2014年03月18日

toujyouka016.jpg 所得税を世帯単位に?

少子化対策として、現在「個人」になっている所得税の課税単位を
「世帯」にすることを、政府・自民党が検討し始めたというので、
ご紹介したいと思います。

「所得税の課税対象を個人から「世帯」単位に 政府・与党が見直し検討」
「経財相、世帯課税の導入「広範に検討」」
「女性の職場進出に逆行? 世帯課税ってどういうこと?」

より具体的には「N分N乗方式」を考えているもののようです。
このしくみは家族が多いほど税金が安くなるので、子どもの多いほうが
税制上有利となり、少子化対策に効果的だろうということです。

 
「N分N乗方式」とは、世帯の所得の合計Mを世帯の人数Nで割った額に
所得税を適用して、その税額mを世帯の人数N倍した額mNを納税額とするものです。
このときmN<Mとなって、Nが多いほど納税額がすくなくなるのが特徴です。

「N分N乗方式」
「【税制(N分N乗方式)】」
「課税単位の類型」

所得税は累進制となっていて所得が高いほど高税率ですから、
世帯の所得をNで割った額の所得税mは、
もとの世帯所得の課税額Mの1/Nより安くなります(m<M/N)。
よってmをN倍すればmN<Mとなって、Mより課税額がすくなくなるわけです。
これは世帯の人数Nが多いほどmNが小さくなります。
したがって子どもが多い世帯ほど納税額がすくなくなるということです。

「N分N乗方式」はフランスで導入されているもので、
実際に少子化対策として効果をあげている施策のひとつです。
甘利明経済財政・再生相はそれにならおうということなのでしょう。
自民党にしてはまともな少子化対策を考えていると思います。


「N分N乗方式」は夫婦共稼ぎ世帯の場合、夫婦ふたりの所得が合計されて
その額に対して所得税がかかることになるので、
個人単位で所得税を課税した場合より税率が高くなることになります。
それで専業主婦世帯が有利になるというので、
「成長戦略が目指す女性の活躍の推進に逆行するのではないか」と、
麻生太郎財務相が指摘しているのでした。

共稼ぎ世帯が不利益になるのを緩和する方法として、
「2分2乗方式」を併用するという方法があります。
夫婦の所得を合計したものを2で割った額に所得税を適用して
それを2倍したものを世帯の納税額とするということです。
これで単純に夫婦の所得の合計に所得税を適用するよりは、
納税額がすくなくなり、共稼ぎの負担感を減らすことになります。


所得税の世帯単位化はこれから議論をはじめるようですし、
具体的にどういったものになるかは、まだわからないと言えます。
「N分N乗方式」や「2分2乗方式」は、自民党のお歴々が信奉する
「家族のカチ」イデオロギーとは抵触しないと思うので、
そういった方面からの反発はおそらくないだろうとは思います。

問題があるとしたら、「THE PAGE」の記事で指摘があるように、
収税における実務上のことではないかと思います。
日本では源泉徴収という特殊なしくみを採用していて、
税金の管理を企業が肩代わりしています。
それゆえ世帯単位の所得の把握が困難だろうということです。

「N分N乗方式」を単純に採用すると共稼ぎ世帯が税制上不利になるので、
専業主婦世帯の優遇となり、女性を専業主婦にとどめる傾向に
拍車がかかるのではないか、という心配ももちろんあります。
女性の労働力率を向上させるという観点でも、
女性のライフスタイル選択の自由という観点でも、逆行することになります。


付記:

「THE PAGE」の記事の2ページ目にこんなことが書いてあるのですよ。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140310-00000005-wordleaf-pol&p=2
========
しかし何と言っても最大の問題は、政府として採用する戦略に
一貫性がないという点に集約されるでしょう。
========

わたしに言わせれば、無理もないことだと思いますよ。
民主党の政策を否定したいなんて感情論があったり、
「家族のカチ」を守りたいなんてイデオロギーへの固執がありますからね。
さらには「お国のために子どもを産むべし」と思っている
国家と個人の主客関係が倒錯した認識を持っている議員もいたりします。

