2014年03月10日

toujyouka016.jpg STAP細胞・型破りの発見

1月の末のことなのでだいぶ経っていますが、ジェンダー問題をふくめて、
いろいろなことと関係してくるので、遅まきながら触れておくことにします。

理化学研究所の小保方晴子博士がSTAP(刺激惹起性多能性獲得)細胞を発見して、
その論文が権威ある学術雑誌『ネイチャー』に掲載された、というニュースです。

「なぜSTAP細胞は驚くべき発見なのか--STAP細胞が映し出すもの」
「「STAP細胞」の社会的側面:倫理問題・理系人材など」
「1月30日:酸浴による体細胞リプログラミング(1月30日Nature誌掲載論文)」

 
生物は1個の受精卵から始まって、細胞分裂を繰り返して
成長していくのですが、その過程で脳や皮膚、肺、心臓、肝臓といった、
さまざまな組織、器官を作る細胞へと「分化」していきます。
そしていったん分化した細胞はもとにはもどらず、
ほかの組織や器官を作る細胞にはふたたびならないというのが、
ふつうの生物学の教科書にもある「常識」でした。

ところが分化した細胞を、酸処理や物理的ストレスを与えることで
初期化(リプログラム)され、ふたたびさまざまな組織・器官へと分化できる、
「多能性細胞」となるというのが、小保方晴子博士の発見です。
この酸処理や物理的なストレスによって、ふたたび多能性を
持つようになった
細胞が、「STAP細胞」というわけです。

はじめに論文を投稿したとき、査読者から「過去何百年の生物細胞学の
歴史を愚弄している」と言われて突き返されたとあります。
「いったん分化した細胞は、ふたたび初期化されほかの器官に分化できる
細胞には変化しない」という上述の生物学の「常識」に反するので、
査読者が納得しなかったということです。

このあと小保方晴子博士は、STAP細胞由来の細胞だけで、
からだを構成するマウスが産まれることができることをしめすなどして、
再現可能であることをしめして、査読者を納得させるにいたっています。
かくして従来の生物学の常識に反する、型破りな発見がなされたわけです。


いったん分化した細胞を、初期化(リプログラム)して、
ふたたび多能性を持ちほかの器官に分化できる細胞にすると言えば、
すこし前に話題になったiPS細胞を覚えているかたもいると思います。
山中伸弥教授とジョン・ガードン博士が、このiPS細胞の研究で
2012年にノーベル賞を受賞したことで話題になりました。

iPS細胞は、体細胞のコアである「核」を移植したり、
ウイルスによって体細胞に遺伝子を導入することで、
初期化(リプログラム)を起こして、細胞が多能性を持つようにしています。
もともとその細胞の中で作られたのではない「部品」を、外から導入するわけです。

STAP細胞は外からなにも導入せず、酸処理や物理的ストレスという、
iPS細胞よりも簡単な操作で初期化(リプログラム)を起こしています。
(「あまりに簡単すぎる技術で実現」というのがまた型破りであり、
最初に査読者がまゆげにつばをつけたゆえんでもあるかもしれないです。)
しかもiPS細胞が分化できない胎盤や羊膜にも、
STAP細胞は分化できて
、より「全能性」に近いという特徴もあります。


このSTAP細胞、わりあい簡単な技術で細胞が初期化されて、
ふたたび多能性を持つようになるというのが、
「生命はそんなに簡単に操作されうる」ということでもあって、
ちょっと怖いものがあるかもしれないです。
生物のからだは精巧で盤石なイメージがなきにしもあらずですが、
意外と「砂上の楼閣」の気がしてくるというものです。

シノドスの記事には、「細胞はやはり物質(環境)によって
操作しうるものであり、分け入って、物質的な意味を知ることによって
理解を深めゆくもの」といったことが書いてあります。
「生命現象も分子がわらわらがやがややっているだけ」という
リチャード・ファインマンのことばがありますが、
生命現象もやはり物質の営みのうちなのだと、あらためて思うところです。

STAP細胞の発見は、再生医療への応用はもちろん、
シノドスの記事にもあるように、「命はどうして産まれてくるのか」という
生命の根本的な疑問を解く鍵のひとつにもなりそうです。
不老不死の技術に一歩近づいたのではないか、という意見もあって、
生命倫理的な問題にもかかわってくるかもしれないです。


今回のエントリは科学的なお話だけで終わってしまいました。
小保方晴子博士が発見した内容がどれだけ画期的かということを
感じ取っていただくための、準備のエントリということにします。
社会的な問題については、つぎのエントリ以降にしたいと思います。

posted by たんぽぽ at 06:36 | Comment(10) | TrackBack(0) | 科学一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
STAP細胞、大発見かと思ったら、つぶれてしまいそうな気配が濃厚ですね。

「【衝撃】理研・小保方晴子氏のSTAP細胞論文の捏造がほぼ確定か 
著名研究者らによる失望ツイートまとめ」
http://matome.naver.jp/odai/2139437526768951501
「小保方さん、STAP細胞 博士論文画像と酷似」
http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20140310064205490
「STAP細胞「確信なくなった」」
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140310/k10015868081000.html

せっかくエントリを書いたのに、とても残念なことになりそうだ。
Posted by たんぽぽ at 2014年03月10日 21:19
生物学の観点で見た場合に、新たな研究とは別にすごく初歩的な部分で「避妊する」という行為が生物として前提されていないと思います。

高校生の男女が恋愛関係になって性行為をして、女性が妊娠した。
その場合に、とんでもないことだというのが今の日本では常識ですが、生物本来の観点では「避妊する」という行為のほうが不自然で想定されていないことだと思うんですね。

