7月9日に「少子化危機突破タスクフォース」の第6回会議がありました。
会議に参加したかたのひとりが、リアルタイムでツイッターで
実況をしているので、そのまとめをご紹介したいと思います。
「駒崎弘樹氏による第6回内閣府少子化危機突破タスクフォース実況+
皆さんの感想 #少子化TF」
(はてなブックマーク)
ほかのかたの感想ツイートを除いた、実況だけのまとめもあります。
「駒崎弘樹氏による第6回内閣府少子化危機突破タスクフォース実況 #少子化TF」
前回5月の会議では、数値目標を決めるかどうかが議論されたのでした。
この少子化危機突破タスクフォースは「ああいうところ」ですから、
今回はなにが出てきたのか、気になるかたも多いでしょうね。
当初はフィンランドのネウボラについて議論する予定だったようです。
ネウボラとはフィンランドの自治体が設置する妊娠と出産の支援機関です。
委員のひとりである助産院のかたから、すごい意見が出たのですよ。
(いや、もう...)
「とにかく産めばいいんだよ」という、なにが問題なのか
まるでわかっていない人に典型的な考えかただと思いますよ。
https://twitter.com/Hiroki_Komazaki/status/486777997551091712
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こばやし氏(ばぶばぶ院長)「女性の初体験の季節は夏が多い。
本能的に考えればそういうことだ。我々は人間である以前で、ほ乳類。
体使って本能のままいけば、子どもはどんどん増える。
深く考えてはダメ。もっと本能に帰れ。」
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子どもを産んでも育てるだけの育児環境や職場環境、
経済的事情がないことが問題であり、それを解決するには
どうしたらよいかを考えるのが会議の主旨のはずです。
なにをこの期におよんでこのナイーブな認識は?と思います。
それだけではないです。
助産院のかたのお話を聞いて涙が出たという、長寿社会文化協会のかたもすごいです。
https://twitter.com/Hiroki_Komazaki/status/486784352685010946
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藤井委員(長寿社会文化協会)「こばやしさんの話を聞いて、涙が出た。
両親揃って温かい家族、というのが基本だ。しかし、ではどうしたら良いのか、と。
それは、乳幼児期に愛着形成をして、健全な子どもを育てることだ。」
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「両親揃って」というのが差別的ですね。
同性愛カップルの家族や、片親家庭は「基本」からはずれていて、
「健全な子ども」が育たないから排除されるのでしょうか?
それから「両親揃って」いても「温かい家庭」になるとはかぎらないです。
子どもの虐待とか問題を起こす家庭は、両親揃っていても起きます。
「乳幼児期に愛着形成をして、健全な子どもを育てる」というのは、
3歳児神話や母性神話を連想させるものがあります。
女性を家庭に押し戻すことになるわけで、
女性が妊娠・出産をしても仕事を続けやすい環境を整えることが
出生率の回復のために必要とされる状況において、
まったく逆行する考えであることは、言うまでもないことです。
だいたい「これが健全な家族」と外から決めて、
「健全」の条件に合わない家族を排除し差別的に扱ってきたことが、
現状の少子化社会を招いた一因にほかならないです。
人によってさまざまな事情があることを理解した上で、
どのような家族であっても、安心して暮らせるよう基盤を整えるのが、
政府や行政の役割のはずです。
参加した委員のリストを見ると、今回もまともなかたが多いのですが、
いつもひとりかふたり、おかしなことを言う人がいるみたいで、
このような玉石混淆になるものと思われます。
昨年話題になった「女性手帳」とか「婚活支援」なんて発想が
なぜに出てくるのか、すこしわかったような気がします。
実況に対して意見や感想を述べているツイートを見ると、
「『ゆっくり議論している暇はない』と言いながらこの内容?」とか
「委員の選考はどうやっているのか知りたい」という主旨の
コメントがいくつも見られます。
それを言いたくなるだろうと、わたしも思いますよ。
この玉石混淆というかカオスぶりは、じつはいまの安倍政権の
少子化対策に対する認識を、的確に反映したものなのかもしれないです。
安倍政権自体が、政権を取ってからにわかに少子化対策に
関心を持つようになったくらいです。
ちょっと前までは少子化問題に関心がなく、女性の権利にいたっては
むしろ反対していた人たちが、きゅうに「少子化対策」と騒ぎ出したのですよ。
わかってない人がすくなからずいても、むべなるかなと言うものです。
まとめのコメント欄に
