すこし前ですが、朝日新聞が7月26-27日の2日をかけて
「男女が生きる そこにある貧困」という大特集を行なったのでした。
2日とも1面の3分の1ほどと2面の大部分を使うという、大きな扱いです。
これらの記事を見ていきたいと思います。
「シングルマザー、追い詰められて 今そこにある貧困」
(はてなブックマーク)
「男女が生きる そこにある貧困(上)「育児は女性」母孤立」
「月収5万円 子守り誰に頼れば」
「日本のシングルマザーの実像は」
「払われぬ養育費 生活厳しく」
「母子家庭の困窮 子へ連鎖」
はじめにつぎの2ページにまたがっている記事を見ていきたいと思います。
「男女が生きる そこにある貧困(上)「育児は女性」母孤立」
「月収5万円 子守り誰に頼れば」
これは今年の3月に起きた、ベビーシッターに預けた子どもが
殺された事件を取り上げています。
「ベビーシッターの男を逮捕 2歳児死亡、死体遺棄容疑」
「「子どもに申し訳ない…」子育てしながら働く女性の苦境浮き彫り」
シングルマザーで生活費の必要から自分が働いているあいだ、
子どもを預ける必要があるが、頼れる身内はいないし、
夜間ということもあって認可保育所も空いていないので、
ベビーシッターに頼んだということです。
3月14日から16日までの3日間の約束でした。
2歳の長男と8ヶ月の次男のふたりを預かってもらったのでした。
ところが17日に上の子が遺体で見つかったのでした。
下の子は保護されたようです。
「男児死亡事件で注目、「ベビーシッター」紹介サイト
なぜ母親たちは利用せざるをえないのか」
「「ベビーシッターサイト」を「こわい」と感じる人と「ありがたい」と感じる人と」
「男児死亡…乱立するベビーシッター業界の裏側」
「「なんでも母親のせいなのか?」 ベビーシッター宅男児死亡事件の母親批判に、
ネット上でママたちが激怒」
悪いのはどう考えてもベビーシッターの男性です。
実際に子どもを死なせた張本人なのですから自明です。
しかも偽名を使って、子どもを預かろうとしたくらいですから、
なにか企みがあったことが考えられます。
子どもを預けた母親はあきらかに被害者です。
ところがそうは考えず、そんなベビーシッターに
子どもを預けた母親が悪いと、母親を非難する人がたくさんいるのですよね。
「どうせそういう連中がわいてくるのだろう」と
予想できることとはいえ、嫌になってしまいます。
そうした母親非難をする人たちの例として、朝日の記事には、
東京都杉並の田中裕太郎区議のブログ記事が紹介されています。
田中裕太郎区議は「この母親に、非はなかったのでしょうか」とも
書いていて、あきらかに母親の責任としたいようです。
http://blog.tanakayutaro.net/article/90738994.html
========
大切な子宝を乳飲み子のうちから赤の他人に預けて憚らない風潮は、
なぜ当然のようにまかり通っているのでしょうか。
こんな風潮は、そろそろ止めにした方が良いと思うのです
========
そんなことより、子どもを安心して預けられる社会を作りたいものです。
田中裕太郎氏は昨年の3月にも「子育ては本来家庭で行うもの」とか
「『お願いです。私たちの子育てをどうか手伝ってください』、
これが待機親に求められる人としてのマナー、エチケット」などと
自分のブログで書いて、炎上したことがあったのでした。
そういう思想の持ち主ということです。
もうひとつ朝日新聞は、新党大地の鈴木宗男氏への取材もしています。
こちらは子育てを母親に押し付ける思想が、もっとあらわに出ていますよ。
子どもをなくした母親は「子どもを人様に無防備で預け」たのではないし、
「女性には、男にはない愛情や優しさがある」というのも
根拠がない上に、ジェンダーバイアスの押し付けです。
そして「子どもを守」りたいから、シッターに預けてでも
自分が働きに出たのでしょう。
鈴木宗男氏はブログでも母親を非難する記事を書いていました。
さらには乙武洋匡氏や駒崎弘樹氏とも議論をしていました。
乙武洋匡氏による反論を以下に紹介しておきます。
「鈴木宗男氏への回答「政治家だからこそ、弱者への心配りを」」
子どもをなくした母親はあきらかに被害者です。
神奈川新聞の記事でもつぎのようにあります。
そこへもってきて、この母親の「落ち度」を批判するというのは、
典型的な被害者非難であり、二次加害にもなるというものです。
http://www.47news.jp/smp/news/201403/SM0319_1029612.html
========
「一番大事な子どもに申し訳なかったと思っている」。
死亡した男児の母親(23)は18日夜、神奈川新聞などの取材に応じ、
そう涙を拭った。物袋勇治容疑者がメールなどでやりとりする際、
偽名で「山本」と名乗っていたとし、
同容疑者に預けるつもりはなかったと強調した。
母親は、自らの母(44)に付き添われ、憔悴(しょうすい)した様子。
========
このような毎度おなじみの母親非難の論調に対して、
なぜなんでも母親のせいになるのか?という反論は
とうぜんのことながら出ているわけです。
「「なんでも母親のせいなのか?」 ベビーシッター宅男児死亡事件の母親批判に、
ネット上でママたちが激怒」
========
どういう選択をしても何らかのリスクはあって、
でも何かの方法を選ばざるを得ないのに、
子供に何かあったら全部母親が悪いっていうの本当に頭に来る。
マンションに子供を置き去りにした事件の時は
みんな「シッターとか使えばいいのに」って言ってたのに、
いざシッター使って事件が起きたら、預けた母親が悪いってことになる。
一番悪いのはこのシッターじゃないの?
急な夜勤だったらしいね。乳幼児ふたりを育てるシングルマザーに、
平然と夜勤を振ってくる職場があるんだよ。
女性がそういう働き方をせざるを得ない現実がある。
========
かかる母親非難は、もちろん「子育ては母親がやるべき」
「母親が子育てをしてあたりまえ」という、信仰のような
家族観があることは、言うまでもないだろうと思います。
そこから保育所などに預ける母親は「悪」とされ、
なにか問題が起きれば、母親を攻撃することになるということです。
これに加えて、「子育てをする母親」は夫の経済的な庇護下にあり、
みずからは専業主婦となって、子どもといっしょにいる、
という発想があるだろうと思います。
それゆえシングルマザーの存在がそもそも念頭になく、
生活苦が放置されるのもあるのでしょう。
記事には東京大学の大沢真里教授のコメントが載せてあります。
========
「日本は『男性は稼ぎ、女性は家で子育てや家事をする』
という考え方が前提になっている。
この仕組みが、女性や母子家庭の貧困を深めている」
========