2014年12月05日

toujyouka016.jpg 金融安定化政策のメモ

今回は選挙の争点の中心であろう、金融安定化政策のお話です。
「アベノミクス」の中心である金融緩和政策はなぜ評価されるのか、
そして民主党はなにが問題でどうしたらよいのか、ということです。

「金融緩和をどう考えるのか」
(はてなブックマーク)
「民主党支持者としての執行部のアベノミクス批判への愚痴」
(はてなブックマーク)

 
金融安定化政策とはなんぞや?ということですが、
過度のインフレーションやデフレーションを防ぐための、
政府による景気変動の平準化対策のことです。
経済を市場だけにゆだねていると、必要以上に景気が変動することになります。
それゆえ政府が積極的に手を入れて、経済を安定化する必要があるわけです。
「神の見えざる手」だけに頼ってはだめということです。

具体的には、インフレのときは世の中に出回っているお金を減らして、
景気がヒートアップしすぎるのを抑制します。
デフレのときは世の中に出回るお金を増やして、
積極的にお金が回るようにします。
いまの日本経済はデフレなので、出回るお金を増やす
「金融緩和」を行なう必要があるということです。


>デフレーションと失業率

デフレーションが続くとなにが問題なのか?
簡単に言うと
物価が下がる→企業の収益が減る→企業が人件費を抑えようとする
→リストラされて失業者が増える
ということです。
人件費を抑えるためには賃金を減らす方法もありますが、
こちらはあまり減らせないので、リストラが多くなるわけです。

このようなデフレ時に金融緩和を行なうとどうなるか?
国内の物価が上昇するという期待感が出て来ます。
これによって設備費がすくなく金利も低いうちに
新しく投資をしようとする企業が増えて、設備投資が増えます。
これによって需要が増えて生産が増えて雇用も増えるので、
失業率が下がることになります。


物価上昇率と失業率のあいだには、実際に負の相関があって、
「フィリップス曲線」と呼ばれています。
(日本のフィリップス曲線は世界一美しいらしい。
それだけ忠実に理論通りになる、ということなのだろう。)

「日本のフィリップス曲線から見えてくるデフレと失業率の関係」

日本の1970年代から2000年代までの失業率と
物価上昇率の関係を図示すると、つぎのように逆の相関が
はっきり現れていることがわかります。
デフレで物価上昇率が下がると、失業が増えることは
統計でしめされるということです。

図表 日本のフィリップス曲線

上の図を見てつくづく思うのは、物価上昇率が1%以下になると
急激に失業率が高くなるということです。
それで安倍政権は物価上昇率の目標を2%として、
そのために日銀法を改正して金融緩和をどしどし行なう、
という政策を採っているということです。


デフレによって物価が下がるので、ものが買いやすくなると言われます。
これはリストラされず安定した収入があるかたたちにとってです。
こうしたかたたちの「得」はリストラされて
失業した人たちの犠牲の上に成り立っているということです。

そして現在雇用している人をリストラするより、
新規採用を減らすほうが、企業としてはやりやすいです。
したがってこれから新しく社会に出る若年層が
とくに割りを食うことになるということです。
若年層の雇用の安定という意味でも、
過度のデフレは歯止めをかける必要があるということです。


>金融緩和と円安

金融緩和を推し進めるとなぜ円安となるのか?
金融緩和は世の中に出回るお金を増やすことですから、
円がたくさん市場に出回ることで安くなるということです。

アメリカ合衆国はリーマンショック以降、
徹底した金融緩和を行ない、資金供給を3倍にしました。
ところが日本は30%しか増やさなかったのでした。
ドルが大量に市場に出回り、円はすこししか出回らないのですから、
相対的にドルが安くなり、円が高くなることになります。

「米ドル/円(USD/JPY):外国為替レート」

米ドル/日本円

上の図を見ると、リーマンショック以降円が高くなるのですが、
民主党政権時代はろくに金融緩和をしなかったので、
1ドル=80円前後という極端な円高にまでなったのでした。
安倍政権になってから金融緩和を行なったので、
円がふたたび安くなり、2013年代には1ドル=100円程度、
最近は1ドル=120円程度まで下がっています。

円安に向かうと日本からの輸出に有利になりますから、
貿易収支が改善していくことになります。
日本の向上が外国へ移転する流れも止まるので、
国内の産業が活性化して雇用状態も改善されることになります。


金融緩和政策をはじめ「アベノミクス」については、
『アベノミクスのゆくえ』(片岡剛士著、光文社新書)がくわしいです。

孫引きで恐縮ですが、山形浩生氏も大推薦です。
金融安定化政策の大御所クルーグマンの直弟子が言っているのですから、
信用してだいじょうぶでしょう。



今回は金融安定化政策とはなんぞや?という
お話だけで終わってしまいました。
民主党はなにが問題で、どうしたらよいのか、
それについてはのちのエントリとしたいと思います。

posted by たんぽぽ at 21:37 | Comment(2) | TrackBack(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
はじめまして、普段は、ROM専です。
これまで、あまりこのブログで経済について、語るのをみてこなかったので、貴方が所謂「上げ潮派」に組みしているのは意外だなと思いました。

