2013年12月31日

toujyouka016.jpg 曽野綾子の違和感のメモ(2)

前のエントリの続き。曽野綾子氏の記事「私の違和感」についてです。

「曽野綾子「私の違和感」 何でも会社のせいにする甘ったれた女子社員たちへ」

「「出産したらお辞めなさい」労基法違反推奨の曽野綾子論文を
週刊現代が掲載した件はなぜ問題にならない?」

(はてなブックマーク)
「「甘ったれた女性社員たち」と吠える古びた論客たち」
(はてなブックマーク)
「女性は甘ったれ? 週刊現代の記事に働く女性から反論」
「働く女性は「わかりやすい仮想敵」? 中年男性の断末魔」

 
>追いつめられた既得権益層のあせり

曽野綾子氏の主張は陳腐なのですが、これがメディアに掲載されて
すくなくない人たちに賛同されたことは、見過ごせないでしょう。
曽野綾子氏の主張に喝采したのは、中高年男性が多くなっています。
つまり企業や役所で要職にいるおじさまたちということです。

「働く女性は「わかりやすい仮想敵」? 中年男性の断末魔」

かかるおじさまたちは、自分たちの立場などにおける既得権益が、
女性によっておびやかされることを恐れているようです。
実際、彼らの安定した雇用と高収入は、女性や若者にしわよせを
押し付けることで成り立っている部分が大きいです。
それゆえ自分たちの安泰のために搾取してきた女性たちが
権利を主張することに、なにかと恐怖を感じるのでしょう。

こうしたおじさまたちの「マインドはモーレツサラリーマン」であり、
かつて「死にもの狂いで働いてきたが、その価値観が通用しなくなった」ことに
あせり感じていることも、注意するところでしょう。
彼らの感覚は、いまだ高度経済成長期からバブル時代までの
「55年体制」の中にあり、そこから抜け出せていないということです。

いつの時代のどこの国家でも、社会の衰退を招く原因は、
変革を求めてあらたに権利を求める人たちではなく、
既得権にしがみついて社会の変革を妨げる人たちのほうです。
したがって「日本はどんどんダメになり、衰退する一方」である真の原因は、
曽野綾子氏や彼女に喝采するおじさまたちにほかならないです。


>女の敵は女という図式

曽野綾子氏の記事は、中高年男性が自分で語らずに、
女性に語らせていることも批判するところだと思います。
つまり「女の敵は女」という図式を、おじさまたちが作り出していることです。
古来より為政者がよく使ってきた「分断統治」の一形態ですよ。

被抑圧者どうしを闘わせれば、既得権益層はなんら手を下すことなく、
被抑圧者どうしで消耗しあってくれるだろうということです。
本当なら自分たちで直接闘うことなのに、自分の手を汚すことなく
「デスクから一歩も動かずに事態を操縦しようと」するということです。
単に「既得権を守りたい」だけでなく、「楽をして守りたい」のですよ。
じつにつらの皮が厚くて虫のいい人たちだと思います。

補助ブログの11月17日エントリで、きょうびの中高年男性が
女性を叩くことにのめりこんでいることをお話しました。
彼らの「女たたき」は「女の敵は女」をはじめ、
「魔女と聖女」なんて言い古された図式や、「男女脳の違い」なんて
にせ科学を持ち出したりして、かなり病的になっていると思います。

「女を攻撃するおやじたち」


曽野綾子氏は8月25日の産経新聞に載せたコラム
「高齢化時代 始まる悲劇」でこんなことを書いています。
(記事は未確認なので武田砂鉄氏の記事から孫引きします。)

「若者たちは老人の存在自体を悪と考えるか、
あるいは自分たちの世代の発展を阻害するものとして敵視する。
その結果個人的に高齢者を殺害するか、あるいは集団で老人ホームを襲撃したり、
火を放って焼いたりするようになるかもしれない」。

