとづいた「河野談話」が発表されたということです。
「何一つ証拠がなかったにもかかわらず」というのは言いがかりであり、
否定派が被害妄想の中にいることをしめしていると言えます。

ちなみに、韓国人元慰安婦3人が日本政府の謝罪と賠償を求めて
東京地裁に提訴した有名な事件は、1991年の12月です。
吉見義明氏が史料を発表したのは、この衝撃的事件の翌月で、
日本社会が慰安婦問題に対して関心が大きかった最中だったのでした。
それで軍や官憲の関与が証明されたことは、反響が大きかったのでした。


記事の全部のページに出てくる写真の大高未貴氏は
「チャンネル桜」というかの有名な右翼団体のキャスターです。
また「なでしこアクション」の山本優美子代表のコメントも載せています。
「なでしこアクション」は、ニューヨーク州で慰安婦非難決議
可決されるのを阻止しようとして、大量にメールを送ったあの団体ですよ。

彼女たち否定派は、かえって印象を悪くして逆効果なのに
なぜにせっせとメールなどで抗議を大量に送るのかと思うところです。
慰安婦のことで日本批判が広まるのは、韓国の団体ばかり積極的に発言して、
日本が発言しないからだと思っているのかもしれないです。
それで自分たちも発信しなければと、必死になるのかもしれないです。

根拠がないことがすでにわかっていることばかり発信するので、
相手にされないどころか印象を悪くすることには、気がついていないようです。
それで逆効果になっても「やりかたが悪かった」と思うだけで、
自身の主張の本質的間違いがわからないのでしょう。

記事では毎ページの写真で目立つようにしたりして、
「女性」を前面に出すところがいやらしいと、わたしは思います。
「女性だって慰安婦問題を否定している」とアピールすることで、
否定論をもっともらしく見せつつ、「女性差別」の印象を薄めようというのか、
それとも女性同士の対立図式を作ろうというのか、
そういった意図を感じないでもないです。


記事の5ページ目には、第一次安倍政権のとき河野談話を否定する
閣議決定がなされた、などと書いてあります。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130916/plc13091612030003-n5.htm
========
実は第1次安倍政権の平成19年3月、当時は社民党に所属していた
辻元清美衆院議員の質問主意書に答えて、政府は「河野談話」に関連し
「政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を
直接示す記述は見当たらなかった」とする答弁書を閣議決定している。
========

これはつぎのエントリで検証されているので、ご覧になるといいでしょう。
結論を言うとデマで、河野談話否定の閣議決定はありませんでした。
ところが否定派のあいだでは信じられていて(橋下徹氏も信じていた)、
産経新聞も堂々と記事に書くわけです。

「5年前の歴史すら修正する従軍慰安婦否定論者」

実際には閣議会議で政府が軍関与をしめす資料を見つけられなかった、
という発言があっただけです。
韓国メディアの中央日報が、これを「河野談話を公式に否認」と書いたので、
それが独り歩きしたのでしょう。

辻元清美議員の質疑に対する安倍政権の答弁書は、2007年3月16日に
出されるのですが、ここでは安倍政権も河野談話を継承すると述べていて、
これが実際の閣議決定した内容です。
さすがの安倍政権も閣議決定で、正式に河野談話を否定する度胸は
なかったもののようです。


ブックマークはしっかりたくさん付いて、「週間政治と経済3位」に輝いています。
ほかにもメタブックマークや、ほかのページに直接つけたブックマークもあります。
はてなの人たちが大好きな慰安婦の記事ですし、「河野洋平を訴える」
という発想がエキセントリックですし、「さすが産経」と言いたくなる
気合いの入った記事なので、たくさん集まるのでしょう。

ブックマークには否定派も混じっているようで、「はてサ発狂」とか
「はてサが悔しがっている」というコメントがちらほらあります。
これらの人たちは、この訴訟に勝算があると思っているのでしょうか?
はてなサヨクたちの考えていることは、「これは勝ち目のない裁判であり、
この機会に否定派は敗訴して思い知ればよい」だと思いますよ。


付記1:
韓国人元慰安婦が提訴してから「河野談話」が発表されるまでの過程は、
吉見義明氏の有名な著書『従軍慰安婦』の「序」にくわしいです。

付記2:
8月9日エントリのコメント欄で、加瀬英明氏が河野洋平氏の提訴を
考えていることを取り上げてほしいとリクエストがあったので、
遅ればせながらこのエントリを書いてみたしだいです。

posted by たんぽぽ at 23:01 | Comment(0) | TrackBack(0) | 家族・ジェンダー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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