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結局、子供を人質にして利権を手に入れたいだけでしょ
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という、無理解をあらわにしたコメントがあるのですよね。
こんなうがったことを考えているというのは、現状がいかに危機的であるか
まったくわかっていないと言わざるをえないです。
じつはいまもって日本におけるすくなくない人が、
少子化問題に対してはこの程度の危機意識なのかもしれないです。
そうだとしたら、安倍政権の少子化対策に対する認識も
そのような国民一般の意識を反映していると言えるでしょう。
そしてそれがタスクフォースの会議の玉石混淆ぶりに現れたのでしょう。
「国民は自分たちのレベルにふさわしい政治を持つ」ですよ。
人口学専門の学者が出席しているわけですが、統計の解釈がやや恣意的に思えます。
http://www.meiji.net/opinion/vol09_shinji-anzo/
「日本は1973年の2.14を境に低下しはじめ、2005年には過去最低の1.26まで低下した。
その後2012年には1.41まで回復したとされるが、これは国の少子化対策が奏功しているのではなく、
1971年〜1974年に生まれた第二次ベビーブーム世代の女性が、
40歳前後になり様々な努力で産んでいる現象でしかない」
と書かれているわけですが、この部分は妥当な見方だと思います。
ところが、そのあとで有配偶者の出生率にあまり変化がないことを挙げ、
【「未婚化」「晩婚化」の進行に歯止めをかけるための少子化対策は、
すでに結婚し子どもを持っている人たちに対する
「育児支援」や「待機児童問題」「子ども手当の増額」などの
次世代育成支援を議論の中心に置くのではなく、
再生産年齢の未婚男女が結婚し
家族形成しやすくなる環境の整備こそが必要である】
と主張されているわけです。
この有配偶者出生率がほぼ一定に保たれている理由も、
出生率が近年上昇している理由と同じく団塊ジュニア世代の駆け込み出産の影響です。
社人研による中位仮定に基づく世代別出生率推計値
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/newest04/hcon3f.html http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/newest04/hcon3e.html
↑の中位仮定に基づくコーホート指標をみると、
新しい世代ほど出生率が低下しています(1960年生まれまでは確定値)。
細かくみると、1955年生まれから1975年生まれまでに急激に下がり、
それ以降の世代は下がり方が緩やかになり1990年生まれ以降は1.30あたりに収束しています。
新世代と旧世代を比較して新世代の出生率が高くなっていないのであれば、
実質的に出生率が回復しているとは言えません。
これと同時に、既婚者の出生率についても、
新婚同士夫婦の完結出生率(1965年以降生まれは中位推計値)が新しい世代ほど低下しており、
統計的に横ばいでも実質的に下がっているとみるべきなのです。
であれば、そこから導き出される、
「次世代育成支援策より未婚男女の結婚・家族形成支援策を優先すべき」
とする考えに疑問符を付けざるを得なくなります。
人口学者であるこの人がこうした統計を用いた論証の誤謬を知らないはずはないですから、
「育児支援」「待機児童問題」「子ども手当の増額」
といった保育サービス拡充はやりたくないのではないかと勘繰りたくなります。
保育サービスが整っていないせいで、子どもを預けられないなら出産時に退職せざるを得ないとか、
育児は金がかかるといった子供をもうけることによる経済的デメリットが
女性は相手に対する高望みとなって現れ、男性は結婚に消極的となってそれぞれの非婚化を招くこと、
既婚者は子どもの数を制限することにつながる点を過小評価すべきではないと思います。
たんぽぽさんが書かれていた、社会的政策による少子化解決をはじめから拒絶しているような
意見を述べる方に比べればまともなのでしょうけど…。
会議への提出資料で家族向け支出目標がGDPの2%となっていますが、
仮にすべて高齢者向け支出を削って充てたとしても
せいぜい1.6くらいにしか出生率は回復しないでしょう。
高齢者向け支出と中立的な充て方なら1.5まで行くかどうか…。
http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/taskforce_2nd/k_6/pdf/s1.pdf
目標値が達成されるかどうかも怪しいですし、私にはどうにも及び腰に感じられますね。
このエントリにコメントありがとうございます。
>http://www.meiji.net/opinion/vol09_shinji-anzo/
なかなか興味深い資料をご紹介、ありがとうございます。
