2015年01月12日

toujyouka016.jpg 出生率に数値目標設定

昨年の12月19日なので、すこし前のニュース。
政府が出生率の数値目標を、結局定めることになりましたよ。
人口減少対策と地方創生の方針である「長期ビジョン」と、
2020年までの施策を盛り込んだ「総合戦略」の原案でしめされたのでした。

「出生率「2.07が必須条件」 50年後 1億人を確保するには 
政府、「長期ビジョン」で推計示す」

「人口減に危機感 数値明記 政府原案「出生率1.8、目指す水準」」

前に出生率に数値目標を定めるかが議論になったときは
かなり話題となり、そんなことをしたら女性に対する出産への
圧力になりかねないという、強い反対があったのでした。
そのわりには今回の数値目標の設定のニュースは、
ほとんど注目されていないみたいなので、ここで取り上げておきます。

 
出生率の目標値は
2020年までに1.6
2030年までに1.8
2040年までに2.07(人口置換水準)
です。

出生率の数値目標を定めることに反発が強かったことは配慮していて、
「結婚や出産は個人の自由な決定に基づくもので、
個々人の決定にプレッシャーを与えるようなことは
あってはならない」とも記した。
とあります。
あくまで数値目標は政府のためということは確認しています。

反発が強かったのですが、あえてはっきりした数値目標をしめしたのは、
「人口が減少し続ける限り、日本社会に持続性はない」
と原案に書いてしまうくらい、強烈な危機感があるということです。


具体的な戦略としては、
1. 東京一極集中の是正
2. 若い世代の就労、結婚、子育ての希望の実現
3. 地域課題に即した課題解決
を挙げています。

記事には
「まず全力を挙げて取り組むべきは『国民の希望の実現』だ」として、
地方移住や結婚、子育ての支援や働き方の改革などを挙げた。
地方自治体には「地方版総合戦略」の策定を促し、
東京には「国際都市」への発展を求めた。
ともあって、個人の希望を尊重する立場であり、
このあたりは妥当なところだと思います。

2020年までの主な施策の目標


数値目標を定めることの是非もありますが、
こんな数値目標を達成できるのかという問題もあると思います。
2.07という人口置換水準への到達には、やはりこだわるようです。
これは前のときもほとんど問題にならなかったですね。

日本の出生率の過去最低は2005年の1.26、
その後は微増を続けて2014年は1.43です。
たいしたことをしていないので、9年間の上昇は0.17ポイントです。
残り6年で0.17ポイント出生率を上げるのはハードですね。
2030年、2040年の目標値もハードでしょう。

出生率と出生数の関係

持てるリソースを可能なかぎりつぎ込まないと、
政府の目標値に達成することは困難だと思います。
そして人口減少対策のために、日本社会は持てるリソースを
できるかぎり注ぎ込むだけの準備はあるのかということです。


記事には
その処方箋として示された内容は、目新しいものではない。
原案は「『これさえすれば』というような『決定打』もなければ、
誰も気づかなかったような『奇策』もないと素直に認め、
人口減の歯止めには「長い期間を要する」としるした
とありますが、そうでしょうね。

少子化対策、人口減少対策はありとあらゆること
できるかぎり同時に行なう必要があります。
12月29日エントリでご紹介したフランスの家族政策の記事でも、
インタビューを受けた全国家族協会連合のかたは、
「家族政策に秘策はない。いろんな施策を一緒に、
横断的にやるしかない」と述べています。

「【こんにちは!あかちゃん 第24部】少子化乗り越えた 
フランスから<下>家族を社会の根本に」



なにをしたらよいかも、これまでにさんざん議論されてきたことです。
いまさら新しい「奇策」なんて出てくることもないですね。
すでに議論され他国では実証もされている
「効果的な施策」をすみやかに行なえということです。

あえていままでだれも気づかなかった奇策を言えば、
家族に対して因習・反動的な人たちとか、女性差別的な人たちとか、
林道義や赤川学の本を信奉している人たちに対して、
政府が直じきに反論を展開することがありそうです。

効果的な人口減少対策に反対する人たちは根強く影響力も大きいです。
人口減少対策は「待ったなしの課題」と強調し、
「日本社会に持続性はない」とまで危機感をあらわにするのなら、
こうした人たちの存在は障害以外のなにものでもないです。
よって彼らによる悪影響をすこしでも軽減することは、
一定の効果があるだろうと思います。


付記:

記事の下部は「地方に重点 交付金」という副見出しです。
人口減少問題、少子化問題は、地方の問題でもあるのですよね。
地方のほうが人口減少が急速ですし、消滅する自治体もあるという
「日本創成会議」による衝撃の調査もあったのでした。

「地方から女性が消える」
「地方から女性が消える」


出生率の数値目標に関する以前のエントリ:

「出生率上昇に数値目標?」
「出生率上昇に数値目標?(2)」
「少子化対策に数値目標?」
「少子化危機突破TFの議論」
「少子化対策に数値目標?(2)」

posted by たんぽぽ at 18:56 | Comment(3) | TrackBack(0) | 家族・ジェンダー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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この記事へのコメント
「2040年までに人口置換水準までに出生率を引き上げる」とは、よくもここまで現実離れした絵空事を掲げることができるものだと呆れてしまいますね。記事にも決定打なしと書いてありますし…。