少なくとも、「財務省の陰謀」という一言で、現下の経済、財政状況を片付けるのはあまりに楽観的にすぎるのではないでしょうか。わたしにいわせれば、財務省と同じぐらい、「上げ潮派」のロビーイングも熱心だと思います。

日本の財政は、飯田さんのいうとおり、インフレによる経済成長だけでどうにかなるものでも、所得税や相続税のような資産課税の増税だけで(勿論それも必要ですが)どうにかなるものではないという認識はもったほうがよいですよ。
そのへん、慶大の権丈教授がまとめています。
今の社会保障制度を維持するだけでも、毎年数兆円ずつ負担は増えていくわけですよ(高齢者が急にピンピンコロリになったりしなければ)。それを成長による税収増だけでどうにかなるとは私には思えません。こういえば、小泉政権の末期には、財政赤字が減ったというのでしょうが、これも景気循環による世界的な回復の影響のほうが大きいのではと思っています。
http://news.fbc.keio.ac.jp/~kenjoh/work/korunakare199.pdf

そもそも消費税の増税とGDPの成長に関係があるかなというもの議論がわかれるところですしね。
http://news.fbc.keio.ac.jp/~kenjoh/work/20121027TKW001.pdf

金融緩和やデフレ脱却も、勿論必要性は否定しないですが、いまの黒田日銀のようなしゃかりきに、金利・債券市場への破壊的影響も考えず(私が保険会社勤務だからなおさらそう思っていますが)、2年で2%を目指す姿勢には強い違和感も持っています。少なくとも松尾さんのいう「無から」ということはありません。それなりに弊害はあるものです。
円安は120円を突破して止まる見込みがなく、せっかくの原油安の恩恵を帳消しにしてますからね。

http://bullbear.exblog.jp/
の11月25日にもあるとおり、国債より先に円から切り崩しにきているのなら、不気味なことですしね。

そもそも、日本の経済は、韓国等と異なり、内需が中心なのだから、この水準ではマイナスのほうが大きいと思いますよ(特に中小企業では)。80円から円安になったのも、欧州の金融危機がひと段落したのと貿易赤字基調が定着したのが主要因で、安倍と黒田はそれを期待で煽って後押ししただけというのもあると思います。

最後になりますが、私とて、現下の選挙情勢は不愉快以外の何者でもありません。

Posted by mh at 2014年12月06日 12:36
mhさま、いらっしゃいませ。

>貴方が所謂「上げ潮派」に組みしているのは

「上げ潮派」に与しているというわけではないのだけれどね。
経済学の教科書通りにやればいいとは言っていますが。

>「財務省の陰謀」という一言で、

「財務省の陰謀」とは言っていないですよ。
そんなことを言っているかたはいないのでは?と思います。
財務省があちこちに「ご説明」をしているのは事実ですし、
それは陰謀ではないですし。


>インフレによる経済成長だけでどうにかなるものでも、
>所得税や相続税のような資産課税の増税だけで(勿論それも必要ですが)
>どうにかなるものではないという認識はもったほうがよいですよ

インフレによる経済成長だけでどうにかなるとか、
資産課税の増税だけでどうにかなるとかも、言ってないですよ。
わたしはそういう意見のかたは見ていないです。
そんなにわたしの見聞が広いわけではないですが。

おおかたは、社会保障精度の維持のために、
近い将来には消費税増税は必要、という考えだと思います。
現時点で増税したら経済が破綻するので、
先送りにしなければならないという考えでしょう。

>こういえば、小泉政権の末期には、財政赤字が減ったというのでしょうが

小泉改革がどの程度好景気に影響したかは、わたしはわからないです。
不良債権を片付けたことと公共事業を減らしたことはよかったし、
http://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/debate/14.html
それはそれで景気回復に役立ったでしょうけれど、
それだけではないだろうと、わたしも思います。

>そもそも消費税の増税とGDPの成長に関係があるかなというもの
>議論がわかれるところですしね

1997年の景気の悪化は、アジア通貨危機によるものだ、
というのは、よく言われていますね。
でも民間消費と住宅投資の落ち込みから、
消費税増税の影響がないと言えないこともたしかなようです。
どの程度までが消費税増税によるものか、という問題はありますが。
http://synodos.jp/economy/7700/3


>円安は120円を突破して止まる見込みがなく、

円安が(たぶん予想以上に)急激に進んでいることは、
なにか対処が必要なのではないかと思います。
輸入品が高くなるので、消費者視点でも、
身近な商品が値上がりするという打撃がありますし、
円安が輸出を押し上げて国内の賃金増に反映するには、
まだ時間がかかるだろうからです。
Posted by たんぽぽ at 2014年12月07日 14:50
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