2014年02月07日

toujyouka016.jpg 性別役割分担は合理的?(2)

2月5日エントリでご紹介した、長谷川三千子氏のコラム、
「少子化の解消のために固定的な性別役割分担の時代に戻すべき」
という主張について、わたしもすこしコメントしたいと思います。

「年頭にあたり 「あたり前」を以て人口減を制す」
(はてなブックマーク)
「「女は家で育児が合理的」 NHK経営委員コラムに波紋」
「NHK経営委員・長谷川氏が男女共同参画を批判したの?」(全文)
(はてなブックマーク)

 
長谷川三千子氏は、政府の推進してきた男女共同参画のことを、
「「個人の生き方」に干渉してきた」などと、
わけのわからないことを言っているのですよね。
長谷川三千子氏の主張する性別役割分担こそ、
「男ならこうでなければならない」「女ならこうでなければならない」と
決めているのですから、個人の生きかたへの干渉にほかならないです。

男女共同参画の基礎路線は、こうした「こうでなければならない」を
極力避けることですから、個人の生きかたへの干渉に
反対しているのはもちろんのことです。
(長谷川三千子氏のものいいは、「多様なカチカンを認めない
カチカンを認めろ」と、似たような本末転倒を感じます。)


女性の選択が専業主婦しかないのは、女性の権利や自立という観点から
はなはだ問題であることは、言うまでもないことだと思います。
女性の選択できるライフスタイルの幅がきわめて狭くなるからです。
自由になりたい職業に就けて主体的に生きられる男性と違って、
男性と結婚して家庭で家事労働をするしかなくなり、
「だれと結婚するか」という従属的な生きかたにかぎられてくるからです。

また、みずから働いて得る収入がないことで、
経済的に弱い立場となることも言うまでもないことです。
経済的に自立できないゆえに、離婚が難しくなりますから、
夫との関係に不満があっても、DVなど家庭内暴力にさらされても、
それに反対することがむずかしくなり、夫に支配されやすくなることになります。


>片働きの経済合理性

そもそも「夫が外で働き妻が専業主婦」という高度経済成長期に
主流だったライフスタイルは、現在では経済的に困難な人が多いです。
男性が妻を専業主婦にして養うには、年収は600万円程度必要とされていますが、
そのくらいの年収のある男性はごくすくないからです。

このあたりについては、このブログでもわたしは何度もデータを
しめしながらお話していますが、たとえばつぎの図を見ても、
結婚適齢期とされる20-30代の未婚男性のうち
年収600万円以上もある人は、わずかであることが一目瞭然だと思います。


「夫が外で働き妻が専業主婦」というライフスタイルは、
経済が右肩上がりの高度経済成長期だからこそ成り立ったのでした。
現代において専業主婦というライフスタイルを増やしたい人は、
片働きの賃金水準を高め、さらに雇用を安定させる必要があります。
不況が続いて経済成長が停滞していて、非正規雇用が横行するこの時代に、
どうやってそれを実現するつもりなのかと思います。


男性だけの片働きで、妻は専業主婦というライフスタイルは、
19世紀に入って台頭してきたブルジョワからはじまったものです。
そしてそれが一般の庶民にまで定着した時代は、どこの国も限られています。
日本の場合はご存知のように、高度経済成長期の一時期だけでした。

それ以外の時代は女性も働く共働きが一般的だったのでした。
そうでなければ労働力が足りず家計が維持できないからです。
片働きというのは家族のひとりに収入がないゆえに経済的に非効率であり、
社会がかなり豊かでないとなかなか成り立たないということです。

専業主婦は経済事情に大きく依存し、しかも有史以来存在した時期が
ごく限られているのですから、生物学的基盤などあるはずもなく、
「哺乳動物の一員である人間にとって、きわめて自然」なわけないのでした。
自分が物心ついたときには専業主婦が定着していたので、
太古のむかしからずっとそうだったに違いないという、
よくありがちな錯覚を、長谷川三千子氏はしているのでしょう。


>女性の労働力率と少子化対策

「夫が外で働き妻が専業主婦」という因習・反動的な家族政策で、
少子化を緩和させた国はひとつもないですね。
よく引き合いに出される北欧諸国やフランスなどは、
女性が出産・育児と仕事の両立がしやすいような環境の整備に
力を入れているから、出生率が上がっているのでした。

つぎのようにOECD加盟国の中では、女性の労働力率と
合計特殊出生率とのあいだに正の相関があることがわかります。
女性が出産後も働き続ける国のほうが出生率が高いということですね。
現代のOECD加盟国では、「夫が外で働き妻が専業主婦」という状況を
維持しようとすると、かえって出生率が低迷することをしめしています。

「出生率と女性の労働力率」

OECD加盟24カ国における女性労働力と合計特殊出生率(2009年)

少子化の解消のためには「女は家で育児が合理的」なんて、
いったいどこの国のどんな例を見て言っているのかと思います。
長谷川三千子氏の主張は、データや事実による裏付けのない、
まったくの空論だと言ってよいでしょう。

posted by たんぽぽ at 22:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | 家族・ジェンダー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

はてなブックマーク - 性別役割分担は合理的?(2) web拍手
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック