2014年03月12日

toujyouka016.jpg 理科教育と理系人材

3月10日エントリの続き。
小保方晴子博士のSTAP細胞に関する話題です。

「なぜSTAP細胞は驚くべき発見なのか--STAP細胞が映し出すもの」
「「STAP細胞」の社会的側面:倫理問題・理系人材など」
「1月30日:酸浴による体細胞リプログラミング(1月30日Nature誌掲載論文)」

 
科学に関することで注目される業績をあげたかたが出てくると、
理科教育や理系人材の育成について、話題になることも多いです。
現在の教育環境や社会環境で、すぐれた業績をあげる人材が
じゅうぶん育つようになっているかが問題となるからです。

「「STAP細胞」の社会的側面:倫理問題・理系人材など」

つぎのツイートでは、日本では理系人材が不足していると指摘しているのですよね。
https://twitter.com/y_mizuno/status/429279243072073728
========
日本政府は、理系人材をもっと系統的に(男女とも)学部段階で増やさないと
いけないと思うな。今の日本社会は、文系7割、理系3割で、理系が少なすぎ。
だからマスコミ報道も文系的?
第3期科学技術基本計画(2006〜10)で理系の女性研究者を
増やす方針が出て今に至るわけだけど、全然足りない。
========

「日本は資源がとぼしく、工業製品を輸出することで経済が成り立つ
科学技術立国だから、将来の繁栄のためにも理系教育には
力を入れる必要がある」というのは、むかしから言われていることです。
本来でしたら日本は理系教育に対しては、
他国よりもずっと力を入れていいはずと言えるでしょう。


理系に人が集まらない理由はいくつかあると思いますが、
1. 理系は文系にくらべて勉強量が多い。
2. 理系は文系にくらべて授業料が高い。
のふたつを、ここでは指摘しておきたいと思います。
1.は理系分野に関する本質的なことなので容易には避けられないですが、
2.は政治の力で改善できることですね。

つぎのツイートでも指摘されていますね。
https://twitter.com/y_mizuno/status/429309080696410112
========
理系人材の組織的養成は、2つの理由で必要。
第1に理系のお勉強は積み上げ的で修得に時間がかかるが、
知的価値の源泉の1つで科学技術基本法の理念として。
第2に、日本の大学教育の7割は私立大学であり受益者負担だから、
安価な文系学部が増えるのを避けられない。つまり国家の舵取りの問題となる。
========


>1.について

文系学部は全体的に授業がすくなくて空き時間が多めと思います。
なにかの資格を取るにしても、英語がうまくなりたいといった
目標を持つにしても、自主的に勉強するという感じではないかと思います。

理系学部は大学に入ってから学習することが多く、
取るべき授業の数が多くなっていて、時間割がきっちり埋まっています。
しかも学生実験というかなり負担のかかる講義を受ける必要もあるのですよね。
理系学部出身のかたでしたら、学生実験のレポート書きに
追われた経験を、みなさんお持ちだろうと思います。

文系と理系の学習量の差は入試のころから始まっているのですね。
文系は高校2年生で入試に必要な勉強はだいたい終わって
3年生になると入試問題を解くことができるようになります。
理系は2年生でもまだ終わらず、3年生になっても(数学の微積分など)
入試のために新しい内容を学習する必要があります。


理系学部は、研究室に入って研究をやるようになると、さらにいそがしくなります。
どこの研究室も夜遅い時間まで、学生が実験をしていると思います。
土曜や休日に研究室に出てくる人もざらにいるでしょう。

(研究生活を紹介するために、夜遅くまで実験している光景を
高校生の親御さんに見せたら、「自分の子どもをこんなに
苦労させたくない」と言って、敬遠されたというお話があります。
研究室のようすを見せた側は、「研究生活はとても楽しくて
みんな夜遅くまでやっているよ」と言いたかったらしいです。)


>2.について

理系学部は実験装置に予算がかかりますから、
授業料が「文系学部<理系学部」となるのは必然的です。
そして「国立大学<私立大学」ですから、私立の理工系学部の
授業料の高さはすさまじいものとなるわけです。

(文系の研究室は予算が毎年あまるので、書店の本棚に並んでいる本を
読まないのに丸ごと買う、なんてことをするところもあるようです。
ちなみにわたしが出た大学では、文系学部は授業料があまるので、
不足する医学部にまわして補う、なんてことをやっていました。)


ここで日本は大学の授業料が異様に高いことと、
奨学金がとても貧しいことが問題になってくるのですよね。
すこし前ですが2012年2月23日にOECDが発表した、
大学授業料と奨学金についての調査に出ている図を、ご紹介したいと思います。

「学費は高いわ援助はないわ・・・日本の高等教育@OECD」
「Increasing higher education access: one goal, many approaches 」

edif_2chart20blognew21.jpg

横軸に奨学金の充実度、縦軸に大学の授業料を取ってプロットしています。
OECD加盟国の中では日本だけが「授業料が高くて奨学金が貧しい」という
左上の領域にぽつんとプロットがあるのでした。

授業料がゼロのライン上にプロットがある国がいくつかあって、
これらの国は大学の授業料が無償ということです。
北欧諸国は全部大学が無償というのはすばらしいですね。


日本の奨学金はただ貧しいだけでなく、給付型の奨学金が存在せず、
すべて返済しなければならないという唯一の国でもあるのですね。
返さなければならないのだから「奨学金」と呼ぶなという意見もあるくらいです。

「OECD加盟国の大学・高校の授業料無料化と給付制奨学金の有無」

しかもむかしは無利子の奨学金が受けやすかったのですが、
きょうびはそれもむずかしくなって、かなりの数の人が
利子付きの奨学金を借りるはめになっていると思います。
それが年収とあいまって、返済に苦しむ人たちが
増えているのが、社会問題になっているくらいです。

現状がこんな調子では、経済的負担ゆえに理系学部を希望する人が
減ることになりかねないのではないかと思います。
理系人材を増やすためには、すでに世界の非常識となっている、
日本の高い大学授業料と貧しい奨学金を改善する必要があると思います。


かかるていたらくは、日本が教育に投じる予算が
諸外国とくらべてすくないことが、大きな原因となっています。
高校無償化でさえ満足に定着しない国ですから、
大学の無償化なんて、思いも寄らないことなのかもしれないです。

2012年3月に、国連人権規約で定められた大学の授業料の無償化の
留保をようやく取りやめることになったのでした。
取りやめたというだけで、具体的な施策は考えてないようです。
実現に向けて動くのは、いつになるやらと思います。


付記:

肝心のSTAP細胞は大発見かと思ったら、つぶれてしまいそうな気配なのですよね。
10日の午後に怪しくなったという記事が出てくるようになって、
12日現在批判的な論調が多数を占めるようになっています。

「【衝撃】理研・小保方晴子氏のSTAP細胞論文の捏造がほぼ確定か 
著名研究者らによる失望ツイートまとめ」

「小保方さん、STAP細胞 博士論文画像と酷似」
「STAP細胞「確信なくなった」」

わたしはSTAP細胞の科学的正否については、しばらく静観したいと思います。
このエントリは科学的な正否にはあまり関係ないお話ですし、
このあとも科学的な内容にあまり関係ないお話しかしない予定です。

posted by たんぽぽ at 21:32 | Comment(13) | TrackBack(0) | 政治・社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
少子化なのに無駄に大学が増え過ぎているのが問題だと思います(^^)
Posted by 幸福好き at 2014年03月13日 22:47
でも大学進学率は上がっています。

大学生の数はいまもって増え続けているくらいです。
https://sites.google.com/site/daigakulabo/data/jinkou/studentfigure
Posted by たんぽぽ at 2014年03月14日 23:29
大学の数や大学進学、卒業者が増えたって仕方ないんですよ。

なんとなく皆が行く流れだからとか、まだ働きたくないからとの理由で進学するのは高校までで十分です。
大学は専門性を追究する、もっと言えば大学というのは専門の研究機関がその研究を学生に提供するという性質のもので小中までの義務教育、その延長の感で存在する高校とはまったく性質が異なります。

大学は本来、そのように牽引者となるべき人を送り出し、社会に還元するものです。
極端な定員割れなのに、補助金ほしさと教授や職員を失業させないために外国人を大量に入学させたり、卒業しても偏差値50前後の高校生より学力
がなく、かといって専門知識も得られていない。それでどのような大卒相応の職が得られるのでしょうか。
いや、大学が職業訓練校ではない。人としての知識教養を育むのが目的というならそれでいいですが(本当に知識教養を得られたかは別として)その場合は、当然、大卒なのに相応の職がないとか不満を言わないことですね。

でも実際起きていることは教授の失業救済とどこでもいいから大学に行きたい、という双方の思惑が変に一致しているだけです。
その意味では田中真紀子さんの新設大学を許可したくないとの判断は覆されましたが真相を突いていたと思います。
Posted by 幸福好き at 2014年03月15日 09:33
投稿が途中でクリックに触れてしまったようで、最初のものが中途投稿になってしまい申し訳ございません。