もちろん実際の若者は老人を焼き殺したりはしないでしょう。
なにを人聞きの悪いことを言っているのかと思います。
あるいは自分たちこそ、女性や若者を許されるなら焼き殺したいので、
相手も自分たちにおなじことをすると思っているのでしょうか?
猜疑心が強くなりすぎて「そこにないものが見える」のかもしれないですね。

こうした考えがどれだけの中高年男性に共有されているかはわからないです。
それなりにいるのだとしたら中高年男性の若年層に対する疑心暗鬼は、
かなりグロテスクになっていると言えるでしょう。


>あまり批判されない曽野綾子の記事

曽野綾子氏の記事やそれに賛同した人たちのことは、
あまり批判がなされていないみたいなのですよね。
既得権にしがみつく中高年男性なんて、まさに日本社会の中心課題だと思います。
本当ならもっと問題視してよいことのはずです。
家族やジェンダーに関することは、関心が薄くなりがちなのでしょうか?

権利否定、法令違反の推奨や、少子化対策、経済合理性への逆行など
内容的にも問題が大きいだけでなく、中高年男性による女性叩きや若者叩きが、
多分に病的でグロテスクになっているのも見過ごせないです。
ここまでひどくなっているとは、わたしは思わなかったです。

曽野綾子氏は安倍政権の教育再生実行会議のメンバーである、
ということも問題にするところだと思います。
家族やジェンダーに関して因習的な安倍首相にはふさわしい人材なのでしょう。
安倍首相は「女性の活用」をしきりに唱えていますが、
それが信用されないゆえんのひとつでもあると思います。

posted by たんぽぽ at 20:14 | Comment(11) | TrackBack(0) | 家族・ジェンダー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
曽野綾子さんは80才超えておられるそうで、お達者で何よりですね。
頭の中は高度成長期でストップしてるのかも、とほほえましくもあったのですが,
教育再生会議メンバーってのを見て、笑ってる場合じゃないって思った記事でしたね。

(ここでいつ取り上げられるかな、と思って心待ちにしていたのでした。
Posted by うがんざき at 2014年01月03日 08:36
うがんざきさま、
このエントリにもコメントありがとうございます。

曽野綾子はそんなトシだったのですね。
(わたしはこのかたをじつはあまり知らないんだけど、
イシハラ慎太郎とおなじように見られているのかしら?)

教育再生実行会議のメンバーに起用されているのもそうだけど、
最近注目されているようですね。
共感や賛同をしめす人が案外多いようで、見過ごせないと思います。


>ここでいつ取り上げられるかな、と思って心待ちにしていたのでした。

おおおお、期待していらしたのですね。
いまさらになってしまって恐縮です。
(ほかにも「これを書いてくれないかな」と思われている話題はあるのかな?)

もっと前に取り上げようと思っていたんだけど、
雑誌が手に入らなかったのですよね。
結局図書館で閲覧するのは断念して、ウェブで公開されている部分だけで
エントリを書いてしまったのでした。
Posted by たんぽぽ at 2014年01月03日 15:12
 ひええ、曽野綾子さん、そんなことを書いているんですか!>個人的に高齢者を殺害するか、あるいは集団で老人ホームを襲撃したり、
火を放って焼いたりするようになるかもしれない

 あの、この方、もしかして認知が出始めているのではないでしょうか?
 認知症の初期には被害妄想が現れやすいと聞きますし。「誰かに覗かれている」とか「物を盗まれた」とか。夫の伯母も生前認知が出た時に「庭で一晩中アメリカ人が騒いで眠れない」とか訴えてきました、伯母の家、庭無いんです。

 「出産したら会社を辞めろ」については、いろいろ突っ込みたいところはありましたが、相手が病人ならもう何を言っても無駄な気がしました。
 あとは、身近な方が一刻も早く病院に連れて行って検査を受けさせたほうが良いと思いますよ。
Posted by イカフライ at 2014年01月07日 19:41
イカフライさま、
このエントリにコメントありがとうございます。

>ひええ、曽野綾子さん、そんなことを書いているんですか!

