2014年05月10日

toujyouka016.jpg EUが経済協定で人権条項

EUと日本とのあいだで、貿易や投資の自由化や円滑化を進めるために
経済連帯協定(EPA)を結ぶ交渉を進めています。
これと同時に、戦略的パートナーシップ協定(SPA)を結ぶことも進めています。

このSPAに、日本で人権侵害や民主主義に反することが起きたとき、
EPAを停止できる「人権条項」を設けることを、EUが主張しているのです。
ところがこの「人権条項」に日本が猛反発(!)していて、
ニュースになっていて、ネットでもちょっとした話題になっているのですよ。

「EU、日本に「人権条項」要求=侵害なら経済連携協定停止」
(はてなブックマーク)
(はてなブックマーク)Yahoo

 
基本的人権と民主主義の尊重はEUの最重要課題のひとつです。
そして経済的な支援や協力と引き換えに、基本的人権と民主主義の尊重を求めるのは、
EUの外交の基本的戦略ですから、SPAに「人権条項」を設けようというのも、
EUらしいスタンスだと言えると思います。

これに猛反発するのも、日本らしいと言えると思います。
国連の各種委員会の勧告の履行度などがよくしめすように、
日本は基本的人権をあまり重要視しない国です。
よって「人権条項」が発動され、EPAが停止される可能性もあると思われます。
それで「ジンケンごときのために金儲けのじゃまされたくない」
という考えが、日本側にはあるのかもしれないです。

またこのようなEUの人権外交は、本来は開発途上国向けだったりします。
これが日本が猛反発する理由のひとつでもあるわけです。
こんな条項を受け入れたら、いつぞやの人権人道大使ではありませんが、
「日本は人権先進国」とうぬぼれられなくなるということでしょう。


わたしに言わせれば、EUが日本との経済協定で
「人権条項」を設けようとしても、無理もないことかなと思いますよ。
国連の拷問禁止委員会で勧告された「刑事司法は中世並み」というのは
きわだっていますが、日本の人権意識はEUとくらべると
さまざまなところで立ち遅れているからです。
ジェンダー問題に関しても、立ち遅れが多いことはいわずもがなでしょう。

じつはEUはアメリカ合衆国との自由貿易協定(FTA)では、
このような「人権条項」を求めてはいないのでした。
つまり日本の人権意識はそれだけ問題含みと思われているわけです。
EUもついに「日本は経済だけが発達した開発途上国」と
見るようになった、ということでもありそうですね。

この「人権条項」の規定はじつは対称で、EUで人権侵害があった場合、
日本がEPAを停止できるようにもなっています。
それでも日本が猛反発をしめすのは、日本のほうがEUより人権水準が低く、
もっぱらEUが日本に対してEPAを停止する可能性しかないと、
内心では思っている、ということかもしれないです。


はてなブックマークを見ると、かかるEUの「人権条項」が
お気に召さない人たちがすくなからずいるのですよね。
「EUの基準を押し付けられる」とか「経済活動と人権を絡めるな」とか
「EUにも人権侵害はある」といったもので、「定番」と言えます。

「EUの基準を押し付けられる」と言う人は、
基本的人権や民主主義が、21世紀の現在において全世界人類の
普遍的価値となっていることが理解できないのでしょう。
早い話「おまえはEUの市民じゃないから、差別されていいんだ」
などとして扱われたら、かなわないですからね。
「人権は西欧のローカルなカチカンだ」と矮小化するのは、
非西欧圏で人権を否定したい人の常套手段です。

「経済活動と人権を絡めるな」という人は、企業が人権を守らずに
操業することは「ダンピング」になることが、理解できないのでしょう。
これは適性な残業代を払わないなど、従業員を酷使すれば、
その企業はそれだけ不当に利益を得られるということです。
ダンピングは市場経済を撹乱しますから、人権を守らせることで
適性な市場を維持するのは、経済合理性があることになります。

「EUにも人権侵害はある」という人は、さきにお話したように
制度は対称なのですから、日本がEUに対してEPAを停止すればいいわけです。
それを主張しないのは、EUが日本に対してEPAを停止する
可能性しかないと、彼らもわかっているのでしょう。
「人権条項」に反発する人は、自分が人権意識が低いことや、
人権を尊重する気のないことを、しめしていると言えます。


>ISO26000の社会的責任

このような「人権条項」の締結には、ISO(国際標準化機構)が定めた
「ISO26000」という、企業などの組織の「社会的責任(CSR)」についての
国際規格が作られたことも背景事情としてあるようです。

