働いていたほうが高くなるという、ほかに例の見られない
きわだった特徴のある国であることを、何度かお話したことがあります。
「若年女性の貧困の深刻(2)」
「母子家庭は怠け者発言」
このあたりの事情を、OECDの統計にもとづいて、
2次元のグラフでしめしたものがあるので、ご紹介したいと思います。
舞田敏彦氏の「データえっせい」の1月25日エントリです。
「一人親世帯の子どもの貧困率」
出展はつぎの「OECD家族のデータベース」という資料集で、
「4. Child outcomes (CO)」の「CO2.2 Child poverty」のデータです。
「OECD Family database」


横軸に親が働いていない世帯、縦軸に親が働いている世帯の
子どもの貧困率を取って、OECD各国の値をプロットしています。
OECD平均は親が非就労のとき61.1%、親が就労のとき21.3%で、
差分が39.9と、当然のように親が働くことによって貧困率が下がります。
OECDの平均値だけでなく、ひとつを除くすべての国で、
子どもの貧困率は「親が就労<親が非就労」、すなわち差分が
プラスの値という、当たり前の状況であることがわかります。
例外であるただひとつの国は日本で、差分が-2.1とマイナスの値です。
親が非就労のとき子どもの貧困率は52.5%で、親が就労のときは54.6%です。
日本は税金を投入して、ひとり親世帯に「わけ与えている」のではなく、
「むしり取っている」と言える、本末転倒なことをしているのですね。
さらに言えば日本プロットが上に飛び抜けたところにあって、
親が働いている世帯の子どもの貧困率が、
OECD加盟国の中では飛び抜けて高いことがわかります。
しかも50%を超えているただひとつの国であり、
日本においては一人親世帯は半分以上が貧困ということになります。
「現在の日本で、ひとり親であるということは、
半分以上の確率で、貧困に陥ることがわかってきた」
日本に次いで、親の就労で子どもの貧困率が改善しない国は韓国です。
親が非就労のとき23.1%で、就労のときは19.7%なので、
韓国はかろうじて「親が就労<親が非就労」となっていますが、
差分がわずかに3.4なので「親が就労=親が非就労」をしめす
斜め破線の近くにプロットが来ています。
ひとり親世帯の親の就労による子どもの貧困率の改善は、
日本と韓国の2国でOECD加盟国の最下位争いをしていて、
これはいつも通りと言えそうです。
ところが韓国はもともとのひとり親世帯の貧困率が、
日本よりずっと低く20%程度しかないですから、
グラフ上のプロットは韓国と日本はだいぶ離れることになります。
かくして日本だけが孤立するということです。
かかる日本のひとり親家庭の貧困は、5月1日エントリでお話したように、
母子世帯の年収がきわめて低いことが、大きな原因のひとつであることは、
容易に考えられることだと思います。
「母子家庭の年収分布」
関連記事:
「働いても働かなくてもシングルマザーの貧困率が変わらないという衝撃」
(はてなブックマーク)
「日本の「子供の貧困」がシャレにならなくなっている」
(はてなブックマーク)
関連エントリおよびそこに載せた図:
「母子家庭は怠け者発言」
「若年女性の貧困の深刻(2)」

阿部彩さんの分析も、舞田敏彦さんの図もともに衝撃的なものでした。労働力再参入者が非正規雇用が典型のわが国では離婚によって母子家庭となった家庭がワーキングプアになりやすいことと、わが国の福祉が高齢者福祉が中心で、高齢者間の不平等は多少解消しても、他の世代の貧困問題、特に母子家庭はそこから取り残されてしまというか、むしろ再配分の結果かえってより貧困になるという矛盾があるという点を如実に示していました。女性差別・非正規雇用差別問題と世代に公平でない福祉政策のあり方、その二つの問題の谷間に母子家庭が落込んでしまうのです。これはもう絶対に変えるべき社会制度なのですが。
このエントリにコメントまことにありがとうございます。
>再配分の結果かえってより貧困になるという矛盾があるという点を
ひとり親世帯は、親が非就労のときより就労しているほうが、
子どもの貧困率が高くなるというのは、とても衝撃的だと思います。
こんな「非常識」は日本だけ、というのもきわだっていると思います。
このような「逆転現象」は、それだけ日本では社会福祉が
まともに機能していないことをしめしていることにほかならないですね。
>女性差別・非正規雇用差別問題と世代に公平でない福祉政策のあり方、
>その二つの問題の谷間に母子家庭が落込んでしまうのです
日本社会がいかに母子家庭を見捨てて来たか、ということですね。
母子家庭の問題はさまざまな方面からまともにかえりみられず、
諸問題のはざまに埋もれて放置されて来たと思います。
このあたりは「女は結婚したら夫に養ってもらえて生活が安定する」
という考えが、日本においてはまだまだ根強いということなのでしょう。
母子家庭に対しては「結婚すれば暮らせるようになるでしょ」
くらいに思われて、社会的に母子家庭を支援することを
おこたってきたのだと思います。
こんな惨憺たる状況に対して、何らまともな手も打てない能無しが、同じ口で「出生率2.07」などと口走るから、本当にムカつきます。
このエントリにコメントありがとうございます。
母子家庭のこうした現状は、もっと多くの人に知られることだと思います。
早急に対策を打つ必要のあることですからね。
>同じ口で「出生率2.07」などと口走るから、
能天気もいいところという感じですよね。
彼らの家族政策、ジェンダー政策に、このような母子家庭の現状が
念頭にあるかどうかなんて、とても怪しいですし。