2014年02月08日

toujyouka016.jpg 性別役割分担は合理的?(3)

2月5日エントリ2月7日エントリで、長谷川三千子氏の
性別役割分担の肯定コラムについて、お話してきたのでした。

ここで長谷川三千子氏が生物学的基盤を持ち出しているので、
これについてもお話しておきたいと思います。

「年頭にあたり 「あたり前」を以て人口減を制す」
実はこうした「性別役割分担」は、哺乳動物の一員である人間にとって、
きわめて自然なものなのです。

 
子育てに関わる親が何頭なのか、メス親だけなのか、
オス親とメス親の両方で育てるのかは、その生物種にとって
子育ての負担がどれくらい大きいかで決まります。
種の近親はほとんど関係ないです。
鳥の仲間はほとんどが子育てに負担がかかる種なので、
「つがい」を作ってオス親とメス親の両方で育てる種が多いです。

ほ乳動物は子育ての負担はあまり多くない種が多く、
授乳ができるメス親だけで育てる種が多くなっています。
たぬき、きつね、おおかみなどイヌ科の動物には、
子どもに狩りを教える必要から子育てに負担がかかる種が多く、
「つがい」を作りオス親とメス親の両方で育てるようになっています。

猫は野良を見ていると、母猫だけで子猫たちを育てていますね。
猫はそれほど子育てに負担がかからないので、メス親だけでじゅうぶんなわけです。
それから、むかしわたしの勤めていた職場の敷地に、
たぬきの家族が迷い込んできたことがあったのですが、
オス親とメス親の「つがい」プラス子たぬきでいっしょにいましたよ。


人間はどうなのかというと、早熟で産まれますし、
子育ての期間がとても長く、子育てにはきわめて負担のかかる動物となっています。
よって女親だけで子育てをするのはひじょうに困難であり、
男親の育児への参加がかならず必要ということになります。

人間には「おばあさん」がいるという、きわだった特徴があります。
なぜほかの動物と違って、メスが閉経後も長く生きるというのかというと、
「おばあさん」が子育てに参加することで、女親の負担を軽減したり、
自分の得た子育ての知識を女親に伝えたりできるので、
負担のかかる人間の子育てに有利になったと考えられるからです。

「「人間とは何か」京大霊長類研シンポジウムレポート(前)」

さらに人間の場合、きょうだいが子育てを手伝うこともあります。
また、子どものいる親どうしが交流することで、
おたがいの子育てを助け合うという、きわだった特徴もあります。


人間の場合、母親だけでなく、父親が積極的に育児に参加するほうが、
「生物学的特徴」にはずっとかなっていると言えることがわかります。
またむかし子どもが多かったころは、年上の子が年下の子の
面倒を見たのも「生物学的特徴」にかなっているということになります。

そして人間の「生物学的特徴」から、シングルマザーは負担が大きいので
じゅうぶんな社会からのサポートが必要ということになります。
また保育所や幼稚園は、大勢の子どもを一か所に集めて
育児の負担を軽減できるし、親同士の交流の場所も得られるので
人間の「生物学的特徴」にかなっていることになるでしょう。

(このあたりは『オスとメス=性の不思議』
(講談社現代新書、長谷川真理子著)にくわしい。)


>霊長類学者の考察する「性的役割分担論」

長谷川三千子氏が「哺乳動物の一員である人間」などと言うものだから、
霊長類学者がじきじきに反論をすることになったのでした。
トゥゲッターにまとめられているので見て行きたいと思います。

「霊長類学者の考察する「性的役割分担論」」
(はてなブックマーク)

女親が巣で子育てに専念し、男親が食いぶちを稼いでくるという生活形態は、
そもそも人間以外の動物には見られないのですよね。
「性別役割分担」というのがまったく社会的なもので、
生物学的基盤によるものではないことをしめしていると言えます。

夫が外で働き妻が専業主婦というライフスタイルは、
19世紀以降に現れて比較的社会が裕福だったときだけ存在したという、
人類史上の中でもかぎられたものだったのでした。
となれば、それに生物学的基盤などあるはずもないということですね。