まあ、大学で学生の肩書を持ったうえでいろいろ楽しみたいならそれでいいかも。
人を見て法を説けとはよく言ったものですね。

どーせ80年やそこらの人生ですから、ピリピリせずに気軽に歩んだほうが賢いかもしれませんよ。

あなたが太陽になるとき私は月になります(^^)
Posted by 幸福好き at 2014年03月15日 09:52
人材を大事にしない、と言うか、人材は団体に奉仕すべし、と言うのが、日本古来の伝統なんですかねぇ。
山本五十六なんかは天才だった訳ですが、彼は決して軍令部の中枢には呼ばれませんでした。逆に米軍の方が山本五十六を恐れていたそうです。そして本来、一番安全な所で作戦を練るべき人物を、最前線で死なせてしまう。
あるいはオリンピック日本代表。メダルメダル言う割に、育成プログラムは貧弱過ぎるし、メダル獲得後の報奨金なんかにしても、雀の涙。
あるいは青色発光ダイオード。あんな凄い発明をした天才に対して、ボーナスはずむからパテントは会社に譲れとかね。

アホでしょ、と思いますよ。
「お前は本当に宝だ。金の事は一切心配しなくていいから、思う存分研究に打ち込んでくれ。」と言われたら、そう言ってくれた相手を、決して裏切らないと思うけどな。
Posted by ニャオ樹・ワタナベ@モバイル at 2014年03月16日 00:36
幸福好きさま

あなたははじめにこう言ったのですよね。
>少子化なのに無駄に大学が増え過ぎているのが問題だと思います

このコメントからは、「きょうびは大学生が減っている」と
考えていることが予想されます。
それでその考えは事実に反していて、「大学生の数はいまも増えている」
という資料をわたしは示したのでした。
https://sites.google.com/site/daigakulabo/data/jinkou/studentfigure

それに対するお返事が、
>大学の数や大学進学、卒業者が増えたって仕方ないんですよ。
というのは、どういうことですか?かみ合ってないようですよ。
ご自分の最初の考えが違っていたことに対する釈明はないのかな?


あとのコメントはなにが言いたいのかわからないです。
日本の研究水準や科学技術水準、理科教育のレベルをより高いものにするべく、
施策を考えている人たちにとって、どんなお役に立つのでしょうか?
Posted by たんぽぽ at 2014年03月16日 18:35
ニャオ樹・ワタナベさま、コメントありがとうございます。

>人材を大事にしない、と言うか、人材は団体に奉仕すべし、と言うのが、

日本人は精神論が大好きではありますね。
お金を出すとか制度を整えるとか道具や技術を改良するというのではなく、
個人の努力で解決させようとするのですね。
そういう精神構造の現れなのかもしれないです。

>オリンピック日本代表。メダルメダル言う割に、育成プログラムは貧弱過ぎるし、
>メダル獲得後の報奨金なんかにしても、雀の涙

日本のオリンピックの強化予算は他国とくらべてずっとすくないのですよね。
http://matome.naver.jp/odai/2134509236215607101
それでメダルを取って来い、取って来なければ税金泥棒だとか
騒ぐのだから、どれだけ面の皮が厚いのかと思います。
http://togetter.com/li/627504


>「お前は本当に宝だ。金の事は一切心配しなくていいから、思う存分研究に打ち込んでくれ。」

あと研究者に関しては「日本が嫌なら外国へ行けばいい」とか
排外主義まがいのことを言う人が、案外たくさんいますよね。

わざわざ外国へ行かなくても、国内でじゅうぶん仕事ができるくらいにして、
日本の研究水準がまともなものになったというものです。
人材が外国へ行くのは国内の研究水準はまだまだ、ということにほかならないです。
「外国へ行け」という人たちは、日本の研究水準は
そういうセカンドクラスでいいと思っているのかと思います。
Posted by たんぽぽ at 2014年03月16日 18:36
私が言いたいのは大学が増えても仕方がない。
大学生が増えるというのは単純に不必要な大学を増やし、特に志もないのに大学に進学した方がいいという漠然とした空気と妙に一致していることです。

現実には高度教育の体をなしていない大学が多いですね。
本人にとっても無駄。親御さんの経済負担になっているとすればもっと無駄でもったいない話です。

日本は読解力や数的解釈でしたか。そういう基礎学力で世界一だということで、要するに義務教育レベルは世界一です。
ですから、大学は理系の高度人材をもっと育てたいなら無駄な大学をつくらず、もっと絞れば補助金でも奨学金でも、厚くすることができます。