企業をはじめさまざまな組織活動は社会に一定の影響をおよぼすので、
そうした活動に対して責任を持つ必要があります。
ところが活動は国境を越えるので、企業や組織の行動規範やガイドラインに
国際的な統一基準が必要となったということです。

「「人権」問題のグローバル化はすでに終わっている」
(はてなブックマーク)

「ISO/SR国内委員会」
「やさしい社会的責任」
「やさしい社会的責任(解説編)」
「やさしい社会的責任(事例編)」
「社会的責任向上のためのNPO/NGOネットワーク」


このISO26000の「社会的責任」では、基本的人権に関する
国際的規格も細かく定められています。
つまり企業や組織は基本的人権を尊重することが、
その社会的責任とされることが、国際規格になっているわけです。

これは具体的には、従業員が子どもを預ける施設が近くにあるかとか、
雇用の際、人種や性別、年齢で差別していないかとか、
ブラック企業と取り引きしていないかといったことがあります。
直接的だけでなく間接的な人権侵害に対してももちろん配慮されるし、
下請けや孫請けの会社にまで影響は及びます。

ISO260000は2010年11月1日に発効しています。
そして2012年3月21日にJIS規格が定められています。
基本的人権に関する国際規格はすでにできあがっているということです。
いまさら猛反発してももう手遅れであり、国際社会からはじかれたくなければ、
いかにしてこの対応をするかを考えるしかないということです。

posted by たんぽぽ at 23:33 | Comment(2) | TrackBack(0) | 政治・社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

はてなブックマーク - EUが経済協定で人権条項 web拍手
この記事へのコメント

じつはEUはアメリカ合衆国との自由貿易協定(FTA)では、
このような「人権条項」を求めてはいないのでした。
つまり日本の人権意識はそれだけ問題含みと思われているわけです。//

アメリカは女子差別撤廃条約も人権規約のうち社会権規約も批准しない、ILO条約もほとんど批准せず、労働時間の上限もない。

そして、それらはすべてアメリカの自由権重視の価値観に裏付けられている。EUの価値観を押し付けられる相手ではない。

それを理解しているからEUはアメリカには要求しない。

日本も、断固拒否すればいいんです。

>非西欧圏

アメリカも非西欧ですからね。日本もそうです。

ちなみに、アメリカの考えだと、一般的な労働時間の規制は勤労権侵害、つまり人権侵害です。

規制が厳しくて医療の水準が低いのも問題です。これもオバマケアの際にずいぶん問題になりました。公的制度になると最先端の医療が受けられなくなる恐れがあるということです。

EUとアメリカはこれだけ違う。
日本もどちらかといえばアメリカと同じ自由主義国なのだから、社会主義的なEUの基準なんか押し付けられてはたまりません。断固拒否すべきです。
Posted by ウインド at 2014年05月13日 23:47
ウインドさま

アメリカ合衆国も、死刑存置に関してEUからしばしば非難を
受けている国ではあります。
それでも日本とくらべたらアメリカ合衆国のほうが
ずっと人権を尊重するし、信頼できるということだと思います。
アメリカ合衆国の企業や各種組織は、「ISO26000」が定める
「社会的責任」の国際規格を守るだろうと思われているということです。

基本的人権は世界人類の普遍的な原則として認識されています。
「EUのカチカンにもとづく人権」「アメリカのカチカンにもとづく人権」
「日本のカチカンにもとづく人権」なるものが、
別個に存在するのではないのですので、誤解なさらないでくださいね。

>日本も、断固拒否すればいいんです

断固拒否したらどうなるかは、エントリでお話していると思いますよ。
国際市場からしめだされるようになるだけということです。
関税撤廃などを拒否するのは、経済合理性に反するのは了解しているでしょうね?

それから、SPAの人権条項は日本とEUとで対称というのは、
もちろんご理解していますよね?
EUが人権侵害しているときは、日本からEPAを停止してよいということです。
それにもかかわらず「断固拒否」というのは、EUから日本に対して
EPAを停止する可能性しかない、つまり日本のほうがEUよりも人権意識が低いと、
ご自分でも思っている、ということでよろしいのかな?


>アメリカも非西欧ですからね

アメリカはヨーロッパの文化的コロニーですから、西欧圏ですよ。

>社会主義的なEUの

EUが社会主義的とは寡聞にして初耳です。
Posted by たんぽぽ at 2014年05月15日 21:57
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