ここでも子育てに関わる親の頭数は、子育ての負担によると述べられています。
霊長類の中では、マーモセットやテナガザルは
子育てに負担がかかるので「つがい」をつくり、
メス親だけでなくオス親も積極的に子育てに参加するのでした。

人間も子育てにとても負担がかかるので、やはり子育ては女親だけでなく、
男親の積極的な協力が必要不可欠であるということになります。
男親の育児協力があることをしめす「つがい」の形成は、
初期人類の比較的早い段階から始まっていたと考えられています。


ここでトゥゲッターでは「敵に塩を送るかも」と言って、
リチャード・ランガムの「調理仮説」を紹介しています。
本の主旨は、「火を使って調理することで脳が発達して
人間に進化した」のであって、よく思われている「人間に進化してから
火を使うようになった」のではない、ということです。

「火の賜物-ヒトは料理で進化した」

この調理の役目が女性だったので、「人類進化において、男は外でお仕事、
女は家庭で家事と育児をするようになった」と思われやすいというのです。
「調理仮説」で言わんとしていることは、女性が調理したのは、
女性がみずから採取活動によって得た炭水化物なので、
この調理は女性が労働として行なっているということです。
つまり「女は家庭」とは言っていないことになります。


またまとめでは、フルディの「協同育児システム」仮説を紹介しています。
(著書『マザー・ネイチャー』の日本語訳がリンクされていますが、
「フルディ」は「ハーディー」と表記されていますね。)
本の主旨は母性本能の否定と、育児における女親の多彩な戦略についてです。

「マザー・ネイチャー (下)」

子どもを産める年齢層の女性は、働き手として重要であり、
子育てと育児の両立という課題は250万年前からあったというのです。
そこで男親やきょうだい、祖母、社会全体で育児を分担する
しくみが作られたのですが、これが「協同育児システム」というものです。

子どもを産めるような年齢層の女性は,働き手としても極めて重要である。
本人にとっても,社会にとっても,女性が外で仕事をすることは必要不可欠だ。
女性が子育てと仕事の両立に悩むのは
250万年前からの人類の課題だとフルディは述べる。

そこで,父親,祖母,きょうだいなどの縁者によって,
あるいは社会全体で育児を分担するしくみができてきた。
フルディはこのようなヒトの繁殖システムを
「協同育児システム cooperative breeding system」と言う。

協同育児システムにおいて,母親は重要な地位を占めるのは間違いない。
しかし,母親が育児の何をどれだけ引き受けるのかは,
当該の社会のなりたちによって定まるものであり,
「自然な」母親のあり方というものは存在しない。

こうしてみると、仕事と子育ての両立は、250万年前から存在する
女性にとって古くて新しい課題だということになりそうです。
そして現代社会における、父親の育児参加とか保育所の充実とかは、
効率よく育児を行なうための「協同育児システム」を
ふたたび構築しようとする動きだ言うこともできそうですね。

posted by たんぽぽ at 23:32 | Comment(8) | TrackBack(0) | 科学一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

はてなブックマーク - 性別役割分担は合理的?(3) web拍手
この記事へのコメント
合理的かどうかは分かりませんが、我が日本で、都道府県別の出生率と女性の就業率との間には、正の相関がありますね。
http://www.jcer.or.jp/column/komine/index176.html

ここに書かれている分析はともかく、日本では女性の就業率が高い都道府県の方が出生率も高い。これは動かすことが出来ない事実なんですね。
長谷川三千子氏には、この事実にしっかりと向き合って頂かなければなりませんね。
Posted by ニャオ樹・ワタナベ@モバイル at 2014年02月11日 01:00
このエントリにコメントありがとうございます。

>http://www.jcer.or.jp/column/komine/index176.html

ご紹介ありがとうございます。

日本国内にかぎっても、都道府県別の女性の就業率と出生率とのあいだで
正の相関があるのですね。
(前のエントリで、OECD加盟国どうしの比較の図をしめしたけれど。)
これはなかなか興味深いと思います。

