2013年12月07日

toujyouka016.jpg 同性結婚と生物の目的?

「生物の目的は子孫を作ることだから、子どもを作れない同性結婚は
積極的に否定するべき」などという、同性愛差別のテンプレートとでも
言えることを言うかたがいて、ちょっとした騒ぎになったのですよ。

「生物の目的は子孫を残すことだから同性結婚は反対!」
(はてなブックマーク)
https://twitter.com/guchinandayo/status/405474092137988096
(はてなブックマーク)

 
以下のように関連のまとめやエントリも作られています。

「生物の目的は子孫を残すことではなくて、
遺伝的適応度が高い生物が増えるというだけ。」

(はてなブックマーク)

「同性婚は生物の目的に反するらしいよ!」
「「生物の目的は子孫を残すことだから同性結婚は反対!」 - Togetter」
「同性愛は、生物が許容しているあり方。」


発端となった問題の発言はこれです。
いやもう、どこから突っ込んだらいいの、という感じですね。



このようなかたちで科学を持ち出すというのは、
1. 科学を用いて人間社会の道徳や規範を説くのは間違っている。(自然主義的誤謬)
科学は自然現象のありようをあきらかにするだけで、道徳や規範を語らない。
2. もとになっている科学認識自体が間違っている
というふたつの問題があります。

1.だけでも問題なく間違いなのですが、差別思想を正当化するために
科学を持ち出す人は、たいてい2.もともなっていることが多いです。
かかる主張は「女性には母性本能があるから、女性は積極的に子どもを
産み育てたいと思うし、3歳までは母親のそばにいるべきだ」
というような主張と、おなじタイプのものということです。


現在の科学認識においては、生物に目的はないと考えます。
遺伝子が複製しながらときどき偶発的に突然変異を起こし、
それによって生じた個体のうち、たまたま環境に適応したものが
生き残ってさらに繁殖し、適応しなかったものが死に絶えるという
「ダーウィン淘汰」を繰り返した結果が、現在生存する生物です。

生物進化はこのようなダーウィン淘汰の繰り返しであり、
それは意志を持たない遺伝子に起きる偶然の積み重ねです。
意志がないので子孫を残すことに「目的」もあるはずないということです。

生物が生殖をして子孫を残すのは、「たまたまそういう機能が
備わっているのでそれを使ったから」、ということになります。
「生物の目的は生殖」というのは、
「ほ乳動物はみんな排泄を行なうから、排泄することがほ乳動物の目的だ」
と言うのと、おなじようなことになるでしょう。

http://togetter.com/li/596292#c1304819
すべてのほ乳類はうんこをするのでうんこをすることがほ乳類の目的である。
うんこをすることは生殖活動を行うことよりもさらに普遍的であるので、
うんこをすることのほうがより上位の目的だと言わねばならない。
生物が1日でも長く生き延びようとするのは、1回でも多くうんこをするためである。

かくしてはじめのツイートのかたの発言は、
2.科学認識自体が間違っていますし、また1.その間違った科学認識にもとづいて
人間の規範を決めようとしているので、二重に間違っていることになります。
「サイエンスでいうなら」と言いながら、とんだ「非科学」ですね。


同性愛者というのは、一定の割合で人間の中から現れてきます。
(5%程度と推測されているので、案外身近にいることが考えられますよ。)
これは遺伝ではないですが生まれつきのもので、
性的指向を後天的に自分の意志で変えることはできないです。
したがって同性愛者を無視・排除するのではなく、一定数の同性愛者が
存在することを前提に、社会を構築するのが本来というものです。

同性愛もしくは同性同士の性行為は、人間に特有なのではなく、
人間以外の生物にも幅広く見られることがわかっています。

「動物の同性愛がスケールでかすぎてビビる」
「動物の同性愛」
交尾に限られない、同性愛的行動が1500に近い種で観察されることが示されていて、
このうち500種については十分な典拠があげられている

なぜかくもたくさんの生物のあいだで同性愛が見られるのか、
適応にどう有利なのか、はっきりと理由はわかっていないようです。
同性愛が存在することはたしかであり、それは「生物として不合理」ではなく、
「生物としてありふれている」ことだと言えることです。

また、蜂や蟻は女王だけが産卵し、大多数は「働き蟻」「働き蜂」で、
みずからは子孫を残さない個体という、「真社会性」の生物です。
人間以外にも、子孫を残さない個体のいる生物はいるわけで、
「子孫を残すことが生物の目的」とか、子孫を残さないことが
「生物として不合理」というわけではないということです。


はじめのツイートのかたが、ドーキンズを知らないのはびっくりです。
だから「生物の目的は子孫を残すこと」なんて臆面もなく言えるのでしょう。
もちろんこれは『利己的な遺伝子』という進化学の名著を書いた
生物学者リチャード・ドーキンズのことですよ。

進化の主役は遺伝子であり、遺伝子が自己を複製させようとすることが
生殖と進化の営みであり、個体は遺伝子が入る「乗り物」にすぎない、
という生物進化についての見かたをしめした本です。
ふつうは個体を主体に考え、遺伝子をバトンのようにわたすのが生殖と
考えがちですから、遺伝子を主体と見たのは発想の転換とも言えます。

実際、遺伝子を主体と考えると、進化や生殖に関する多くの現象が
理解しやすくなるので、より本質的と考えることができるでしょう。
さきの蜂や蟻の真社会性は、自分が不妊であっても、血縁個体の世話をして
血縁個体の生殖を助けることで、自分の遺伝子を残すということです。

「何がシロアリの真社会性を進化させたのか?」


はじめのツイートのかたは「ふじおかひろき」氏。
ツイッターのプロフィールには「クサレホシュ」なんて書いています。
「生物の目的」の議論から察するに、たいして知識や洞察力が
あるわけではなく、論理的思考力さえ怪しいのに、
とにかく自分の言いたいことを言いたがる、というタイプのようです。


付記:
わたしは「タンポポ」でなく「たんぽぽ」です。間違えないでくださいね。

posted by たんぽぽ at 18:10 | Comment(0) | TrackBack(0) | 疑似科学(にせ科学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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