すこし前ですが、妻の年収にかかわりなく控除額が一定となる案が
有力となってきたニュースがあるので、ご紹介したいと思います。
「所得控除、夫婦一体で 妻の年収問わず一律76万円 女性の社会進出促す
政府検討「103万円の壁」解消」
「所得控除、夫婦一体で 妻の年収問わず一律76万円 女性の社会進出促す
政府検討「103万円の壁」解消」(全文)
リードの部分を引用します。
妻の年収によらず控除額が一律の新制度を「家族控除」と呼んでいます。
配偶者控除の見直し問題で妻の収入がいくらになっても
夫婦全体の控除額が変わらない新制度を作る案が、政府内に浮上してきた。
夫婦それぞれが基礎控除(38万円)を持ち、働く妻の年収にかかわらず
控除額は合算され、一律76万円になる仕組みだ。「家族控除」とも呼ばれる。
年末の税制改正大綱決定に向けて議論になる。
「家族控除」案は、わたしがむかし2010年12月23日のエントリで、
ご紹介したことがある、kirikoさまのお考えになった
基礎控除への一本化案と同様のものだと思います。
「基礎控除への一本化案」
「配偶者控除を基礎控除に一本化すべきである」
現行の控除のしくみをしめしたのがつぎの図です。
妻の年収が103万円以下の場合、以下の「パート主婦世帯」のパターンとなり、
妻に基礎控除が適用されるとともに、配偶者控除も適用されます。
控除がいわば3人分適用されることになり、人数分しか適用されない
ほかの世帯より税制上優遇されることになります。
この「パート主婦世帯」の優遇を是正しようということです。
日経の記事は現行制度についてつぎのように解説してあります。
配偶者控除は、最低生活費分を課税対象から外す考え方だ。
妻が103万円以下で働く場合、本人は基礎控除(38万円)と
給与所得控除(最低保障65万円)の両方が適用され、課税額がゼロになる。
配偶者控除を廃止して基礎控除への一本化(家族控除の導入)をする
というのは、上の図のピンクの「配偶者控除」をなくして、
各人が緑色の「基礎控除」を持つようにするということになります。
上の図の1行目の「専業主婦世帯」は、ピンクの「配偶者控除」が
なくなりますが、ブランクになっている妻のところに
緑色の「基礎控除」が入るので、控除額はおなじになります。
2行目の「パート主婦世帯」は、ピンクの「配偶者控除」がなくなるだけで、
現行の優遇がなくなり負担増になるということです。
下に日経の記事に出ている図を転載します。
1段目が上の図の「専業主婦世帯」、2段目が「パート主婦世帯」、
3段目が「共働き世帯」に相当します。(単身者は書いてくれなかった。)
大きな変化のある2段目の「パート主婦世帯」が、
控除額が現行の76-114万円から、見直しによって76万円になるので、
太い枠で囲んで「負担増」と書かれています。
基礎控除への一本化(家族控除)によって、妻の年収によって
控除額が変化することなく、一律に76万円となるので、
ライフスタイルによらない公平性が確保できることになります。
これによって年収103万円を上限にして働く有利さはなくなり、
いわゆる「103万円の壁」はなくなることになります。
単純に配偶者控除を廃止すると、上の図のピンクの部分が
なくなるだけなので、「専業主婦世帯」が負担増になります。
基礎控除への一本化(家族控除)案では、「専業主婦世帯」の妻が
基礎控除を持つので、負担増が回避されることになります。
つまり「控除が福祉の肩代わり」の役目も残されるということです。
優遇がなくなって負担増になる「パート主婦世帯」をどうするかですね。
日経の記事を見るとつぎの対案がしめされています。
家族控除を提唱する中央大学法科大学院の森信茂樹教授は
「激変緩和措置として、配偶者控除の廃止による増収分を
子育て対策の予算などに使えば、反発は少ない」とみる。
ところが民主党政権時代に、配偶者控除廃止の財源を回すはずだった
子ども手当てを「ばらまきだ」と言ってつぶしたのですよね。
過去にまったく反発を防げなかった実績がある上、
自民党もつぶした側なのですが、それをみずから実行するのかと思います。
家族控除(基礎控除への一本化)は、わたしはとてもよい案だと思います。
問題はこれを実現できるかどうかですね。
日経の記事にはつぎのように書いてあります。
自民党は2013年参院選で配偶者控除の維持を公約した。
党政務調査会には家族控除に前向きな意見があるが、それも一筋縄ではいかない。
これは「家族のカチ」にこだわって、配偶者控除の廃止に
反発する人たちもたくさんいるということですね。
「配偶者控除で自民党内に対立」
付記:
日経の記事にはつぎのことも書いてあります。
配偶者控除見直しでは、課税単位を現在の個人からこれは3月18日エントリでご紹介した「N分N乗方式」のことだと思います。
世帯に変える「世帯課税」案もある。
世帯の総所得を家族の任ずなどで割って税額を計算するものだ。
減収が大きいのであまり積極的になれないのでしょう。