別に高校生に限らず、大人でも人間が「避妊する」という行為を獲得して社会に認識された時点で、言語や道具を用いることとは全く別の意味で、人間は他の生物とは異なる存在になったのだと思います。
一部、それは悪であるとして避妊・中絶禁止を規定する国や宗教がありますが、進化することで試行錯誤し避妊法を獲得した。つまり進化の結果、自然とそうなったのであり、生物として不自然で自然の摂理に反するとは言えないかもしれませんね。
このあたりは生物学者でも解釈が異なる複雑な件だと思います。
Posted by 幸福好き at 2014年03月10日 21:37
たんぽぽ様
なんか割烹着の話とか、完全に吹っ飛びそうですからね。
ただし、もしそう言うことだったとするなら、リケジョだの割烹着だのを、組織ぐるみで意図的に前面に出した可能性があるのかもしれません。あれがいかにも化学者風な身なりのおっさんだったら、最初から研究成果そのものがフォーカスされていたのではないかと…
その辺り、注視すべき話があるのかもね、と思います。

それと幸福さん。あんた、話飛び過ぎ。
Posted by ニャオ樹・ワタナベ@モバイル at 2014年03月11日 00:06
ニャオ樹さま

話飛びすぎというか、たんぽぽさんが生命倫理に触れられていたので避妊という意図的に子供ができないようにしたり、逆に子供ができないから代理母でという行為もひとつの生命倫理ではないかなと思いまして。

また割烹着とかリケジョという記事で、ちゃんと本題の研究に注目しろとお怒りの人がいらっしゃるわけですが、そんな程度だと思います。
田中耕一さんのノーベル賞の時も田中さんの記者会見での振る舞いがユニークとか、いい人に見えるとか。
またサラリーマンなのにたいしたもんだとか、本題の研究なんて分かってないし、説明されて分かるものでもないという感じですよね。
抗生物質とかヘリコバクターピロリなどであれば専門知識ゼロでも分かりやすく説明するのは可能だと思いますが。
Posted by 幸福好き at 2014年03月11日 21:20
幸福好きさま

そのお話、エントリの主旨とは関係ないですね。
興味ないです。
Posted by たんぽぽ at 2014年03月12日 18:55
ニャオ樹・ワタナベさま、
このエントリにコメントありがとうございます。

>リケジョだの割烹着だのを、組織ぐるみで意図的に前面に出した
>可能性があるのかもしれません

ひとえにマスコミの報道のしかただと思います。
報道被害が起きるにいたったのですよね。
アスリートのときもよくあるけれど、とくに若い女性というと
その道の一流の人物としての敬意がじゅうぶん払えず、
アイドルのような持ち上げかたをする人が多い、ということだと思います。

>あれがいかにも化学者風な身なりのおっさんだったら、
>最初から研究成果そのものがフォーカスされていたのではないかと

それはよく言われることですね。
それなりの年齢の男性であれば、おなじような「アイドル扱い」は
なかったのではないかと思います。
その人となりとか個人的なことに注目されたのだとしても、
その道の一流の人物としての敬意は保ったでしょう。
Posted by たんぽぽ at 2014年03月12日 18:57
たんぽぽ様

どうなんでしょうかねえ。
確かにこの件で、大半のマスコミの取り上げ方は、最初から話にならない低俗さでしたが、しかし理研や小保方さん達も、純粋に報道被害の被害者なのかと言うと、そうだとも言い切れない部分もあるような…
なんともモヤモヤした感じです、私は。
Posted by ニャオ樹・ワタナベ@モバイル at 2014年03月12日 22:30
ニャオ樹・ワタナベさま、コメントありがとうございます。

>理研や小保方さん達も、純粋に報道被害の被害者なのかと言うと、

わたしも騒ぎの全貌を知っているわけではないですが、
こんなこともありましたので、ご参考までにどうぞです。

http://togetter.com/li/623875
http://togetter.com/li/624126
http://togetter.com/li/624144
Posted by たんぽぽ at 2014年03月13日 19:12
理研には、特定研究法人への格上げ認定の話があるようですね。
それが今回の一件でケチが付いたので、このままだと認定見送りになるから、何とか4月中に理研の側(内部調査委員会)から、再発防止策とかを含めた今後の対応方針を示せれば、日程的には閣議決定を経て今国会で認定を取れるとかなんとか…
ここから先は、全くの私の邪推でしかありませんが、そもそもがそう言う話だったのではないかと、凄く思えるんですよね。
1.理研を特定研究法人に格上げしようとした人がいた。
2.とは言え、国会審議を通すには、何か派手で見栄えの良い=予算の付けやすい成果が欲しい。
3.小保方チームに白羽の矢が当たり、まだまだ途中段階の研究を、一定の成果が出た風にして、ネイチャーに投稿。
4.しかし見栄えの良さで矢を当てた主任研究員が美人過ぎたのと、論文の中身が薄弱なことがばれて、予想外の大騒ぎに…
とかね。
ま、邪推でしかありませんけど。
Posted by ニャオ樹・ワタナベ@モバイル at 2014年04月03日 18:20
ニャオ樹・ワタナベさま、
このエントリにコメント、ありがとうございます。

>そもそもがそう言う話だったのではないかと、凄く思えるんですよね。

うーむ、どうでしょうね。

理化学研究所を特殊研究法人へ格上げさせることと、
STAP細胞の研究にねつ造があったことはいちおう無関係と、
わたしは考えていますが。
Posted by たんぽぽ at 2014年04月03日 23:13
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