そうなのですよー。
日本は他国とくらべてはるかに暴動を起こすことがすくなく、
むしろおとなしすぎて困るのではないか、というくらいなのにですよ。
なにを被害妄想に走っているのかと思います。

>認知症の初期には被害妄想が現れやすいと聞きますし。

あら、認知症にはそういう症状があるのですね。
可能性はあるかもしれないし、病院で調べてもらうといいかもしれないですね。
(でもウェブの文章だけで病気と言うのは、控えたほうがいいと思いますよ。)


曽野綾子が本当に病気かどうかはともかく、
老人ホームを襲撃するとか焼き払うというのは、
検討に値しないエキセントリックなことなのはたしかだと思います。
本来なら放置すればよいのでしょうけれど、曽野綾子の書くものに
共感する人たちが、最近きゅうに増えているというから、
無視できないものがあるのですよね。

このかた結構真に受けちゃっているし。
http://bit.ly/1faHI9A
Posted by たんぽぽ at 2014年01月07日 23:06
曽野綾子が産経新聞に載せたコラム「高齢化時代 始まる悲劇」を見つけた。
ここに全文が転載されていると思います。
http://suiso.otemo-yan.net/e786496.html
Posted by たんぽぽ at 2014年01月07日 23:07
イカフライさん
病気だったら、教育再生会議メンバーはやばいですね(笑)。確かに、老人ホーム襲撃の件は、被害妄想というかボケと言いたくなる気持ち、よくわかります。

たんぽぽさん、
やっぱり何度読んでもおかしな論争でして。
だいたい、今の女性は贅沢で、昔は新婚で六畳一間のアパートで我慢してた、とかよくいうわ、って思います。
本来国家が担う福祉の部分を、昔は企業が福利厚生ってカタチでやっていて、社会保障を代替してたわけじゃない? 独身だったら寮があり、妻、子供がいれば社宅を与え、財形貯蓄も世話してさ、年功序列で歳取れば、している仕事の内容以上にがっつり給料もらいすぎてね。 その当時の男性は、妻、子供がいます、というだけで会社ではいろんな享受を受けてて当たり前、税金も保険も優遇されてさ、それは我が儘じゃないってこと〜?それはいいんですかー曽野さん。
今は福利厚生なんて全然ないうえ、税金はサラリーマンはしぼりとられるだけで(=しっかり納税してるってこと)、託児所作れって主張の何がおかしいんだろうと思います。



Posted by うがんざき at 2014年01月07日 23:11
先ほど吉松さんの件でコメントさせていただきましたが、これも男女関係ないと思います。
曽野氏は自身を小説家と書いていますが、小説などもう書いていません。

これは伊集院静氏にも言えることですが、小説を書けなくなった「元小説家」がある時期から、世間に対して説教文を書くことで悦に入り、男女年配者や未熟な若者に有り難がってもらえることを本人及び出版社が着目し、小説よりラクで短期量産でき売れることで、悪循環になっています。

その意味で五木寛之氏もそうなのですが、五木氏の場合は安易な説教とは違います。
曽野、伊集院らは上からの目線で責任を取るわけでもないのに、人さまの人生に口出しして収入を得ている自称小説家であり、相手にするに値しないのです。
保守の年配男性でも曽野本で気分が悪くなったという人は多いのです。
じゃあ、どんな層が曽野本を喜んで毎回購入しているのでしょうか?
おそらく、そこまで言えないから読んでいると痛快と面白がっている人でしょう。
また左右無関係で女がズバズバ言ってカッコいいと憧れる女性。
職場でも家庭でもオドオドしているから無頼っぽい伊集院に憧れる男性。

