これもいまさらですが、取り上げておくことにします。
生活保護法と生活困窮者自立支援法案が可決したニュースです。
12月6日です。これも特定秘密保護法案の陰に埋もれた感じです。
「生活保護法改正案、成立へ 扶養義務強化、不正に厳罰」
「生活保護2法が成立 不正受給の罰金増/事前支援に重点=訂正あり」
「生活保護法:「受給手続き厳格化」への改正など2法が成立」(1/2)
「生活保護法:「受給手続き厳格化」への改正など2法が成立」(2/2)
「改正生活保護法が成立 扶養義務強化、手続き厳格に 窓口拒否 拍車の恐れ」
すでに参議院では可決していましたが、通常国会の最後で
安倍首相に対する問責決議が出て、衆院での可決が先送りになっていたのでした。
なので、法案成立は「既定路線」であり、こうなることは必至だったと言えます。
改正生活保護法案のポイントは
1. 手続きの厳格化
2. 扶養義務強化
になると思います。
>手続きの厳格化
生活保護を受給しようとすると、窓口で役所の職員があれやこれやと
たくさん条件(というより難くせ)を付けて、申請者をあきらめさせようとする
「水際作戦」が横行していることが問題視されています。
これが日本の生活保護の低い捕捉率の原因のひとつとなっています。
「生活保護の水際作戦事例を検証する 大西連 / 自立生活サポートセンター・もやい」
こちらに「水際作戦」対策のマニュアルがあります。
役所の人間はどんな攻撃を仕掛けてくるのか、そしてどう受け答えればいいかの
参考になさるといいでしょう。
「生活保護窓口での「水際作戦」撃退作戦!」
この「水際作戦」はたいてい違法なので、裁判になれば通常原告が勝ちます。
それでも改正生活保護法により、手続きが厳格化することで、
「窓口作戦」が横行しやすくなったり、中にはいままで違法とされたケースが
合法となる可能性も懸念されています。
「三郷生活保護裁判さいたま地裁判決に関する弁護団声明」
「「水際作戦」を合法化させる生活保護法「改正」法案」
>扶養義務の強化
改正生活保護法のもうひとつの大きな特徴は、親族による扶養義務の強化です。
生活保護の申請者の親族に経済的に余力がある場合は、
生活保護を受給させず、親族に扶養させることを強化するものです。
この「親族」は3親等までなので、いとこには及ばないですが、
親子、きょうだいのほか、おじおば、おいめいまで含まれます。
一般に、福祉をほどこさず親族に負担の肩代わりをさせると、
貧困の連鎖が起きやすくなります。
身内に貧困な人がいる家系は、一般にほかの親族も貧困なことが多いですから、
親族への負担が増えることになれば、彼らも貧困から抜け出しにくくなるからです。
「生活保護の扶養義務を強化したら庶民が貧困層に転落する!」
「親兄弟への扶養義務が生む新たな「階級社会」」
そもそも貧困の連鎖を起こさないために福祉があるのですから、
福祉を削れば貧困の連鎖に拍車がかかるのは、とうぜんと言えるでしょう。
かくして貧しい家庭に産まれた子は、おとなになっても貧しいままという
「階級社会」が強化される方向に向かうことになります。
この扶養義務の強化に関して、東京新聞の記事にはこう書いてあります。
ようするに申請者の親族の本人に、「お前は年収はいくらあるか、
預金はいくらあるか、ほかにどんな財産を持っているか」と
お役所が直接訊いて来たり、勤務先や銀行を調べたりするということです。
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改正法は、自治体が扶養を断る扶養義務者に説明を求めたり、
扶養義務者の収入や資産状況に関し勤務先や銀行などを調査したりできるようにした。
保護を始める時に扶養義務者に書面で通知する。
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直接的に自分のことではないのに、生活のプライベートに立ち入ったことを
根掘り葉掘り訊かれたり、勝手に調べられたりするのですよ。
その中にはとうぜん調べられたくないこともあるでしょう。
審査が通らず扶養をするはめになればなおさらでしょうが、
審査が通って扶養を免れたとしても、これは不愉快だろうと思います。
かくしてお役所と親族とのあいだに、トラブルが起きることが予想されます。
そして親族と申請者本人とのあいだにも、トラブルが起きるのでしょう。
こうして家庭不和の原因が、増えることになるわけです。
改正生活保護法の見直しの声が高まるとしたら、案外こうしたところ
(扶養を要求された親族の不満)からかもしれないですね。
生活保護の切り下げに賛成した人たちは、自身は申請者はもちろん
申請者の親族になるとも思ってないのでしょうから。
関係ないはずの「まじめに働いている自分」が、お役所からプライベートを
詮索されるとなれば、それだけでじゅうぶん気分を害するでしょう。
そして賛成派は自分の納めた税金が生活保護に使われることが
「自分のお金が取られる」ような気がして嫌だったのでした。
ある日きゅうに自分が親族の扶養をするはめになれば、
直接的かつより多額に親族に「自分のお金が取られる」のですから、
なおさらとても容認しがたいことだろうと思います。
>初めての本格的改正
生活保護法の本格的な改正は、1950年の施行以来初めてなのですよ。
発端は河野準一バッシングからですが、いかにいまの日本人が
ルサンチマンにとらわれ、弱者たたきで溜飲を下げようとしているかが
あらためてわかるというものです。