たた時代背景として、そういう限られた人しか大学進学しちゃいけないのか?差別じゃないか!
となるでしょうし、フリーターでなく大学生の肩書きでバイトして海外を回ったり、それも経験と学びでしょ?という意見に反対するつもりもないです。
でもそういうことで中高卒の人が働いて納めた税金を大学無償や返済不要の奨学金に回すのは無理でしょうね。
Posted by 幸福好き at 2014年03月17日 09:36
>私が言いたいのは大学が増えても仕方がない

その根拠として最初に、学生の数が減っているという主旨のことを
あなたは言っていましたが、実際には増えていると反証されても、
最初の主張が間違っていたことに対する釈明はないのですね。

ご自分の根拠が反証されても意見が変わらないということは、
「はじめに結論ありき」ということのようですね。
Posted by たんぽぽ at 2014年03月18日 20:02
ご存じですか?
中学技術科の時間数が315時間から88時間に激減しています。
中学技術科は男子にとって体育に次ぐ人気科目で、勉強が出来る出来ないに関係なく、多くの生徒が熱心に取り組んでいます。
中学技術科は理系人材にインスピレーションを与える重要な科目ですが、なぜか軽視されたままです。

中学技術科の時間数削減の直接の原因は、家庭科の男女共修とゆとり教育による教育時間全体の削減です。
そもそも女子は男女共修になるまで技術科教育をまったく受けていませんでした。

昨今の理系離れは中学技術科を削減したことによる当然の結果だと思います(女子に限れば男女共修を境に理系志願者がやや増えているようです)。
Posted by AAA at 2014年04月21日 10:38
AAAさま、いらっしゃいませ。
こちらのかたですね?
https://twitter.com/ppjjjqq

ご指摘のような意見は、わたしは初めて聞きました。

理系に対する興味という観点からすれば、
メインは理科でついで数学(算数)ではないかと思いますよ。
そちらで生徒たちの興味をひくよう努力するのがよいだろうと思います。

ご指摘のように技術科もまったく無関係とは言わないですが、
家庭科にも理系的要素はあるし、理系離れの原因としては
全体のうちの一部ではないかと思います。


ところで、あなたは現状をどう改めるのがよいとお考えなのでしょうか?
むかしのように技術科の時間数を確保するために男女別学にして、
男子生徒だけが技術科を受けるようにするのがよいとお考えでしょうか?
Posted by たんぽぽ at 2014年04月21日 19:19
>ご指摘のような意見は、わたしは初めて聞きました。

そうですか。
大手メディアの偏った論調や”家庭科教育だけ”を強調していた男女共修運動などの弊害かもしれません。
中学高校の家庭科はもともと男女共学の選択科目だったのですが、家庭科教師団体が女子のみ必修にすることを求めて請願やロビー活動を繰り返し(http://archive.today/97wze)、その結果として家庭科が女子科目になったので、男女差別解消を言うのであれば、選択科目に戻すべきだったのでしょう。少なくとも他の科目に影響が生じないように最大限配慮する必要がありました。


>理系に対する興味という観点からすれば、
>メインは理科でついで数学(算数)ではないかと思いますよ。
>そちらで生徒たちの興味をひくよう努力するのがよいだろうと思います。

中学技術科は身近な題材を通じて工学的な内容を学ぶ科目です。科学と技術の違いについては最近しばしば話題になりますが、基本的に相当に異なる活動です。科学は真理とその体系化を追求するものですが、技術は(大雑把に言えば)道具作りを行うものです。たんぽぽ様のご経験はわかりませんが、実際に体験すれば、理科教育や数学教育とは全く異なる楽しさが味わえます。


>ところで、あなたは現状をどう改めるのがよいとお考えなのでしょうか?
>むかしのように技術科の時間数を確保するために男女別学にして、
>男子生徒だけが技術科を受けるようにするのがよいとお考えでしょうか?

技術科の時間数を回復して男女に関係なく履修できるようにすべきです。家庭科を男女共に学ぶために技術科を削減する必要はありません。男女差別解消のために音楽や美術、英語や数学の時間を削減することなどありえないはずです。

技術科教育の歴史については下の資料を参考にしてください。
『技術科教育のカリキュラムの改善に関する研究』(国立教育政策研究所)
http://www.nier.go.jp/kiso/kyouka/PDF/report_06.pdf

ありがとうございました。
Posted by AAA at 2014年04月21日 21:40
AAAさま、またまたコメントありがとうございます。

いろいろとていねいにお話してくださり、ありがとうございます。
そういう問題もあるということ、記憶しておきたいと思います。

(くわしくない分野なので、わたしからのコメントが
あまりできなくて、まことにもうしわけないです。)
Posted by たんぽぽ at 2014年04月22日 22:42
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