12月6日に成立した「特定秘密保護法案」です。
ご存知のように、国家が特定の情報を秘密指定できるようにするとともに、
情報を漏洩させた違反者には厳罰を科せるようにする法律です。
ずっとこの法案の話題で明け暮れていて、ほかの政治の話題がかすんだ感じですね。
「秘密保護法案:与党が強行可決で成立」
「秘密保護法が成立 民主主義を取り戻せ」
「特定秘密保護法の全文」
この法案に深刻な問題があることは、あちこちで議論されていることだと思います。
つぎのトゥゲッターが要領よくまとめられていると思います。
簡単に言えば、この法案は「政府が都合が悪いと思った情報は、
どんどん秘密にして隠し続けることができる」というものです。
「「特定秘密保護法案」の危険性について」
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この法案は
1. 秘密指定できる情報の範囲が抽象的で、いくらでも拡大しうる。
2. 秘密指定の期間は容易に延長できるので、半永久的に秘密にできる。
3. 秘密指定してよいかの第三者からのチェック機能もふじゅうぶん。
という特徴があって、これらが深刻な問題点ということです。
10月6日の毎日新聞の記事に出ている以下の画像も、要点が表でまとめられています。
これらによって、軍事や外交といった機密にする必要のあることだけでなく、
本来国民に伝える必要のある情報まで、「機密」となる可能性があるわけです。
もっとはっきり言えば、政府の違法行為とか失策とか、
国民からの批判材料になりそうなことを、どんどん隠す恐れがあるということです。
先日、福島第一原子力発電所から汚染水が漏れていることが、
参院選のあとになってようやく公表される、ということがあったのでした。
このような大問題がいつまでも公表されることなく、
隠され続けることも考えられるということです。
また機密情報を漏らした違反者を罰する規定(最高懲役10年)があります。
「テロリスト」「スパイ」の規定もあいまいで恣意的に解釈できます。
特定秘密の周辺の身辺捜査が過剰になされる恐れも出て来ますし、
公務員のほか一般の国民や新聞記者にも、逮捕がおよぶ可能性があるわけです。
これが一般国民の「知る権利」をいちじるしく損なうことに
なりかねないことは、すぐにわかるだろうと思います。
国民にとって必要な情報さえも政府から出て来なくなれば、
メディアが報道することもなくなります。
仮に記者がどこかから情報を得て報道すれば、処罰されることにもなるでしょう。
「国民からの批判を防ぐために情報をできるだけ隠したい」のは、
どのような国家・政府も思うということは歴史がよくしめすところです。
太平洋戦争中の日本も「大本営発表」をしてきた歴史があるのでして、
強権的・非民主的な政権ほど、情報を隠匿したがる傾向は強くなります。
もちろん民主的な政権でも、批判を防ぐために隠したい情報はたくさんあります。
特定秘密保護法の運用にあたって、「国家はそんな濫用はしないだろう」
という意見もちらほら見られますが、あまりにのんきで危険な考えだと言えます。
特定秘密保護法に相当する法律はほかの国にもあります。
ところが諸外国では、
1. 秘密指定できる範囲がはっきり定められている。
2. 秘密指定できる最大期間がある。
3. 秘密指定してよいかの第三者によるチェック機能が厳重である
という特徴があって、日本の特定秘密保護法と決定的に違っています。
「諸外国における国家秘密の指定と解除」
情報を秘密にすることは、本来民主主義とは相容れないものです。
それで国家が秘密にする必要のある情報の存在は認めつつも、
国家が秘密主義を濫用するようになって民主主義が損なわれないよう、
「枷」をたくさん取り付けているということです。
>ツワネ原則
国際社会が、国家が公開する必要のある情報の基準を定めた、
「国家安全保障と情報への権利についてのグローバル原則」、
すなわち「ツワネ原則」と言われるものがあります。
2013年6月に公表されたもので、世界70カ国の22の団体は、
500人以上の研究者、国連の特別報告者らと協議を重ねて作られたものです。
「国家安全保障と情報への権利についてのグローバル原則」(日本語訳)
「特定秘密保護法案に反対し、ツワネ原則に則して秘密保全法制の
在り方を全面的に再検討することを求める会長声明」
「ツワネ原則と特定秘密保護法案」
ツワネ原則では、国家が積極的に公表する必要のある情報として、
つぎのものがあることを具体的にしめしています。
ともすれば情報を隠そうとする国家の特徴を鑑みて、民主社会の維持のために、
これらの情報は公開する必要があると考えられているということです。
国際人権法および人道法の違反に関する情報
自由権および人の安全、拷問や虐待の予防、生命権に関する情報
政府の機構と権限に関する情報
軍事力の行使または大量破壊兵器の所持についての決定に関する情報
諜報活動に関する情報
国家財政に関する情報
憲法や法令の違反、およびその他の権力乱用に関する説明責任
公衆の健康、治安あるいは環境に関する情報
そして日本の特定秘密保護法案は、このツワネ原則に反するとされるのでした。
情報公開のグローバルスタンダードにも逆行するということです。
これに対して、さきにしめした諸外国の情報機密指定についての法律は、
ツワネ原則にしたがったものとなっています。
>国際社会からの批判
日本の特定秘密保護法は、国際社会から激しく批判を受けてもいます。
欧米の民主主義国のメディアはもちろん、国際連合の諸機関、アムネスティ、
国際人権連盟(FIDH)など、さまざまな人権団体が批判しています。
(記事を確認していないですが、フランスやドイツのメディアも
日本の特定秘密保護法案を批判しているようです。)
「国連が秘密保護法に懸念を表明、一体なぜ?」
「国連人権高等弁務官、特定秘密保護法案に懸念」
(はてなブックマーク)
「日本:特定秘密保護法案、表現の自由の侵害に対する深刻な懸念」
(はてなブックマーク)
「秘密保護法案、国際人権団体が相次ぎ批判の声」
「秘密保護法はジャーナリストをテロリストへ:米メディアが強い論調」
「なぜ秘密保護法案が問題か?NYタイムズは語る」
無理もないことです。
20世紀の共産主義国や軍事独裁政権でもないのに、政府が都合の悪い情報を
どんどん秘密にしたければできるようにしようというのですから。
21世紀の民主主義国のやることでは、とてもないと思われて当然です。
情報公開のグローバル原則であるツワネ原則にも反するとされます。
かくして「日本の常識=世界の非常識」と「日本は経済だけ発達した開発途上国」を
またしても国際社会に知らしめることとなったようです。