はじめのご指摘の
========
その後2012年には1.41まで回復したとされるが、
これは国の少子化対策が奏功しているのではなく、
1971年〜1974年に生まれた第二次ベビーブーム世代の女性が、
40歳前後になり様々な努力で産んでいる現象でしかない。
========
のくだりですね。
これは子どもの数は減っているけれど、女性の数がもっと減っているので、
出生率が増えている、というだけのことだと思います。
この出生率は正確には「合計特殊出生率」と呼ばれるもので、
15-49歳までの女性の人口に対する出生数を計算しているものですよね。
http://taraxacum.seesaa.net/article/397126748.html
団塊ジュニア世代がそれほど「努力して産んでいる」
というほどではないのだろうと、わたしは思います。
出生率の数字だけの回復が「少子化対策が奏功しているのではなく」
というのは、わたしもそうだと思いますが。
>ところが、そのあとで有配偶者の出生率にあまり変化がないことを挙げ、
わたしが考えるに、おそらく現状でも子どもを持てるだけの
経済事情や雇用状況、育児環境のある人たちだけが、
結婚しているのではないかと思います。
まだまだ「結婚したら子どもを産む」という具合に、
結婚と出産がセットになって考えられているのでしょう。
それゆえ子どもを持てない人は、そもそも結婚をしないのだろうと思います。
========
再生産年齢の未婚男女が結婚し家族形成しやすくなる環境の整備こそが必要である
========
というのはなにかと思ったら、
========
結婚後の経済的安定と家庭形成環境の確保を両立させることだろう。
結婚後の経済的安定のためには、結婚・出産後の正規雇用と安定、
男女の非正規雇用を減少することが求められる。
家族形成環境の確保のためには、伝統的性別役割分業の再考、
男性の自立、夫の家事・育児支援、地域社会と連動した育児支援、
学童保育の拡充など、本当の意味での男女共同参画社会を実現する必要がある。
========
とありますね。
未婚率が上がっているのを雇用問題と考えているのは同意見ですが、
現代の日本社会において、子どもを産み育てられるだけの
経済力を持つためには、夫婦共稼ぎである必要があるわけですよ。
それゆえ「育児支援」や「待機児童問題」「子ども手当の増額」といった
次世代育成支援も必要になってくるのだと思います。
「男女共同参画社会を実現」という観点からも
夫婦共稼ぎが広まっていくことが予想されるし、
それも妻が家計の補助的な仕事ではなく、
夫と同様の年収が得られる仕事を持つことになるわけです。
そうした状況で子どもを産み育てるためには、
やはり「育児支援」その他の次世代育成支援が必要と言えますね。
>↑の中位仮定に基づくコーホート指標をみると、
このページの表III-3-6かしら?
やはり女性の数は減っていくのですね。
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/newest04/hcon3f.html
将来に向かうほど情報がすくなくなるから、単純に値を外挿することに
なるんでしょうけれど、今後の社会状況の変化いかんによっては、
予測値よりさらに下回ることもありえますからね。
>会議への提出資料で家族向け支出目標がGDPの2%となっていますが、
>http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/taskforce_2nd/k_6/pdf/s1.pdf
こちらもご紹介ありがとうございます。
日本は現在対GDP比で1.35%、フランスとスウェーデンはともに3%以上なのね。
OECD各国を比較したグラフを、わたしも前に調べたことがあります。
(2003年なのでやや古いですが。)
日本が家族向け支出とくらべて、高齢者向け支出に偏重しているのが
わかるグラフも、いっしょに載せています。
http://lacrima09.web.fc2.com/teardrops/hall/welfare-balance.html
1.6-1.7くらいまで出生率が回復すれば、
がんばったほうではないかと、わたしも思いますよ。
ひとえに始めるのが遅すぎるのだと思います。
2030年までに2.07なんて目標があるけれど、まず無理だと思います。
http://taraxacum.seesaa.net/article/390075107.html
出生率に目標値を決めると、産めという圧力になるという
批判が続出したけれど、2.07なんて数値目標は
そもそもが実現不可能だという批判は、ほとんど出てこないようですね。
http://taraxacum.seesaa.net/article/395471749.html
実質的な出生率の動向は、10代や40代のあまり出産しない年齢層も含まれ、
人口構成の影響を大きく受ける合計特殊出生率を見るより、