少なくとも私の周囲ではマトモに議論する価値さえないと認識されている自称小説家です。
ブログで取り上げたりすると逆に彼等の思うツボですから、彼等の言い分を批判するのでなく、批判の価値さえないとして無視するのが一番だと思います。
Posted by 女性の味方 at 2014年01月08日 10:58
うがんざきさま、このエントリにコメントありがとうございます。

>だいたい、今の女性は贅沢で、昔は新婚で六畳一間の
>アパートで我慢してた、とかよくいうわ、

「お前らがもうすこし口を慎めば社会がよくなる」という発想ですね。
むかしだってそれが好ましい生活環境とは、言えないと思うのですけれどね。
ましてやいまは、「健康で文化的な生活」のしきいが上がっているのだし。

>本来国家が担う福祉の部分を、昔は企業が福利厚生ってカタチでやっていて、
>社会保障を代替してたわけじゃない?

会社本位主義という日本特有のしくみで、欧米の民主主義国は
国が担って来た福祉を、日本は企業に負担させていたのですよね。
社宅の存在なんて、まさに日本だけの現象だそうですよ。

>その当時の男性は、妻、子供がいます、というだけで
>会社ではいろんな享受を受けてて当たり前、税金も保険も優遇されてさ、

男性がいろいろな優遇を受けることはぜんぜん問題にしないのですよね。
女性が主張すると、わがままだぜいたくだと非難をはじめる。
Posted by たんぽぽ at 2014年01月08日 22:34
 確かに文章だけで認知と決め付けるのはよくないですね。
 ただ、リンク先の曽野氏の全文を読むと、余計に「この人、本当に文章のプロとして長年食べてきたの?」と思えるような矛盾に満ちた内容です。

 結論に
「人に優しいという言葉を掲げ、長寿を目標とした社会構造には、大なたをふるわなければならない。安倍内閣は、この推測可能な悪夢に、ただちに手をうたなければ手遅れになる。」
と結んでいますね。
これってぶっちゃければ、役に立たない年寄りはさっさと安楽死させろ、ということですよ。
 で、一方で「若者に殺害される」とか言っているわけですから、アンタ何がいいたいの?って感じです。

Posted by イカフライ at 2014年01月09日 16:54
女性の味方さま

曽野綾子の記事の分析については、このエントリで書いているとおりです。

曽野綾子は中高年男性のカチカンを代弁したものであり、
実際、中高年男性で共感する人はすくなからずいます。
彼らは自分たちの既得権が失われていくことを恐れ、
わかりやすい仮想敵を作って攻撃しているのでしょう。

曽野綾子の記事は、共感する人たちがすくなからずいて、
一定の影響力を与えているようです。
残念ながら無視するわけにいかないところまで来ていると思います。


>曽野氏は自身を小説家と書いていますが、小説などもう書いていません

そのお話、どう関係があるのでしょうか?
拝読したけれど、なにが言いたいのかよくわからないです。
Posted by たんぽぽ at 2014年01月09日 19:43
イカフライさま、またまたコメントありがとうございます。

>余計に「この人、本当に文章のプロとして長年食べてきたの?」と
>思えるような矛盾に満ちた内容です

多数に受けるかどうかは、論理的整合性はかならずしも関係ないのですよね。
偏見や固定観念に訴えて共感がうまく得られれば、多数受けはすると思います。
そして多数受けすれば「文章のプロ」としてやっていけるわけです。

>「人に優しいという言葉を掲げ、長寿を目標とした社会構造には、
>大なたをふるわなければならない。安倍内閣は、この推測可能な悪夢に、
>ただちに手をうたなければ手遅れになる。」

これは会員登録すると読める部分ですね。

わたしが想像するに、「役に立つ生かされるべき年寄り」と
「役に立たない安楽死させるべき年寄り」とがいて、自分は前者に入るので
安楽死の対象にはならないと考えているのかもしれないです。
つまり安楽死させられるべきは、「われわれではなく彼ら」ということでしょう。
Posted by たんぽぽ at 2014年01月10日 19:11
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