5月4日なのですこし前になりますが、政府が50年後(2060年)にも
日本の人口1億人を維持するという目標を掲げることになりましたよ。
「人口、50年後に1億人維持 政府が少子化対応で初目標」
「人口 50年後に1億人維持 政府が初の目標 少子化に対応」(全文)
(はてなブックマーク)
「人口維持、経済制約に危機感 制作設計の土台に」
「経済制約に危機感 人口維持 政策設計の土台に」(全文)
「日本の人口、働き手は50年後に半減」
「日本の人口 働き手は50年後に半減」(全文)
これは政府の経済財政諮問会議の下に置かれている、
「選択する未来」委員会が出した提言です。
(しばしば話題になる、あの少子化危機突破タスクフォースではないです。)
「選択する未来」委員会というのは、このブログでも
2月28日エントリと3月1日エントリでご紹介したことがある会合です。
出生率の回復と移民の受け入れで、日本の人口を将来も
1億人以上に保とうなんて議論をしていた、あの委員会ですよ。
そのときの案だった「50年後に1億人以上」を、正式に目標にするということですね。
「人口政策・選択する未来」
「人口政策・選択する未来(2)」
こちらが「選択する未来」が推計した、日本の将来の人口です。
出生率を回復させた場合の推計人口は、前の資料と若干違っていますが、
出生率を2.07まで回復させる前提があることはおなじです。
ろくな少子化対策をしていないのに、どうやって出生率を2.07にするのか
という疑問は、すでにお話したので繰り返さないことにします。
少子高齢化が進むとどのような困ったことになるかについても、
繰り返し言われていることですが、つぎの表の上側にまとめられているので、
あらためて見て行きたいと思います。
1. いちばんきわだっているのは超高齢化社会への突入です。
単に人口が減るだけでなく、高齢者の割合が増えるという特徴があるのですね。
2月28日エントリでしめした資料を見ると、現状のままでいると
2060年には高齢者率が39.9%になるとあります。
5人にふたりが「お年寄り」ですね。
「長期的な人口の推移と将来推計」
現行の社会保障は世代間の助け合いを前提に作られています。
したがって福祉を受ける側の人口比が多くなりすぎれば、
とうぜんながら社会保障が破綻する可能性が高くなるわけです。
2050年には高齢化によって日本は世界でいちばん悲惨な国になるという、
衝撃の予測もありますが、このままいけば当たることになるでしょう。
「2050年の世界一悲惨な国」
2. とくに過疎化が進む地方で人口減少の影響が大きく、
2040年には全国の半数にあたる896の自治体が
消滅の危機におちいるという、ショッキングな予測もあります。
これに関連して、とりわけ20-30代の若年層の女性が大都市圏に流出して、
地方からいなくなるという予測もあるのでした。
「896自治体「消滅危機」に新藤総務相が「ショッキング」 まず出生率改善を」
「地方から女性が消える」
ほかに
3. 経済成長が困難になる。財政破綻の可能性も出てくる。
4. 国際的地位の低下
5. 国民生活の水準が低下し、格差が固定化・再生産する
といったことが挙げられています。
国民生活にかかわる3.と5.はなんとかしてほしいところです。
4.についてはOECDに加盟していられれば、まがりなりにも
「先進国」と言えるのですし、今後国際的地位が下がって中堅国になっても、
それはそれでいいではないかという気も、わたしはするのですよね。
なぜに「大国」に、かくもこだわるのかとも思うところです。
「日本は経済大国だ」とか「国民の暮らしは豊かだ」と
うぬぼれられなくなるのは、ある種の人たちにとっては、
受け入れがたいことなのかもしれないです。
50年後に1億人以上の人口を維持するために、
具体的になにをしたらよいのかは、つぎの表に簡単にまとめてあります。
1項目めで指摘される、税制や福祉が若年層にくらべて高齢者に有利、
ということは、注意しておきたいところだと思います。
日本はOECD加盟国の中では、「家族・子ども向け公的支出」にくらべて、
「高齢者向けの公的支出」の割合が高い国なのですよね。
「福祉のバランス 子どもに冷たい日本の福祉」
家族や子どもの福祉にコストをかけないというのは、
それだけ子どもに冷たい社会ということですから、
必然的に出生率が下がってくることになります。
リソースがかぎられているのなら、現在の高齢者向けの福祉予算を
家族や子どもにまわして、福祉のバランスを取る必要があるでしょう。
前にしめした表の下側にも「日本が目指すべき5つの方向性」として
いくらか具体的に施策が書かれています。
1.から4.項目めまではとくに異論はないだろうと思います。
(どうやって実行するかはべつとして。)
5.項目めの「基礎的な制度、文化、公共心などを大切にする」
というのは、いったいなんなのかと思います。
国民に対して「精神論」を要求する、ということでしょうか?
「愛国心」に似たようなことを要求する、ということでしょうか?
そもそも制度や文化、公共心を国民に大切にさせることで、
どうやって人口を維持するのかと思います。
人口政策はもっぱら社会問題であり、政治で解決することです。
国民の意識のありかたで解決することではないのですよね。
制度や文化や公共心やらを大切にしてほしいなら、
多くの国民から愛されるような社会制度を政治が作ることですよ。
政治が国民に要求することではないでしょう。
まだよく理解できていないというか、こういう項目を入れないと
安心できない人がいるということなのでしょうか。