こんな調子であれば、効果的な施策を行なおうとしても
あちこちから引っ張られて、施策に一貫性がなくなってもむべなるかなです。
一貫性のある筋の通った施策を行なうには、個人のために国家がある
という適切な認識のもと、感情論やイデオロギーから解放された
自由な思考ができる必要があるということですね。

posted by たんぽぽ at 22:36 | Comment(6) | TrackBack(0) | 家族・ジェンダー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
こんばんわ^^
先週くらい?のどなたかのツイッターで、フランスの少子化対策について、端的な表現で
『子供を産んで下さいっっ!!どうかどうかお願いしますっ!』
ていうのがあって、ものすごくわかりやすくて笑ってしまったのですが、これはその真逆を行く感じですね。
『ほらほら、子供を産んだら優遇してやるぞ(ドヤァ)。さあ産め。今すぐ産め。どんどん産め。』
(どうせ産ませりゃこっちのもんだ、へへへ)
みたいな本音が見えて嫌だなぁ…
Posted by あやめ at 2014年03月21日 22:42
私は今の問題は、女性でも同等に仕事をする権利とは逆に、女性でも同等(男性と)に仕事をせねばならないとの強迫観念が女性を苦しめている側面があると思います。
そういう女性にとっては昔ながらの保守思想のほうが良く思えるのではないでしょうか。

また少子化だからといっても、結婚したくない、また、結婚しても子供はつくらないというご夫婦もいますが、それが人としていけないことであるかのような空気が発生して息苦しくなっていると思います。
その息苦しさが結婚や子供をつくることを拒否したくなる心理を形成しているとすれば、なんとも皮肉なことですね。
Posted by 幸福好き at 2014年03月22日 07:40
あやめさま、このエントリにコメントありがとうございます。

>『子供を産んで下さいっっ!!どうかどうかお願いしますっ!』

わたしもそのツイートをどこかで見た気がするけれど、見つからなかったです。

フランスは(というか、欧米の民主主義国では)主体が個人で、
国家や社会は個人をサポートするもの、という観念が定着していますよね。
そういう国の「少子化対策」だから、安心していられるのもあるのだと思います。


>『ほらほら、子供を産んだら優遇してやるぞ(ドヤァ)。
>さあ産め。今すぐ産め。どんどん産め。』

日本はそのような不信感がどうしても残りますね。
国家や社会がさきにあって、個人がその手段のように考えている人は、
すくなくないと思います。
こないだも「本性を吐いたか?」と思われるようなことがあったですし。
http://bit.ly/1gHruz9

「N分N乗方式」はフランスで実際に導入されているしくみで、
自民党にしてはまともな少子化対策ではあるのですが、
「世帯単位」というところが、時代に逆行している感がありますね。
子どもを持たない人や、結婚しない人まで含めた
ライフスタイルの公平性という観点でも、議論の余地が出て来ると思います。
Posted by たんぽぽ at 2014年03月22日 11:33
幸福好きさま

警告は無視ということのようですね。
http://taraxacum.seesaa.net/article/392193448.html
Posted by たんぽぽ at 2014年03月22日 14:39
たんぽぽ様

ライフスタイル選択の自由、子供を持たないご夫婦や結婚しない人を含めた公平性。
国が個人を管理、国が子供をつくれと命令しているような違和感。

ですから警告無視どころか根本の主張は同じとさえ言えますね(^^)
Posted by 幸福好き at 2014年03月22日 16:27
わたしはそのような抽象的なカチカン論はしていませんよ。

百歩譲って関係あるのだとしても、ほかのエントリのコメント欄で、
噛み合ないコメントをしているのですから、説得力がないですね。

そもそもあなたはさきに、警告に対する釈明の必要がありますよ。
納得できる釈明があるまでは、警告エントリ以外のエントリに
コメント投稿なさるのはご遠慮願います。
http://taraxacum.seesaa.net/article/392193448.html
Posted by たんぽぽ at 2014年03月23日 00:11
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