2015年01月31日

toujyouka016.jpg 格差是正のための対策

1月4日のふたつのエントリの続き。

「OECDがトリクルダウン否定」
「格差が経済成長を阻害」

トリクルダウンは起きないというOECDの報告書、
そして格差がかえって経済成長を損なうというお話です。

「OECD「トリクルダウンは起こらなかったし、所得格差は経済成長を損なう」
という衝撃の報告について」

(はてなブックマーク)

 
1月3日エントリで、再分配政策を行なうためには、
経済成長が必要だということをお話しました。
そして経済成長のためには再分配政策が必要ということを、
1月4日エントリでお話してきたのでした。
経済成長と再分配はおたがいを必要とし合っている、ということになるでしょう。

「成長の恩恵は自動的に社会全体に波及するわけではない」と
トリクルダウン理論を否定した上で、「格差の抑制や逆転を促す政策は、
社会の公平化に繋がるばかりでなく、富裕化にも繋がり得る」との見方を示します。


ここでは格差是正のためには、具体的にどのような政策を
行なえばよいのかについて、見ていきたいと思います。

最初に考えられるのは直接的な経済的支援だと思います。
貧困層だけでなく、下位40%の所得層という、
貧困層から中間層のあいだにかけての層に対しても
支援を行なうことがポイントとなっています。
最下層10%への貧困防止対策だけでなく、下位40%の所得層に対する
税と給付による再分配が挙げられます

とくにこれから社会に出る若年層や子どもに対して
格差対策を行なうことが大事だとしています。
これらの層は、今後教育によって社会的状況が変化する余地が大きいので、
格差対策も大きく影響するということなのでしょう。
再分配の対象としては「特に、再分配の取り組みは、
人的資本投資に関する主要な決定がなされる対象である
子供のいる世帯や若年層(を重視するとともに、
生涯にわたる技能開発や学習を促進すべきである」


経済的支援以外のこととして、教育を受ける機会や、
保健医療などの公共サービスへのアクセスを挙げています。
「現金移転ばかりでなく、質の高い教育や訓練、保健医療などの
公共サービスへのアクセス拡大」などの機会均等化を進めるための
社会的投資を行うべきであるとします

「技能開発を促進するための戦略には、就労生活の全般にわたり、
低技能者向けの職業訓練や職業教育を改善していくことも
含まれていなければならない」としています

1月4日エントリでお話したように、貧困の連鎖は家庭の経済事情で
教育が受けられないことにより起きることが大きいです。
したがって、教育の機会均等の保証が、格差是正のために
もっとも効果的になる、ということなのでしょう。


再分配も対象の選択や政策設計を適切に行なうことは必要になります。
具体的にはどのような対象の選択や政策設計をすればよいかが、
上で述べたようなことになる、ということです。
「対象を適切に絞り込んでいない、あるいは、最も効果的なツールを
重視していない再分配政策は、資金の浪費と非効率の温床になりかねない」

「租税政策や移転政策による格差への取り組みは、
適切な政策設計の下で実施される限り、成長を阻害しない」
適切な対象の絞り込みや政策設計は必要であるとのこと。


ミレニアムを挟んで20-30年ほどのあいだは、
先進国に共通の重要課題は少子化問題だったと思います。
そのあいだ効果的な少子化対策を導入できたかどうかの違いは、
2010年ごろには現れてきたと思います。
この差はそのつぎの時代(すなわちいまからですが)には
じわじわと影響が現れていくだろうと思います。

ピケティが最近注目されていますが、
これからの時代の先進国に共通の重要課題は、
格差対策、再分配政策になりそうだと、わたしは思います。
今後は効果的な格差対策が導入できるかどうかが、
そのまたつぎの時代に影響してくることになるでしょう。


付記:

記事によると格差対策においては、子どもや若年層に対する
教育の機会均等のための支援がとくに大事、ということになるでしょう。
その支援の浸透の程度をしめすものとして、
OECD加盟国における国立大学の授業料(私立大学は除く)と、
奨学金の充実度との関係を見てみたいと思います。

以下の図は前にも何度かしめしたことがあるものです。
日本は授業料が高く、奨学金が充実していない唯一の国として、
ほかのOECD加盟国から孤立しているのですね。

「学費は高いわ援助はないわ・・・日本の高等教育@OECD」

Average tuition fees (USD) vs. the percentage of students receiving public subsidies for higher education, 2008-09

授業料が高く奨学金がすくなければ、おのずと自己負担が多くなり、
貧困層が大学に入ることがむずかしくなります。
この点に関しては、日本は教育の機会均等や格差是正に
まったく不熱心ということになるでしょう。



posted by たんぽぽ at 15:48 | Comment(0) | TrackBack(0) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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