2013年10月26日

toujyouka016.jpg やなせたかしの性教育

「アンパンマン」の生みの親である、漫画家のやなせたかし氏が、
10月13日に亡くなったのは、とてもニュースになったのでした。

そのやなせたかし氏が性教育の絵本という、ほかの作品とくらべると
かなり異色なものを描いていたことが、記事になっているのでご紹介します。
いまから40年ほど前のことです。

「やなせさん日本初の「性絵本」描いていた」

 
「1972年に出版された3歳児以上向けの性教育絵本
『なぜなのママ?』」という絵本で、絵はやなせたかし氏が描き、
文章は「性を語る会」代表の北沢杏子氏が書いています。
内容は「勃起した父親の男性器からピュッ!と発射された精子と
母親の卵子が合体し、受精する決定的瞬間を描いている」とあります。
幼児向けながら、くわしいことまで正確に描かれているようですね。

やなせたかし氏と北沢杏子氏が性教育の絵本を書くことにしたのは、
性教育がタブー視された当時の風潮に危機感を持ったことがあります。
性教育を教えないことで、性に関する必要な情報が普及せず、
それゆえ知識のないまま危険なセックスをする人が多くなり、
かえって性に関する問題が大きくなることは当時も起きていたのでした。

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「70年代までの日本は『赤ちゃんはコウノトリが運んでくる』だの
『処女崇拝』だのといった貞操観念の性教育がうたわれていた時代でした。
でも、その裏で“妊娠即中絶”などの問題が表面化。
そういった性教育は時代遅れと感じた文部省(現文科省)から、
私は性教育教材の早急な制作を依頼されました。
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危険なセックスを減らし、望まない妊娠や性暴力をはじめとする
性のさまざまなトラブルをなくすには、性について正確な情報を
提供する必要があると考えたのが、絵本の執筆の動機ということです。
性について積極的に情報を提供することは現在の多くの国で行なわれていて、
実際に成果が出ていることは、よくご存知のことと思います。

「外国と日本の性教育」


上述の引用部分を見ると、1970年ごろまでの日本社会の
性に関する感覚は、びっくりするくらい忌避的だったようですね。
(「禁欲的」を通り越していると思います。)
現在も「純潔思想」を信奉するジェンダーに因習・反動的な人たちが
性教育バッシングをしますが、おそらくそれ以上だったのでしょう。

処女崇拝についても、現在では女性に対して差別的と理解され、
まがりなりにも「気持ち悪い」と批判されるようになっていますが、
当時はずっと大手をふるってまかり通っていたものと思います。

「処女萌え男の精神構造」

そういえば、40年くらい前は結婚したけれど子どもの作りかたが
わからなくて、恥を忍んで産科に訊きに行った夫婦がいる、
というお話を、わたしは聞いたことがあります。
性に関するカチカンがこんな調子なら、子どもの作りかたが
わからない親というのも、あながち珍しくなかったことも考えられます。


性に関する社会通念がこんな調子ですから、やなせたかし氏の
性教育絵本を、とても受け入れられない人もとうぜんいたのでした。
絵本の並んでいる棚ごとひっくり返されたとか、
著者の北沢杏子氏の家に石が投げられたりしたとあります。
おそらくやなせたかし氏も、同様のバッシングを受けたと想像できますね。

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「都内の高級デパート内にあった書店に並べられたんですが
『こんなハレンチな物は許さん!』って、一般のお客さんに棚ごと
ひっくり返されたことがありました。私の自宅窓には石が投げられたり…」
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「七生養護学校問題」を思わせる乱暴なお話だと思います。
こんなことをしたのは、「純潔思想」に取り憑かれた右翼などではなく、
一般の人らしいということが、いまから見れば衝撃的だと思います。


現在、性教育は国際的にはどんどん進んでいくのですが、
日本の性教育は国際的動きとは対照的に、立ち遅れが目立つのでした。
00年代に上述の「七生養護学校問題」に象徴されるような、
「純潔思想」を信奉する人たちによる性教育バッシングが吹き荒れて、
日本の性教育は萎縮してしまい、そこからまだ立ち直っていないからです。

「外国と日本の性教育」

そして2013年の現在、「純潔思想」を信奉する安倍晋三が首相となり、
ふたたび性教育が危機的な状況に陥っていると言えます。
「古きを尋ねて新しきを知る」ということばがありますが、
やなせたかし氏が性教育の絵本を描いた40年前のお話は
性教育の現状を考える上で、じゅうぶん教訓的なことだと思います。


付記:
やなせたかし氏については、前にこんなことを書きました。

「アンパンマンの哲学」

posted by たんぽぽ at 20:15 | Comment(0) | TrackBack(0) | 家族・ジェンダー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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