私も少子化対策(子供向け福祉と高齢者向け福祉の比率を概ね仏瑞並みとする内容)を考えていますが、これらがすべて実現したとしてもせいぜい出生率は1.7〜1.8程度が関の山でしょう。
http://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n44839

しかも、これらの実現は非常に困難だというのが世論や政治動向を見たうえでの率直な感想です。少子化対策に成功したとされるフランスや北欧諸国でも土着民の出生率は1.8程度で、移民効果によって2.0を超える程度です。

低年齢・未婚の母による出生数が多く、例外的に少子化と縁遠い先進国とされるアメリカの民族別出生率データで見ても、非ヒスパニック系は2.0を下回ります。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/8650.html
アメリカの未婚の母による出生割合
http://www.garbagenews.net/archives/1647425.html

成熟社会において、出生率2.0以上を確保するのがいかに困難かがお分かりかと思います。

しかも、日本では移民の出生率が低く、欧米諸国と違って移民による出生率上昇効果も期待しがたいです。
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/19419604.pdf
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/19887706.pdf

ちなみに、私は↓のYAHOOで回答しているように、先進国の人口はゆっくり減っていった方が、限りある資源の一人当たり分配量を増やすことができ、将来の人類の幸福にとって望ましいと考えます。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1284033227

出生率目標を掲げるなら、それに対応する妥当かつ現実的なな少子化対策目標も同時に掲げるべきだと思います。
Posted by ritiarno at 2015年02月23日 21:19
こちらにもコメントありがとうございます。

>よくもここまで現実離れした絵空事を掲げることができるものだと

わたしもおなじことを思いましたよ。
本当に実現できると思っているのかと思います。
かかる目標の非現実性は、あまり批判が顕著にならなかったのですが、
もっと問題視するところだと思います。

ご指摘のように、会議でも「決定打なし」と言っているのですが、
それでもまだどこか楽観したところがあるのかもしれないです。
(いざとなったらカミカゼが吹くとでも思っているのかな?)

目標の非現実性を問題視すると、「なぜいままで効果的な
少子化対策をしなかったのか?」が取りざたされると思います。
無策と愚策のコアは00年代の赤川学の本とか、
ジェンダーフリー・バッシングになると思うのですが、
それを問題にすると安倍政権にも批判が向かうことになるので、
まだやりたくないのかもしれないです。


>これらがすべて実現したとしてもせいぜい出生率は1.7〜1.8程度が関の山でしょう。
>http://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n44839
>しかも、これらの実現は非常に困難だというのが
>世論や政治動向を見たうえでの率直な感想です

世論はいまだに危機感がじゅうぶんではないですよね。
http://bit.ly/1aj2e73

しかも長谷川豊とか曽野綾子がいまもってもてはやされるのですから、
とても無理だろうと思います。
http://taraxacum.seesaa.net/article/413333601.html
http://taraxacum.seesaa.net/article/384031952.html

政府のお偉いさんたちは、彼らのような「足を引っ張る人」の
存在が念頭になさそうですよね。


>アメリカの民族別出生率データで見ても、非ヒスパニック系は2.0を下回ります。
>http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/8650.html
>アメリカの未婚の母による出生割合
>http://www.garbagenews.net/archives/1647425.html

資料のご紹介ありがとうございます。
アメリカ合衆国は人種ごとに出生率に差があって、
ヒスパニック系はとくに高いとは聞いていたのですが、
データでそのあたりがはっきり現れていますね。
http://taraxacum.seesaa.net/article/414009756.html
Posted by たんぽぽ at 2015年02月25日 22:44
>少子化対策に成功したとされるフランスや北欧諸国でも
>土着民の出生率は1.8程度で、移民効果によって2.0を超える程度です

少子化対策はどこまで効果があったか、
移民の影響があるのではないか、というのはよく言われますね。
家族・ジェンダー政策は効果があるけれど、
移民による影響もあるというのが実際のところのようですね。

一部の反ジェンダー平等派のように、「フランスやスウェーデンの
出生率回復はもっぱら移民によるものであって、
家族・ジェンダー政策はまったく関係ない」
というのは、あきらかに間違った極論ですね。


>成熟社会において、出生率2.0以上を確保するのがいかに困難かが

容易なことでは出生率は高くならないようですね。
「貧乏人の子だくさん」はあながち間違いではないようですね。


>日本では移民の出生率が低く、欧米諸国と違って
>移民による出生率上昇効果も期待しがたいです。
>http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/19419604.pdf
>http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/19887706.pdf

またまた資料のご紹介ありがとうございます。
やはり日本は子どもを産み育てにくい環境なので、
移民の出生率も欧米の民主主義国より低め、ということなのかな?

移民を受け入れるにしても、家族・ジェンダー政策が
必要なのはたしかでしょうね。
日本人(自国民)にとっても子どもを産み育てにくいなら、
移民にとってはなおさら子どもを産み育てにくいでしょう。


>先進国の人口はゆっくり減っていった方が、
>限りある資源の一人当たり分配量を増やすことができ、
>将来の人類の幸福にとって望ましいと考えます。
>http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1284033227

人口減少を前提とした上で、将来の社会を作ることを考えろ、
というのも、ときどき議論されることですね。
いまのところ政策として実行することを前提として語られることはなく、
政府はまだまだ出生率回復でなんとかしようとしている段階ですが。
Posted by たんぽぽ at 2015年02月25日 22:47
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