朝日新聞の特集「そこにある貧困」です。
今回はつぎの記事を見て行きたいと思います。
これも話題になることがあまりなかった、養育費の不払いの問題です。
「払われぬ養育費 生活厳しく」
日本の場合、夫婦が離婚すると子どもを引き取るのは8割ほどが母親です。
よって養育費を払うのは多くの場合、離別した父親が母親に対してです。
したがって離別父親による不払いが問題になるということです。
日本は父親による養育費の不払い率が高くなっています。
これが母子世帯の貧困の原因のひとつにもなっているということです。
厚生労働省による「全国母子世帯等調査2011」を見ると、
養育費を受けたことがない母子世帯は60.7%あります。
現在も養育費を受けている母子世帯は19.7%で、
不明の3.8%を除いても、76.5%が養育費を受けていないことになります。
「平成23年度全国母子世帯等調査結果報告」
「17 養育費の状況」
つぎのコラムで「子どものいる世帯の生活状況および保護者の
就業に関する調査2012」の調査をもとに、
年収ごとの離別父親の養育費支払い率を算出しています。
これによると年収500万円以上の離別父親でも、
養育費未払い率は74.1%と、4分の3近くあります。
経済力はあるのに、養育費を払わない離別父親が多いことがわかります。
「なぜ離別父親から養育費を取れないのか」
年収の高い父親ほど、養育費を払っている割合は確かに高い。
同JILPT調査によると、離婚母子世帯の養育費の受取割合は、
離別父親の年収が500万円以上の層では25.9%(注i)となっており、
200万円未満層(4.7%)よりその割合は20ポイント以上高い。
しかし一方、この数字の裏返しは、年収500万円以上の離別父親ですら、
その74.1%は養育費を支払っていないというショッキングな事実である。
アメリカ合衆国の場合、養育費が支払われる割合は6割程度です。
また8月27日エントリでしめした記事の図を見ると、
母子世帯の収入にしめる父親からの養育費は、
アメリカ合衆国が11.8%に対して、日本は3.3%です。
日本の母子世帯は、アメリカ合衆国とくらべて
圧倒的に養育費を受けていないことがわかります。
なぜかくも日本の離別した父親は、養育費を払わないでいられるのか、
それもさきにご紹介したコラムで述べられています。
大きな原因は、養育費の問題は当人同士で交渉することとされていて、
司法や裁判を介すこともないし、養育費を強制的に取り立てる
行政機関もないということになります。
http://www.jil.go.jp/column/bn/colum0228.htm
諸外国とは異なり、日本では養育費を支払うべきかどうかの交渉は、
司法や裁判を介さず、単に家族や個人間の問題として処理されることが多い。
また、日本には養育費の強制徴収を行う行政機関も存在していない。
母親個人による養育費交渉と離別父親のモラルに委ねられているのが、現状である。
離別した母親は立場が弱いことが多いですから、
「母親個人による養育費交渉」はあまり強い力を発揮できないでしょう。
また「離別父親のモラル」も、当てにならないことが多いわけです。
養育費の未払い率を引き下げるには、法律で養育費を払うことを義務づけ、
滞納者に対する罰則を定めたり、給料から天引きするなどして、
確実に支払わせる制度を整えることになるでしょう。
そして経済的事情で養育費が払えない場合は、
行政が負担をするようにする必要があるでしょう。
朝日の記事にはアメリカ合衆国とスウェーデンの例が紹介されています。
米国では養育費は収入の1割にのぼる。
滞納者には自動車運転免許の停止などの強力な措置がある。
スウェーデンには養育費を政府が建て替え払いする制度もある。
養育費を行政が建て替えするとなると、社会の負担が増えることになります。
少子化対策がそんなに大事だと言うのなら、
それくらいの税負担は当然という意見もあると思います。
ところがさきのコラムを見ると、経済的事情で養育費が払えない
離別父親はそれほど多くないことがわかります。
http://www.jil.go.jp/column/bn/colum0228.htm
JILPT「第2回子育て世帯全国調査(2012)」に基づく筆者の再集計によると、
年収(離婚時)は200万円未満で、養育費の支払いが
困難だと考えられる離別父親は全体の2割(19.5%)に過ぎない。
離別父親の5人に1人(22.2%)は平均的な世帯主よりも
多く稼いでいる(年収500万円以上)。
タブ一視されるものには思考停止するような。
「離婚が悪」というカルチャーは、キリスト教圏のほうが強そうな印象だけど、
欧米の民主主義国では家族観に関する民主化が進んで、
いまは日本のほうが離婚を忌避する思想は強いのかもしれないですね。
それとカルチャーと言えば、日本の場合、家族に関することは
司法や行政が関わることではない、という発想もありそうに思います。