2014年02月03日

toujyouka016.jpg 非実在記者・進藤翔(24)

2月2日エントリでNHKの籾井勝人会長が「従軍慰安婦はどこの国にもあった」
などと発言したことをお話したのでした。
この発言に関して、ネットの一角でちょっとした茶番があったのですよ。

籾井発言が外国メディアで取り上げられ、安倍政権がNHKに干渉していることまで
認識されていることにくらべたら、たいしたことないのですが、
慰安婦の否定派の精神・思考構造がうかがえるので、お話したいと思います。

 
あるとき「就任記者会見で籾井勝人氏に従軍慰安婦の質問をしたのは、
朝日新聞の進藤翔という24歳の記者」という情報が流れたのですよ。
ところが「進藤翔」という記者は、実在しない(!)ことがすぐにわかったのです。
じつにお粗末なお話だと思います。

「実在しない朝日新聞の進藤翔記者(24)が一躍有名人に!」
(はてなブックマーク)
「実在しない朝日記者「進藤翔(24)」を探せ! 
NHK会長就任会見めぐりネット混乱、「虚報」流れる」

(はてなブックマーク)

「朝日新聞の進藤翔(24)」の発信源は「保守速報」というサイトです。
このサイトは、「2ちゃんねる」のまとめサイトで、
基本的に「2ちゃんねる」に投稿されたものを並べるだけなので、
情報の信憑性は推して知るべしですね。

この「保守速報」の情報を拡散したのが、渡邉哲也氏上念司氏のふたりです。
両氏とも講演によく出たり、著作がたくさんあったりする経済評論家です。
ようはひとかどの識者がデマを真に受けたということですが
(上念司氏の著作に『経済ニュースのウソを見抜け』があるのが、
なんだか悪い冗談のように聞こえますね)、「保守速報」なんて
怪しい情報源しかない情報を信用した時点で、命運は定まったと言えます。


「保守速報」のツイートから約10時間後、なんと朝日新聞社が直じきに、
「進藤翔という記者はいない」という記事を載せることになります。
かくして「進藤翔」はデマであることがはっきりしたのでした。

「(お知らせ)朝日新聞社に「進藤翔」記者はおりません」
(はてなブックマーク)
籾井勝人NHK会長の就任記者会見に関し、28日からインターネット上で
「NHK籾井会長に質問した記者、朝日新聞の進藤翔(24)らしい」
というツイートが流れましたが、朝日新聞社に該当する記者はおりません。

新聞社が公式サイトで直接釈明をするのは、異例のことであり、
よほど拡散して大きな騒ぎになったのだろうと想像します。
(朝日新聞社に直接問い合わせる人もいたのでしょうか?)
早いうちに対処して、デマを打ち消したのはよかったと思います。

24歳というと大卒でも2年目の新人記者ということになります。
全国紙の新人記者は一般に地方で数年間仕事をすることが多く、
東京でNHKの会長の記者会見をまかされることは、ふつうないのでした。
デマを最初に作った人は、かかる新聞社の常識を知らなかったのでしょう。



問題なのは「進藤翔」がデマとわかったあとの、渡邉哲也氏と上念司氏ですよ。
デマであることはすぐに認めて、「進藤翔」の実在を強弁しなかったのは
よかったのですが、デマを拡散させたことに対する責任感が
ふたりともほとんど感じられないのですよね。

上念司氏は「「じゃあ、誰よ?」という話になりますよね?」と言っています。
この人は、デマ拡散に対する責任よりも、「犯人探し」が優先するようですね。
おそらく従軍慰安婦の質問をした記者を暴き立てることで
あたまがいっぱいになっていたものと思います。

渡邉哲也氏も「朝日新聞には潔白を証明する義務がある」などと言っています。
自分たちで勝手に濡れ衣を着せただけだというのに、
なんで朝日新聞が証明しなければならないのかと思います。
朝日新聞社こそとばっちりを受けた被害者のはずです。
本来なら渡邉哲也氏たちが「進藤翔」の存在を証明するところです。


彼らには「就任記者会見で従軍慰安婦のことを質問した記者のせいで、
籾井勝人氏はあんなことを言わされた」という強い不満があるのでしょう。
それでその記者を特定して攻撃したい要求が、とても強かったのだと思います。
上念司氏が「犯人探し」であたまがいっぱいになっていたり、
「進藤翔」の家族を探せなんて言う人がいるのは、その不満の現れだと言えます。

そこへ降って湧いたように、質問した記者の名前と所属についての
情報が流れてきたので、思わず飛びついたものと思います。
「進藤翔」は彼らの不満をちょうど埋めてくれる情報だったわけです。
(そう考えると「進藤翔はあなたの心の中にいる」というのは、
なかなか皮肉が効いているかもしれないです。)

ちなみに「進藤翔」であろうとほかのだれであろうと、
籾井勝人氏に従軍慰安婦について質問するのは、なんら問題のないことです。
問題があるのは、「従軍慰安婦はどこの国にもあった」などという
認識をもった籾井勝人氏であり、そういう認識だからこそ、
批判を招く発言をするということだと思います。
質問した記者のせいにする発想自体が責任転嫁と言えます。


「進藤翔」が「非実在記者」とわかったあとのネトウヨたちがじつに醜悪です。
「進藤翔」を「通名」ということにしているのですよ。ようは「在日認定」です。
まとめに「通名」だと言っているツイートが相当数並んでいるのが恐ろしいです。

こんなのを見ていると、「在日コリアンの通名」なるものは
だれにとってどのように「便利」なのかと、言いたくなってきますね。
自分の不満を「在日」に転嫁させたい排外主義者たちにとって
「便利」なのではないか、という気がしてきます。

posted by たんぽぽ at 22:26 | Comment(2) | TrackBack(0) | 疑似科学(にせ科学) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
こういうネトウヨたちは一体何と戦ってるんですかね?
自分たちの中に敵を作り出して見えない"在日"と戦ってるんでしょうか
都合が悪くなると在日のせいにすればいいんですから楽ですよね(笑)

こんなことより問題はこんな発言を平気でするおじいさんが会長になってしまってることですよね
Posted by りほ at 2014年02月04日 17:17
このエントリにコメントありがとうございます。

>こういうネトウヨたちは一体何と戦ってるんですかね?

まったくですよね。
とくに今回は「進藤翔」なる記者がそもそも存在しないですからね。
勝手に虚構の存在に突進して、茶番を演じているだけなのですよね。

彼らが自分たちの虚構の世界で完結してくれるならまだしも、
現実の朝日新聞とか在日コリアンにとばっちりが行くから嫌になってしまいます。

>問題はこんな発言を平気でするおじいさんが会長に

本質的に深刻なのはそちらですね。
安倍晋三が自分の「おともだち」で堅めるための人事と言われていますが、
その効果がさっそく現れたということですね。
Posted by たんぽぽ at 2014年02月04日 22:57
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