コーホート別(世代別)出生率を見比べて新しい世代と古い世代を見比べて
出生率が上がっているのかどうかを見比べた方が良いというのが私の見方ですが、
以下の資料の図5、6が分かりやすいと思いますね。
厚生労働省による2010年度出生に関する統計
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/syussyo06/syussyo1.html
以下の資料でも、34歳以下の母からの出生数が減って35歳以上の母からの
出生数が増えていますが、不妊治療など医学の恩恵と晩婚化の影響ですね。
母の年齢(5歳階級)別にみた出生数の年次推移
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai11/kekka02.html
それから、経済基盤の安定と密接な関係がある雇用問題と出生率は
出産・育児による経済的デメリットが大きいという前提条件があって
初めて関連性が出てくるわけですが、
世界規模で俯瞰的にみるとあまり関係がない指標になります。
雇用問題はそれはそれで対策が必要ですが、
次世代育成支援策によって、まずはこの前提条件をなくしてやれば良いわけです。
私からすれば、保育サービスや産休・育休制度充実による女性のキャリア断絶の解消と、
子供手当や高校までの授業料無料化による養育負担軽減は
少子化対策の一丁目一番地に当たり、仏瑞あたりでも実績があるのだから
さっさとやれば良いのです。
安倍政権下の少子化TFではなぜかこの部分を避けようとしてるのではないかと
見えてしまいます。私の邪推でなければ良いのですが。
>コーホート別(世代別)出生率を見比べて新しい世代と古い世代を見比べて
>出生率が上がっているのかどうかを見比べた方が良いというのが私の見方ですが
前のコメントでご紹介いただいた図、女性の数に対して、
子どもがどれだけ産まれるかという、ふつうの意味での出生率だったのですね。
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/newest04/hcon3f.html
産まれてくる子どものうち女性がどれだけかという出生率なのかと、
わたしは前のコメントで勘違いしていました。
>厚生労働省による2010年度出生に関する統計
>http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/syussyo06/syussyo1.html
>母の年齢(5歳階級)別にみた出生数の年次推移
>http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai11/kekka02.html
またまたご紹介ありがとうございます。
晩産化が進んでいるのがわかりますね。
ひとつ目のリンクですが、1970年産まれと1975年産まれとで、
差がほとんどなくなっていますね。
たぶん年齢の上限に当たって、これ以上晩産化できなくなった、
ということだろうと思います。
出産年齢に上限があって、なおかつ晩産化は進むとなると、
結婚しても子どもを持たない夫婦も増えてくることが考えられますね。
もっと早くから結婚して子どもを持てるようにしないと、
少子化の進行を招く、ということですね。
>世界規模で俯瞰的にみるとあまり関係がない指標になります
欧米の民主主義国では出産・育児による経済的デメリットが
大きくなる問題は、ほぼ解決しているのではないかと思います。
日本では相変わらず経済的デメリットが大きいわけで、
雇用対策はいまもって有効というか、必要なことだと思いますよ。
そのあたりはたとえば、現在「M字カーブ」があるのは、
日本と韓国だけということがあると思います。
欧米の民主主義国では「M字カーブ」はすでになくなっているのですね。
http://bit.ly/1zQhLTf
民主党政権の政策を否定したいという感情的反発と、
あの高度経済成長期の家族を理想とする「家族のカチ」を維持したい
という意識がまだあるのだと思いますよ。
http://bit.ly/1spGs5B
安倍自身、10年前にはジェンダーフリー・バッシングに
加担してきたことがあるのでして、そうした自分の過去を
まだ否定したくないのもあるのではないかと思います。
それでいまやっている政府の「少子化対策」も、
これらの「過去の愚策」に抵触することは、避けようということなのでしょう。
そうした姿勢が限界を与えるのだと思います。
まだまだ「余裕がある」とも言えると思いますが。
>少子化危機突破TFメンバーはどうも女性の権利にかかわる対策に
>消極的な方が多いと感じますね
(2014年07月21日 21:20)
しょせん女性の権利にぜんぜん理解がないどころか、
積極的に否定してきた人たちが、最近になってにわかに
経済のために「女性活用」と言い出したわけですからね。
できるだけ認めるべき女性の権利はすくなくして効果を出そうなどと、
都合のいいことを考えているのかもしれないです。