2014年07月19日

toujyouka016.jpg 学術会議が民法改正の提言

6月30日なのですこし前ですが、日本学術会議が
民法改正についての提言書を発表したので、ご紹介したいと思います。

「日本学術会議が民法改正を提言」
(はてなブックマーク)

こちらが提言書です。なかなかの大部となっています。

「男女共同参画社会の形成に向けた民法改正」

 
目次はこのようになっています。
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目次
1はじめに
2民法改正への内発的な動き
3政府の方針と男女共同参画基本計画の中での位置づけ
4世論の動向と世論を根拠にすることの問題性
5司法判断を契機とする法制の改正
6婚外子の相続分差別の廃止〜最高裁大法廷違憲決定と民法改正
7民法改正の提言
(1)提言の趣旨
(2)「婚姻適齢の男女平等化」に関する検討と提言
(3)「再婚禁止期間の短縮ないし廃止」に関する検討と提言
(4)「選択的夫婦別氏制度の導入」に関する検討と提言
<参考文献>
<参考資料1>審議経過
<参考資料2>
公開シンポジウム
<付録>
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民法改正と男女共同参画との関連や、国内のジェンダー問題の背景事情、
現在にいたるまでの民法改正に向けた動きにまで触れています。
最近の動向も含めて、ほかの資料にはあまりないことも書いてあります。
これ自体がちょっとした資料集になっていて、全部ご覧になれば、
民法改正に関するさまざまなことがわかるのではないかと思います。


提言の内容はつぎのようです。
民法改正の4つの課題のうち、昨年改正された婚外子の
相続差別撤廃をのぞく、残りの3つですね。
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(1) 婚姻適齢の男女平等化
現行規定は男性18歳、女性16歳に達しなければ婚姻することがで
きないとしているが(民法第731条)、これには合理的理由はなく、
性による差別である。男女の婚姻適齢を18歳に統一して、
男女差別をなくすべきである。

(2)再婚禁止期間の短縮ないし廃止
現行規定では、女性は前婚解消の日から6か月間は、
再婚することができないとしているが(民法第733条)、
再婚後に出生した子の父が前婚の夫か、後婚の夫かわからなくなることを
回避するためには6か月は不要であり、期間は短縮すべきである。

さらに、離婚・再婚が増加している現在、婚姻をする権利に
男女格差があることの不合理性と科学技術の進展を考慮すれば、
再婚禁止期間は廃止すべきである。

(3)選択的夫婦別氏制度の導入
現行規定では、婚姻時に夫または妻の氏を称するとしており
(民法第750条)、これは夫婦同氏の法的強制を意味する。
形式的には性中立的な規定であるが、実際には96.2%が夫の氏を
選択しており(2012年)、男女間に著しい不均衡を生じさせている。

氏は単なる呼称ではなく個人の人格権と切り離すことはできず、
夫婦同氏の強制は人格権の侵害である。
個人の尊厳の尊重と婚姻関係における男女平等を実現するために、
選択的夫婦別氏制度を導入すべきである。
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(3)の夫婦別姓は、形式的には男女で中立的であるが、
実際には大半のケースが夫の苗字を選ぶので著しく不均衡である、
ということを理由にしています。
ここでは、夫婦の双方が非改姓結婚を望んだ場合、
同時に認められないことにも、触れてもよかったかと思います。

日本学術会議は研究者の団体ですから、民法改正、とくに夫婦別姓問題に
ついては、敏感であっていいはずなのですよね。
国立大学の教員はみなし公務員で政治活動はできない
という限界があるので、あまり積極的に民法改正に関する提言が
出せなかったのもあるのかもしれないです。

そうした事情を考えると、今回このような提言書を
出したというのは、大きいことだと言えます。
民法改正、とくに夫婦別姓問題について、これ以上だまっている
わけにいかないということなのかもしれないです。


4章は「世論の動向と世論を根拠にすることの問題性」で、
世論調査を理由に民法改正を先送りにすることについて、
ひとつの章を取っています。
これまでもずっと政府は世論調査を理由に、選択的夫婦別姓を
認めることを、先送りにし続けてきましたからね。

章の前半は世論調査の数字を挙げて、結婚する世代である20-30代、
子育て世代の40代は賛成のほうが多くなっているので、
当事者世代の意向を反映させて民法改正するべきだとしています。

また国連人権B規約委員会や女子差別撤廃委員から、
世論調査に関係なく、条約と整合するよう国内法を整備しろ、
という主旨の勧告を受けていることを挙げています。
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また国連女性差別撤廃委員会は、第6次政府報告書審査の総括所見において、
「本条約の批准による締約国の義務は、世論調査の結果のみに
依拠するのではなく、本条約は締約国の国内法体制の一部であることから、
本条約の規定に沿うように国内法を整備するという義務に基づくべきである」と
日本政府に勧告している(2009年)
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5章では、これまで民法に関する諸問題は、裁判結果を受けて
改正がなされてきたことに触れています。
住民票と戸籍の続き柄、婚外子の父が認知した場合の児童扶養手当て、
そして2008年の国籍法改正のことが挙げられています。
6章は昨年民法改正がなされた、婚外子の相続差別撤廃についてです。

5章の最後で
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いずれも当事者から訴訟が提起されて、その問題性が明確になり、
裁判所が人権の視点から判断し、これを受けて法制の改正が実現している。
婚外子の相続分差別を廃止する2013年12月5日の民法改正も
こうした司法判断を受けた法改正の流れの中に位置づけることができる。
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と書かれていて、6章の最後のほうで
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司法判断を契機とするのではなく、立法府自身による迅速な法改正が
求められる所以である。
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とあります。

いつも裁判で違憲判決が出ないと国会は動かないのですよね。
これまでの様子を見たかぎりでは、選択的夫婦別姓も
違憲判決が出ないかぎり、国会は民法改正に乗り出さないでしょう。
本来でしたらこれくらいのことは裁判所に持ち込まれる前に、
国会が自主的に民法改正を実現してしかるべきだと思います。

今年の3月に夫婦別姓訴訟は原告が棄却されたのでした。
判決は「夫婦別姓を認めるのは国会の仕事」というスタンスです。
国会と裁判所がおたがいに「あちらの責任でやること」
という態度を取っているから、らちがあかないのですよね。


謝辞:

6月16日エントリのコメント欄で、日本学術会議の提言書を
教えてくださった魚さま、まことにありがとうございます。
http://taraxacum.seesaa.net/article/399609155.html#comment

posted by たんぽぽ at 14:41 | Comment(2) | TrackBack(0) | 民法改正一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
ほんと、国会にしろ安倍にしろ、そして、学術会議の提言を受ける側である下村文部「疑似」科学大臣にしろ、よっぽどのことがなければ、無視するのでしょうね。予想どおりとはいえ、本当に許しがたい人たちです。全く。

裁判所に関しては、日本は付随的違憲審査制だから裁判所の判断は具体的な事件(損害)に対して行うので、この問題でも集団自衛権でも「憲法違反」の判断等は、よっぽどのことがないと判断しないんですよね。
これもまた、困ったものです。

そういうわけなので、なんとしてもこの困った政権は倒さないといけないですね。。
こんなネトウヨ政権を支持している率がこんなに高いなんて、世界の恥だと思うんですけどね。。。

#愚痴ばかりで申し訳ございません(笑)

Posted by 魚 at 2014年07月22日 15:58
魚さま、このエントリにコメントありがとうございます。

>よっぽどのことがなければ、無視するのでしょうね

たぶん放置でしょうね。
最高裁から違憲判決が出ればさすがに動くことは、
さきの婚外子差別の件でわかったけれど、夫婦別姓に関して
違憲判決が出る可能性はいまのところなさそうですからね。

>裁判所に関しては、日本は付随的違憲審査制だから

そうなのですよね。
具体的な損害がないと違憲訴訟が起こせないのですよね。


>こんなネトウヨ政権を支持している率がこんなに高いなんて、

多くの国民は、安倍政権というか日本が、国際社会から警戒されている
なんて気がついていないのではないかと思います。
わかっているのは、ネットでさかんに情報交換をしている人たちばかり、
ということなのかもしれないです。

>愚痴ばかりで申し訳ございません(笑)

いえいえ、ぜんぜんかまわないですよ(笑)
Posted by たんぽぽ at 2014年07月24日 19:02
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