>長谷川三千子氏には、この事実にしっかりと向き合って頂かなければなりませんね

まったくそうですよね。
でもそういう人は事実とかデータにはもとづこうとしないのですよね。
Posted by たんぽぽ at 2014年02月11日 15:26
ちょっと笑ったのですが、こんな話題もありますね。

NHK受信料:長谷川委員、05年に支払い拒否
http://mainichi.jp/select/news/20140227k0000m040139000c.html

うーん、今の会長や、こんな委員がいることを考えれば、私も支払拒否したくなります。
Posted by 魚 at 2014年03月24日 12:00
魚さま、こちらにもコメントありがとうございます。

>http://mainichi.jp/select/news/20140227k0000m040139000c.html

ご紹介ありがとうございます。
とんだ「坊主の不信心」ですね。

不払いの理由は放送内容が自分の思想と合わないからだそうですね。
となれば、会長や経営委員の思想が自分の思想と合わないという理由で、
支払い拒否をしてもよさそうですね。
まじめなお話、現在のNHKの会長や経営委員の状況を見れば、
支払い拒否を検討したほうがいいかもしれないですよ。


ちなみにそのニュースを見て、わたしが連想したのが、
外国から帰ってきて住民票を移すのを忘れて、選挙権がなかったことに
参院選出馬のときに気がついた丸川珠代だったりします。
Posted by たんぽぽ at 2014年03月25日 21:09
やっぱりNHK支払拒否運動をするべきですねぇ〜

それはともかく、

アベ政権の女性政策批判・長谷川氏批判・夫婦別姓等をからめた東京新聞の記事のようです:

安倍政権「女性活用」の支離滅裂
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2014032602000155.html

探したら本文もみつけました(タイトルが少し違うけど、たぶん同じ内容だと思います。著作権はよくわかりませんが。。)

http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/47/c72eb4406b1f58b8566740d3d406bd9f.jpg

http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/7a/9925f41d85f98dc16c39469c86f885ec.jpg


Posted by 魚 at 2014年03月27日 17:21
魚さま、このエントリにコメントありがとうございます。

>http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/47/c72eb4406b1f58b8566740d3d406bd9f.jpg
>http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/7a/9925f41d85f98dc16c39469c86f885ec.jpg

おおお、これはご紹介ありがとうございます。
全文もよく見つけてくださりました。
その記事は、安倍政権が唱える「女性の活用」とやらに対する
不信感がどこから来るのかが、くわしく書かれていますね。

自民党、とくに安倍晋三やその周辺の人たちは、
おおむかしからジェンダー平等に反することを、先陣を切ってやってきましたからね。
きゅうに「女性の活用」などと言っても、とても信用できないというものです。
記事にあるように、一部の目立つところにいる女性だけが恩恵を受けて、
大半は切り捨てられるか、あるいは仕事と家庭の両立の負担を
押し付けられるようになりそうです。

「「選択的夫婦別姓」試金石に」とあるけれど、これもぜんぜんだめでしょうね。
よくご存知のように、選択別姓もいかにして法案提出をつぶすかに
血道を上げて来たのが、自民党のいままでなのですから。
Posted by たんぽぽ at 2014年03月27日 22:16
その記事によると、アベ総理は「ジェンダーフリー推進論者はポル・ポト」とかほざいていたことがあるそうですね。

アベさん、そりゃあんたのことでしょ、と。
Posted by 魚 at 2014年03月28日 01:31
またまたコメントありがとうございます。

>アベ総理は「ジェンダーフリー推進論者はポル・ポト」とか
>ほざいていたことがあるそうですね

ジェンダーフリーでもそんなことを言っていたのかと、わたしは思ったですよ。

ほかにも「子ども手当てはポルポト」というのもありましたね。
http://taraxacum.seesaa.net/article/221731218.html

ようするに、自分の気に入らない家族・ジェンダー政策は
みんな「ポルポト」ということなのでしょう。
Posted by たんぽぽ at 2014年03月28日 08:16
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック